ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航

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第40話 頂上の扉

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 《ここだ》

 一日休息を取ったエアル達は、フェニックスのおさから里の最奥へと案内されていた。

《ここから先のダンジョンへ進むことが出来る》
「うわあ、すごい……!」

 エアルの声と同時に、一行は思わず視線を上げる。
 彼らに前にそびえ立つのは──“巨大な扉”だ。

「おっきい~!」
「なんなのこれ……」
「ワタシも見た事ないわ……」

 里の雰囲気に合わず、おごそかなたたずまいをしたそれは、まさに異質な存在。
 ならばやはり、子どものエアルはすぐに興味を持った。

「ん、開かないなー!」
「エアルが……?」

 しかし、扉はエアルの馬鹿力でも開きそうにない。
 力で開くというよりは、何か“トリガー”が必要そうに思える。

「長さん、これは一体?」
《ふっ、すぐにわかる》

 だがリザの質問には、長はただ笑みを浮かべるのみ。
 そんな回答は自然と出された。

「わふ」
「ぼぉ」

 ラフィとフレイが扉へ歩き出したのだ。
 エアル達は何も指示していないが、二匹が何かを自覚したようにも見える。

「ラフィ、フレイ?」
「「……」」

 エアルが話しかけるも、二匹は反応せず。

 なんとなく空気を読んでエアルが扉から離れると、辺りが少し暗くなったように感じる。
 それと共に、二匹は体からを出し始めた。

「なんだこれ!」
「何が起きてるの……?」
「さあ……」

 訳が分からないまま、エアル達は二匹を見守る。
 辺りが暗くなったことも相まり、二匹が出す光は一際ひときわ目をく。
 エクスカリバーとはまた違い、落ち着いた雰囲気の神々しい光のようだ。

 そうして、光が集まり、段々と大きくなってきた頃。
 二匹は同時に遠吠えを上げる。

「わふーーーーーー!」
「ぼぉーーーーーー!」

 その瞬間、あふれだした光は集合体となり、大きな手を形作った。
 そしてそのまま、そっと扉を押す。
 すると、エアルの力ですら開かなかった扉が、ゆっくりと奥へと開いた。

「「「……ッ!」」」

 そんな現象を目の前に、エアル達はただ驚くしかない。
 今まで目にしてきたものとは一線を画す、超常的なものを感じたのだ。
 
 そこで、ようやく長が現象の正体を教えてくれる。

《これは──“頂上の扉”という》
「“頂上の扉”……?」

 答えを出されるも、リザは首をかしげるのみ。
 情報通の彼女ですら知らないものだったようだ。

《そうだ。これは人が“頂上種”と呼ぶ四種類が起こす、『共鳴』によってのみ開かれる扉だ》

 ──『共鳴』。
 たった今、ラフィとフレイが起こした不思議な現象のことだ。
 エアル達の前にある巨大な扉は、ラビリンスにいくつか存在する。
 それは力では決して開かず、“頂上種”が集まった時に起こせる『共鳴』によってのみ開かれるのだ。

「じゃあ、ラフィがフレイとすぐに仲良くなったのも……」
《うむ。“頂上種”同士、出会った時から自然と惹かれ合っていたのだろう》

 それから長は、最も大切なことを話し始める。

《ラビリンスには、このような扉が五つ存在する》
「五つ?」
《うむ。四つはそれぞれ“頂上種”が住まう場所だ》

 “頂上の扉”はフェニックスの里だけではない。
 それぞれ“頂上種”の住処に置かれているという。
 だが、それでは一つ足りない。

「まさか……!」

 しかし、勘の良いリザは思いつく。
 彼女にうなずきながら、長は口を開いた。

《そうだ。最後の一つは、最下層・・・にある》
「……! ちょっ、ちょっと待って!」

 リザはここまでの話を今一度整理した。

 “頂上の扉”は、全部で五つ。
 その恩恵は、ラビリンスの大幅なショートカットだ。

 普通は螺旋らせん階段のように、たくさんのダンジョンが蛇行しながら、ラビリンスの下へとつながっている。
 だが、頂上種の住処すみかには、階段を直下する“頂上の扉”が建っているのだ。

 “頂上種”が極端に見つかりにくかったのも、これで移動していたからである。
 そんな扉を開くためには、『共鳴』が必要というわけだ。
 
 そして、“頂上の扉”は最下層にもあるという。

《だが最下層の扉は、四つの“頂上種”全ての『共鳴』が必須だ》
「……っ!」
《その先に何があるかは、自ら見てくるが良い》

 途方もない話だ。
 情報通とはいえ、いち探索者に過ぎないリザには知りもしない出来事だった。
 
 だが、嬉しいこともある。

「本当に最下層は存在するんだね!」
「……! ええ、そうね」

 噂とも都市伝説とも評される最下層は、たしかに存在した。
 さらに、たどり着くこともいよいよ現実味を帯びてきたのだ。

 エアル達は、ぺこりと頭を下げる。

「色々とありがとう!」
《よい。昔の約束を代わりに果たしてくれたのだ。これぐらいは当然であろう》

 そうしてエアルが次に目を向けたのは──リザ。

「リザもね」
「え、私?」

 エアルにはずっと言いたい事があったようだ。

「リザがいなかったら、こうはならなかった」
「!」
「これはリザにしかできなかったよ」
「……!」

 そんな言葉に、リザはとある事を想起する。
 ここへ来る前、野良の探索者達が話していたことだ。

『街を救った少年に、攻略組のレリア。すげえパーティーだな』
『でもあと一人、変な女がくっついているらしい』
『ったく、女は良いよなあ』

 リザ自身忘れてはいたが、心のどこかで気にしていたのかもしれない。
 だが、それをエアルは訂正してくれた。

「だから、ありがとう!」
「……ええ!」

 そんな様子を長は優しき目で見つめていた。

《善き者たちよ》

 そして、いよいよ彼らは次の一歩を踏み出す。
 滞在はほんの少しの間だったが、エアル達・フェニックス達は、互いに色々なものを得ることが出来たと言えるだろう。 
 
 そんな中で、最後に収穫一つ。

《……!》

 エアル達が扉へ入ってくのを、長は眺めていた。
 そこでエアルの後ろ姿に、とある人物・・・・・の面影を見つけたのだ。
 それは昔、自分の体に傷をつけた存在のこと。

(そういうことであったか……)

 わざわざエアルに伝えはしないが、長の中で確かにつながったのだ。
 また、それと共に確信した。
 あの老兵・・・・の血筋ならば、エアルもきっと最下層へ辿り着くだろうと。

「またね! 長さん、みんなも!」
《うむ》
「「「ボオオオオォッ!」」」

 手を広げ、エアル達は次なるダンジョンへ歩み出す。
 彼らが目指すのは最下層、そして残り二種類の“頂上種”だ──。
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