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第二十六話 抱卵

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 溜まりに溜まっていた射精欲を昇華できた私は、非常に清々しい気分であった。
 しかし、私の目的は肉欲の解放だけではない。
 肛門から精液をたれ流しながらうつ伏せで伸びているフタウラ君の腰を持ち上げる。
 再度、四足歩行の獣の姿となったフタウラ君の眼は虚ろだ。
 快楽責めで正気を失いつつあるらしい。
 多少、電流で脳を刺激したことも影響しているかもしれない。
 しかしニンゲン間でも医療行為として行われる程度のものだ。
 我を取り戻した時が怖いが、その際は素直に叱責を受けよう。
 私は自らを省みることが出来ぬほど狭量ではないのだ。
「卵を中に入れていきますね」
「え……?」
 私は生殖腕と同等の太さをした産卵管を取り出し、フタウラ君の肛門へとあてがった。
 卵を受け入れる準備が整った穴は、すんなりと産卵管の頭を咥えこむ。
「んぉぉっ!?」
 下腹部が膨れる程私の精液を受け入れたフタウラ君は、潜り込む産卵管に舌を突き出して喘ぎ始める。
 ニンゲンがこれ程性的興奮に弱いとは思わなかった。
 私と会話する際の、どこか達観したような澄ました面影はもうどこにも残っていない。
 産卵管を腸内に押し込む度、ぶびゅぶびゅと下品な音をさせながら精液が溢れ出る。
「何個入りますかね? 希望はありますか?」
「し、らね」
 良かった。フタウラ君は正体をなくしていなかった。
「そうですか。では私の判断でさせてもらいますね」
 私は産卵管から鶏卵より一回り小さい卵を腸内へと送り込む。
 管を収縮させ卵を押し出した。
「お゛っ……!?」
 膨れた管に性感帯を刺激されたのか、フタウラ君はまたあられもない嬌声を上げ始めた。
「はい、一個目出ますよ」
「うう゛っ……」
 管の先が開き、ぼこりと卵が腸内に産み落とされる。
 腸内の奥に当たったのか、フタウラ君は足の指先をぴくぴくさせながら産卵管を締め付けてきた。
 ニンゲンの貪欲さは怖いくらいだ。
「異種族に産卵されて快感を覚える生命体は、ニンゲンだと思います」
「そんなわけ、いぃ゛っ!?」
 ぼこん、ぼこんと二つほど連続でひり出すと、フタウラ君は背を反らして悦んでくれた。
 やはりニンゲンは宇宙一のドスケベ種族である。
 
 私がフタウラ君と繁殖行為に及んでから数日経った。
 先ほど意識を覚醒させたフタウラ君は、保護液で満ちた実験用ポッドの中で恐ろしい形相をしている。
 勿論ポッドの中に彼を入れたのは私だ。
 これは彼と私の子を保護するために必要なことであるが、フタウラ君は大層不機嫌そうだった。
 フタウラ君を酸欠から保護するための透明なフルフェイスマスクも、栄養液を送り込むためのチューブも正常に稼働している。
 それなのにフタウラ君は目覚めた後、腸内に受精卵を抱えているにも関わらず、内側からポッドに蹴りを入れたのだった。
 素っ裸で暴れまわるニンゲンの姿は可愛らしくも面白いのだが、この時ばかり表情のないマーキナーの殻に感謝した。
 笑ったと認識されたら一生許してくれなさそうだ。
『なんだこれ! 俺のことなんだと思ってんだ! 非人道的だろ!?』
 マスク内の音声を拾えるようにしておいてよかった。
 私は頭部パーツから受信した罵倒へ丁寧に回答する。
「研究の結果、これが一番安全で効率よく幼体を排出できる環境なんです」
『はぁ!? こんなの人間が過ごす環境じゃないだろ! 出せ! 出せよ!』
 フタウラ君がポッドの表面に張り付いて拳を振るう。
 非力な人間ではヒビ一つ入れられない。
「そう暴れないでください。孵った幼体に負荷がかかるかもしれません」
『……』
 私の言葉にフタウラ君がピタリと動きを止める。
 そう。
 君の体内には君以外の生命体が複数存在しているのだ。
 一時の宿主とはいえ、慈しんでもらいたいものである。
 フタウラ君は私を睨みつけながらポッドの中で腕組をする。
『ちょっと待て』
「はい」
『孵った?』
「はい」
『え、何、その』
「受精してから幼体になるまでの速度はニンゲンと異なるのです」
 その代わり、産み落とした後の生存率が低いのが難点なのですが。
「そうですね、今、細い海鼠ナマコが腸内に何匹か埋まっている、そういう形で捉えて貰えれば」
『流石にケツん中にそんなもん突っ込んだ奴……いるのかな……』
「ニンゲンは時折突拍子もない自慰行為を思いつくことがありますよね。どうして性欲に勝てないんですか?」
『お前に言われたくな……うっ!?』
 私を指さして吠えるフタウラ君が、唐突に下腹部を抑え始める。
「大丈夫ですよ。腸を食い破ったりはしません。勝手に出てきますから。辛いようでしたら排便時と同じようにいきんでもらえば結構です」
『お前……さぁ、デリカシーとか、道徳と、かぁ……!』
 ポッドの内側に両手を付き、フタウラが何かに耐えるように眉間に皺を寄せている。
 苦痛は無いはずだ。
 寧ろ快感だろう。
 幼体が本能に従い穴の外へ向かって動く度、先日散々責め立てた性感帯を押し上げるはずだ。
 それに排泄時に分泌される神経伝達物質により脳内は幸福感にあふれると思うのだが、フタウラはどこか恨めしそうな顔で私を見つめていた。
 シャイなのだろうか?
 フタウラ君が私から目線を反らし、顔を下げて深い息を吐く。
 すると、フタウラの脚の付け根に赤黒い触手が巻き付いた。
『はぁ……はぁ……』
 フタウラ君の荒い息遣いが機器を通じて私に届く。
 無事、一体目を放出できたようだ。
 まだ知能と呼べるほどのものを備えていない私の分身体は、フタウラ君の脚から離れるとポッドの中を漂い始める。
「あと三匹です。どうですか、気持ちいいものですか?」
『クソ野郎……お前は、最低の親父……』
「父であり母でもあります。異種族幼体ひり出しアクメをするフタウラ君に私を詰る権利はないと思いますが」 
『死ね、死んでくれ……』
「教育に悪いことを言わないでください。フタウラ君も親のようなものなのですから」
 二体目が臀部の穴から這い出し、浮き上がってフタウラ君のヘルメットに張り付いた。本能的に殻を探しているのだろうか。
 ……しかし言葉責めとは難しいものである。
 私は改めて異星の民とのコミュニケーションの難しさを思い知った。
 
 つづく
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