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第3章 飛躍編

第77話 傷付ける怖さ

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 二年Bクラスとの対抗戦も終わり、放課後。
 おれはいつも通り仲間を連れてダンジョンに──

「ねえねえ、ほんとすごかったよね!」

 ダンジョンに──

「さすがうちのクラスのトップ軍団だな!」

 行けない!

「かーくん、どうしよっか」

「これは困ったな」

 今日のBクラスの模擬戦があってから、おれたちはより注目を浴びるようになってしまった。
 いつもの五人でダンジョン街に行こうとしたところ、Aクラスのみんなから囲まれてしまったのだ。

「ちょっとごめん、私たちも行きたいからさ!」

「これは、嬉しいような困ったような、だね……」

「はっはっは、オレは構わんぞ!」

 豪月ごうつきは囲まれても頭一つ二つ出ているからな。

「ぐっ、だが通れん」

 ……なるほど、それゆえに通れないのか。

「ふっ、調子に乗ってもらっては困るぜ天野あまのかける! お前らをやるのは俺たち二年Cクラスだ!」

 この声は廊下からだ。てゆうか誰?

「待て、一年Aクラスをとるのは俺たちだ!」

 また違う人が来た。けど、まじで誰?

「そこを通してもらおうか」

 また来たよ……って、れいさん!

「麗さん」
「麗さんっ!」

 これには華歩かほ夢里ゆりも反応する。
 麗さんが通ると、なぜか集まっていた周囲が空いていく。これがオーラか。

「翔、それにみんなも。今日は勝ったみたいだな」

「はい、麗さんのチームにも負けませんよ」

 おれの発言に「「おおっ!?」」と周囲がどよめく。

「ふっ、それで良い。私も楽しみにしているからな。それと、私たちが戦うのは最終日、つまり今週の金曜日だそうだ」

 今週の金曜日、か。

「!」

 周りの「えっ!」という反応を全く気にせず、麗さんが顔を急に近付けてくる。
 
「それまでに“あの武器”を仕上げてこい。楽しみに待っているぞ」

 おれの耳元でそれだけささやくと、麗さんはきびすを返して去って行く。

 周りでは麗さんのファンやら、様子を見ていた生徒たちががわーぎゃー騒いでいるが、今のおれの耳にはそれほど響かない。

 あの武器、【ミリアド】を使いこなす。
 麗さんのチームに勝つにはそれしかないだろう。








「で、実際どうなの? その武器は」

 あれからなんとか群衆を抜け出し、今はダンジョン探索へ行く前。
 ダンジョン入口での今日の目的の確認だ。

「分からない。今はどう向き合って良いのかすら」

 すーっと少しづつ慎重に【ミリアド】を剣のさやから抜いていく。
 抜いている間は鞘の効果もあり、特に問題は無い。だが──

「! ぐっ! と、とまれ!」

 鞘から抜ききった瞬間に大きくおれの手の中から暴れる。

「言う事を、聞け! ……ふう」

 本気で力を込めて無理やり剣を鞘に収める。
 こんなもの、店内や施設内ではとても抜けない。それこそ暴れ出したら全てを切り刻んで破壊してしまうかもしれない。

「だが挑戦するのだろう? 兄弟」

「……ああ。迷惑をかけるかもしれないが、協力してくれないか」

「オレはもちろんだ」

「僕もだよ。……後は」

 男三人はくるりと女子の方を向く。

「あの二人が協力してくれるかだけど」

 二人は先程からほとんど喋っていない。

「「……」」

 華歩と夢里だ。

「あ、あのー、お二人さん?」

「なに? 麗さんに近寄られて、鼻の下伸ばしちゃって」
「わたしは別にそんなんじゃないけどっ」

 どちらも目を合わせてくれない。気難しい方々だ。

「なんてね。もちろん私も協力するよ」
「いつまでも怒っててもしょうがないもんね」

 ここに来るまでに機嫌を直してくれたみたいだけど、それにしても怒ってたのか。 
 理由は分からないが、

「そうしてくれると助かる」




  
「それで、まずは第10層ってわけだね」

「そういうことだ」

 ここは東京ダンジョン、第10層ボス部屋前。
 この先にはかつて入学前に倒したボス級魔物【サイクロプス】がいる。

 並の魔物では耐久力が低く、おれが何も掴めないまま【ミリアド】の性能だけで倒せてしまう可能性が高い。
 【ミリアド】を使いこなす為の修行をするには、そこそこに耐久力があり、なおかつ周りは広い部屋の方が良い。とすると、おそらくここがベストだ。
 いざとなれば、一人でも倒せるほどの力は全員持っているしな。

──グオオアアァァ!!

「久しぶりだな、【サイクロプス】」

「じゃあ、僕たちはここで見てるよ」

「ああ、そうしてくれ」

 部屋に入り、みんなには後ろで見守ってもらう様な形でおれだけが前へ出る。
 一対一で【ミリアド】を使う練習のためだ。

──グオオアア!

「行くぞ!」

 おれは【ミリアド】を抜き、暴れ出す前に<スキル>を発動した。
 剣に主導権を取らせないための先制攻撃といったところか。

三剣刃トゥリア・ラミナ

「──! って待て、そっちはまずい!」

 【ミリアド】は<スキル>を発動したまま剣先を後方に向けた。
 向かっているのは後ろの四人の場所だ。

「翔!?」
「どうした!」

「制御が出来ない! みんな避けてくれ!」

「くっ!」
「きゃあ!」

 四人は【ミリアド】の暴走した攻撃を咄嗟とっさかわして退避する。
 が、これはまだ<三剣刃トゥリア・ラミナ>の一撃目。あと二連撃が残ってる!

「──こんのっ!」

 力の限りで方向を修正し、仲間に<スキル>が当たらないように調整する。
 これで二撃目。

「うおわっ!」

 それでも最終的に振り切られてしまう。
 だが、剣を離しはしない。ここで今これを離してしまえばどうなるか分からない。

 ドゴォッ!
 三連撃目が壁に向かって発動し、おれが隙を見計らって【ミリアド】をなんとか鞘に収める。

「ハァ……ハァ……」

 <スキル>が発動している間、怖くて仕方がなかった。
 自分が傷付くならまだ良い。
 でも、みんなを傷付けてしまうのが怖かった。

「【ミリアド】……」

 本当におれは、こいつを使いこなせるのか?
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