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第一章 胎動編
【暗】弐ノ詩 ~壊れゆく日常 ~ 天知弓華
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紗季が陣地を展開する少し前。
神山宅から5km離れた丘の上
葉巻を咥え使い古されたライフルを布で磨く影、夜風に流され長い髪がゆらゆらと靡いている
「ふぅ……」
手入れに一段落したのか横にライフルを置き、溜息の如く葉巻の煙を大きく吸い……そして吐き出す。
葉巻の煙は風に当てられ霧散し、夜空に消えてゆく。
トルルルルル……トルルルルル……
夜の静けさを破り着信音が夜空に響く。
ポケットに入っている通信機器を取り出しピッと着信ボタンを押し耳に当てる。
「HQよりサジタリアス。HQよりサジタリアス。即時応答求む」
「こちら特別祭祀サジタリアス。ポイントβにて待機中。周囲15km圏内異質な霊力並びに呪力反応なし。どうぞ」
「HQ了解。ポイントβよりポイントζへはポイントε南側哨戒区域を殲滅しつつ移動せよ。到着後再び周囲警戒にあたれ。」
「サジタリアス了解」
通信を切り、自分の横に置いたライフルを拾い上げ立つ。
「さて……」
懐からライフル弾薬を取り出し手に持つライフルに装填する。
「やるか……」
そう心に決め丘を駆け下りる。
何か嫌な予感がする……
確かに今回の標的は一般市民からしたらヤバい。でも私にとって脅威か?脅威カテゴリー4の任務で私が嫌な予感を感じる筈がない。しかし私の心の奥底の本能が警笛を鳴らしている。私ももう歳かなと冗談を頭に浮かべながら木々の間を駆け抜ける。
腕時計を見ると午前1時58分30秒
丑三つ時か……事が起こるなら……もうすぐか……
少し走ると木々が開け片側一車線の道路に出る。
「ポイントεは……」
端末の地図機能を開き、現在地と目的地を確認し、目的地に向かって駆け出す。ふとある事に気が付く。無音なのだ。ここは真夜中でも車が通過する道だが車の音もしないどころか、風で草花が擦れる音も挙句の果てには先程吹いていた風すらピタッと止んでいる。
そして私は空を見上げ背筋が凍りつく
月が紅い……皆既月食……いや違う仮に皆既月食ならこの血のような色になるのか?否!皆既月食はオレンジぽい色の筈だ。この月は……私は知っている……21年前……あの地獄で……
次々と光景がフラッシュバックする。
自分の手の中で冷たくなってゆく仲間……鮮血でできた池に浮く多くの肉片……
あたりから黒煙が立ち上り肉の焼ける匂いが漂っている。
ドンッ!
下から突き上げるような強烈な衝撃で我に返る。
「なに!?」
その後も地面はグラグラと揺れており、腕時計を見ると午前2時00分00秒で止まっている。
「サジタリアスよりHQ応答してくれ!!」
しかし応答はない。
「やられた。明らかに陣地に呑まれた.……まずはHQと連絡を取るためにこの世界から出ないと……しかし何処に向かえば……」
私は来た道を引き返し見晴らしの良い丘の上を目指す。
数分走っただろうか丘を登り、ふと腕時計を見るも時空が歪んでいるのか時刻は午前2時00分00秒から一切進んでいない。
丘の上から町を見渡す。空も、地面も、建物さえも真っ赤に染まっている。
見渡す限り、人影ひとつ無い。まるで自分以外が存在しないと実感させられるかのような……
しかし妙だ。この紅の世界にいて特に何も起こっていない。それだけでは無い。悪霊やモノノ怪の類すら見当たらない、まさか未完成なのか?
トルルルルル……トルルルルル……
着信?紅い世界に私以外に誰かいるのか?しかし、罠である可能性もある。恐る恐る通信機器を取り出し耳に当てる。
「こちら……サジタリアス……」
「サジさん!?生きていたんですか!?」
通信相手は驚きを隠せない様子で続ける。
「それよりサジさん!今どこですか?」
「ポイントβの丘の上だ。何故か陣地内だと思うが人の気配はなし、それどころか悪霊やモノノ怪一匹いない。そっちは?」
少し間を開け
「私達はポイントγにいます。」
「ジェミナイ~誰と話してるの~?」
通話口から少女の声が聞こえる。しかもとても聞き覚えのある声が……
「いい子だからちょっと待ってね。お姉ちゃんちょっと報告してるからね。こちらも人影、敵影共にありません。」
声でわかった。明らかに自分の娘が着いてきてる。だが念には念を入れて確認してみる
「なぁジェミナイ……まさかそこにプレ……居ないよな……?」
「いますよ。」
しかし私の望みは打ち砕かれる。
「わかった今からそっちに行くから待機していてくれ。」
「了解」
通話が切れ、ツーツーと音が聞こえてから通信機器をポケットに入れる。そして頭を抱える。まさかここに娘が来ているとは……どちらにしろ合流が先決か……私はポイントγに向かい走り始める。
道中相も変わらず人影も悪霊もモノノ怪の類すら見当たらない。体感時間で40分程度走ったと思う。腕時計は進んでいないが……
この辺がポイントγだったはず。周りを見回すも住宅地のようで公園にテントはあるがジェミナイとプレアデスは居ない。
突然背後からスタッという音が聞こえる。背後に何者かが着地したようだ。ソレは走り私に近づいて来る。私は拳を固め、振り返りざまに裏拳を当てる。
「ギャア!!」
ソレは短い悲鳴を上げ数m吹っ飛び地面を転がる。
私は吹っ飛ばされた存在を見て驚き声をもらす。
「え……?プレアデス!?」
「プレちゃん……だから不用意に背後から行ってはダメって言ったのに……」
やれやれと建物の影からジェミナイが歩いてくる。
プレアデスはムクっと体を起こす。口の端からは一筋を血が伝っており、目に涙を浮かべている。
あ……マズい……私がジェミナイの方を見るとジェミナイも察したのか2人同時に耳を手で塞ぐ。
「うあああああ!!ママが、打ったぁぁぁ!」
耳を塞いでいても鼓膜が破れそうだ。いやそれだけじゃない。プレアデスの周りを凄まじい突風が吹き荒れ、10kg程度あるであろう植木鉢や漬物石等が浮き上がる。
「なんで打つのぉぉ!私いい子にしてたのにぃぃ!!!」
プレアデスの指が地面を抉り、体が淡く光る。
「ゔぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!」
一段と鳴き声が強くなると同時に淡い光の柱が紅い空に打ち上がる。その光の柱が陣地の結界の壁にぶつかりそこからひび割れを生じさせてゆく。
私が呆然と見ているとジェミナイが私の背中を肘で突いてくる。
振り向くとジェミナイは北西の空を見ている。そこからはドス黒い怨念の柱が立ち上っている。私はプレアデスから走って離れ耳栓をつけて戻る。そして近くの家の屋根に登りライフルのスコープで黒い柱の発生源を見ると白髪の少女が両目からドス黒い
液体を流し、悪意の籠った満面の笑みでこちらを凝視している。そして白髪の少女の背後の家の玄関には幼い少女がいる。
生存者がいる。私はライフルのトリガーに指をかけて狙いをすませ撃つ。打ち出された弾頭は少女の数m前方で空間がねじ曲がっているかのように弾道が歪み地面に刺さる。
不意に21年前の黒猫と呼ばれる大厄災霊の姿が脳裏によぎる
位相の歪み……あの白髪の存在は21年前の黒猫と同じレベルなのか……
不意に頭の中に直接悪意の籠った声が聞こえる。
「古より伝わりし闇の掟に従い血の契約をもってこのモノ達を生贄に捧げよ。大いなる闇の加護を……」
白髪の存在は背後の少女を一目見てこちらを向き直る。
「陣地血濡れの宮」
突然尋常ではない衝撃を受け私達は後方に吹き飛ばされる。
「ケハッ……一体何......が……」
意識が遠くなり、視界が暗転する。
「う……」
少し目を開けると元の星空に戻っている。ハッと私は身体を翻えし当たりを見渡す。いつの間にか横に隊長が座っている。
「隊長……アレは夢だったのですか?」
「いや夢じゃないぞ。」
隊長の視線の先を見て息を飲む。
巨大な漆黒の半円状の結界が砂煙を巻き上げながら今まで私達がいた町を呑み込んでいる。
「今回のハブは脅威レベル6に分類された。既に特別祭祀は配置についてる。お前も早く配置につけ。」
「一体何をするんですか?」
隊長は少し考え、こちらを振り返り一言
「俺にアレを討祓する策がある。」
神山宅から5km離れた丘の上
葉巻を咥え使い古されたライフルを布で磨く影、夜風に流され長い髪がゆらゆらと靡いている
「ふぅ……」
手入れに一段落したのか横にライフルを置き、溜息の如く葉巻の煙を大きく吸い……そして吐き出す。
葉巻の煙は風に当てられ霧散し、夜空に消えてゆく。
トルルルルル……トルルルルル……
夜の静けさを破り着信音が夜空に響く。
ポケットに入っている通信機器を取り出しピッと着信ボタンを押し耳に当てる。
「HQよりサジタリアス。HQよりサジタリアス。即時応答求む」
「こちら特別祭祀サジタリアス。ポイントβにて待機中。周囲15km圏内異質な霊力並びに呪力反応なし。どうぞ」
「HQ了解。ポイントβよりポイントζへはポイントε南側哨戒区域を殲滅しつつ移動せよ。到着後再び周囲警戒にあたれ。」
「サジタリアス了解」
通信を切り、自分の横に置いたライフルを拾い上げ立つ。
「さて……」
懐からライフル弾薬を取り出し手に持つライフルに装填する。
「やるか……」
そう心に決め丘を駆け下りる。
何か嫌な予感がする……
確かに今回の標的は一般市民からしたらヤバい。でも私にとって脅威か?脅威カテゴリー4の任務で私が嫌な予感を感じる筈がない。しかし私の心の奥底の本能が警笛を鳴らしている。私ももう歳かなと冗談を頭に浮かべながら木々の間を駆け抜ける。
腕時計を見ると午前1時58分30秒
丑三つ時か……事が起こるなら……もうすぐか……
少し走ると木々が開け片側一車線の道路に出る。
「ポイントεは……」
端末の地図機能を開き、現在地と目的地を確認し、目的地に向かって駆け出す。ふとある事に気が付く。無音なのだ。ここは真夜中でも車が通過する道だが車の音もしないどころか、風で草花が擦れる音も挙句の果てには先程吹いていた風すらピタッと止んでいる。
そして私は空を見上げ背筋が凍りつく
月が紅い……皆既月食……いや違う仮に皆既月食ならこの血のような色になるのか?否!皆既月食はオレンジぽい色の筈だ。この月は……私は知っている……21年前……あの地獄で……
次々と光景がフラッシュバックする。
自分の手の中で冷たくなってゆく仲間……鮮血でできた池に浮く多くの肉片……
あたりから黒煙が立ち上り肉の焼ける匂いが漂っている。
ドンッ!
下から突き上げるような強烈な衝撃で我に返る。
「なに!?」
その後も地面はグラグラと揺れており、腕時計を見ると午前2時00分00秒で止まっている。
「サジタリアスよりHQ応答してくれ!!」
しかし応答はない。
「やられた。明らかに陣地に呑まれた.……まずはHQと連絡を取るためにこの世界から出ないと……しかし何処に向かえば……」
私は来た道を引き返し見晴らしの良い丘の上を目指す。
数分走っただろうか丘を登り、ふと腕時計を見るも時空が歪んでいるのか時刻は午前2時00分00秒から一切進んでいない。
丘の上から町を見渡す。空も、地面も、建物さえも真っ赤に染まっている。
見渡す限り、人影ひとつ無い。まるで自分以外が存在しないと実感させられるかのような……
しかし妙だ。この紅の世界にいて特に何も起こっていない。それだけでは無い。悪霊やモノノ怪の類すら見当たらない、まさか未完成なのか?
トルルルルル……トルルルルル……
着信?紅い世界に私以外に誰かいるのか?しかし、罠である可能性もある。恐る恐る通信機器を取り出し耳に当てる。
「こちら……サジタリアス……」
「サジさん!?生きていたんですか!?」
通信相手は驚きを隠せない様子で続ける。
「それよりサジさん!今どこですか?」
「ポイントβの丘の上だ。何故か陣地内だと思うが人の気配はなし、それどころか悪霊やモノノ怪一匹いない。そっちは?」
少し間を開け
「私達はポイントγにいます。」
「ジェミナイ~誰と話してるの~?」
通話口から少女の声が聞こえる。しかもとても聞き覚えのある声が……
「いい子だからちょっと待ってね。お姉ちゃんちょっと報告してるからね。こちらも人影、敵影共にありません。」
声でわかった。明らかに自分の娘が着いてきてる。だが念には念を入れて確認してみる
「なぁジェミナイ……まさかそこにプレ……居ないよな……?」
「いますよ。」
しかし私の望みは打ち砕かれる。
「わかった今からそっちに行くから待機していてくれ。」
「了解」
通話が切れ、ツーツーと音が聞こえてから通信機器をポケットに入れる。そして頭を抱える。まさかここに娘が来ているとは……どちらにしろ合流が先決か……私はポイントγに向かい走り始める。
道中相も変わらず人影も悪霊もモノノ怪の類すら見当たらない。体感時間で40分程度走ったと思う。腕時計は進んでいないが……
この辺がポイントγだったはず。周りを見回すも住宅地のようで公園にテントはあるがジェミナイとプレアデスは居ない。
突然背後からスタッという音が聞こえる。背後に何者かが着地したようだ。ソレは走り私に近づいて来る。私は拳を固め、振り返りざまに裏拳を当てる。
「ギャア!!」
ソレは短い悲鳴を上げ数m吹っ飛び地面を転がる。
私は吹っ飛ばされた存在を見て驚き声をもらす。
「え……?プレアデス!?」
「プレちゃん……だから不用意に背後から行ってはダメって言ったのに……」
やれやれと建物の影からジェミナイが歩いてくる。
プレアデスはムクっと体を起こす。口の端からは一筋を血が伝っており、目に涙を浮かべている。
あ……マズい……私がジェミナイの方を見るとジェミナイも察したのか2人同時に耳を手で塞ぐ。
「うあああああ!!ママが、打ったぁぁぁ!」
耳を塞いでいても鼓膜が破れそうだ。いやそれだけじゃない。プレアデスの周りを凄まじい突風が吹き荒れ、10kg程度あるであろう植木鉢や漬物石等が浮き上がる。
「なんで打つのぉぉ!私いい子にしてたのにぃぃ!!!」
プレアデスの指が地面を抉り、体が淡く光る。
「ゔぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!」
一段と鳴き声が強くなると同時に淡い光の柱が紅い空に打ち上がる。その光の柱が陣地の結界の壁にぶつかりそこからひび割れを生じさせてゆく。
私が呆然と見ているとジェミナイが私の背中を肘で突いてくる。
振り向くとジェミナイは北西の空を見ている。そこからはドス黒い怨念の柱が立ち上っている。私はプレアデスから走って離れ耳栓をつけて戻る。そして近くの家の屋根に登りライフルのスコープで黒い柱の発生源を見ると白髪の少女が両目からドス黒い
液体を流し、悪意の籠った満面の笑みでこちらを凝視している。そして白髪の少女の背後の家の玄関には幼い少女がいる。
生存者がいる。私はライフルのトリガーに指をかけて狙いをすませ撃つ。打ち出された弾頭は少女の数m前方で空間がねじ曲がっているかのように弾道が歪み地面に刺さる。
不意に21年前の黒猫と呼ばれる大厄災霊の姿が脳裏によぎる
位相の歪み……あの白髪の存在は21年前の黒猫と同じレベルなのか……
不意に頭の中に直接悪意の籠った声が聞こえる。
「古より伝わりし闇の掟に従い血の契約をもってこのモノ達を生贄に捧げよ。大いなる闇の加護を……」
白髪の存在は背後の少女を一目見てこちらを向き直る。
「陣地血濡れの宮」
突然尋常ではない衝撃を受け私達は後方に吹き飛ばされる。
「ケハッ……一体何......が……」
意識が遠くなり、視界が暗転する。
「う……」
少し目を開けると元の星空に戻っている。ハッと私は身体を翻えし当たりを見渡す。いつの間にか横に隊長が座っている。
「隊長……アレは夢だったのですか?」
「いや夢じゃないぞ。」
隊長の視線の先を見て息を飲む。
巨大な漆黒の半円状の結界が砂煙を巻き上げながら今まで私達がいた町を呑み込んでいる。
「今回のハブは脅威レベル6に分類された。既に特別祭祀は配置についてる。お前も早く配置につけ。」
「一体何をするんですか?」
隊長は少し考え、こちらを振り返り一言
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