ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航

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第23話 エアルの策

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 「グオ、オ、オ、オ、オ、オ、オ、オ……!!」

 ダンジョン自体を甲羅に持つ魔物──『かんじゅう・ダンジョン・タートル』。
 何百年というセントラルの歴史よりも古くから眠っていた魔物が、ついに目をました。

 まさに未曾有みぞうの大災害である。

「まずいわ……!」
「ここで止めないと……!」

 誰もがそう思う。
 しかし、そのあまりの規模にただ立ち尽くすしかない状況だ。

 そんな中、エアルだけはふっと笑った。

「なーんだ。そんなことか」
「エアル……?」

 エアルが握り直すは、“相棒”エクスカリバー。

「僕に任せて」

 エアルはそのままダンジョン・タートルへ向かって駆け出した。
 ハッタリではなく、何か考えがある表情だ。
 
「エアル!」
「エアル君……!」
「ワフ!」

 そんなエアルに引っ張られ、三人も動き出す。

 対抗手段は思いつかない。
 それでも、エアルならなんとかしてくれそう。
 そんな思いを心に秘めて──。




 探索者街ツヴァイ、入口付近。

「魔法が放てる者は、ここから一斉に!」
「「「おおっ!!」」」

 『ダンダン丘』へ続く崖際から、探索者たちが一斉に魔法を放つ。
 目標はもちろんダンジョン・タートルだ。

「【火炎弓フレイム・アロー】!」
「【光の球ライト・ボール】!」
「【氷の槍アイシクル・ランス】……!」

 ツヴァイにいるのは、多くが初・中級探索者。
 そのため、ここらで獲得できる魔法を存分にぶつけるしかない。

「グオ、オ、オ、オ、オ、オ、オ、オ……!!」

 だがいくら放っても、ダンジョン・タートルは止まることを知らない。
 むしろ、魔法を当てる程に歩みが速くなっているようにすら感じる。

「クソッ!」
「全然効かねえ!」
「デカすぎんだろ!」

 先ほどの“大氾濫スタンピード”をしのぎ、ツヴァイの探索者たちは活気づいていた。
 今度は対象も一体であり、協力体制をきやすかったのだ。

 しかし、その一体があまりにも巨大すぎる。
 ダンジョン・タートルからすれば、彼らはとすら感じないだろう。

「どうするんだよ!」
「止められねえぞ!」
「あんなの人間じゃ……」

 立ち上がった探索者たちだが、次第に諦めの気持ちが生まれ始める。
 そんな中で誰かがつぶやいた。

「さっきのあいつさえいれば……」

 その言葉には周りもうなずく。
 おそらく頭に描くのは同じ人物だろう。
 
 そして、それに応えるように、天から一筋の光がキラリと光る。

「うりゃああああああああ!!」
「「「……!?」」」

 エアルののエクスカリバーだ。

「ていやっ!」

 長く伸び、きらびやかに輝く光の刀身。
 それをダンジョン・タートルの顔面に叩きつけた。

「「「おおおお!?」」」

 期待していたエアルの姿に、探索者たちは歓喜の声を上げる。

「あいつだ!」
「さっき街を救った少年!」
「まだいたのか!」

 さらに、驚くべきことが目の前で起こる。

「グ、オォ!」
「「「……!!」」」

 何をしてもピクリともしなかったダンジョン・タートルが、初めてぐらりと揺らいだのだ。
 かすかに見えた希望に、探索者たちは一斉に目を見開く。

 だが──

「グオ、オ、オ、オ……!!」

 ダンジョン・タートルが再び咆哮ほうこうを放つ。

「嘘だろ!?」
「今のが効いていないってのかよ!」
「どんな耐久してやがる!」
「やっぱり化け物じゃねえか!!」

 やはり変わらない状況に、探索者たちは焦りの声を上げる。
 しかし彼らと対照的に、スタっと着地したエアルはまだ余裕の表情を浮かべていた。

「大丈夫。今のは軽く叩いただけだよ」

 それもそのはず、エアルには考えがあったようだ。

「あの亀さんを倒す必要はないんだ」
「どういうことだ!?」

 困惑する探索者たちに、エアルはただダンジョン・タートルを指して答えた。

「あの丘、あれを全部壊したいんだ」
「「「……!?」」」


 丘とは、『ダンダン丘』の象徴でもある丘のこと。
 まさかの回答に探索者たちは目を見開き、同時に周りの様子をうかがった。
 たとえ待ち望んでいたエアルとはいえ、不思議な言動を素直に受け入れられなかったからだ。

「それで止まるのね?」
「リザ!」

 そんな中、ラフィにまたがって追いついたリザが聞き返した。
 今までの経験から、理由をたずねることもなく。

 対して、エアルは勢いよくうなずく。

「多分ね!」
「ふっ、わかったわ」

 エアルの“多分”は当たる。
 それが分かっているからこそ、その曖昧な言葉にもリザは賛同した。
 これまで見てきた彼の『野生』に、絶対的な信頼感を置いているのだ。

 そうして、リザはありったけの武器を道具を取り出した。

「協力するわよ、エアル」
「ありがとう!」

 また、それには仲間も続く。

「フフッ、ぶち壊すのは得意よ」
「わふー!!」
「レリア、ラフィも!」

 エアル陣営は、有無を言わず彼に従う態勢だ。

「「「……」」」

 対して、それぞれ顔を見合わせる探索者たち。
 だがやがて、徐々に手を上げる者が増えていく。

「私もやるわ!」
「ああ、どうせ手段はねえんだ!」
「俺はこのガキに賭けるぜ!」

「みんな……!」

 こうして意志は固まった。

「行こう!」
「「「おおっ!」」」

 この状況に抗う探索者たちは、一斉にダンジョン・タートルへ向き直った──。
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