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第1章 参戦編
第1話 勇者参戦
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「ふう、今日もかなり倒せたな。徐々におれの<スキル>に<ステータス>が追いついてきてるけど……あの頃に比べればまだまだかな」
不思議な空間の中で居座る、たった一人の少年。彼の背後に転がっているのはおびただしいほどの魔物の数々。なお、それらはすでに動くことはない。もう少し時間が経てば“ダンジョン”へと取り込まれ、跡形もなく消えるだろう。
★
“ダンジョン”。後にそう呼ばれるようになる謎の巨大建造物が、世界各国で同時に出現して早二十年。世界中で「ダンジョン産業」といわれる産業が急成長を続けていた。
ダンジョンからは未知の鉱石や産物、現代では創ることの出来ない武器や防具など、実に様々で魅力的なあらゆるものが溢れ出てきた。だがその中でも、特に人々を魅了してやまないのが『魔法』だ。
『魔法』の存在が初めて確認されたのは日本のダンジョンだった。ある一行が世界で初めて第5層へ進んだ時に見つけた書物。それを手に取ったことで、その者は手から火の球を出した。
それ以降、世界中でダンジョンの研究と探索が進む中で多くの『魔法』が見つかる。ある者は周囲を凍らせ、またある者は電撃を操る。人々が長らく夢見ていたファンタジーの世界が、まさに現実へと成った瞬間であった。
そして、物語はある少年がダンジョンに関わる事でさらに加速していく。
★
「またダンジョン、ダンジョンって。その話題飽きないねー、まったく」
中学三年生の夏。周りの多くは部活動最後の大会を終え、やっと解放されたと遊び呆けている者もいれば、受験だと気合を入れて勉強を始めている者もいる。高校受験が待っているからだ。
だが将来的に圧倒的多数はやはり、「探索者」志望だろう。
「探索者」。それは文字通りダンジョンを探索し、ダンジョンからありとあらゆる未知の物を持ち帰る事を生業とする者たちのことだ。
現代において、ダンジョンから発掘される物にはとんでもない価値が付く物も多くある。もう命すら惜しくないとダンジョン潜った人が、ダンジョンから持ち帰った未知の発掘物に数億・数十億の価値が付き、一気に逆転人生なんてのは何度も聞いた話だ。
だけど、そんな話を聞く度におれは耳を塞いできた。
おれには関係がなかったからだ。
「探索者」には適性がある。適性がある者には「職業」が付与されるのだ。
誰でも覚えることの出来る<ステータス>という<スキル>を覚えればいつでも確認できるらしいのだが、小学生の頃、おれは今では世界に一割ほどしか存在しない「無職業」と診断されて以降、初歩中の初歩の<スキル>である<ステータス>さえ覚えようとしなかった。
それからは不貞腐れ、どうせ今の花形であるダンジョン産業には就けないと考えてからというものの、今までろくに勉強もせず、何かに打ち込むでもなく、ただダラダラと過ごしてきた。
昨日までは。
というよりむしろ、ダンジョンについて話す者についても
「今ならその気持ちがよく分かる」
おれは昨日、日付で言えば8月1日。突如異世界転移をした。
謎の光に包まれ、気が付けばそこは夢にまで見た世界。おれが思い描いていた通りの剣と魔法の世界。おれだって幼い頃は当たり前に『魔法』に憧れていたんだ。
勇者として召喚されたおれは今までの自分を見つめ直し、十年という歳月の末、魔王討伐という使命を全うした。
もちろんたくさんの出会った人や、思い出があった。だが、勇者の使命を成し遂げたおれは、それ以上異世界に留まることがかなわなかったそうだ。別れを惜しみながらも現代へと戻って来たおれは、同じ日付、転移した頃のままの姿だった。
そして、現代に帰還したおれはある違和感に気付く。
酷似しているのだ。
たまたま目に入ってしまったダンジョンの情報が。そこでまさかと思いネットで調べたところ、そこに住まう魔物、未知の発掘物の数々……ついには『魔法』までもが。
似ているどうこうの話じゃない、おれが異世界で見てきたもの、そのものなのだ。
異世界で全く気付かなかったわけではない。この事について疑ったこともあったが、ダンジョンについて悉く目を瞑り、耳を塞いできたおれが、異世界にいては確信へ至る術がなかったのだ。
それに気付いたおれは困惑もあれど、ポジティブに考えた。
長い年月の努力の上に魔王を討伐した経験が、おれを強くさせたのかもしれない。
おれはダンジョンについて誰も至ったことのない場所の事まで知っている。
『魔法』や<スキル>についても同様。
おれは異世界において五十を超える『魔法』、百を超える<スキル>を習得した。『魔法』が一つ見つかるごとに世界中でニュースになるこの現代を差し置いて、だ。
これならばおれもダンジョンへ挑む事が出来る。「無職業」だと笑った奴らを見返す事が出来る。どうせお前はダンジョンへは行けないと、ダンジョンについて何も知らないくせに理不尽に罵った奴らに現実を教えてやる。
ダンジョンのせいで散々惨めな思いをしてきたおれは、ダンジョンで成り上がる。
おれは勇者だ。
不思議な空間の中で居座る、たった一人の少年。彼の背後に転がっているのはおびただしいほどの魔物の数々。なお、それらはすでに動くことはない。もう少し時間が経てば“ダンジョン”へと取り込まれ、跡形もなく消えるだろう。
★
“ダンジョン”。後にそう呼ばれるようになる謎の巨大建造物が、世界各国で同時に出現して早二十年。世界中で「ダンジョン産業」といわれる産業が急成長を続けていた。
ダンジョンからは未知の鉱石や産物、現代では創ることの出来ない武器や防具など、実に様々で魅力的なあらゆるものが溢れ出てきた。だがその中でも、特に人々を魅了してやまないのが『魔法』だ。
『魔法』の存在が初めて確認されたのは日本のダンジョンだった。ある一行が世界で初めて第5層へ進んだ時に見つけた書物。それを手に取ったことで、その者は手から火の球を出した。
それ以降、世界中でダンジョンの研究と探索が進む中で多くの『魔法』が見つかる。ある者は周囲を凍らせ、またある者は電撃を操る。人々が長らく夢見ていたファンタジーの世界が、まさに現実へと成った瞬間であった。
そして、物語はある少年がダンジョンに関わる事でさらに加速していく。
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「またダンジョン、ダンジョンって。その話題飽きないねー、まったく」
中学三年生の夏。周りの多くは部活動最後の大会を終え、やっと解放されたと遊び呆けている者もいれば、受験だと気合を入れて勉強を始めている者もいる。高校受験が待っているからだ。
だが将来的に圧倒的多数はやはり、「探索者」志望だろう。
「探索者」。それは文字通りダンジョンを探索し、ダンジョンからありとあらゆる未知の物を持ち帰る事を生業とする者たちのことだ。
現代において、ダンジョンから発掘される物にはとんでもない価値が付く物も多くある。もう命すら惜しくないとダンジョン潜った人が、ダンジョンから持ち帰った未知の発掘物に数億・数十億の価値が付き、一気に逆転人生なんてのは何度も聞いた話だ。
だけど、そんな話を聞く度におれは耳を塞いできた。
おれには関係がなかったからだ。
「探索者」には適性がある。適性がある者には「職業」が付与されるのだ。
誰でも覚えることの出来る<ステータス>という<スキル>を覚えればいつでも確認できるらしいのだが、小学生の頃、おれは今では世界に一割ほどしか存在しない「無職業」と診断されて以降、初歩中の初歩の<スキル>である<ステータス>さえ覚えようとしなかった。
それからは不貞腐れ、どうせ今の花形であるダンジョン産業には就けないと考えてからというものの、今までろくに勉強もせず、何かに打ち込むでもなく、ただダラダラと過ごしてきた。
昨日までは。
というよりむしろ、ダンジョンについて話す者についても
「今ならその気持ちがよく分かる」
おれは昨日、日付で言えば8月1日。突如異世界転移をした。
謎の光に包まれ、気が付けばそこは夢にまで見た世界。おれが思い描いていた通りの剣と魔法の世界。おれだって幼い頃は当たり前に『魔法』に憧れていたんだ。
勇者として召喚されたおれは今までの自分を見つめ直し、十年という歳月の末、魔王討伐という使命を全うした。
もちろんたくさんの出会った人や、思い出があった。だが、勇者の使命を成し遂げたおれは、それ以上異世界に留まることがかなわなかったそうだ。別れを惜しみながらも現代へと戻って来たおれは、同じ日付、転移した頃のままの姿だった。
そして、現代に帰還したおれはある違和感に気付く。
酷似しているのだ。
たまたま目に入ってしまったダンジョンの情報が。そこでまさかと思いネットで調べたところ、そこに住まう魔物、未知の発掘物の数々……ついには『魔法』までもが。
似ているどうこうの話じゃない、おれが異世界で見てきたもの、そのものなのだ。
異世界で全く気付かなかったわけではない。この事について疑ったこともあったが、ダンジョンについて悉く目を瞑り、耳を塞いできたおれが、異世界にいては確信へ至る術がなかったのだ。
それに気付いたおれは困惑もあれど、ポジティブに考えた。
長い年月の努力の上に魔王を討伐した経験が、おれを強くさせたのかもしれない。
おれはダンジョンについて誰も至ったことのない場所の事まで知っている。
『魔法』や<スキル>についても同様。
おれは異世界において五十を超える『魔法』、百を超える<スキル>を習得した。『魔法』が一つ見つかるごとに世界中でニュースになるこの現代を差し置いて、だ。
これならばおれもダンジョンへ挑む事が出来る。「無職業」だと笑った奴らを見返す事が出来る。どうせお前はダンジョンへは行けないと、ダンジョンについて何も知らないくせに理不尽に罵った奴らに現実を教えてやる。
ダンジョンのせいで散々惨めな思いをしてきたおれは、ダンジョンで成り上がる。
おれは勇者だ。
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