ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航

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第28話 お友達

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 「わふ、わふ!」
「ぼぉっ!」

 軽快に歩くラフィの上に、出会った小鳥が乗りながら、二匹は鼻歌を歌っている。
 出会ったばかりだが、すでに仲良しになっているようだ。

 その様子を、エアルは後ろから満面の笑みで眺めている。

「かわいい……」
 
 エアル自身もまだまだ精神的には子どもだが、まるで我が子を見つめるような表情だ。

 親フェンリルから受け継ぎ、自分が育てると決めたラフィ。
 そんなラフィに初めての友達ができて嬉しいのだろう。
 また、隣のレリアも同じく。

「こういうのも……悪くないわね」

 浮かべているのは、いつもの不敵な笑み。
 だが、どこか口角が上がっており、少々だらしなくも見える。
 彼女らしからぬゆるんだ表情と言えるだろう。

「レリアも、もふもふが好きなんだね!」
「ま、まあ、嫌いってわけでは……」

 エアル達と交わり始めてからは、たまに見るようになった表情である。
 他の攻略組が今の彼女を見れば、驚くのは容易に想像が出来てしまう。

 そうして、エアルはラフィに声をかける。

「よかったねラフィ、お友達の『フレイ』ができて!」
「わふ!」

 小鳥には『フレイ』と名付けたようだ。
 火のダンジョンで見つけたので、炎(フレイム)から取ってフレイ。
 単純な名前だが、とてもしっくりきていた。

「ぼぉっ!」

 その証拠に、フレイも嬉しげに両翼をバサっと上げる。
 フレイ自身、名前を気に入ってくれたのかもしれない。

 そんな一行に、後方から声がかかる。

「エアルー、そこを右よー」
「はーい」

 道案内のリザの声だ。
 引き続きエアル達から少し距離を取っているらしい。
 原因は……他ならぬフレイである。

「ぼぉっ!」
「うっ!」

 リザの声にフレイが返事をすると、彼女はビクっとした反応を見せる。
 フレイはすでに一行に馴染なじみつつあるが、リザだけはまだこの調子だ。
 気持ちを整えはしたものの、トラウマというのは簡単になくなるわけではないのだろう。

「あははは……」

 これには、エアルも苦笑いをするしかない。
 魔物であればバッタバッタとなぎ倒すエアルだが、人との関わりはただのド田舎の少年だ。
 どうするべきかが分からないのだろう。

 ならばと、ちょうど思い出したツヴァイで話していた内容を口に出す。

「そういえば、ラフィももっと戦わせた方がいいよねー?」
「……! それもそうね」

 距離相応の大きめの声で、エアルとリザは話す。

「ここはじっくり探索したいし、良い機会かもしれないわね」
「わかった!」

 リザの答えにうなずき、エアルはそのまま声をかけた。

「ラフィ、次の戦闘は一人でやってみる?」
「わふ! わふわふっ!」
「うん、その意気だ!」

 ラフィはうんうん! と勢いよく首を縦に振った。

 まだ子どもとはいえ、ラフィはあの“頂上種”フェンリルだ。
 ただ「よしよし」と可愛がるだけでは、うまく育たないだろう。
 そんな考えから、これから適度に戦わせていこうと話していたのだった。

 そうしてしばらく、エアル達の前に魔物が現れる。

「「「グルルルルル……」」」

 現れたのは、複数体の『ファイアタイガー』だ。
 火を体にまとい、鋭い牙でみつくトラである。
 魔物ランクは“C”。

 ランクは高くないが、油断してはならない。
 一体一体はそれほど強くないにしても、彼らは集団戦が上手い。

「ラフィ、やれる?」
「わふっ!」

 エアルはラフィに寄り添って声を掛ける。
 そして、その元気な返事を信頼した。

「よし! いけ、ラフィ!」
「わふー!」

 可愛げな返事とは裏腹に、その場から消えるようにり出したラフィ。
 
「「「グルッ!?」」」
「わふ」

 次の瞬間には、集団の真ん中に飛び込んでいた。
 その気高きたたずまいからは、「どこからでもかかってこい」という意思を感じる。
 まさに“頂上種”を思わせる横綱よこづな相撲ずもうだ。

「「「「グルァァァァ!」」」

 対して、ファイアタイガー達は一斉におそいかかる。
 その態度が挑発のように感じたのだろう。
 
 だが、

「──わふ」
「「「グルゥ……」」」
 
 勝負は一瞬で決した。

 おそいかかったはずのファイアタイガー達が、腹を見せて寝転がったのだ。
 おまけに目はぐるぐると回っており、失神しているようだ。

「……!?」

 そんな戦闘に、リザは思わず目を見開く。
 あまりに早すぎる攻撃を目に留めるできなかったようだ。
 それでもエアルだけは、ラフィに駆け寄った。

「すごいじゃないかラフィ! 今の“ひっかき”!」
「わふ~!」

 エアルにはしっかりと見えていたのだ。
 また、レリアも完全とまではいかずとも、少しは動きをとらえていたようである。

「恐ろしいわね……“頂上種”」

 だが、エアルはくるりと振り返る。
 
「でも、次はどうかな」
「……わふ」

 ラフィも再び顔を引き締めて、同じ方向に顔を向ける。
 エアルに少し遅れて察知したのだろう。
 ファイアタイガー達のかたきを取るように、ゆっくりと近づいてくる魔物の気配に。

「グルゥ……」

 ファイアタイガー達とどこか似た雰囲気は持ちつつも、体躯たいくがまるで違う。
 エアルとラフィが見上げるほど大きく、まとう気配は明らかに“強者”だ。

「グルオオオオオオォォ……!!」

 その姿に、リザが声を上げる。

「Bランクの『ファイアキマイラ』! ダンジョンの中ボス的存在よ……!」
「だってさ、ラフィ」

 リザの言葉を聞き、エアルは再びラフィに手を乗せる。

「やれる?」
「わふ!」
 
 変わらずラフィは元気な返事をした。
 その声は可愛げを残しつつも、どこかかっこよさが混じっているように聞こえる。
 ならばと、エアルも見守る態勢に入った。

「よーし、行ってこい!」
「わふ!」
 
 今までにない凛々りりしい表情で、ラフィは中ボス『ファイアキマイラ』に向き直った。
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