ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航

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第20話 守らなければならない場所

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「ハァ、ハァ……!」

 森林の中、たった一人で駆け抜ける女性がいる。
 レリアだ。

「もう少し!」

 ここはダンジョンのつなぎ目。
 正確には、『ガラル密林』と『ダンダン丘』のに位置する森林だ。

 探索者街ツヴァイは、この森林の一部をくり抜いて作られている。
 つまりここは、街から少し離れた場所にあたる。
 
「見えた!」

 そうして、レリアの目的地にたどり着く。
 ぽつんと建つ木造の小屋のようだ。

「……!!」

 だがそこには、すでに魔物たちがごった返していた。
 『ダンダン丘』から来ているのだろう。

「グギャー!」
「グオオオォォ!」
 
 小屋に侵入こそしていないものの、今からそれを壊そうとしている。

「……ッ!」

 走りながらに、レリアは長刀を抜いた。
 迫真な表情を再び浮かべて。

「そこに触れるなあああッ……!」

 繰り出すはレリアの代名詞──無数の斬撃。

「「「グギャアアア!!」」」

 斬撃は小屋だけを避け、辺りの魔物を蹴散けちらす。
 レリアはそのまま、小屋の盾になるよう立った。

「……ッ!」

 そんな彼女をエサに、魔物はまだまだ湧いてくる。
 一人ではとても相手にできる数じゃない。
 それでも、レリアは長刀を強く握る。

「お母さんには指一本触れさせない……!」
「「「グギャアアア!!」」」

 そうして、一人で魔物の大群に立ち向かう。
 彼女の頭によぎるのは、幼い頃の記憶だ。


────

 レリアの周りには誰もいなかった。

「……」

 探索者街ツヴァイの中、一人で座っている少女がいた。
 幼き頃のレリアである。

 彼女が見ているのは、他人の探索者パーティーだ。

「今日の探索は良かったな!」
「これで俺らも中級者か?」
「バカ、気が早えーよ」

「「「あはははっ!」」」

 レリアはうらやましかった。
 自分には誰も認めてくれる人がいなかったから。

「……」

 そんなレリアを陰から覗いていた商人たちは、コソコソと彼女について話し始める。

「あの子、例の……」
「ええ、そうよ」
「来ないでほしいわよね」

 レリアに向けるのは、奇異きいなものを見る目だ。
 その理由は彼女の経歴にある。

 レリアはツヴァイで生まれた・・・・・・・・・孤児だった。

 両親は不明。
 どうしてツヴァイに捨てられたのかも不明。
 知り合いもおらず、ラビリンス内の孤児という異端さから、人々からは避けらていれた。

 だが、そんな中で唯一レリアに優しくしてくれた人がいる。

「ただいま。お母さん」
「おかえり、レリア」

 ツヴァイから少し離れた森の中、小屋に住む年配の女性だ。
 女性の名はマリア。
 血は繋がっていないが、育ててくれたマリアを「お母さん」と呼んでいた。

「今日はどうだったんだい、レリア」
「……ダメだった」

 レリアがツヴァイに出かけたのは、一緒に探索してくれる人を探すため。

 だが、レリアは探索の基礎きそさえ知らないただの幼女だ。
 そんな彼女を快く迎え入れる者など、いるはずもなかった。

「私が教えてあげられたらいいんだけど……ゴホッ、ゴホッ」
「あ、ダメだよ! お母さんは寝てないと!」

 マリアも元は探索者だ。
 だが、原因不明の病気をわずらっており、動ける体ではない。
 
「ごめんねぇ、レリア。私と一緒にいるせいで仲間ができなくて」
「お母さんのせいじゃないよ!」

 謎の病気のため、マリアもまた人々からみ嫌われていた。
 感染するだのなんだのと迫害されたのだ。
 ツヴァイではなく、離れ小屋で生活しているのもそのためである。

 それでも、レリアにとっては唯一の支えだった。

「ワタシがまた採取してくるから。お母さんは寝ててね」
「悪いね。でも、あんまり危ないことはするんじゃないよ」
「大丈夫!」

 この日もレリアは、魔物の目をけながら植物などを採取した。
 それを売却して得られるわずかな食料を、マリアと分けるのだった。



 そうして、月日が経ち。

「お母さん! 今日は魔物を三体も狩れたの!」

 嬉しそうな表情を浮かべながら、レリアは元気よく小屋に入ってくる。
 最近では魔物を狩り、マリアに食べさせてあげられる量も増えていた。

「上から石を落としてね、ずどんって!」
「……」
「あれ、お母さん?」

 しかし、マリアの返事がない。
 レリアは顔を真っ青にして駆け寄った。

「お母さん!?」
「……」
「息はある……」

 死んでいるわけではない。
 だが、目を覚ます気配もない。

「時間が……ない」

 レリアは悟った。
 もうマリアは長くない。
 しかし、そんなことは易々と認められるわけでもない。

「ワタシが……!」

 ならばと決意を固める。
 探索者であれば一度は聞いたことのあるうわさだ。

『最下層へ辿り着けば何でも願いが叶う』
 
「ワタシが最前線を攻略する……!」

 それからレリアは、死に物狂いで探索を続ける。
 ただひたすらに最下層を目指して。

 だが、固定パーティーは持たない。
 もし『願いが叶う』のが一人ならば、周りに譲るゆずる気など毛頭ないからだ。
 自分が願いを叶えなければ意味が無いのだ。

「どんな手段を使ってでも……!」

 胸に秘める『母の病気を治す』という願いを。

────

「ここから離れろ! 魔物どもッ!」 

 レリアは鬼気迫る目で長刀を振るう。
 マリアには一歩たりとも近づけさせないと。

「「「グギャアアア!!」」

 マリアは小屋で未だ目を覚まさないままだ。
 レリアが攻略最前線で見つけた『活性水』によって、生き長らえてはいる。
 だが、病気が治ったわけではない。

 やはり最下層を目指し続けるしかないのだ。

「ここは死んでも守らなきゃいけないの……!」

 攻略組でも最も謎が多いレリア。
 彼女が時々ツヴァイに戻るのは、全ては義母マリアのため。
 定期的に様子を確かめるためだ。

「チィッ……!」

 だが、魔物の数が多すぎる。

 攻略組のレリアですら手に余る災害だ。
 圧倒的物量に徐々に押し込められる。

「このッ……!」

 決して諦めたわけではない。
 しかし、頭がキレる彼女には客観視できてしまう。

(手が足りない……!)

 このままじゃ押し切られるのは確実だった。

「ぐぅっ……!」

 さらに、レリアの口から血が流れる。

 彼女の代名詞である“無数の斬撃”。
 その剣技の秘密は、このレリアの武器──『さくら吹雪ふぶき』にある。

 桜吹雪は、エアルの『エクスカリバー』のように、体力を吸わせることで人外の剣技を発動しているのだ。
 ただしレリアには、エアルのような無尽蔵の体力があるわけではない。

 つまり、連発すれば体は疲弊し、寿命を縮める・・・・・

「ワタシは……!」

 それでも、レリアは長刀を振り続ける。
 この守らなければならない場所のために。

「ワタシは、まだ……!」
「グギャアア!!」
「……!?」

 だが、隙をかいくぐられ、レリアに魔物迫る。
 体力の限界により、彼女の動きが鈍っていたのだ。

「しまっ!」

 鋭利な爪が彼女に迫る──その瞬間。

「グギャッ!?」
「……!」

 その魔物が、目の前でパタリと倒れる。
 目の前が開けると共に、向こう側から一人の姿が見えた。

「やっぱりこの方角だったわね」
「あなたは……!」

 長い金髪をなびかせ、手に相当数のクナイを構えている女性──

「情報屋の観察眼、なめんじゃないわよ」

 リザの姿だった。
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