炎上したので蛇人だらけの島に左遷されました

青野イワシ

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天笠との生活

書き換えられる夜(後)

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「い゛っ!?」
 鋭い牙の切っ先が僅かに皮膚に食い込む。
 天笠は跳ね除けられないように健人の胴を蛇腹で巻き取ると、細心の注意を払って微量の毒液を注入した。
 目薬一滴ほどもあるか怪しい程度だが、それでも効くものは効く。酒が入っていれば尚更だった。
「何して……」
 突然の暴挙に健人の思考は停止し、身体の動きも強制的に封じられている。
 そんな中、健人の耳元に天笠が顔を寄せてきた。
「好きじゃなかったら、一緒の部屋に泊まらないですよね?」
「お……いや、俺は……」
 健人にとって天笠は、あくまで不幸中の幸いで出来た年下の友人、そのはずだった。
 それが今、アルコールと毒物によって書き換えられようとしている。
「本当に嫌なら、別の部屋取りますよね? そうしてないってことは、一緒に寝ていいって、思ったんですよね?」
「うん……? うん……」
「事件の日から、ずっと仲良くしてたじゃないですか」
「そう……だけど……」
「僕のこと嫌いですか」
「きらいでは……ない」
「じゃあ好きってことですね。一緒に寝てもいいくらい好きなら、つきあってもおかしく無いですよ」
「あー……そう……なのか……」
「こんなところまで一緒に来たのに、酷いですよ」
「ごめん……」
「健人さんの彼氏は僕で、僕の彼氏は健人さんです。忘れないで下さい」
「……わかったぁ」
 天笠は呂律も目の焦点も怪しくなってきた健人の身体を抱え起こすと、それをベッドの上に横たえた。
 酩酊寸前のフラフラする健人の頭に、覚えのない記憶が広がる。
──これ、どこかで……。
 何故か制帽を外した制服姿の天笠が、自分の上にのしかかって布を被せて来たような、そんな思い出が頭の中に蘇ってきた。
「まえも、こんな、あった……?」
 ブラックアウトしかける意識をなんとか引っ張り上げ、健人は服の隙間に手を入れている天笠の手首を掴んだ。
「夢か何かじゃないですか。僕が健人さんに手を出すのは初めて・・・です。誰と勘違いしてるんですか」
「ごめんー……」
 天笠に叱られ、健人は素直に謝った。
 そして捲くられた服から腹筋があらわになると、その肌寒さに健人はひとつくしゃみをした。
「ふろいこ、ふろ。さむい」
「……分かりました」
 ここで無理矢理言うことを聞かせれば、せっかく積み上げた脆い嘘の認識が崩れてしまう。
 天笠は健人の願いを聞き入れることにした。

 ◉

「蛸壺じゃなくて蛇壺になっちゃったな」
「写真だと広そうに見えたのですが」
「撮り方にもコツがあるんだよ」
 円形のバスタブにとぐろを巻いて入った天笠の上に、健人は躊躇いなく腰を下ろした。
 みっちりと詰まった蛇の鱗は、湯の中でもまだひんやりしている。
 天笠は後ろから抱きかかえる形で健人の腹に手を回す。
 友達ではまずしないであろうスキンシップを、健人は全く抵抗せず受け入れていた。
「あったけー」
「こんなに寒いなら温泉巡りにすればよかったですね」
「そうだなぁ」
 受け答えがはっきりしてきた健人を試すように、天笠の節くれだった手が健人の股間に伸びる。
 陰毛を梳くように指を差し入れ、男根の根本を指の腹で撫で回し始める。
「何してんだよ。こら、やめなさい」
 天笠の悪戯を健人は笑いながら窘めた。
 その声色はわんぱくざかりの児童に言い聞かせるようでもあり、決して赤の他人には聞かせないような甘ったるさが滲んでいる。
 そんな態度の健人に天笠は満足したのか、言われた通り年長者の言う事に従い、手を引っ込めた。

「もし、路地裏で発見するより前に、僕と健人さんが会ってたとしたら、どうします?」
「何? 前世的な?」
「違いますよ。ほんの三十分くらい前。僕と偶然路上で鉢合わせしてるんです」
「どうしたんだよ。のぼせたか?」
 湯の中に浸かりながらどうにも怠い身体を背後の筋肉質な胸板に預けていた健人は、億劫そうに首を上げた。
 二日酔いのようにずしりと重たい頭を精一杯倒してみると、やや血色が良くなった穏やかな顔つきの天笠が見返してくる。
「そんなやわじゃありません。質問に答えてください」
「えぇ? 言ってる意味よく分かんないけど、出会い方が違ってたらって話?」
「まあ、そんなとこです」
「そう言われてもなぁ。別に俺、警察に捕まるようなことしないし。何にも無かったかもな」
「そうですね……」
 天笠は善良な市民でいればそうそう厄介ごとに巻き込まれないとまだ信じているニンゲンを、愚かしくも愛らしいと感じた。
 健人の脳内では既に天笠はヒーローであり、出会う前に・・・・・凌辱身体検査を行った変態警官の記憶は底の底に押し込められて蓋をされている。
 刷り込みに近い形で記憶を塗りつぶすことに成功した天笠は、その出来に内心ほくそ笑んだ。
 今も酩酊して弱った精神に、共に入浴をするという接触行為を通じて恋人と旅行をしているということを信じ込ませている。
 どこまで効くだろう。
 死ぬまでか。
 それともどこかで思い出すのか。
 そうなったときの健人の顔を見るのも最高に愉快だろう。
 それを想像すると、天笠の背筋はぞくぞくと震える。どちらに転んでも美味しい。
 邪な妄想に耽る天笠の頬に、ニンゲンの手が伸ばされる。その指は頬肉を軽くつまんできた。
「普段かっこつけてる割にさぁー、もしも、とか、結構ロマンチストなんだなー福丸くーん」
 弱点を見つけた、と言わんばかりにニヤける健人に、天笠の眉が僅かに動く。
 頭がゆるゆるになったニンゲンは、虎の尾を二回ほど踏みつけていることに気が付いていないようだった。
「ウザ、いえ、こういうの絡み酒っていうんですよね。治したほうがいいですよ」
「指導警告? 指導警告?」
「……風呂上がったら、こちらの指示に従ってもらいますね」

 ʘ

「お゛っ……!!?」
 ベッドの上で、ろくに乾いていない頭が持ち上がる。
 和モダンの部屋に合わせて用意された寝巻が浴衣だったのが仇となった。
 二人分の帯はそれぞれ健人の手首を締め上げ、目隠しとして視界を奪っている。
 犬のようにうつ伏せになり、尻だけを高くあげる卑猥な体勢を取らされた健人の尻穴には、凶悪な亀頭の極太蛇人雄マラが根元までずっぷりと収まっていた。
「いいですか、僕の名前は全部呼ばない、酔ってても他者を弄らない。大事な規則ルールですよ。僕より大人なんですよね」
「あ゛っ……」
 天笠が腰を引くと、たっぷりと捻じ込まれた潤滑ゼリーと腸液が混ざった淫汁でてらてらに濡れた肉棒がずるりとその刀身を現した。
 血管の浮いた上反りの巨根は完全に膨れ上がっており、もはや凶器だ。
 全身が弛緩する毒性のお陰か、挿入前の執拗な指の動きのせいか、初めての肛門性交にもかかわらず、健人の尻穴は天笠の巨大肉棒をむしゃぶりつくように咥え込んだ。
 みっちりと窄まっていた滑る肉壁同士が、熱く猛った肉棒を搾り取る。
 ぬちょぬちょとした肉穴の中は温かく蕩け、それでいて竿をきゅうきゅうと締め付けてくるものだから、天笠も思わず吐息を漏らしそうになった。
 だが、満足気にするより先に、調子に乗って口を滑らせたニンゲンを躾けなければならない。
 二つに分かれたカリ高の亀頭が外に出るぎりぎりまで肉棒を引き抜いた天笠は、大きく節くれだった指で健人の腰を掴んだ。
「聞いてるんですか!」
「んほお゛ぉおぉぉぉぉぉお゛ぉぉぉっぉっっっ!!」
 ばちゅっ、と音をさせ、剛直が一気に腸の奥まで穿たれる。
 膨れた異形の亀頭が肉壁越しにごりゅごりゅと容赦なく前立腺を押し潰す。
 健人は今までに感じたことのないほど強烈な快楽の雷に全身を震わせ、犬のように舌を突き出しながらのけ反った。
 じんじんと尻奥から燃えるような発情の熱波が全身を燃やしている。
 垂れ下がった人間肉棒の先からは、とろとろと我慢汁が滲み、身体を拭いていたはずのバスタオルのうえにぽたぽたと垂れて恥ずかしい染みを作った。
 蛇腹と尻肉がぴったりとくっつく程に密着させられ、規格外のモノをぶち込まれた健人は、その熱く硬いものの感触を感じながら、びくびくと快楽電磁波の余韻に身体を震わせることしかできない。
 視界も奪われたおかげか、身体の奥に挿れられた蛇人肉棒の圧倒的質量をさらに覚え込まされる羽目になった。
「何言ってもろくに覚えていないんですから、そのだらしないケツマンコで蛇チンポの形くらいは覚えてくださいよっ!」
「んひい゛ぃぃぃっっ! おぉ゛えっ、おぼえるからぁあ゛ぁぁぁっっ!! お゛ほぉお゛ぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
 強引に健人の腰を引き寄せた天笠は、容赦ないピストンで激しく蛇腹を打ち付けた。
 肉棒が穴をめくって引きずり出すくらい力強く出し入れされると、結合部からはばちゅっばちゅっ、ぐちゅっぐちゅっ、と淫猥な水音が鳴り響いた。
 突かれるたびに健人の肉棒はぶるんぶるんと揺れ、竿の先からはじょろじょろと透明な男潮が漏れ、より一層布の染みを色濃くした。
 健人は一纏めにされた手でなんとか枕を掴むが、その掌はじっとりと汗で濡れている。
 脇の下も首筋も、じっとりと汗が滲んで、まだ風呂上りのように蒸したかのように火照っている。
 だらしなく開いた口の端には唾液が垂れ、知的生命体の面影はなく、交尾に夢中な一匹の獣と成り果てていた。
 無様なよがり声をあげた獲物を見て、天笠は責め方を変えることにした。
 ニンゲンの雄が雌となるポイント、前立腺を徹底的に苛めることに決めた。
 ぼこぼこと膨れた歪な亀頭で、ぐり、ぐり、とその弱点をなじってやる。
「あぁあ゛あぁぁあ゛ぁ゛っっ!! だめ゛ぇぇぇっ!! いぐっいぐうぅぅぅぅっっ!!」
「誰がイっていいって言ったんですか」
 天笠は段々と高まる射精欲を押さえつけながら、腰を引いてバキバキに勃ちあがった肉棒を全て引き抜いた。
 プラグのようになった亀頭を抜くと、ぽっかりと開いた尻穴は徐々に窄まり、淫汁まみれになりながらひくひくと物欲しそうに痙攣した。
「イきたい時はちゃんと、メスイキさせてくださいお願いしますって言ってください」
 天笠は後ろに流していた尻尾の先を持ち上げる。
 それを鞭のようにしならせ、臀部を高く上げた四つん這いの尻肉を軽く叩いた。
 ぱしん、と乾いた音が鳴る。
「お゛っ、い゛ぃ……!」
 すると、ぶるりと尻を振るわせた健人の竿の先から、どぷっと白く粘ついたものが発射された。
 それを見た天笠は、雄絶頂と雌絶頂の両方で恍惚としている健人の身体を押しつぶすようにして覆いかぶさった。
 耳元に口を寄せ、詰問を開始する。
「まさか、ケツぶたれてイったんですか?」
「う……」
「とんだマゾ豚ですね。困ったな、これだと指導にならないじゃないですか。ほら、もう一回ケツ上げて」
「はひぃ……」
 健人は再度惨めな犬の恰好にさせられると、今度は震える尻肉へ平手打ちを喰らうことになった。
 調整された力加減は、微かな痛みと被虐の悦びをもたらしてくれる。
 そうしてしばらく尾の鞭と平手で躾けを受けた健人は、そのあと尻穴から蛇人ザーメンをぼたぼた零すようになるまで犯され、ようやく眠りにつけたのは明け方になってからだった。

 ʘ

「おはよ。寒いなー」
「この世の終わりですね。パトロールなんかやってられませんよ」
「おいおい……」
 
 二人が旅行から帰って数日後、西島は異常な寒波に襲われていた。
 一センチでも雪が積もれば大騒ぎの蛇人島で、健人の足首が埋まるくらい雪が積もっている。
 夜半に降り注いだ雪は、色んなもので汚れたアスファルトを覆いつくし、ついでに寒さに滅法弱い蛇人達を屋内に閉じ込めた。
 仕事熱心な赤星でさえ、取材はリモートにすると言ってファンヒーターの前に居座る始末だ。
 雪が止んだ朝方、クローゼットから長靴と防寒着一式を取り出した健人が外へ出てみると、曇天の下、濃紺の防寒着に白いマフラーをぐるぐる巻きにした天笠が恨めしそうな顔でビルの前に佇んでいた。
 目深に被った制帽が作る影がなんとも陰鬱そうな雰囲気を醸し出していた。
 
 いつものようにコンビニで朝飯を調達した二人は、短い帰路についている。
 ふと健人が振り返ると、後ろには天笠の尾が雪を割って作った黒い道が見えていた。
「おーすげー。やっぱり歩きやすくなったな」
「なんですか、人を除雪車みたいに言わないでください」
 健人には黄と黒のツートンカラーが除雪車そのものに見えたが、天笠の逆鱗に触れそうなので口に出すのはやめておいた。
「そんなに怒るなよ。ちゃんとサボらず出て来て偉いぞ」
「どうも」
 意外にもまんざらでもなさそうな表情を見せた天笠に、健人は満面の笑みを浮かべた。
 それを見下ろした天笠は、服装規定違反のマフラーを鼻先までずり上げ、小声でぼやき始める。
「困ったな……」
「どうした?」
「健人さんが能天気だから、自慢の毒気が抜かれそうなんですよ」
「は?」
「これからも余計なことは思い出さず、明るく元気に過ごしてください」
「なんだよー」
 健人が隣を見上げると、何を考えているのか分からない切れ長の眼で見返される。
「ずっとこうして過ごしていきたい、ということです」
 照れ隠しなのか、寒さのせいか、僅かに鼻を鳴らした天笠は「では、本官はこれで失礼します」とわざとらしく敬礼をすると、自分が除雪してきた道をするすると辿って去っていく。
 健人はその背中を眺めたあと、身を縮こませながらビルのエントランスに入った。
 五階を目指す古臭いエレベーターの中で、健人はしばらく顔を綻ばせていた。

 天笠との生活 終
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