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第一章 胎動編
怨ノ詩 ~瞋恚の残穢楼~
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隠世第████層「瞋恚の残穢楼」
カツン…………カツン…………
一寸先も見えない闇の中、自分の足音だけが反響している。辺りからは死と穢れの臭いが漂い噎せ返りそうだ……。
腰からぶら下げるランタンからの青白い淡い光が微かに周囲を照らす。
グチュ……
背中に冷たいものが走り全身が震える。恐る恐る足元を見ると腸だろうか長細い何かを踏んでいる。
嫌な物踏んじゃったなと感じつつも少女は歩みを進める。
廊下の脇には白骨化した亡骸から、まだ死して間も無い亡骸まで数多の人だったモノが横たわっている。
その亡骸群に黒い液体が纏わりつき蠢き、犇合っている。
数多の亡骸と絶えず滲み出す黒い液体……もう見慣れたいつもの光景……
溜息を吐きつつ、ローブの右袖を捲り上げソレを見つめる。
袖の下……ランタンの光に照らされた右腕は、炭のように黒く染まり、手首にはボロボロの狐の飾りのついたシュシュが巻かれている。
「明美さん……今度こそ絶対に……」
ゴゴゴゴゴゴォ……
何処からか地響きのような音が聞こえ、ドンッと足元から突き上げるような衝撃を受けバランスを崩しそうになる。
「危ない危ない…………今のは……」
辺りを見渡すも暗闇と静寂が包んでいる。
いつの間にかぶら下げていたランタンの火か消えており、少女は再点火する。
少女の脳裏にふと嫌な予感が過ぎる。
隠世での悲鳴や人影は今少女が存在する時間軸での出来事とは言えない。何十、何百年過去の出来事かもしれないし、何十、何百年未来の出来事かもしれない。
隠世とはそう言う場所だ。過去と未来と現在が入り交じり、時空そのものがねじ曲がった空間。不用意に影や悲鳴を追えば死より恐ろしい目に遭うのは明白だ。
カツン……カツン……カツン…………
ふと右の壁が目に入る。
そこには膨大な量の黒い液体が一箇所に張り付き、折り重なるように蠢いている。
少女は右掌を、そっとかざすと何かをボソッと呟く。
それとほぼ同時に蠢く黒い液体の動きがピタッと止まり、ビシビシと音をたてながら亀裂が生じていく。
程なくして亀裂が覆いきると硝子が砕けるようにガシャンと音を立て崩れ去り、和風造りの建物に似つかわしくない鉄製の扉が現れる。少女は腰にかけたランタンを手に取り鉄製の扉を照らす。
「38」
扉にはまだ固まった黒い液体が付着しているが、ど真ん中に深紅の文字で大々的に38と書かれている。少女は文字をなぞり指に付いた塗料を嗅ぐ。鉄の匂いと人脂が混ざりあった匂いがした。
呪詛の力場が低層に引き寄せられている……?まさか何者かが現世と隠世の境界をこじ開けたのか……。
と現状を整理しつつ少女は無言で鉄扉の取っ手を握る。冷たかった。しかし同時になにか懐かしい感覚が全身を駆け巡る。
誰……?
一瞬思い耽るも我に返り、きっと気の所為だと自分に言い聞かせ呼吸を整える。そして気合いを入れ直すかの如く、一際強く取っ手を握るとそれを捻る。
ギィィと音を立てながら鉄扉が開かれ、そこには暗闇が広がっている。
この先に……
少女は固唾を飲み、扉の先に飛び込む。
何分、何時間歩いたのだろうかやっと微かな光が見える。少女は手探りで扉の取っ手を探し、ガチャンと音を立てて扉を開ける。
少女が辿り着いた場所、そこは牢だった。目の前には白骨化した遺体が手枷で壁に繋がれている。
少女は特に気に留める事もなく牢の扉に手を掛ける。鍵は掛かっておらず、牢の扉は意図も容易く開いた。
少女は頭を少し出し、左右を確認する。
どうやら長い廊下の中程に居るようだ。
「どっちに行こう……そうだ!」
暫く考えふと妙案を思い付き、先程の白骨遺体の元に行く。
「少しお借りします。」
少女はそう言うと右手の橈骨を手に取り廊下に立てる。
カランコロン
骨が音を立てて右に倒れる。
少女は骨を元の位置に戻し、
「ありがとうございました」
とお礼を述べて廊下を右に進む。廊下の突き当たりに差し掛かり左の道を進もうとした時、何かにぶつかる。
「きゃ!」
相手は短い悲鳴を上げて尻餅をつく。
「大丈夫!?怪我は……」
言葉に詰まる。血塗れなのだ。いやそんな事より、今ぶつかった相手を自分は知っている。
あの時あの場所で出会った少女。確かにあの時より幼いが見間違えるはずはない。
「明美さん……?」
[瞋恚の残穢楼]
少女が鉄扉の奥へ消えた後。
それを見越したかのようにギィィ……バタンと音を立て鉄扉が閉まり、鉄扉の像が徐々に薄れていく。
そして程なく実体を失い張り付いていた残りの黒い液体も床に落ちる。そして顕になった扉に書かれていた本当の数字。
「2384」
カツン…………カツン…………
一寸先も見えない闇の中、自分の足音だけが反響している。辺りからは死と穢れの臭いが漂い噎せ返りそうだ……。
腰からぶら下げるランタンからの青白い淡い光が微かに周囲を照らす。
グチュ……
背中に冷たいものが走り全身が震える。恐る恐る足元を見ると腸だろうか長細い何かを踏んでいる。
嫌な物踏んじゃったなと感じつつも少女は歩みを進める。
廊下の脇には白骨化した亡骸から、まだ死して間も無い亡骸まで数多の人だったモノが横たわっている。
その亡骸群に黒い液体が纏わりつき蠢き、犇合っている。
数多の亡骸と絶えず滲み出す黒い液体……もう見慣れたいつもの光景……
溜息を吐きつつ、ローブの右袖を捲り上げソレを見つめる。
袖の下……ランタンの光に照らされた右腕は、炭のように黒く染まり、手首にはボロボロの狐の飾りのついたシュシュが巻かれている。
「明美さん……今度こそ絶対に……」
ゴゴゴゴゴゴォ……
何処からか地響きのような音が聞こえ、ドンッと足元から突き上げるような衝撃を受けバランスを崩しそうになる。
「危ない危ない…………今のは……」
辺りを見渡すも暗闇と静寂が包んでいる。
いつの間にかぶら下げていたランタンの火か消えており、少女は再点火する。
少女の脳裏にふと嫌な予感が過ぎる。
隠世での悲鳴や人影は今少女が存在する時間軸での出来事とは言えない。何十、何百年過去の出来事かもしれないし、何十、何百年未来の出来事かもしれない。
隠世とはそう言う場所だ。過去と未来と現在が入り交じり、時空そのものがねじ曲がった空間。不用意に影や悲鳴を追えば死より恐ろしい目に遭うのは明白だ。
カツン……カツン……カツン…………
ふと右の壁が目に入る。
そこには膨大な量の黒い液体が一箇所に張り付き、折り重なるように蠢いている。
少女は右掌を、そっとかざすと何かをボソッと呟く。
それとほぼ同時に蠢く黒い液体の動きがピタッと止まり、ビシビシと音をたてながら亀裂が生じていく。
程なくして亀裂が覆いきると硝子が砕けるようにガシャンと音を立て崩れ去り、和風造りの建物に似つかわしくない鉄製の扉が現れる。少女は腰にかけたランタンを手に取り鉄製の扉を照らす。
「38」
扉にはまだ固まった黒い液体が付着しているが、ど真ん中に深紅の文字で大々的に38と書かれている。少女は文字をなぞり指に付いた塗料を嗅ぐ。鉄の匂いと人脂が混ざりあった匂いがした。
呪詛の力場が低層に引き寄せられている……?まさか何者かが現世と隠世の境界をこじ開けたのか……。
と現状を整理しつつ少女は無言で鉄扉の取っ手を握る。冷たかった。しかし同時になにか懐かしい感覚が全身を駆け巡る。
誰……?
一瞬思い耽るも我に返り、きっと気の所為だと自分に言い聞かせ呼吸を整える。そして気合いを入れ直すかの如く、一際強く取っ手を握るとそれを捻る。
ギィィと音を立てながら鉄扉が開かれ、そこには暗闇が広がっている。
この先に……
少女は固唾を飲み、扉の先に飛び込む。
何分、何時間歩いたのだろうかやっと微かな光が見える。少女は手探りで扉の取っ手を探し、ガチャンと音を立てて扉を開ける。
少女が辿り着いた場所、そこは牢だった。目の前には白骨化した遺体が手枷で壁に繋がれている。
少女は特に気に留める事もなく牢の扉に手を掛ける。鍵は掛かっておらず、牢の扉は意図も容易く開いた。
少女は頭を少し出し、左右を確認する。
どうやら長い廊下の中程に居るようだ。
「どっちに行こう……そうだ!」
暫く考えふと妙案を思い付き、先程の白骨遺体の元に行く。
「少しお借りします。」
少女はそう言うと右手の橈骨を手に取り廊下に立てる。
カランコロン
骨が音を立てて右に倒れる。
少女は骨を元の位置に戻し、
「ありがとうございました」
とお礼を述べて廊下を右に進む。廊下の突き当たりに差し掛かり左の道を進もうとした時、何かにぶつかる。
「きゃ!」
相手は短い悲鳴を上げて尻餅をつく。
「大丈夫!?怪我は……」
言葉に詰まる。血塗れなのだ。いやそんな事より、今ぶつかった相手を自分は知っている。
あの時あの場所で出会った少女。確かにあの時より幼いが見間違えるはずはない。
「明美さん……?」
[瞋恚の残穢楼]
少女が鉄扉の奥へ消えた後。
それを見越したかのようにギィィ……バタンと音を立て鉄扉が閉まり、鉄扉の像が徐々に薄れていく。
そして程なく実体を失い張り付いていた残りの黒い液体も床に落ちる。そして顕になった扉に書かれていた本当の数字。
「2384」
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