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第3章 飛躍編

第80話 【ミリアド】お披露目

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 両者の剣が交わり、キィィィン! と甲高い金属音が鳴り響く。
 かけるの【ミリアド】が一級品であることは疑いようがないが、リーダーの男が持つ長刀もまた一級品。武器の性能だけで大きな差が出ることは無い。

 だが、ただ一つ。両武器に違いがあるとすれば、翔の【ミリアド】は
 翔はニッと笑った。

「【ミリアド】、お披露目の時間だ」

 翔は、リーダーの男の長刀を右手一本で支える剣で受け止めている。
 両者一歩も譲らぬ押し合いの中で、【ミリアド】が瞬時に

「!?」

 【ミリアド】から翔の左手へ、黒いオーラのようなものが移る。
 黒いオーラは瞬時に形状を変化させ、使っていない翔の左手に【ミリアド】と同じ型の、長さだけが半分ほどの剣が握られている。リーダーの男と交えている剣と同じ長さの剣だ。

 今の【ミリアド】の武器種は双剣。
 
「なに!?」

「──うおお!」

斬刃スラッシュ

「くっ!」

 右手で剣を交えたまま、左手で<スキル>を発動させた翔の攻撃は空を切る。
 同時には受け止めきれないと踏んだリーダーの男が、後方へ回避したのだ。

(あぶねえ、なんだ今のは。──!?)

 前を向いた男の目に入って来たのは、アサルトライフルを構える翔の姿。

「休む暇は無いぞ」

「バカな!」

<精密射撃> <ヘッドショット> <三点バースト>

「ぐあっ!」

 翔が放った銃弾はリーダーの男の頭装備に連続で三発命中し、男はよろける。

「はあああっ!」

<瞬歩> <攻撃予測>

 すかさず距離を詰める翔。
 アサルトライフルだった【ミリアド】は翔の意思と共に黒いオーラによって形状を変化させ、瞬時に剣へと変わる。

(そんなのアリかよ!)

 リーダーの男は手を前に出して身構えるが、何かを察した翔は瞬時に止まった。

「──!」

 剣を地面に突き差し、【ミリアド】は盾となる。
 発動させておいた<攻撃予測>により、間一髪攻撃を防いだ。

「盾にまでなるのかよ!」
「おい、大丈夫か!」

 翔に反撃を行ったのは三年Bクラスの後衛にいた者たちだ。
 リーダーの男から吹っ掛けた一対一タイマンではあるが、これ以上やれば確実に負けると踏んだようだ。

「翔!」
「かーくん!」

 相手チームの後衛が出てきたことにより、夢里ゆり華歩かほも声を掛け、後方から迎え撃つ構えを取る。
 これには両チーム一旦立て直しだ。
 だが、翔の勝利により流れは確実に翔たち一年Aクラスチームにある。

「「「おおおおっ!」」」

「すげえぞ、なんだあれ!」
「武器もだが、あれを使いこなすあいつもだ!」
「まじで三年Bクラスも食っちまうのかよ!」

 より一層盛り上がりを見せる観客席。 



 周りのように大声を出すことはないが、この展開には学校のトップ集団でさえも度肝を抜かれたようだ。

「まじ? 翔君やばくない? ねえ、れい

 予想していた展開とは違った流れに、この学校の『魔法』の頂点である百桜さくら妖花あやかも驚きを見せる。

「……そうだな」

「ん、の割にはテンション低くない?」

「それは違うよ妖花」

 麗と妖花の会話に口を挟むのは静風しずかぜ大空そら
 凪風のいとこであり、麗・妖花と肩を並べる“三傑”と呼ばれる内の一人だ。

「麗はすでに戦ってるんだよ。目の前の翔君を見ながら脳内シミュレーションでね。でしょ? 麗」

「かもな」

 ふっ、とした笑いを見せる麗。
 大空の言っていることもあながち間違いではないのだが……

「いやー、翔君に見とれてるだけっしょ!」

「! あ、妖花! お前っ!」

「あらー、図星だったのかな?」

「ち、違うわ! まったく、二人ともしっかり見ておけ! 明日戦うのだぞ!」

 あたふたしながら再び模擬場に視線を戻す麗。
 だが彼女の頬はいつになく赤い。

((かわいい))

 学校のトップ、麗をいじって遊ぶ妖花と大空であった。



 そして舞台は再び模擬戦場。

天野あまの!」
「天野君!」

 前衛となる豪月ごうつき凪風なぎかぜも翔の両隣に並び立ち、一気に畳みかける姿勢だ。
 三年Bクラスチームの領域は翔によって大きく押され、後ろのスペースはもうほとんどない。

 となれば、戦況は爆発力で勝る翔たちのチームに大きく傾く。

「『上級魔法 聖者せいじゃの光』」

 華歩の『魔法』が発動。
 邪悪な魔物に特に有効であるこの『魔法』は、対人では主に武器を破壊する効果を持つ。

「防御だ!」

 三年Bクラスチームの頭上に華歩による魔法陣が出現し、そこからまばゆい光が注がれる。
 それに対して彼らは防御の『魔法』を張る。

「くううう!」

 三年Bクラスチームは防御範囲内に立てもり、なんとか武器の破壊を防いだ。このあたりの咄嗟の判断はさすがである。

「じゃあこっちはどうするかなあ! 先輩方よお!」

 防御体制をとるのを待っていたかのように豪月と凪風、続いて翔が突っ込んでいく。
 対しては当然、華歩の『魔法』を防ぎ切った三年Bクラスチームも構える。

「生意気な一年め!」
「相手をしてやる!」

 前に出た二人が持つ武器は弓。
 学校内でも名をせる、確かな実力を持った中衛コンビだ。

 翔チームの先頭をいく凪風・豪月にとっては分が悪い相手。だが翔チームにも頼れる中衛がいる。 

 凪風・豪月は照準に入らない様、それぞれ左右に散った。後方から現れるのは翔と夢里。翔が手に持つのは真っ黒の銃、夢里と同じ武器種アサルトライフルだ。

「あの女を狙え!」
「狙ってる!」

 弓を持つ二人の狙いは夢里で一致しているが、中々照準に捉えることが出来ない。

 戦いが始まった段階から地形・相手の構成を観察し、攻撃手段や展開を予測していた夢里は、遮蔽物しゃへいぶつや身のこなしで見事にかわし続ける。

(なんだよあいつ!)
(銃を持った奴の動きじゃねえぞ!)

 夢里が翔に追いつき、彼らは天井の照明を背にして高く跳んだ。 

「うおおお!」
「はあああ!」

<精密射撃><ヘッドショット><三点バースト>
<精密射撃><ヘッドショット><五点バースト>

 宙から翔と夢里が放った銃弾が、弓で反撃させる間もなく二人に命中。

「夢里!」
「うん!」

<急所特定> <重撃>
<急所特定> <重撃>

 弓を持った二人はよろけてしまったことで、翔と夢里の前に隙を見せてしまう。
 それを見逃す彼らではない。

「ぐおっ!」
「がはぁっ!」

 弓を持った二人はダウン。

「くっそおおお!」

 再び前に出てくるのは三年Bクラスチーム、リーダーの男。

(このままやられてたまるか!)

 男はここぞとばかりに気迫を込める。三年生の意地だ。

「天野君、天野君」

 素早く距離を詰めていく中で、凪風が人差し指で自身を指してアピールする。翔はその意味がすぐに分かった。

「行ってこい!」
「どうも!」

 やり取りを見ていた豪月も察し、凪風は単独でリーダーの男に突っ込む。

「今度は僕が相手でも良いかな?」

「なめるな一年坊が!」

 上から大きく振りかざした長刀をひらりと躱し、凪風は華麗な動きで長刀の上に乗ってみせた。
 楽々攻撃を躱された上に、軌道を完全に予測しておちょくられた。リーダーの男からすればたまったものじゃないだろう。

「貴様──」
「僕の勝ち」

風・三剣刃フォン・トゥリア・ラミナ

 リーダーの男は気付いた時にはすでに斬られていた。

「「きゃー!!」」

 観客席からは黄色い声援が届く。最近噂の凪風ファン達だ。

「ラスト!」

 凪風が珍しく声を上げた。

「任せろ! ふんぬ!」

<真空刃>

「うぐっ!」
「ぐあっ!」

 再び防御を固めていた残り二人に対して豪月が『魔法』もろとも吹き飛ばした。
 まさに力業。豪月にしか出来ない芸当だろう。

「決めろ、お前たち」

「サンキュー豪月」
「ありがとう、豪月くん」

 翔と華歩は杖を交差させ、二人で巨大な火の球を作っていた。

「「『上級魔法 豪火炎』!」」

 最後にド派手な花火のような火の球が地面に着弾。
 模擬戦は終了を迎える。

『一年Aクラスチームの勝利!』

「「「うおおおおっ!」」」

 互いに集まり、勝利を噛みしめる翔たち。
 呼応するように盛り上がる観客。

「まじでやりやがったよ、あいつら」

「楽しみにしているぞ、翔」

「翼、強くなったね」

 この結果にも一切の焦りを見せることは無く、より明日を楽しみにする三傑。

 会場内が大いに盛り上がる中、翔は喜びを表現しつつも、戦いの中で掴んだ感覚について頭を巡らせていた。

(【ミリアド】……こいつにはまだ、がある)

 明日はいよいよ三年AクラスAチームとの対戦である──。
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