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第3章 飛躍編
第93話 理不尽な職業“聖騎士”
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大阪探索者学校、史上最高の逸材と言われる皇聖斗。
その実力は、対抗戦で当時日本一の呼び声が高かった清流麗に勝利するほどである。
しかし、その素行の悪さやパーティー行動での粗末さからも、今なお高校生日本一は麗だと言われることが多い。
皇はダンジョンへは単独、もしくは「荷物持ち」としか潜らない。
対して、麗はたくさんのプロ探索者パーティーに混じり、たくさんの功績を残してきたからだ。
だが、一対一ならばどちらに軍配が上がるかは分からない。
「はああああっ!」
細く、スピードを生かすための剣【トゥインクル・レイピア】を片手に、真っ正面から皇に突っ込む麗。
<四点斬撃>
いきなりから麗は全力で斬りかかる。
彼女の中でも最大の強さを誇る<スキル>を皇にぶつける。
「おーおー、やるねえ。で?」
右手に持つ“白銀の槍”を使うことなく、透明な結界のような防御で四連撃を難なく弾き返した皇が、麗を煽る。
「くっ! なめるな!」
余裕をかます皇に、<スキル>が終わった後に自身の一刀を差し込むことで、猛攻を継続。
<三剣刃>
「うおっ!」
八連撃は予想外だったのか、すこし驚く声を上げる皇だが、それも一瞬。
「おらあっ!」
「ぐぅっ!」
八連撃を全ていなしきった皇が、全身の鎧の体当たりで麗をふっとばす。
「はぁ……はぁ……」
「おいおい、まさかそれが全力とは言わねえよな?」
これで真っ向からのぶつかり合いは二度目。
麗が自身の最高連撃を披露したにもかからわず、余裕の顔を見せるのは皇だ。
それもそのはず、
「これはお前じゃ破れねえよ」
『常時最大回復』『聖なる盾』『聖なる加護』
皇が生まれた時から宿す“聖騎士”という職業には、三つの固有の『魔法』が備わっている。
それらは固有の『魔法』のために初級などの「級位」は定まっていないが、比べるとすれば上級のさらに上、『最上級魔法』にあたるだろう。
「このままじゃ、また去年みたいに傷一つ付けられず終わっちまうぞ?」
皇は三つの固有『魔法』と相乗効果により、透明結界のように張られた絶対的な防御と絶対的な回復を身の周りに纏う。
そのため、麗の攻撃が皇の鎧まで届かない。
さらには、皇の性格上、傷がつかない体で正面からゴリ押ししてくるのだ。
それはまるで、攻撃の効かぬ戦車を相手にしているようなもの。
「……相変わらず理不尽な職業だな」
そんな皇に、毒を吐きたくなってしまう麗。
「なんとでも言えよ。これが、生まれ持った才能の差だ」
麗は、最高峰の速さを生かした美麗な剣技で、相手に攻めさせぬまま剣で圧倒していくスタイルだ。
しかし、その一撃一撃が全く通らないのであれば話は別。
皇からすれば、ただ綺麗なだけの剣技を受け続け、一瞬の綻びをつくだけだ。
「だが、君は努力を知らない」
立ち上がり、スッと剣先を皇に向ける麗。
「努力? 笑わせるな、そんなもんが才能に勝てるかっていうんだよ!」
両者は再び地面を蹴った。
先程までと違うのは、麗の立ち回りだ。
(あん?)
真正面からではなく、前後左右に移動を繰り返し、皇を翻弄する。
<瞬歩> <緩急移動> <陽動>
麗が持つ移動系<スキル>をふんだんに使った立ち回りだ。
「……」
(だからなんだって言うんだよ)
高速移動に付き合うのもバカらしくなった皇は、移動範囲を狭め、麗が向かってくるのを待つ態勢に入る。
(どうせ傷つけられやしねえ。『聖なる盾』が攻撃を弾いた後にやり返せばいい)
そう考え、ついにはその場に立ち止まって目を瞑った。
舐めプではなく、意識を集中させるためだ。
(さっさときやがれ)
「……」
じっと待つ皇。
それでも、
(まだか……?)
一向に麗は向かってこない。
「ちっ、いつになったら──」
「はあッ!」
<斬刃>
皇が我慢の限界で目を開けた瞬間、背後から麗が<スキル>を発動。
だが当然、見えない絶対防御に阻まれる。
(もらった!)
皇が振り向きつつ槍を振り回すが、すでに麗はいない。
「どこを見ている?」
「!」
皇が振り返る方向と同じ方向に180度旋回し、さらに麗が背後を取った。
<斬刃>
キンッ!
それでもやはり、皇の防御は破れない。
しかし、
「てんめえええ!」
皇を怒らせるには十分だったようだ。
麗は動きで翻弄し、完全なヒットアンドアウェイ。
<斬刃>という軽い一撃のみで攻撃していたのも、遅れを取らず次の瞬間には回避するため。
「ちまちま、ちまちまと!」
槍を無造作に振り回すも、麗には当たらない。
防御力では圧倒的に勝るが、速さにおいては麗が数段上だ。
「どうした、余裕がなくなって見えるぞ?」
「っせえ!」
麗は皇の何倍も動いているが、その動きが乱れることはない。
日頃の弛まぬ鍛錬の成果だ。
<斬刃>
<斬刃>
「ちいっ!」
麗が皇を確実に翻弄していることは、席からも見て取れる。
「麗っ!」
「戦えてるよ!」
特にハラハラしながら声を絶やさないのは、大空と妖花だ。
麗の親友であり、去年の屈辱を知る二人は必死に応援し続ける。
去年、負けるわけがないと思っていた麗が大敗し、彼女の悔しさも知っているのでなおさらだ。
「麗も去年のままじゃないんだから!」
しかし、翔は冷静な目で戦況を見る。
(攻撃が当たってないのなら意味がない……)
麗を応援する気持ちゆえに、あまり良くない今の状況に苦い気持ちを浮かばせる。
(このままじゃただ消耗するだけだ……。麗さん、何かを起こさないと!)
運良く皇が怒ってくれているだけに、それを口に出すことも出来ない。
なんとも歯痒い心情であった。
「おい、それだけか?」
「!」
しかし、皇もバカではない。
気が早いだけであり、地頭は良い皇は、麗の一見意味のない挑発が自分には無意味だと気づく。
全く傷つく様子のない絶対防御を見れば明らかだ。
(気づかれたか……!)
皇の発言により、席で見守る翔、その他の麗を応援する人も、ただ麗の体力を消耗してしまっていたと思ってしまう。
当の本人を除いては。
「いいや、今ようやく仕上がったところだ」
動きを止め、剣先を皇に向ける麗。
この戦いにおいて、幾度も見てきた光景だ。
「またそれかよ。どうせ口ばっかだろうが」
「ふっ。それは、見てから判断してもらおうか」
この麗の言動には、翔ですら予測がつかない。
(麗さんは……何をしようと言うんだ……?)
この会場内で、今から麗がしようとしているのを分かっているのは二人。
麗と、皇の友人Aこと目黒のみだ。
「やっぱり、皇くんとやるならそれしかないよねえ」
そんな独り言は届くはずもなく、戦況は変わっていく。
「貴様に見せてやろう」
麗が上に掲げた、輝く【トゥインクル・レイピア】に光が集まっていく──。
その実力は、対抗戦で当時日本一の呼び声が高かった清流麗に勝利するほどである。
しかし、その素行の悪さやパーティー行動での粗末さからも、今なお高校生日本一は麗だと言われることが多い。
皇はダンジョンへは単独、もしくは「荷物持ち」としか潜らない。
対して、麗はたくさんのプロ探索者パーティーに混じり、たくさんの功績を残してきたからだ。
だが、一対一ならばどちらに軍配が上がるかは分からない。
「はああああっ!」
細く、スピードを生かすための剣【トゥインクル・レイピア】を片手に、真っ正面から皇に突っ込む麗。
<四点斬撃>
いきなりから麗は全力で斬りかかる。
彼女の中でも最大の強さを誇る<スキル>を皇にぶつける。
「おーおー、やるねえ。で?」
右手に持つ“白銀の槍”を使うことなく、透明な結界のような防御で四連撃を難なく弾き返した皇が、麗を煽る。
「くっ! なめるな!」
余裕をかます皇に、<スキル>が終わった後に自身の一刀を差し込むことで、猛攻を継続。
<三剣刃>
「うおっ!」
八連撃は予想外だったのか、すこし驚く声を上げる皇だが、それも一瞬。
「おらあっ!」
「ぐぅっ!」
八連撃を全ていなしきった皇が、全身の鎧の体当たりで麗をふっとばす。
「はぁ……はぁ……」
「おいおい、まさかそれが全力とは言わねえよな?」
これで真っ向からのぶつかり合いは二度目。
麗が自身の最高連撃を披露したにもかからわず、余裕の顔を見せるのは皇だ。
それもそのはず、
「これはお前じゃ破れねえよ」
『常時最大回復』『聖なる盾』『聖なる加護』
皇が生まれた時から宿す“聖騎士”という職業には、三つの固有の『魔法』が備わっている。
それらは固有の『魔法』のために初級などの「級位」は定まっていないが、比べるとすれば上級のさらに上、『最上級魔法』にあたるだろう。
「このままじゃ、また去年みたいに傷一つ付けられず終わっちまうぞ?」
皇は三つの固有『魔法』と相乗効果により、透明結界のように張られた絶対的な防御と絶対的な回復を身の周りに纏う。
そのため、麗の攻撃が皇の鎧まで届かない。
さらには、皇の性格上、傷がつかない体で正面からゴリ押ししてくるのだ。
それはまるで、攻撃の効かぬ戦車を相手にしているようなもの。
「……相変わらず理不尽な職業だな」
そんな皇に、毒を吐きたくなってしまう麗。
「なんとでも言えよ。これが、生まれ持った才能の差だ」
麗は、最高峰の速さを生かした美麗な剣技で、相手に攻めさせぬまま剣で圧倒していくスタイルだ。
しかし、その一撃一撃が全く通らないのであれば話は別。
皇からすれば、ただ綺麗なだけの剣技を受け続け、一瞬の綻びをつくだけだ。
「だが、君は努力を知らない」
立ち上がり、スッと剣先を皇に向ける麗。
「努力? 笑わせるな、そんなもんが才能に勝てるかっていうんだよ!」
両者は再び地面を蹴った。
先程までと違うのは、麗の立ち回りだ。
(あん?)
真正面からではなく、前後左右に移動を繰り返し、皇を翻弄する。
<瞬歩> <緩急移動> <陽動>
麗が持つ移動系<スキル>をふんだんに使った立ち回りだ。
「……」
(だからなんだって言うんだよ)
高速移動に付き合うのもバカらしくなった皇は、移動範囲を狭め、麗が向かってくるのを待つ態勢に入る。
(どうせ傷つけられやしねえ。『聖なる盾』が攻撃を弾いた後にやり返せばいい)
そう考え、ついにはその場に立ち止まって目を瞑った。
舐めプではなく、意識を集中させるためだ。
(さっさときやがれ)
「……」
じっと待つ皇。
それでも、
(まだか……?)
一向に麗は向かってこない。
「ちっ、いつになったら──」
「はあッ!」
<斬刃>
皇が我慢の限界で目を開けた瞬間、背後から麗が<スキル>を発動。
だが当然、見えない絶対防御に阻まれる。
(もらった!)
皇が振り向きつつ槍を振り回すが、すでに麗はいない。
「どこを見ている?」
「!」
皇が振り返る方向と同じ方向に180度旋回し、さらに麗が背後を取った。
<斬刃>
キンッ!
それでもやはり、皇の防御は破れない。
しかし、
「てんめえええ!」
皇を怒らせるには十分だったようだ。
麗は動きで翻弄し、完全なヒットアンドアウェイ。
<斬刃>という軽い一撃のみで攻撃していたのも、遅れを取らず次の瞬間には回避するため。
「ちまちま、ちまちまと!」
槍を無造作に振り回すも、麗には当たらない。
防御力では圧倒的に勝るが、速さにおいては麗が数段上だ。
「どうした、余裕がなくなって見えるぞ?」
「っせえ!」
麗は皇の何倍も動いているが、その動きが乱れることはない。
日頃の弛まぬ鍛錬の成果だ。
<斬刃>
<斬刃>
「ちいっ!」
麗が皇を確実に翻弄していることは、席からも見て取れる。
「麗っ!」
「戦えてるよ!」
特にハラハラしながら声を絶やさないのは、大空と妖花だ。
麗の親友であり、去年の屈辱を知る二人は必死に応援し続ける。
去年、負けるわけがないと思っていた麗が大敗し、彼女の悔しさも知っているのでなおさらだ。
「麗も去年のままじゃないんだから!」
しかし、翔は冷静な目で戦況を見る。
(攻撃が当たってないのなら意味がない……)
麗を応援する気持ちゆえに、あまり良くない今の状況に苦い気持ちを浮かばせる。
(このままじゃただ消耗するだけだ……。麗さん、何かを起こさないと!)
運良く皇が怒ってくれているだけに、それを口に出すことも出来ない。
なんとも歯痒い心情であった。
「おい、それだけか?」
「!」
しかし、皇もバカではない。
気が早いだけであり、地頭は良い皇は、麗の一見意味のない挑発が自分には無意味だと気づく。
全く傷つく様子のない絶対防御を見れば明らかだ。
(気づかれたか……!)
皇の発言により、席で見守る翔、その他の麗を応援する人も、ただ麗の体力を消耗してしまっていたと思ってしまう。
当の本人を除いては。
「いいや、今ようやく仕上がったところだ」
動きを止め、剣先を皇に向ける麗。
この戦いにおいて、幾度も見てきた光景だ。
「またそれかよ。どうせ口ばっかだろうが」
「ふっ。それは、見てから判断してもらおうか」
この麗の言動には、翔ですら予測がつかない。
(麗さんは……何をしようと言うんだ……?)
この会場内で、今から麗がしようとしているのを分かっているのは二人。
麗と、皇の友人Aこと目黒のみだ。
「やっぱり、皇くんとやるならそれしかないよねえ」
そんな独り言は届くはずもなく、戦況は変わっていく。
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