ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航

文字の大きさ
上 下
29 / 52

第29話 頂上種の片鱗

しおりを挟む
 「わふぅ……」

 普段は可愛いラフィだが、今はじっとした眼光で標的を見つめる。
 その様は小さいながらも“頂上種”の一角をになうにふさわしき姿だ。

 そんなラフィの相手は──

「グガゥッ!」

 中ボス『ファイアキマイラ』。
 ライオンのような顔を持ち、たてがみは炎が燃え盛っている。
 胴体からは常に青混じりの炎を出し続け、尻尾の先はへびという、迫力に満ちた強者である。
 魔物ランクは──B。

 それでも、ラフィは真っ直ぐに向き合ったまま。
 その姿を信頼して、エアルもラフィを送り出す。

「よーし、いってこい!」
「わふ!」
 
 Bランクという強者を相手に不安もあるが、「これも育てるため」とエアルは自分自身に言い聞かせる。
 また、その期待に応えるべく、ラフィも存分に気合を入れた。

「わふぅ……」
「グルゥ……」

 そうして、ラフィとファイアキマイラはじっと見合う。
 互いに相手の出方をうかがっているようだ。

「……」

 そんな様子をリザもはたから目をらしていて見ている。
 先ほどは何が起こったか分からない戦闘を、今度は見逃さないために。
 また、ラフィの今後の育て方についても検討するために。

 ここでラフィがしくじれば、同じランク以上の魔物をすぐには相手にさせられないだろう。
 まさに真価が問われる戦いだ。

 そして──ついに対決の火ぶたが切られた。

「グガァァッ!!」
「……!」

 先に動いたのはファイアキマイラだ。
 探り合いにしびれを切らし、一直線にラフィへと向かう。

「ふっ!」
「グガッ!?」

 それに反応したのか、ラフィはほぼ同時にその場を蹴り出す。
 かと思えば、一瞬にして姿を消した。

「え!?」
「おお!」

 これには、リザとエアルも目を見開く。
 “頂上種”フェンリルの最大の特徴である「速さ」。
 その神速をしっかりと受け継いだ、瞬間移動さながらの脚力きゃくりょくだ。

「──わふッ!」
「グガァッ!?」

 そして再び姿を見せたかと思えば、すでにファイアキマイラの背後に回っている。
 さらに、ファイアキマイラの腹の辺りがえぐれているのだ。
 
「な、何が起きたの!」
「さすがだなあ」
「え?」

 しかし、ここでの反応は別れる。
 驚きの声を上げたリザに対して、エアルは素直に感心した。

「エアル、今のが見えたの?」
「ラフィが胴体を切り裂いたんだよ。三回ね」
「……っ」

 ラフィの速さもさることながら、それを正確にとらえたエアルの動体視力にもまた度肝を抜かれる。
 また、レリアでさえも思わず笑みを見せた。

「三回ねえ」
「見えたよね」
「フフフッ。私には二回しか見えなかったわ」

 攻略組をも凌駕りょうがする、ラフィの速さとエアルの野生的な動体視力。
 
「……ふっ、まったく」
 
 リザも呆れ顔を浮かべるしかない。
 そんな中、ラフィとファイアキマイラの戦闘は続く。

「グガアアァッ!」

 一撃を入れられて怒ったのか、ファイアキマイラはラフィを追うように反撃に出る。
 鋭利なひっかきに、殺傷力の高い牙、尻尾の蛇から炎を吐き出すなど、進化した種族ならでは多種多様な連携攻撃だ。

「わふっ! ふわっ!」

 だが攻撃の先には、ことごとくラフィがいない。
 華麗かれいなる神速で完全に翻弄ほんろうしているようだ。

「いいぞー! その調子だ!」
「フフフッ」
「だから見えないわよっ!」

 動きをたたえるエアル。
 不敵に笑うレリア。
 ついていけないリザ。

 それぞれ反応は違えど、見守る側も盛り上がっている。

「グ、グガゥ……」

 やがて、ファイアキマイラに限界が訪れる。
 膝をつき、明らかに動きが鈍っているのだ。

「わふぅ」

 そして、ラフィが狙いを定めた。

 ぐっと力を入れたその足で──

「──ふっ!」
「グガッ……」

 懐に潜り込み、下からファイアキマイラを切り裂く。
 致命傷を与えられたファイアキマイラは、その場に伏した。

「わふ」

 そして、ラフィは天へと顔を上げた。

「くぉ~~~~~~~~~~~ん」
 
 まさに勝利の遠吠えだ。

 終始優勢のまま、上位に入るBランクという魔物に圧勝。
 子どもながら、その“頂上種”の強さをかんなく発揮したのだ。
 まさに“頂上種”の片鱗が垣間かいま見えた瞬間だった。

「すごいぞ~、ラフィ!」
「わふぅっ!」

 駆け寄ったエアルに、ラフィが飛びつく。
 この光景だけを見ればただの甘えん坊だが、その内に秘めた力は本物のようだ。
 
「フフフッ」

 レリアもその力を再認識する。
 最前線を潜っていた彼女にすら、ラフィの強さには目をくようだ。

「さすがに心配なかったか」

 リザもふぅと安堵あんどの息をもらした。
 だが、そんな歓喜の場面に──忍び寄る影。

「グオォッ!」
「……え!?」

 炎に顔がついたような魔物が、リザの背後に突然姿を見せる。
 そもそも足がないこの魔物は、エアルとレリアも近づいていることに気づかなかった。
 
「リザ!」
「情報屋さん!」

 さらにリザは、小鳥を恐れるあまり一行から離れていた。
 その距離がここにきてあだとなる。

「グオオッ!」
「くっ……!」

 とっさに身構えるリザに、その炎の手が──当たらない。

「ぼおぉっ!」
「「「……!」」」

 リザの目の前で両翼を広げたのは、小鳥のフレイ。
 だが、身をていしてリザを守ったことで、その小さな体に一身に炎を受けてしまった。

「ぼぉぉ……」
「そんな!」

 宙で受けた炎で焼かれ、フレイはふらふらっと身を揺らす。
 その姿には、トラウマを持つはずのリザも手で迎えようとした。

 しかし、それもほんの一瞬。

「ぼぼぉっ!」
「……!」

 カッと目を開き、フレイは両翼をバサバサっと羽ばたかせる。
 それと共に全身に灯したのは──大きな炎。

「ぼおおおおおおぉぉぉっ!」
「「「……!?」」」

 いま受けた炎を包み込み、自らの力に変えるように。
 その姿はまるで、“不死鳥”のごとく──。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

S級アイテムショップ店長の俺は、盗みにくる冒険者を配信しながら蹂躙する

桜井正宗
ファンタジー
 異世界マキシマイズのあるアイテムショップ店長・カインは、若くして起業。自前のお店を持っていた。店長クラスしか持ちえない『ダンジョン露店』ライセンスを持ち、ダンジョン内で露店が出来た。  だが、ダンジョン内ではアイテムを盗もうとする輩が後を絶たなかった。ダンジョン攻略を有利に進めたいからだ。……だが、カインは強かった。とにかく強かった。攻撃され、一定のHPになると『大店長』、『超店長』、『極店長』へとパワーアップ出来たのであった。その店長パワーでアイテムを盗み出す冒険者を蹂躙する――。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

寝て起きたら世界がおかしくなっていた

兎屋亀吉
ファンタジー
引きこもり気味で不健康な中年システムエンジニアの山田善次郎38歳独身はある日、寝て起きたら半年経っているという意味不明な状況に直面する。乙姫とヤった記憶も無ければ玉手箱も開けてもいないのに。すぐさまネットで情報収集を始める善次郎。するととんでもないことがわかった。なんと世界中にダンジョンが出現し、モンスターが溢れ出したというのだ。そして人類にはスキルという力が備わったと。変わってしまった世界で、強スキルを手に入れたおっさんが生きていく話。※この作品はカクヨムにも投稿しています。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

辻ダンジョン掃除が趣味の底辺社畜、迷惑配信者が汚したダンジョンを掃除していたらうっかり美少女アイドルの配信に映り込み神バズりしてしまう

なっくる
ファンタジー
ダンジョン攻略配信が定着した日本、迷惑配信者が世間を騒がせていた。主人公タクミはダンジョン配信視聴とダンジョン掃除が趣味の社畜。 だが美少女アイドルダンジョン配信者の生配信に映り込んだことで、彼の運命は大きく変わる。実はレアだったお掃除スキルと人間性をダンジョン庁に評価され、美少女アイドルと共にダンジョンのイメージキャラクターに抜擢される。自身を慕ってくれる美少女JKとの楽しい毎日。そして超進化したお掃除スキルで迷惑配信者を懲らしめたことで、彼女と共にダンジョン界屈指の人気者になっていく。 バラ色人生を送るタクミだが……迷惑配信者の背後に潜む陰謀がタクミたちに襲い掛かるのだった。 ※他サイトでも掲載しています

処理中です...