上 下
22 / 52

第22話 現象の正体

しおりを挟む
 「もう魔物は来ないよ」

 耳をませたエアルが周りに伝えた。
 魔物がごった返した絶望的な状況から、見事に小屋を守り抜いたようだ。

「はあ、きっつ~。武器もたくさん使っちゃったわ」
「あはは、みたいだね」
「わふっ!」

 すでに限界が来ていたリザと共に、エアルとラフィもその場に座り込む。

「一応聞くけど、街の方は大丈夫なのよね?」
「大丈夫。魔物は倒したし、魔法で入口を塞いだよ」
「もう、相変わらずめちゃくちゃね」

 常に張りつめていた緊張から解放され、リザは安堵の表情を浮かべる。
 だがそんな中、レリアは長刀を握りしめたまま立ち尽くしている。

「みんな……」

 下唇を噛んだまま、ぐっと堪えた気持ちを言葉にした。

「ワタシは、みんなを置いて逃げたのに……」
「逃げたわけじゃないよね」
「……え?」

 エアルは小屋を指したまま、にっこりと笑みを浮かべる。

「何よりも守りたい人がいた。でしょ?」
「……っ」

 すでに小屋の中に人がいると気づいていた。
 ここまで騒ぎが大きくても目を覚まさないならば、植物状態になっていることは理解できる。
 エアルは、レリアの行動をちっとも意に介していないようだ。

「……ありがとう」

 レリアはさっと背を向けるが、チラリと見えた目は少し潤って見えた。
 “不敵のレリア”らしからぬ様だが、これが本来の姿なのかもしれない。

 また、そんな彼女を周りも責めるはずもない。

「まあ、不敵のレリアさんの謎も一つ解けたし」
「フフッ、一番知られたくない人情報屋に知られるなんてね。ぬかったわ」

 リザとレリアもほほえみ合う。
 今の二人は、共に死線を乗り越えた仲間のようだ。

 それから、ラフィに至っても。

「わふぅ!」
「……!」
「わふふ~」
「フフッ、あざとい子ね」
 
 ほっぺをすりすりするように寄ってきたラフィに、レリアは初めて手を添えた。
 彼女の浮かべた表情は、まるで今まで触ることを我慢していたかのようだ。
 可愛いとは思っていたが、彼らを利用している後ろめたさから、ちゅうちょしていたのかもしれない。

 そんな光景に、エアルは嬉し気にうなずく。

「これが一件落着ってやつ、だね!」
「もう、私が教えた言葉じゃない」
「えへへっ!」

 エアルは雰囲気をなごませる。
 彼の行動により、場が自然と温かくなるのを全員が感じていた。

 ──しかし、事態は終わっていなかった。

「……ッ!」
「エアル?」

 何かを察知したように、表情を途端に変えるエアル。
 ハッとした様子から、すぐさま声を上げた。

「みんな、その辺に手をついて!」
「え? ──きゃっ!」

 おそってきたのは、再び地震だ。

「大きい……!」
「一体何が……!」

 しかも、先ほどのよりさらに揺れが大きい。 
 地震というよりは、何か巨大なものが起き上がる・・・・・かのような。

「……!」

 そしてエアルは思い出した。
 『ダンダン丘』で自らが発した言葉を。

「僕、上から見るよ!」
「ワタシも!」

 大きな地震の中、エアルとレリアは華麗かれいな身のこなしで木を駆けあがる。

「え、ちょっ!」
「わふ!」
「ラフィ、ありがと!」

 そこまではできないが、リザもラフィに掴まって木の頂点へ登った。

「「「……ッ!!」」」

 そして、一行は目撃する。

「何よこれ……」
「ワタシも見た事ないわ……」

 『ダンダン丘』の地面が上がっていく。
 ゆっくりと、だが絶えることなく地盤が上がっていく。

 ──そしてやがて、下からは巨大な顔がのぞかせた。

「グオォ……」
 
 エアルの言っていたことが現実になる。
 “大氾濫スタンピード”どころではない。
 迫っているのは、まさに未曾有みぞうの大災害。

「グオ、オ、オ、オ、オ、オ、オ、オ……!!」

 その顔は“亀”のようだ。
 ダンジョン全体が巨大な甲羅のように見える。

「そんな、まさか……」

 リザの口から言葉がれる。
 彼女は思い出していたのだ。

 探索者たちが訪れる前、ラビリンスには原住民がいた。
 思い出したのは、原住民のとある遺跡に記されていた謎のせき
 まさかそれが現実とは思いもよらかったが。

「グオ、オ、オ、オ、オ、オ、オ、オ……!!」

 ──『かんじゅう・ダンジョンタートル』

 魔物ランクは不明・・
 探索が始まって以来、目撃されたのが初だからだ。
 つまり、セントラルの歴史よりずっと古くから眠っていたことになる。

「まずいわ……!」

 それが、ツヴァイに向かって今にも動き出そうとしている。

 エアルの【獄炎ヘル・ファイア】で入口は塞いだ。
 だが、ダンジョン以上の大きさを誇る魔物は、そんなもの意に介さないだろう。

「ここで止めないと……!」

 それどころか、ツヴァイなど簡単に踏み潰し、セントラルまで行ってしまう可能性すらある。
 もしそうなればセントラルは、文字通り“終わり”を迎えるだろう。

「「……っ」」

 誰もが「止めなければ」とは思っている。
 しかし、その圧倒的存在感の前に対抗手段など思い付くはずがない。

 ──ひとりの無邪気な少年を除いては。

「なーんだ。そんなことか」
「エアル……?」

 場にただよう重苦しい雰囲気に合わず、思わずふふっと笑ったエアル。
 強く握り直すのは伝説の剣エクスカリバーだ。

「僕に任せて」

 ツヴァイ、そしてセントラルの命運はエアルに託された──。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

【完結】小さなフェンリルを拾ったので、脱サラして配信者になります~強さも可愛さも無双するモフモフがバズりまくってます。目指せスローライフ!〜

むらくも航
ファンタジー
ブラック企業で働き、心身が疲労している『低目野やすひろ』。彼は苦痛の日々に、とにかく“癒し”を求めていた。 そんな時、やすひろは深夜の夜道で小犬のような魔物を見つける。これが求めていた癒しだと思った彼は、小犬を飼うことを決めたのだが、実は小犬の正体は伝説の魔物『フェンリル』だったらしい。 それをきっかけに、エリートの友達に誘われ配信者を始めるやすひろ。結果、強さでも無双、可愛さでも無双するフェンリルは瞬く間にバズっていき、やすひろはある決断をして……? のんびりほのぼのとした現代スローライフです。 他サイトにも掲載中。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

やがて神Sランクとなる無能召喚士の黙示録~追放された僕は唯一無二の最強スキルを覚醒。つきましては、反撃ついでに世界も救えたらいいなと~

きょろ
ファンタジー
♢簡単あらすじ 追放された召喚士が唯一無二の最強スキルでざまぁ、無双、青春、成り上がりをして全てを手に入れる物語。 ♢長めあらすじ 100年前、突如出現した“ダンジョンとアーティファクト”によってこの世界は一変する。 ダンジョンはモンスターが溢れ返る危険な場所であると同時に、人々は天まで聳えるダンジョンへの探求心とダンジョンで得られる装備…アーティファクトに未知なる夢を見たのだ。 ダンジョン攻略は何時しか人々の当たり前となり、更にそれを生業とする「ハンター」という職業が誕生した。 主人公のアーサーもそんなハンターに憧れる少年。 しかし彼が授かった『召喚士』スキルは最弱のスライムすら召喚出来ない無能スキル。そしてそのスキルのせいで彼はギルドを追放された。 しかし。その無能スキルは無能スキルではない。 それは誰も知る事のない、アーサーだけが世界で唯一“アーティファクトを召喚出来る”という最強の召喚スキルであった。 ここから覚醒したアーサーの無双反撃が始まる――。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

処理中です...