ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航

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第35話 変わる風向き

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 「どんどんいくよ!」

 “頂上種”フェニックスとの戦闘でさえ、エアルは笑顔を絶やさない。
 その表情は、故郷を思い出しているかのようだ。
 エアルにとっては、久しぶりに本気で戦える相手なのだろう。

 そして、風向きが徐々に変わり始める。

「ほっ! はっ! とりゃあっ!」
《……!》

 刹那せつなにいくつも繰り出した、エアルの剣技。
 その一つが、とうとうフェニックスをとらえたのだ。

「よし!」

 だが、当たったのは炎の翼の部分。
 自身の体ではなく、炎で形作っている翼に当たってもダメージはない。
 それでも、あのフェニックスがエアルに対してぞっとしたものを感じたのは事実だ。

(こやつ……!)

 エアルは無尽蔵の体力により、絶え間なく仕掛け続けて来る。
 しかも一振りごとに、着実に距離を縮めてくるのだ。
 その様子が、“頂上種”フェニックスに恐れを抱かせる。

 そして──

「うおおおお!」
《甘い!》
「いや?」
《!?》

 かわしたと思ったエアルの剣が、伸びてきた・・・・・のだ。
 エアルは一瞬だけ体力を吸わせることで、エクスカリバーの真骨頂である“伸びる光の刀身”を利用した。
 最初から伸ばしていなかったのは、この時までの布石だろう。

《我に傷をつけるとは……久しいぞ》
「へへっ!」 
 
 ようやく良い感触が入って喜ぶエアルだが、後方のリザは首をかしげた。
 
(久しい……?)

 言葉が少し気になったようだ。
 だが、すぐに視線を戻す。
 ほんの少しでもやり取りを見逃せば、すぐに戦況は変わっているからだ。

「てい! やあっ!」
『こやつ……!』

 そんな思考の通り、少しずつエアルが優勢となっていく。
 刀身の伸び縮みを駆使しながら、あのフェニックスを揺さぶっているのだ。
 また、とあることに気づいたレリアは先程の考察を訂正する。

「ワタシが間違っていた……」
「レリア?」
「あれがエアル君の剣技なのね」

 剣に関して師匠がいなかったエアルは、型が存在しない。
 だが、故郷で培われた『野生』を基に、動体視力・予測能力は誰よりも優れている。

「そこだ!」
『なっ……!』

 動き自体は不格好でも、魔物が移動する場所に剣が先に置いてある・・・・・・・・・のだ。
 その上、相手からすれば、型がないことがかえって予測不能な動きを実現している。
 
 つまり、エアルは相手を予測できるが、相手はエアルを予測できない。
 まさに彼自身が勝手に作り上げた“エアル流剣術”だ。
 そこにエクスカリバーの伸び縮みも加われば、かわすことはもはや“不可能”。

「おおおおおおッ!」
《……ぐぅっ!》

 そうして、エアルのエクスカリバーは、大きなフェニックスの本体に傷をつけた。

 これは終わりの合図。
 エアルが“見切った”と言っているのと同義だ。

「次はないよ」
《……っ!》

 エアルは真っ直ぐにエクスカリバーを向ける。
 今は短いはずのその刀身が、大きなフェニックスにはとてつもなく大きく見えたのだ。
 だが、大きなフェニックスにも意地がある。

《ダメだ》
「……!」
《ここをバラされるわけには、いかんのだ……!》

 エアルから受けた攻撃をさらに自らの炎へと変え、より激しく炎を燃え上がらせた。
 その影響はエアルの後方にも及ぶ。

「きゃあああ!」
「うぐっ……!」
「わふううう!」
「ぼ、ぼぉぉ!」

 炎系の攻撃だったため、フレイはギリギリ耐える。
 ──しかし、フェニックスの後方にも影響が出てしまった。

「ああっ!」
《なっ、しまった……!》

 高すぎる火力が、少し離れた綺麗な平原に炎を燃え移らせてしまった。
 大きなフェニックスも配慮はしていたはずが、エアルに追い詰められて冷静さを失っていたのだ。

《まずい、このままでは……!》

 ここはフェニックスの里。
 明らかに上の方に位置する大きなフェニックスにとっても、大切な場所のはずだ。
 だが、彼らフェニックスには鎮火する手段などない。

 だからこそ、エアルが走った。

「待ってて!」
《な、なにをする気なのだ!?》
「なんとかしてみせるよ、多分!」

 バッと手を上げ、エアルは駆け抜けていく。
 また後方では、リザがその言葉を聞いてふっと口元をゆるめていた。

「多分、ね」




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