ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航

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第3話 ありえない話の数々

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<三人称視点>

「じゃあ一応、一から説明するわね」
「お願いします」

 カフェに入り、早速リザは丁寧に説明を始めた。

 改めて、ここは『セントラル』。
 世界の中心に位置しており、大陸全土から探索者が集まる場所。
 まさに“探索者のための都市”だ。

「探索者の目的は一つ。ラビリンスよ」

 ──『ラビリンス』。
 ひとことで言えば、ダンジョンの総称である。

 この大都市セントラルの地下には、多くのダンジョンが連なって・・・・できている。
 その数は何十、何百、それ以上とまで言われている。
 そんな多くのダンジョンを、まとめて・・・・ラビリンスと呼んでいるのだ。

「ど、どうしてそんなすごいことに……?」
「さあ。何しろ最下層まで辿り着いた者がいないから」
「それもそっか」

 たくさんのダンジョンが存在するラビリンスは、下へと進むほど難易度が高くなる傾向がある。
 つまり、自分に適したダンジョンを選んで探索できるのだ。

 安定して金を稼ぎたければ同じ場所で、さらに金がほしければもっと下へ。
 ラビリンスは、そうした探索ができる世界で唯一の場所だ。

「そういえば……」

 エアルは、「探索者をやるならセントラルだ」と口酸っぱく言われてきた。
 その理由をここでようやく知る。
 
 だが、リザはさらに話を続けた。

「でもね、探索者が集まるのにはもう一つ理由があるの」
「もう一つ?」
「ええ。多くの探索者は、とある伝説・・・・・を信じているの」

 ニヤリとしたリザが、人差し指を立てて言い放つ。

「最下層に辿り着いたものは、“何でも願いが叶う”という伝説をね」
「……!」

 その瞬間、エアルの胸が脈を打つ。
 これが本当ならば、誰だって夢を見てしまう話だろう。

「だから、セントラルの探索者は大きく二つに分けられるわ」

 リザは話のまとめに入った。

「一つは実力に適した金を稼ぐ探索者。そしてもう一つは──」

 リザの口角が上がる。
 その表情から、エアルはなんとなく察した。
 彼女はそっち側なのだと。

「伝説を信じて、ひたすら最下層を目指す探索者」
「な、なるほど……」

 話を終えてなお、エアルの心臓はドキドキしている。
 思っていたよりもずっとすごい場所だったことに、興奮を覚えているようだ。

「ねえ」

 そうして、今度はリザの方からたずねてくる。

「悪気はないのだけど、どうして何も知らずにセントラルへ?」
「それは……おじいちゃんから話を聞いたんです」
「へえ。おじいちゃんも探索者だったんだ」
「そうです。色々話を聞かせてくれました」

 リザは優しい目で、話を聞く態勢になる。
 エアルが話したがっているのを感じ取ったのだろう。

 しかし──

「例えば、漆黒に包まれた森があるとかー」
「……え?」
 
 その言葉にリザは目を見開く。
 
「あの、リザさん?」
「……あ、ごめんなさい! 話を続けて」
「は、はあ」

 その様子に首を傾げるエアルだったが、そのまま話を進める。

「それと、砂漠にある湖の話とかー」
「……!?」
「あと、大きなライオンの上に立つ街とか」
「なんですって!?」

 だが、限界が来たのか、リザはついに体を乗り出す。

 その表情は真剣そのもの。
 それどころか、緊迫したようにも見える。

「それ、全部本当の話!?」
「本当ですが……」
「……っ」

 リザは下唇をかみながら、何やら考え込む。
 そうして結論が出たのか、再びエアルに視線を向けた。

「ねえエアル君。私は情報にはそれなりの自信を持ってる。だから、私とパーティーを組まない?」
「え、いいんですか!」

 エアルにとっては願ってもいない提案だ。
 当然、答えは一つ。

「ぜひ、お願いします!」
「……! 本当かしら!」
「はい、こちらこそ嬉しいです!」

 何度も『都会の洗礼』をくらったエアル。
 初めて出会った優しそうなリザにかれ、快く提案を受け入れる。

「じゃあ今からは同じパーティメンバーよ。敬語もさん付けもいらないわ」
「は、はい──いや、うん!」
「ふふっ。段々と慣れてね、エアル」

 リザに出された手を、エアルも握手で応える。
 こうして、初めてのパーティーメンバーを迎え、エアルの大都会セントラルの初日は過ぎた──。








<三人称視点>

 その夜、とある宿にて。

「……」

 暗い部屋の中、リザは一人で考え込んでいた。
 日中にエアル交わした会話についてである。

「そんなの、ありえないでしょ」

 宿を用意してあげたエアルとは、明日の朝出発する約束をした。
 今は体を休めるべき時だ。
 
 だが、リザは何やら難しい顔を浮かべている。

「『漆黒の森』に『ミラージュオアシス』、それに『マーの流星街』ですって……?」

 それは、エアルから聞いた話の数々。
 情報通の彼女には聞き覚えがあったようだ。

「そんなの攻略最前線・・・・・の話じゃない……」

 ラビリンスには、『攻略組』と呼ばれる者たちが存在する。
 常に最前線を切り開く“トップ探索者”のことだ。

 リザは、セントラルの探索者には二種類いると言った。

『安定して金を稼ぐ探索者』
『ひたすら最下層を目指す探索者』

 その内、攻略組は圧倒的後者・・

 攻略組は競って奥を目指し、競ってハードに進み続ける。
 自分の命すら惜しくない、イカれた連中だ。

 だが、だからこそおかしい・・・・・・・・・

「それを何年も前に聞いたですって……?」

 エアルは、幼少の頃におじいちゃんから話を聞いたという。

 しかしその話が、現在・・攻略組が挑んでいるダンジョンの話とあまりに似ていたのだ。
 もし本当ならば、今攻略組がいるダンジョンを、エアルのおじいちゃんは何年も前に突破していることになる。

「一体何者だって言うの……」

 正体不明のおじいちゃん。
 どこか違和感のあるエアル。

 リザは、二人に確かな異様さを感じていた。

「……田舎の村から来た少年、エアルね」

 そんな疑念を抱いたまま、リザはベッドに横になる。

 枕元に置いてあるのは、とある遺物。
 年季に入った“ペンダント”のようだ。

「これを辿るのに、彼は役に立つかしら」

 冷たいような、怖いような視線。
 それを隠すようにリザは眠りにつく。

 また、違う宿にいるエアルもウキウキしていることだろう。
 だが、彼らはまだ知るよしもない。


 

「グルルルルル……」

 彼らが進む先に、異常事態イレギュラーが待っているなんてことは──。
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