羨んでいたダンジョンはおれが勇者として救った異世界に酷似している~帰還した現代では無職業(ノージョブ)でも異世界で培った力で成り上がる~

むらくも航

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第2章 躍進編

第37話 豪月・凪風の<ステータス>、それから

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 全三試合、総勢十八人のAクラスの模擬戦が終了する。
 おれたちの模擬戦の後も、それぞれのパーティーは即席であるにも関わらず見事な連携と各々の個人の能力で、Aクラスと呼ぶに相応ふさわしい激闘を見せた。

 だが、見る限り個人の戦闘能力で言えばおれと凪風なぎかぜは抜けているように感じる。
 七色ななしきさんのような、何かに特化した未知数な人もいるわけだけど。 

 ちなみに、なぜAクラスが十八人と微妙な人数かというと、探索科は六十人なのだ。そして、実力順にクラス分けされるのだが、現時点ではAクラスの資格を持つ者が十八人だったという判断なのだろう。
 その証拠に、Bクラスは現在二十二人、Cクラスは二十人だ。なお、これはいずれ変わる可能性もある。

 Bクラス・Cクラスの連中はもちろん、同じAクラス内でもこれから先はもっと熾烈しれつな争いになるだろう。より一層気合を入れよう。







 ちらっと時計を見る。時刻は午後三時になるところ。
 もうすぐ授業が終わるかな。

 キーンコーン、カーンコーン。

「では今日の授業はここまでとする」

 授業後の礼をして、今日の最後の授業が終わる。

「やーっと終わった!」

「かーくん、授業付いて来れてる?」

 腕を伸ばしているおれにそう言ってくるのは隣の席の華歩かほだ。

「いやあ、そう言われると微妙かも。授業ペースが早すぎるんだよ。この時間に終わるのは確かにありがたいけどさ」

「だと思った。家に帰ってからちゃんと復習しないとダメだよ?」

「わかったよ……」

 机の上で突っ伏してがっくりしているおれに、今度は後方から声がかかる。

「はっはっは、兄弟! 勉強は苦手か?」

 豪月だ。おれの列の一番後ろでふんぞり返ってるこいつは、さぞかしサボリたい放題なんだろうな。

「お前に言われたくはねーよ。最後のとこ、理解出来たのか?」

「ふむ。これのことか?」

「あ? どれどれ……ってめっちゃ字綺麗だなおい!」

 豪月から見せられたノートに驚愕きょうがくする。理解しているどころか、すでに今日の分の宿題まで授業中に終えてるじゃねえか。
 こいつ……まさか出来るのか!?

「何を驚いている。エリート養成校は勉強も出来なければ入れない。これぐらい当たり前だぞ」

「まじかよ……」

「す、すごいね」

 おれの周りでは一番頭の良いあの華歩が驚いている。もしかしてこいつ華歩より頭良いのか?

「まあそんなことを言いに来たんじゃないんだ。兄弟、今日一緒にダンジョン行かねえか?」

「お! ダンジョンか。まあ昨日行ってないし潜ろうとは思っていたけど……」

 ちらっと華歩の方を見る。おれが良くてもいつメンの華歩や夢里ゆりが了承しないのでは、良くないだろう。

「いいね! 行こうよ!」

「ほう、小日和こびよりも賛成してくれるか。これはありがたいな」

「なにそれ、面白そうじゃん!」

 続いてこちらに来たのは夢里。おれたちが盛り上がっているのを見て混ざりに来たようだ。

「華歩と夢里が良いのならまあ良いんじゃ――」

「僕も混ぜてよ」

「おわっ!」

 視界の斜め前から急に入り込んできたのは凪風 翼だ。

「つばさ、お前もやる気に満ち溢れてるな。堂々とその熱さを表に出せば良いものを」

「“忍”は滅多に感情を表に出さないもんなんだよ。常にクールでいるのが心得さ。それより良いのかな? 僕も入れてもらっても」

 どうだ? と華歩と夢里を交互に見る。
 二人とも問題なさそうだ。

「じゃ、二人ともよろしく頼むよ。ってことは、おれたちは初の五人パーティーじゃないか!」

 現代こっちでは初めての五人パーティーだ。嬉しい! 三人でも十分ではあるけどやっぱり五人揃うとやっぱり嬉しい! 

「いや、あの……わたしは一応経験あるけど」

「え?」

「あ、ごめんかける。私も」

「ええ?」

 お、おれだけだったのかよ。

「そう落ち込むなって! 別に恥じる事ではないぞ!」

 豪月がフォローしてくれる。お前はやっぱり良い奴だ。

「話がまとまったね。じゃいこっか、さん、。それに天野あまのくん」

 この銀髪忍め。
 やっぱりあの華歩ちゃん・夢里ちゃん呼びは挑発してるだけだったか。なにが小日和さん、星空さんだ。この野郎、食えない奴だな。

「分かるぞ、兄弟」

 後方で一人頷く豪月。

 こうしておれたちは、この五人のパーティーでダンジョンへとおもむいた。







 翔、華歩、夢里、豪月。凪風での五人パーティーを組んだ日から早二週間。それぞれ模擬戦等の用事もあるため、五人で集まるのは今日で三回目だ。
 ここは“東京ダンジョン”第13層。

≪レベルアップしました≫

「お、俺のレベルが上がったか」
「僕もだね」

 一帯の魔物を狩り尽くし、豪月と凪風のレベルが同時に上がったようだ。

「ちぇー、今日はお前ら二人かよ。おれももうちょいだと思うんだけどな」

「まあまあ、翔。明日また狩りにくれば良いからさ」

前回は華歩のレベルが上がったが、今日は豪月と凪風の日だったようだ。

「ま、確認のためにも一度戻るか」




 ダンジョン街、行きつけののカフェで翔たちは今日の成果を見る。

「でねー、その後にさー……」
「ふふっ、夢里ちゃんらしいね」

 女子二人がキャッキャウフフしてる隣のテーブルで、翔は豪月と凪風と同じテーブルで腰かけている。

「どうだった? 二人とも」

「僕の方はまあ、ボチボチだね」

「俺は結構上がったぞ。はっはっは」

 翔は二人と<ステータス>共有はしておらず、二人が各々で上昇値を確認している。
 

<ステータス>
豪月ごうつき とう

職業ジョブ “拳闘士”
アビリティ:拳の攻撃範囲拡大、物体を破壊しやすい

レベル:16

HP :510/510 (↑30)
MP :9  /9
筋力 :99      (↑7)
敏捷力:45
耐久力:70      (↑6)
運  :7
魔力 :2



<ステータス>
凪風なぎかぜ つばさ

職業ジョブしのび
アビリティ:敵が近くにいる時、自身の移動速度・攻撃速度・運パラメータが上昇

レベル:17

HP :323/323 
MP :41 /41
筋力 :45      (↑2)
敏捷力:108     (↑6)
耐久力:25
運  :77      (↑6)
魔力 :13


 
「終わったー?」

 華歩との歓談が終わり、夢里が翔サイドに尋ねる。

「ええ、もう確認出来ましたよ」

「これで翔には勝てるな! はっはっは!」

 豪月は偉そうに語る。

「豪月、お前またおれとやってこれ以上黒星ついて大丈夫なのか?」

「何を言っている。勝つから大丈夫だ」

(こいつ、バカなのか頭が良いのかまじで分からねえ)

 この二週間、五人は放課後に“東京ダンジョン”に潜るだけでなく、各々が模擬戦もこなしていた。Aクラスでも特に目立っている彼ら彼女らは、模擬戦の予約がびっしりだ。

 もちろん学校側が配慮し、模擬戦を調整はするものの、人気者にはそれ以上に申請が殺到する。
 その中でなぜか豪月は翔に執拗しつように対戦申請をし、この二週間ですでに三戦も行っている。結果は翔の三戦三勝だ。

 豪月はすでに翔によって四つの黒星が付いているわけだが、豪月はその分Bクラス・Cクラスの連中に勝っているため、今のところクラス降格の心配はない。

「それにしても、夢里と華歩もよく一対一で勝つよなあ」

「かーくんが色々<スキル>を教えてくれたおかげだよ」

「それに中・後衛職相手にはちゃんとルールも設定されてるからね」

 翔の言う通り、華歩と夢里も一対一の模擬戦を受けているが、翔たちとの授業以来、彼女たちに未だ負けなしだ。
 Bクラス・Cクラスの前衛職はAクラスの中・後衛職との模擬戦を積極的に申請してくるが、あらかじめ距離を取るというルール設定もあり、彼女たちはそれらを全て返り討ちにしている。

 ルールありきではあるが、これは彼女たちの実力があってこそだと言えるだろう。
 我ながら思う、やはりAクラスは伊達じゃない。

「今日はこんなとこかな。明日も朝から模擬戦があるんだ、僕は寮に帰るよ」

「俺もだな。ではお前たち、また明日」

 豪月と凪風はダンジョンと学校間を走る直行バス乗り場へと向かい、三人もそれぞれ帰路にく。







 次の日、朝。授業が始まる前の担任からのお知らせ。 

「よーしお前ら、全員揃ってるな。じゃ、来週に迫ったの説明するぞー」

 合同訓練。それは毎年一年生が受ける最初のイベントだ。
 内容は、「一年生と三年生が合同でダンジョンへ潜る」というもの。キャリアが二年長く、世代でもトップの実力者が集まる三年生から教えもらえる貴重な機会だ。

「では早速メンバーを発表していく。これはここ二週間の成績等を見て決められたものだ」

 クラス中に緊張が走る。三年生は彼らにとって憧れの一つであるからだ。そしてそれは翔も例外ではない。

「第一パーティー、天野 翔、小日和 華歩、星空 夢里。そして三年生、パーティーリーダーは清流せいりゅう れい

(清流 麗! あの人と!)

 翔は心の中でガッツポーズをした。

 この時はまだ知る由もないが、これがのちに翔にとっての一つの転換点となるのだった。
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