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第2章 躍進編

第42話 勇者“カケル”

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 この体の奥底から無限にあふれ出てくるような力。新鮮な様でどこか懐かしさを感じる。

――ヴォアアアアア!!

 腕を切られて怒ってるな。でもどうせすぐに生えてくるだろ?

 化け物はおれの予想通り、切断された部分からより強じんな腕を生やす。

かける、なのか?」

れいさん、下がっていてください。麗さんも、みんなも必ず学校に帰してみせます」

 『最上級魔法 絶対防御壁』。おれは麗さん、再び眠りについたシンファを含めた五人に魔法で防御壁を張る。いくらこの化け物でも壊せはしないだろう。

「その壁から出ない内は安全だ。みんなはそこから動かず麗さんとシンファをしっかり見ていてくれ」

 華歩かほ夢里ゆりがこくりと頷く。

「待て、翔一人になど――、!」

 それでも前に出ようとする麗さんを華歩と夢里が止める。

「大丈夫です。私たちも見たのは初めてですけど」

「きっとかーくんがなんとかしてくれます」

 華歩と夢里に「任せた」と頷きを返し、化け物と再び正面から向き合う。 

「待たせたな。続きをやるぞ」

――ヴォオオオアアア!!

 若干だが先程までよりも警戒心が見える。おれのことを獲物から敵へと認識を改めたか?

 化け物は大きな口を開き、どす黒い炎を吐き出そうとしている。

「かーくん!」
「翔!」

 大丈夫だよ。

――ヴォ、ッヴァ!

「その口は閉じてろ」

<瞬歩> <跳躍脚エア・ウオーク> 

 宙を伝って一瞬で距離を詰め、化け物の口を下から蹴り上げる。黒い炎には弱体化デバフが付き物だからな。それはごめんだ。

――ヴォオオア!

<未来視> <空間把握> <確定反撃カウンター

 見える。
 さっきまでとは視界がまるで違う。攻撃に当たる気がしない。

 化け物の攻撃に対してかわすだけでなく、れ違い際に斬撃を加える。<受け流しパリィ>の応用だな。

「それ以上やっても自分が傷付くだけだぞ?」

――ヴォォォ……

 おとなしくなりやがって。知能は持っているみたいだ。それなら、

「いい加減に終わらせよう」

 <瞬歩> <跳躍脚エア・ウオーク> 

 おれは化け物の周りを駆け回る。少々試したいことの考え事をしているからだ。

 麗さんは確か、<スキル>と<スキル>の間に自分の一振りを加えることで連撃数を伸ばしていたっけ。

 化け物の足元から体を伝い、目にも止まらぬ速さで一気に上を取る。

 こんな感じか?

六花銀世界シス・ラヴィーネ>、つばめ返し、<七星光剣グラン・シャリオ

 化け物の上空から足元まで怒涛どとうの六連撃、地上まで辿り着いたところで自らの意志による一振りで折り返し、足元から再度化け物の上空まで必殺の七連撃。

――ヴォ、ァ、ァ……

 合わせて十四もの連撃によって化け物の手足、その他諸々の部分はおれの動きに少し遅れて切断され、化け物本体も足元から崩れ落ちる。もう動くことはないだろう。
 強敵に見えたが、この懐かしい力には及ばなかったな。 

「翔!」
「かーくん!」

 戦闘が終わり、後方を振り返る。おれがグッドサインを出すと夢里と華歩の顔は一気に明るくなる。彼女らは、今のおれの姿をなんとなく察しているだろうな。

「なん、だ……今のは」

「カケル、さっすがー!」

 二人の横で口を開くも、真逆のテンションの感情を表に出す麗さんとフィ。フィの奴、おれの勝ちを確信してやがったな。

 おれは宙を徐々に降りていき、後方のみんなの元へと寄る。

「大丈夫でしたか?」

「あ、ああ。それよりも君は一体……」

「それについては帰ったらお話しします」

 あの姿を見られた後じゃ言い訳も出来そうもないしな。

「とりあえず今すぐに帰ろう。華歩と夢里はシンファを頼めるか」

「うん!」
「了解!」

「フィは敵のいないルートを通れるよう案内してくれ」

「任せなさい!」

 戦闘が終わったのも早々に周りへ指示を出す。幸い、化け物を倒したことで黒く巨大な禍々まがまがしい召喚門サモンゲートは閉じたようだ。

「麗さん、もう少し耐えてください」

「すまない、な……」

 麗さんに肩を貸し、第16層から地上へと繋がる転移装置ポータルを目指す。

 ドクン、ドクン。
 戦闘直後から止まらないこの激しい動悸どうきを抑えながら。
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