羨んでいたダンジョンはおれが勇者として救った異世界に酷似している~帰還した現代では無職業(ノージョブ)でも異世界で培った力で成り上がる~

むらくも航

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第3章 飛躍編

第83話 見出した勝機

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 「かける……大丈夫、なのか?」

「大丈夫みたいです、手加減はいりませんよ!」

「あ、ああ……」
 
 翔の返事に安堵あんどを覚えるれいだが、彼女の中の疑問はぬぐい切れていなかった。

 麗は見ていた。翔が後方へ回避した先に電撃が飛んできたのを。
 だが言葉を発する時間はなく、そのまま翔に直撃したと思った。

 その時、は起きた。

 翔に当たる寸前で電撃は一瞬黒く染まり、次の瞬間には消え失せていたのだ。

(あれは、翔が【ミリアド】を形状変化させる時に一瞬出現する黒のオーラだ。一体何がどうなったと言うのだ……)

 剣を前方に構えている麗だが、目の前の相手に集中し切れていない。
 そうなれば、完全な互角だったはずの両者の均衡は崩れる。

「──! ぐっ!」

 翔の詰めに麗の反応が一瞬遅れた。
 この二人の間ではほんの少しの遅れが命取りだ。

「うおおおっ!」

(これは──!)

 翔が押し込む態勢のまま<スキル>を繰り出すことを察知した麗。
 そして同じく<スキル>を用いることで対処を試みる。 

三剣刃トゥリア・ラミナ
三剣刃トゥリア・ラミナ

 お互いに繰り出すのは自身で二番目の威力を誇る三連撃<スキル>。

 各々の四連撃<スキル>は威力が高い代わりに、より長い溜めの時間を要するため、翔は技の出が早いこちらを選択。

 麗も瞬時の状況判断から、翔の発動<スキル>を読み切った攻防になった。
 だが、

(!? なんだ! 一撃一撃が、重い!)

 麗が後方にのけっているとはいえ、明らかに翔の攻撃が重くなっていることを直接感じる麗。
 押しているのは翔だ。

 カァァン! 

「くうう……!」

 <スキル>の最後の一撃が交わった時、麗は大きく吹き飛ばされる。

「ふう」

 翔が見出した可能性は確信に変わる。

(今の【ミリアド】は『魔法』を帯びている)

 通常、人が剣で『魔法』を受けようとすれば、弾くかダメージをもらってしまう結果となってしまうだろう。

 しかしこの【ミリアド】は、形状変化の要領で一部が『魔法』にまでなろうとした。そうして電撃を飲み込み、再び一体化した【ミリアド】は『魔法』を帯びている。

 現状、正確な理屈は分からない。
 だが、偶々たまたま起きた現象は翔に好機をもたらした。

(となれば……)

 翔は戦線を引く。
 
「!?」

 優勢と言えども、麗ほどの相手がこのまま押し切らせてくれるとは思えない、そう考えての行動である。

(勝敗を分けるのは、『魔法』だ!)

 麗さんに勝つため、三年AクラスAチームに勝つため、翔は仲間の元へ下がる。
 信じてはいるが、もし『魔法』の役割を担うが倒れてしまえば、せっかく見出した勝機がなくなってしまうからだ。

 翔が引いたことに麗は驚くが、彼女の心境としてはラッキーだ。
 しかし、麗はここで素直に引かせてしまったことを後悔することになる。



 一方で、華歩かほ百桜さくら妖花あやかの激しい『魔法』のぶつかり合いは続く。

「くううう!」

「威力は申し分ない。けど!」

「!」

「持久力が無かったね!」

 ここにきて華歩の『魔法』が一気に押される。

 互いの『魔法』の威力にそれほど大きな差はない。
 それでも駆け引きや勝負所など、これまで多くの『魔法』使いと戦闘をこなしてきた経験の差から戦況が一気に妖花に傾く。

(ダメ、このままじゃ……!)

 華歩の寸前まで妖花の雷の球は迫る。
 そんな仲間のピンチに駆けつけるのは当然、翔だ。

「『上級魔法 豪火炎』」

 華歩の後方からさらに大きな火の球が放たれる。
 勢いのまま妖花の雷の球と衝突した二つの『魔法』は、轟音を立ててされた。

「かーくん!」

「相殺だって!?」

 『魔法』の激突ではなく相殺。妖花は驚きから思わず声を上げる。
 相殺には相手と同等以上の威力であることはもちろん、それ以上の把握能力や深い知識、何より熟練度が必要となる。
  
 翔は華歩のこれ以上のMP消費を防ぐため、一度相殺することによって『魔法』のぶつけ合いを断ち切った。

「翔!」
天野あまの!」

 翔が華歩の元に戻ってきたことに合わせ、夢里ゆり豪月ごうつきも一度戦線を下げて集まってくる。
 彼女ら二人は、華歩の邪魔をさせないためにサポートの男子二人を牽制していた。
 サポート要員とはいえ、前線に出てくれば強いことを感じていたからだ。

「それで、何か作戦があるんでしょ?」

 全体に指示を出すのはあくまで翔であるため、わざわざ戻って来た意味がある事はすでに共通の理解だ。

「ああ。理由は後で説明する。今はとにかく言うことを聞いて欲しい」

 時間もないため、翔は理由をすっ飛ばして最小限の言葉で伝えた。

「華歩、おれに『魔法』を放ってくれ」
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