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第3章 飛躍編
第79話 三年Bクラスと“三傑”
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今日は三年Bクラスとの対決。
もちろんおれたちが戦うのはその中のAチームだ。
三年BクラスとAクラスの間には大きな差があると言われているが、それでも彼らがこの学校の上位に位置するのは間違いない。
気合を入れなければ……とは思うのだが。
「ふあ~あ」
「かーくん、寝不足?」
おれのあくびに反応して話しかけてくるのは華歩。
今は朝のホームルームが始まる前の時間帯である。
「いや、そういうわけではないんだけど……昨日、あれからまたダンジョンに潜っててさ。ちょっと疲れが」
「え、あの後!? またダンジョンに潜ったの?」
「うん。だから帰ったのが遅くなっちゃって」
おれは祭さんとじいさんに武器を見てもらった後、<スキル>を用いた戦闘をするべくまたダンジョンに潜った。
華歩が知らないのは、夜が遅くなり過ぎない内に華歩と夢里をバスまで送り、先に帰ってもらったからだ。
二人とも女子高生だし、前に麗さんのため、泊まり込みで探索を進めた時のこともおれは少し負い目に感じていた。いつも遅いと親御さんも心配するだろうし。
その後、一人で潜るつもりが豪月と凪風は「どうせ暇だから」とおれに付き合ってくれた。
おかげで一人で試すよりも有意義な実戦経験を積むことが出来た。
「そうだったんだ。豪月くんたちも……」
「余計なお世話だったかな」
「ううん。前の時もお母さんには結構心配かけたみたいだし、助かったよ」
「そっか、それは良かった」
「それで」
「うん?」
華歩が頬に手をついておれの顔を覗いてくる。
「完成は、したの?」
「……ああ! 期待しててくれ」
★
そして、対抗戦の時間はやってくる。
三年Bクラス対一年Aクラスの対抗戦。
やはり翔たちAチーム以外は三年生相手に全く歯が立たなかった。
それでも周囲が一年AクラスAチームに一心に期待を寄せているのは、ここまでこの五人が二年A・Bクラス、さらに三年CクラスのAチームをも倒してきたからだ。
「天野、ついにそれを解禁するのだな」
翔が携える【ミリアド】を見て豪月が口を開く。
「ああ、昨日は付き合ってくれてありがとうな豪月。凪風も」
「いいよ、君が強くなればそれだけ勝ちに近付くんだ。僕もまた盗めるものが増えるからね。それに──」
凪風につられ、他の四人も相手チーム、三年BクラスAチームの方を向く。
「今日の相手はさすがに一筋縄じゃいかないから」
「うん、凪風くんの言う通りだね」
これまでも決して油断はしてこなかった五人だが、今日はまた一段と気合いを入れている。
翔は鼓舞するように夢里に声を掛ける。
「夢里、鍵はおれたちだ」
「そうだね。相手にとってイレギュラーなのは私と翔だからね」
イレギュラー。普通ではない動きは、対人戦という知能を持った者同士の対決では大きな意味を持つ。
「よし、いくぞ!」
五人は円陣を囲み、最後の気合を入れた。
中央に両チームが並んだ時、観客は最高の盛り上がりを見せる。
今、最注目される五人が三年Bクラスという相手にどう戦うのか。
それはもちろん、この対抗戦を見に来ているこの学校のトップも注目する。
「見させてもらうぞ、翔」
麗だ。今日は三年Aクラスもこぞってこの模擬戦を見に来ている。
「麗さー、本当に一年生が勝つと思ってるの? Bクラスも結構やるよ?」
「思っているさ。妖花《あやか》は違うのか?」
「そうねー、あの凪風くんはちょっと顔がタイプだけどなあ」
「……何の話をしているんだ」
麗の右隣に座るのは百桜妖花。
持って生まれた職業から主に『魔法』を扱い、この学校で『魔法』に関して彼女の右に出る者はいないと言われる実力者だ。
この学校において、剣技の頂点を麗とするならば、『魔法』の頂点は間違いなく彼女、妖花である。
「ちょっと、翼に近寄らないでくれる?」
「翼? 大空、随分と親し気じゃない。もしかしてあの子狙ってる?」
麗の左隣に座るのは静風大空。
自らも斬り崩せる後ろ寄りの前衛で戦い、麗と世代が違えば確実にNO.1だったと言われる天性のセンスと、それを存分に生かした屈指の実力の持ち主だ。
清流麗・百桜妖花・静風大空、この三人は猛者が集まる国立探索者学校の中でも、敬意を表して“三傑”と呼ばれている。
そして実はこの大空、
「狙ってるも何も……翼とは“いとこ”なんだけど」
「「え?」」
大空のまさかの発言に麗と妖花はゆっくりと振り返った。
「「「ええええ!」」」
そして一斉に驚く。
それは周りで三傑の会話を聞いていた者も同じ、衝撃の発言だった。
だが大空はそれ以上何も言うことなく、冷静に模擬場を眺める。
(分家なんて関係ない。翼、あんたが出来るってこと、見させてもらうわ)
大空によって別の盛り上がりを見せる三年Aクラスであった。
『両チーム、整列!』
「君達だね、天野翔くん率いる一年AクラスAチームというのは」
翔の正面に立つ男が翔に話しかける。
(物腰柔らかな人だな。ここまでくれば人格もしっかりとしているんだろうな)
翔は感心しつつ差し出された右手に応えた。
「はい。今日はよろしくお願いします」
「ははっ、噂通り礼儀が良いね。でも──」
男の雰囲気が一瞬にして変わる。
「心配になっちゃうな。そんなに良い子ちゃんだと」
「!」
握手を交わしている手に力がこもっているわけではない。
それでも翔は男の雰囲気の違いを確かに感じ取る。
(そうだよな。それぐらい闘争心剥き出しじゃないとここまで上がれないか)
「もちろんこちらも、勝ちにきましたよ」
「……良いね」
リーダー、そして他のメンバーが握手を交わし合い、両チーム配置に付く。
だが、
「前衛が一人……」
「後の四人は後衛だと?」
リーダーの男が最前線で一人だけ張り、あとは全員後ろに下がった三年Bクラス。
「来なよ、天野翔くん」
そして、男は翔を煽る。
「かーくん、誘いに乗る必要は──」
「いや、小日和さん、ここは天野君にいかせるべきだ」
華歩が翔に声を掛けようとするが、凪風は翔に行けと促す。
翔の足は凪風が背中を押すのを分かっていたかのようにすでに動き出していた。
「負けるなよ」
「大丈夫、勝つさ」
仁王立ちで最前線に立つ豪月の横を通り過ぎ、さらに前に出る翔。
「凪風くん、どうして!」
「……ここで引けば、天野君には自信がないことの表れになってしまう。それで活気づくのは相手チームだ」
「だからって──」
「それに、二人とも天野君が負けるとは思っていないでしょ?」
「「!」」
凪風のその言葉に、華歩と夢里も互いに顔を見合ってようやく理解を示す。
「大丈夫、天野くんは負けないよ。あの武器ならね」
昨日、直に翔の【ミリアド】を目にしている凪風は翔が勝つ確信があった。
翔とリーダーの男が正面を切る形で両チームの配置が完了する。
『それでは、始めっ!』
「「うおおお!」」
翔が抜いた【ミリアド】、三年Bクラス最強の男が抜いた長刀、両者一歩も譲らぬ気迫と共に激しい音で交わる──。
もちろんおれたちが戦うのはその中のAチームだ。
三年BクラスとAクラスの間には大きな差があると言われているが、それでも彼らがこの学校の上位に位置するのは間違いない。
気合を入れなければ……とは思うのだが。
「ふあ~あ」
「かーくん、寝不足?」
おれのあくびに反応して話しかけてくるのは華歩。
今は朝のホームルームが始まる前の時間帯である。
「いや、そういうわけではないんだけど……昨日、あれからまたダンジョンに潜っててさ。ちょっと疲れが」
「え、あの後!? またダンジョンに潜ったの?」
「うん。だから帰ったのが遅くなっちゃって」
おれは祭さんとじいさんに武器を見てもらった後、<スキル>を用いた戦闘をするべくまたダンジョンに潜った。
華歩が知らないのは、夜が遅くなり過ぎない内に華歩と夢里をバスまで送り、先に帰ってもらったからだ。
二人とも女子高生だし、前に麗さんのため、泊まり込みで探索を進めた時のこともおれは少し負い目に感じていた。いつも遅いと親御さんも心配するだろうし。
その後、一人で潜るつもりが豪月と凪風は「どうせ暇だから」とおれに付き合ってくれた。
おかげで一人で試すよりも有意義な実戦経験を積むことが出来た。
「そうだったんだ。豪月くんたちも……」
「余計なお世話だったかな」
「ううん。前の時もお母さんには結構心配かけたみたいだし、助かったよ」
「そっか、それは良かった」
「それで」
「うん?」
華歩が頬に手をついておれの顔を覗いてくる。
「完成は、したの?」
「……ああ! 期待しててくれ」
★
そして、対抗戦の時間はやってくる。
三年Bクラス対一年Aクラスの対抗戦。
やはり翔たちAチーム以外は三年生相手に全く歯が立たなかった。
それでも周囲が一年AクラスAチームに一心に期待を寄せているのは、ここまでこの五人が二年A・Bクラス、さらに三年CクラスのAチームをも倒してきたからだ。
「天野、ついにそれを解禁するのだな」
翔が携える【ミリアド】を見て豪月が口を開く。
「ああ、昨日は付き合ってくれてありがとうな豪月。凪風も」
「いいよ、君が強くなればそれだけ勝ちに近付くんだ。僕もまた盗めるものが増えるからね。それに──」
凪風につられ、他の四人も相手チーム、三年BクラスAチームの方を向く。
「今日の相手はさすがに一筋縄じゃいかないから」
「うん、凪風くんの言う通りだね」
これまでも決して油断はしてこなかった五人だが、今日はまた一段と気合いを入れている。
翔は鼓舞するように夢里に声を掛ける。
「夢里、鍵はおれたちだ」
「そうだね。相手にとってイレギュラーなのは私と翔だからね」
イレギュラー。普通ではない動きは、対人戦という知能を持った者同士の対決では大きな意味を持つ。
「よし、いくぞ!」
五人は円陣を囲み、最後の気合を入れた。
中央に両チームが並んだ時、観客は最高の盛り上がりを見せる。
今、最注目される五人が三年Bクラスという相手にどう戦うのか。
それはもちろん、この対抗戦を見に来ているこの学校のトップも注目する。
「見させてもらうぞ、翔」
麗だ。今日は三年Aクラスもこぞってこの模擬戦を見に来ている。
「麗さー、本当に一年生が勝つと思ってるの? Bクラスも結構やるよ?」
「思っているさ。妖花《あやか》は違うのか?」
「そうねー、あの凪風くんはちょっと顔がタイプだけどなあ」
「……何の話をしているんだ」
麗の右隣に座るのは百桜妖花。
持って生まれた職業から主に『魔法』を扱い、この学校で『魔法』に関して彼女の右に出る者はいないと言われる実力者だ。
この学校において、剣技の頂点を麗とするならば、『魔法』の頂点は間違いなく彼女、妖花である。
「ちょっと、翼に近寄らないでくれる?」
「翼? 大空、随分と親し気じゃない。もしかしてあの子狙ってる?」
麗の左隣に座るのは静風大空。
自らも斬り崩せる後ろ寄りの前衛で戦い、麗と世代が違えば確実にNO.1だったと言われる天性のセンスと、それを存分に生かした屈指の実力の持ち主だ。
清流麗・百桜妖花・静風大空、この三人は猛者が集まる国立探索者学校の中でも、敬意を表して“三傑”と呼ばれている。
そして実はこの大空、
「狙ってるも何も……翼とは“いとこ”なんだけど」
「「え?」」
大空のまさかの発言に麗と妖花はゆっくりと振り返った。
「「「ええええ!」」」
そして一斉に驚く。
それは周りで三傑の会話を聞いていた者も同じ、衝撃の発言だった。
だが大空はそれ以上何も言うことなく、冷静に模擬場を眺める。
(分家なんて関係ない。翼、あんたが出来るってこと、見させてもらうわ)
大空によって別の盛り上がりを見せる三年Aクラスであった。
『両チーム、整列!』
「君達だね、天野翔くん率いる一年AクラスAチームというのは」
翔の正面に立つ男が翔に話しかける。
(物腰柔らかな人だな。ここまでくれば人格もしっかりとしているんだろうな)
翔は感心しつつ差し出された右手に応えた。
「はい。今日はよろしくお願いします」
「ははっ、噂通り礼儀が良いね。でも──」
男の雰囲気が一瞬にして変わる。
「心配になっちゃうな。そんなに良い子ちゃんだと」
「!」
握手を交わしている手に力がこもっているわけではない。
それでも翔は男の雰囲気の違いを確かに感じ取る。
(そうだよな。それぐらい闘争心剥き出しじゃないとここまで上がれないか)
「もちろんこちらも、勝ちにきましたよ」
「……良いね」
リーダー、そして他のメンバーが握手を交わし合い、両チーム配置に付く。
だが、
「前衛が一人……」
「後の四人は後衛だと?」
リーダーの男が最前線で一人だけ張り、あとは全員後ろに下がった三年Bクラス。
「来なよ、天野翔くん」
そして、男は翔を煽る。
「かーくん、誘いに乗る必要は──」
「いや、小日和さん、ここは天野君にいかせるべきだ」
華歩が翔に声を掛けようとするが、凪風は翔に行けと促す。
翔の足は凪風が背中を押すのを分かっていたかのようにすでに動き出していた。
「負けるなよ」
「大丈夫、勝つさ」
仁王立ちで最前線に立つ豪月の横を通り過ぎ、さらに前に出る翔。
「凪風くん、どうして!」
「……ここで引けば、天野君には自信がないことの表れになってしまう。それで活気づくのは相手チームだ」
「だからって──」
「それに、二人とも天野君が負けるとは思っていないでしょ?」
「「!」」
凪風のその言葉に、華歩と夢里も互いに顔を見合ってようやく理解を示す。
「大丈夫、天野くんは負けないよ。あの武器ならね」
昨日、直に翔の【ミリアド】を目にしている凪風は翔が勝つ確信があった。
翔とリーダーの男が正面を切る形で両チームの配置が完了する。
『それでは、始めっ!』
「「うおおお!」」
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