ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航

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第25話 新たな仲間と

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 日が昇りきっていない早朝。
 ツヴァイのとある宿にて。

「……」

 シャワーを浴びながら、考え事をするリザ。

「次はあの街ね」

 その目に宿すは光か、闇か。
 彼女にはただならぬ思いがあるようだ。




 



 探索者街ツヴァイ。

「さ、行きましょうか」
「うん!」
「わふ!」

 リザの声に、エアルとラフィが元気よく続く。

「ここも楽しかったなあ」

 振り返った先では、エアル達の出発を心惜しむ声が聞こえてくる。

「坊主、また来てくれよな!」
「うちはいつでもタダにするぜ!」
「私の宿にもまた泊まってね~!」

 そんな待遇にエアルは元気にうなずく。

「うん! またね!」

 ダンジョン・タートルの一件から二日。
 あわや大災害という危機からツヴァイを救ったことで、エアルは盛大にまつり上げられた。
 
 屋台の飯は無料、宿も無料。
 素材から装備に至るまで、何もかも「もらってくれ」と逆にせがまれるほどだったのだ。
 だが、そんなにあっても持ちきれるはずもなく、エアルはご飯を存分に満喫させてもらった。

 そんな流れは一日中続き、この日ようやく出発する。
 まだ興奮も冷めやらぬ中だが、いつまでもここにはいられないのだ。

 そうして、リザはエアルの後ろの人物にも目を向けた。

「で、本当に私たちに付いてくるのね」
「ええ、私も付いて行くわ」

 新たなに仲間に加わったのは、レリアだ。

 エアル達の助けもあり、母が眠る離れ小屋は無事に守られた。
 また、今回また持ち帰った『活性水』により容態もひとまず安定したようだ。
 ならばと『攻略組』として最前線に戻るのではなく、エアル達と行動を共にすることを選んだのだ。

「あなたたちに付いていったほうが何かありそうだし。今は母の容態も安定してるから」
「そっか!」

 レリアの返事にエアルは笑顔でうなずく。
 
「ま、戦力としては十分ね」
「わふ!」
「フフフッ」

 リザ、ラフィも同じくだ。
 
 最初こそ敵対したものの、今では共に戦い抜いた仲だ。
 すでに仲間だと認めていたのだろう。

「よーし、行こう!」

 こうして、レリアは正式にエアル達の仲間に加わったのだった。




「『ダンダン丘』もただの平地になっちゃったね」

 エアルのつぶやきに、ふっと笑ったリザが返す。
 
「あなたが斬ったんでしょ」
「それはそうだけどさー」

 魔物はおらず、象徴だった丘はどこにもない。
 エアルが斬った後、全て地面に吸収されたようだ。
 それも『ダンダン丘』自体が巨大な魔物だったとすれば、納得できる。

「でも、人がたくさんいるね」
「そうね」

 代わりにごった返しているのは、各方面からやってきた探索者たち。
 あの一件を聞きつけ、『ダンダン丘』の様子を見に来たようだ。

「こりゃすごいな……」
「ああ、本当に何もねえ」
「これが魔物の甲羅だったんだもんな」

 このダンジョン自体を甲羅に持つ『かんじゅうダンジョン・タートル』。
 その危険度は、頂上種に次ぐSSランクと定められた。
 大きさや災害予測から、妥当な評価と言えるだろう。

「けど、それを抑えた奴がいるんだよな」
「この辺から向こうまでの丘を斬ったんだろ」
「考えられねえなあ……」
 
 そうして、自ずとエアルのことが話題に上がる。
 エアル達は身バレ対策のフードを被っているため、気づかれていないようだ。

「……!」

 だが、会話が聞こえているエアルはピクンと耳を立てる。
 さらにニヤっと口角を徐々に上げていく。

「それにあの“不敵のレリア”も一緒に行動しているらしい」
「まじかよ!」
「すげえパーティーだな、おい」

 さらに会話は広がり、レリアの話題にまで。

「……フフフッ」

 それにはレリアもしっかり耳を傾けていた。
 代名詞の不敵な笑みも、今だけは少しゆるんで見える。

「けど、知ってるか」

 だが、少し話が切り替わる。

「あと一人、変な女がくっついているらしい」
「なんだ、強くないのか?」

 おそらくリザの話題だろう。
 近くで本人たちが聞いているとは知らず、探索者たちは話を続ける。

「ああ。別に強くはないって話だ」
「じゃあ寄生でもしてんのか」
「だろうな。そんな奴はどこにでもいるもんだ」
「ったく、女は良いよなあ」

 リザの話題になった途端、悪い方向へと向いた。
 それには、聞き耳を立てていただけのエアルも腹を立てる。
 
「あいつらー!」
「やめなさい」

 だが、一歩踏み出そうとしたエアルをリザが止める。

「別に何も間違ってはないわ」
「で、でも!」
「私は気にしてないから。無視してさっさと行くわよ」

 そうして、リザは先に歩き出す。
 噂話には慣れているであろうレリアも、探索者たちを一瞥いちべつして彼女に付いて行く。

「リザ……」
「くぅん……」

 だが、エアルとラフィだけはその場に立ち尽くす。
 ここで何かを起こしても意味がないのはわかっている。
 むしろ、そうすればリザの方に迷惑がかかるだろう。

「ぐぬぬぬ……」

 しかし、エアルは我慢できなかった。
 ここまで導いていくれたリザに対して、何も知らない人に悪口を言われるのは気持ちよくなかったのだ。
 エアルは人差し指にボッと小さな火を灯す。

「ほれっ!」

 それをそのまま、そっと悪口を言っていた探索者の頭に放ったのだ。
 火は見事に髪をとらえ、男は途端に騒ぎ出す。

「あちっ! なんだこれ!」
「おい、髪が燃えてるぞ!」
「嘘だろ! 俺の大事な髪が!」

 それを横目に、エアルはさささっとリザに追いつく。
 巧みな魔法コントロールにより、髪の半分だけを燃やしたようだ。

「これで勘弁してやる!」
「……ふふっ、あはははっ!」

 あまりにも子どもないたずらに、リザが腹を抱えて笑った。

「やめなさいって言ったじゃない、もう」
「だってあいつらがー!」
「でも、まあ」

 笑いで出た涙をふきながら、リザはエアルの頭をなでる。

「私のために怒ってくれたのは嬉しかったわよ」
「リザ……うん! あいつらはリザのすごいところを知らないんだよ!」
「ふふっ」

 ふっとした笑みを浮かべて、リザは再び前を向く。
 そんな彼女に、レリアが続けて言葉を添えた。

「意外とセンシティブなのかしら」
「はー? そんなわけないでしょ」
「あなたの情報、役に立つわよ」
「!」

 そうして何を言うかと思えば、とても“不敵のレリア”から出てくるとは思えない言葉だった。
 さすがのリザも思わず目を見開き、率直な感想をつぶやく。

「レリアってツンデレ?」
「なっ、ど、どういう意味よ!」
「あははっ、冗談冗談」

 少しからかうとリザはさらに足を進めた。
 その軽快な足音が戻ったご機嫌を現しているようだ。

「ほら、急ぐわよー!」
「うん!」

 こうして、一行は『ダンダン丘』を抜けた。
 次なるダンジョンで出会うものは、果たして──。




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