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第37話 不思議な魅力

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 《我が未熟であった。数々の非礼を詫びたい》 

 フラフラっと地上へ降り立った大きなフェニックスは、エアルへ頭を下げた。
 謝罪の気持ちからか、燃え盛っていた炎もすっかり収めている。

「ううん、分かってくれたならいいんだ。それにしても……」
《む?》
「やっぱりそんなに大きくないんだね」
《……!》

 炎がない姿は、小鳥のフレイより少し大きいぐらいの体長だったのだ。
 その可愛らしいサイズ感に、エアルは思わずふふっと笑ってしまう。
 それを見ていれば、怒る気にもなれなかった。

「それに、何か事情があったんだよね」
《わかるのか》
「なんとなくだけどね。フェニックスさんの怒りは、親の心配に似てるなあって思ったんだ」
《……ふっ、本当に感情を読み解くとは》

 これもエアルの『野生』によるものだろう。
 少し驚きつつも、大きなフェニックスは一息ついて話を始めた。

《我はこの里のおさだ。長は同種をまとめ、同種の行く末を見守る義務がある》
「そうだね」
《だからこそ心配であったのだ。そこにおる、人を知らぬ・・・・・同種がな》
「ぼぉっ!?」

 大きなフェニックスに視線を向けられ、フレイはびくっと反応を見せた。
 時々垣間見られる関係から、フレイは可愛がられると同時に、心配される存在だったのだろう。
 そのことにも顔を緩ませながら、エアルは耳を傾け続ける。
 
《お主の前で言いたくはないが、人はみにくい。他人を利用し、自らのことのみを考える》
「……うん」
《こやつは優しいばかりにだまされやすい。我はお主を疑ってしまったのだ。しかし──》

 次に大きなフェニックスが視線を移したのは、エアル達。
 だが、のぞかせていたのは優しき“長”の目だ。

《お主は違った。こやつと同じ優しき心を持ち、人らしからぬ行動を取ることができる》
「……!」
《我はお主を認めよう》

 そう言うと、エアルの前にちょこんとした薄黄色の手が差し出された。
 炎をまとっていないひ弱な姿をさらすのは、エアル達を心から信頼している証拠だ。
 もちろん、エアルは笑顔で応えた。

「もうおそってこないでよね!」
《うむ。約束しよう》
「ありがとう。でもね──」

 だが、エアルは言いたい事があるように、後方へ手を向けた。

「人それぞれなのは分かるけど、僕の仲間みんなは良い人ばかりなんだよ!」
《……ふっ、そのようだな》

 その先に見えたのは、フレイと共にこちらに向かって来るエアルの仲間たちだ。
 リザ・レリアに加え、同じく“頂上種”のラフィまで。
 長である大きなフェニックスからしても、信じがたいパーティーだろう。

《それと、なのだが……》
「ん?」

 だが、ここで一つだけ。
 大きなフェニックスは、どうしてもエアルにたずねたいことがあった。

《お主は水系の魔法を持っていたのか?》
「え、うん」
《なぜ我との戦闘で使わなかった》

 エアルが先ほど見せた【恵みの雨グレイス・シャワー】。
 あれほどの水をもたらす魔法であれば、大きなフェニックスに対しても効果的だっただろう。
 しかし、それも理解しているであろうエアルは、使う素振りすら見せなかった。
 
 対してエアルは、ニッと笑って答える。

「だって、正々堂々勝負した方が気持ち良いから!」
《せ、正々堂々とは……》

 【恵みの雨グレイス・シャワー】は、エアルが入手し会得した魔法だ。
 ならば、それを使ったからといって別に卑怯にはならないだろう。
 だが、やはりエアルの未熟な精神のせいか、相手の得意分野で戦わなければいけないらしい。

 それを示すように、今度はエアルから口を開く。

「さっきの勝負は一勝一敗だったね」
《何の話だ?》
「炎の戦いは負けたけど、空中戦は僕の勝ちでいいかな?」
《……!》

 “頂上種”フェニックスに対しても、エアルは“相手の土俵”で戦うというポリシーを貫き通す。
 もはや狂気にすら感じるこのスタイルには、フェニックスも笑うしかない。

(この者、一体どこまで……)

 子どもじみた精神と、規格外すぎる力。
 その相反あいはんするようで絶妙にマッチした特性が、エアルという人外の存在を形作っている。
 そんな不思議な魅力には、“頂上種”フェニックスですら感心せざるを得なかった。

《変わっておるな》
「あはは、よく言われるかも」

 フェニックスの長とエアルは、熱い握手を交わす。
 こうして、唐突に訪れた危機を乗り越えたエアルであった。
 
 そして、長はバサっと両翼を前方へ向けた。

《では仲間と共に我についてくるがよい》
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