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第29話 頂上種の片鱗

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 「わふぅ……」

 普段は可愛いラフィだが、今はじっとした眼光で標的を見つめる。
 その様は小さいながらも“頂上種”の一角をになうにふさわしき姿だ。

 そんなラフィの相手は──

「グガゥッ!」

 中ボス『ファイアキマイラ』。
 ライオンのような顔を持ち、たてがみは炎が燃え盛っている。
 胴体からは常に青混じりの炎を出し続け、尻尾の先はへびという、迫力に満ちた強者である。
 魔物ランクは──B。

 それでも、ラフィは真っ直ぐに向き合ったまま。
 その姿を信頼して、エアルもラフィを送り出す。

「よーし、いってこい!」
「わふ!」
 
 Bランクという強者を相手に不安もあるが、「これも育てるため」とエアルは自分自身に言い聞かせる。
 また、その期待に応えるべく、ラフィも存分に気合を入れた。

「わふぅ……」
「グルゥ……」

 そうして、ラフィとファイアキマイラはじっと見合う。
 互いに相手の出方をうかがっているようだ。

「……」

 そんな様子をリザもはたから目をらしていて見ている。
 先ほどは何が起こったか分からない戦闘を、今度は見逃さないために。
 また、ラフィの今後の育て方についても検討するために。

 ここでラフィがしくじれば、同じランク以上の魔物をすぐには相手にさせられないだろう。
 まさに真価が問われる戦いだ。

 そして──ついに対決の火ぶたが切られた。

「グガァァッ!!」
「……!」

 先に動いたのはファイアキマイラだ。
 探り合いにしびれを切らし、一直線にラフィへと向かう。

「ふっ!」
「グガッ!?」

 それに反応したのか、ラフィはほぼ同時にその場を蹴り出す。
 かと思えば、一瞬にして姿を消した。

「え!?」
「おお!」

 これには、リザとエアルも目を見開く。
 “頂上種”フェンリルの最大の特徴である「速さ」。
 その神速をしっかりと受け継いだ、瞬間移動さながらの脚力きゃくりょくだ。

「──わふッ!」
「グガァッ!?」

 そして再び姿を見せたかと思えば、すでにファイアキマイラの背後に回っている。
 さらに、ファイアキマイラの腹の辺りがえぐれているのだ。
 
「な、何が起きたの!」
「さすがだなあ」
「え?」

 しかし、ここでの反応は別れる。
 驚きの声を上げたリザに対して、エアルは素直に感心した。

「エアル、今のが見えたの?」
「ラフィが胴体を切り裂いたんだよ。三回ね」
「……っ」

 ラフィの速さもさることながら、それを正確にとらえたエアルの動体視力にもまた度肝を抜かれる。
 また、レリアでさえも思わず笑みを見せた。

「三回ねえ」
「見えたよね」
「フフフッ。私には二回しか見えなかったわ」

 攻略組をも凌駕りょうがする、ラフィの速さとエアルの野生的な動体視力。
 
「……ふっ、まったく」
 
 リザも呆れ顔を浮かべるしかない。
 そんな中、ラフィとファイアキマイラの戦闘は続く。

「グガアアァッ!」

 一撃を入れられて怒ったのか、ファイアキマイラはラフィを追うように反撃に出る。
 鋭利なひっかきに、殺傷力の高い牙、尻尾の蛇から炎を吐き出すなど、進化した種族ならでは多種多様な連携攻撃だ。

「わふっ! ふわっ!」

 だが攻撃の先には、ことごとくラフィがいない。
 華麗かれいなる神速で完全に翻弄ほんろうしているようだ。

「いいぞー! その調子だ!」
「フフフッ」
「だから見えないわよっ!」

 動きをたたえるエアル。
 不敵に笑うレリア。
 ついていけないリザ。

 それぞれ反応は違えど、見守る側も盛り上がっている。

「グ、グガゥ……」

 やがて、ファイアキマイラに限界が訪れる。
 膝をつき、明らかに動きが鈍っているのだ。

「わふぅ」

 そして、ラフィが狙いを定めた。

 ぐっと力を入れたその足で──

「──ふっ!」
「グガッ……」

 懐に潜り込み、下からファイアキマイラを切り裂く。
 致命傷を与えられたファイアキマイラは、その場に伏した。

「わふ」

 そして、ラフィは天へと顔を上げた。

「くぉ~~~~~~~~~~~ん」
 
 まさに勝利の遠吠えだ。

 終始優勢のまま、上位に入るBランクという魔物に圧勝。
 子どもながら、その“頂上種”の強さをかんなく発揮したのだ。
 まさに“頂上種”の片鱗が垣間かいま見えた瞬間だった。

「すごいぞ~、ラフィ!」
「わふぅっ!」

 駆け寄ったエアルに、ラフィが飛びつく。
 この光景だけを見ればただの甘えん坊だが、その内に秘めた力は本物のようだ。
 
「フフフッ」

 レリアもその力を再認識する。
 最前線を潜っていた彼女にすら、ラフィの強さには目をくようだ。

「さすがに心配なかったか」

 リザもふぅと安堵あんどの息をもらした。
 だが、そんな歓喜の場面に──忍び寄る影。

「グオォッ!」
「……え!?」

 炎に顔がついたような魔物が、リザの背後に突然姿を見せる。
 そもそも足がないこの魔物は、エアルとレリアも近づいていることに気づかなかった。
 
「リザ!」
「情報屋さん!」

 さらにリザは、小鳥を恐れるあまり一行から離れていた。
 その距離がここにきてあだとなる。

「グオオッ!」
「くっ……!」

 とっさに身構えるリザに、その炎の手が──当たらない。

「ぼおぉっ!」
「「「……!」」」

 リザの目の前で両翼を広げたのは、小鳥のフレイ。
 だが、身をていしてリザを守ったことで、その小さな体に一身に炎を受けてしまった。

「ぼぉぉ……」
「そんな!」

 宙で受けた炎で焼かれ、フレイはふらふらっと身を揺らす。
 その姿には、トラウマを持つはずのリザも手で迎えようとした。

 しかし、それもほんの一瞬。

「ぼぼぉっ!」
「……!」

 カッと目を開き、フレイは両翼をバサバサっと羽ばたかせる。
 それと共に全身に灯したのは──大きな炎。

「ぼおおおおおおぉぉぉっ!」
「「「……!?」」」

 いま受けた炎を包み込み、自らの力に変えるように。
 その姿はまるで、“不死鳥”のごとく──。
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