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第18話 とどろく鳴動

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 「あははっ!」
「わっふ~!」

 ダンジョン『ダンダン丘』にて、二人の子どもが遊んでいる。
 エアルとラフィだ。

「そ~れっ!」
「わふ~!」

 丘から丘へ、二人はまるでアスレチックのように飛び移る。
 ちなみに、丘の間は何十メートルもの距離だ。

「……ねえ」

 また、それを眺めながらレリアがつぶやいた。
 
「エアル君、普段からあんな感じかしら」
「今さら?」

 両手を広げたリザが答えた。
 未だにレリアのことを懐疑かいぎの目で見ている彼女だが、エアルの許可で今日も同じパーティーとして同行しているみたいだ。

「あそこまで子どもとは思わなかったわ」
「……それはまあ、同感ね」

 しかし、エアルについては共感する。

 レリアは最前線を単独ソロで潜るような探索者だ。
 そんな彼女に勝った者が、まさかあんな子どもとは思わないだろう。

 そうして、タイムキーパーのリザが声をかける。

「あんたら、そろそろ行くわよー」
「うんっ!」
「わふっ!」

 エアルとラフィは、彼女達の前にドゴッと着地する。
 戦闘から遊びに至るまで、やることなすことが規格外である。

 そんなこんなでようやく進み始めた一行だが、何やらウキウキしたエアルが口を開いた。

「あの丘って“こぶ”みたいだよね」
「まあ、見えなくもないわね」

 このダンジョン『ダンダン丘』の象徴とも言える、数々の丘。
 エアルには“こぶ”ように見えたらしい。

「魔物のこぶだったりしてー」
「ふふっ、相変わらずね」
 
 自由な発想にはリザも笑みを浮かべる。
 もしそうならあまりに巨大すぎるため、妄想もうそうと言う他ないだろう。
 だが、そう言われて思い出す情報もあった。

「そういえば、ここの丘っていつの間にか出来ているそうよ」
「そうなんだ」
「ほら、あの辺とか」

 リザが指したのは、昨日エアルとレリアが対決をした辺りだ。
 そこの丘は、レリアの斬撃によって崩れていた・・・・・はず。

「ほんとだ。ちょっと小さい丘ができてる」
「でしょ。仕掛けギミックが少ない『ダンダン丘』でも、唯一の不思議と言われてるわ」
「へー!」

 相変わらず物知りなリザに、エアルは目をキラキラと輝かせる。
 また、その博識さにはレリアも同じ感想を抱いた。

「よく知ってるじゃない。そんなに色々と」
「何が言いたいの」
「フフフッ、別に。ワタシよりよっぽど怪しい気がしただけよ」
「……あらそう」

 まさにバチバチである。

 だが、当然と言えば当然とも言えるだろう。
 元からレリアを疑っているリザ、最も謎が多い攻略組のレリア。
 すぐに仲良くなれと言われても難しい話だ。

「まあまあ、2人とも」
「わふわふ」

 今は、エアルが間に入っているから一緒にいるに過ぎない。
 リザとレリアはまだそんな関係性である。

「ふーんだ」
「フフフッ」
 
 そんなこんながありながらも、一行は『ダンダン丘』を進んでいく。




「てやっ!」
「グギャァ……」

 エアルの発勁はっけいにより、出現した魔物は一撃で倒れる。

「フフフッ。さすがに余裕があるわね」
「ま、いつも通りね」

 攻略組のレリアですら、もはや見ているだけである。
 平均Dランクのこの辺りでは、苦労するはずもないだろう。

 そんな中、リザは何かに勘づいていた。

(魔物がたぎってる?)

 遭遇そうぐうする数はそこまで変わらない。
 だが、魔物たちの血が騒いでいるような雰囲気を感じていた。
 好戦的ではない種族も次々に向かってくるからだ。

「リザ?」
「……なんでもないわ。大丈夫よ」

 気のせいであってほしい。
 そう思ったところに──いきなり地面が揺れ出す。

「「「……ッ!」」」

 エアルは立ったまま、リザとレリアは伏せつつ、それぞれ態勢を整える。
 ラフィも思わず木に飛び移った。

「なに、なにこれ!」
「地震よ! 随分ずいぶん長いわ!」

 エアルは初めて体験したのだろう。
 珍しく動揺しているのが見て取れる。

 しかし、リザやレリアもそこまで慣れているわけではない。
 ダンジョンという性質上、地震というのは中々起こらないからだ。

 それもそのはず、揺れる原因は足音や咆哮ほうこうなど、地震は“魔物由来”であることが多い。
 だがこれは、確実に地面・・が揺れている。

「止まった?」

 少しの後、地震はピタッと止まる。
 しかしそれは、ほんの一瞬のせいじゃくに過ぎない。

「「「ギャーギャー!」」」
「「「……!?」」」

 代わりに、魔物が暴れ始めたのだ。

「「「ギャーギャー!」」」
「「「ギギャー!!」」」

 途端に駆け始めるウマ型魔物、大声で騒ぎ始めるサル型魔物など、多数の魔物が一斉に声を上げ始めた。

 何かから逃れるように。
 何かにおびえているように。

「情報屋さん!? これは!?」
「私も分からない!」

 突然の事態にレリアが声を上げるが、リザにも理解ができていない。
 攻略組に情報通、そんな両者ですら知らない事態が起こっている。

「待って」

 その中で、ただ一人静かなエアルは地面に耳を当てていた。
 『野生』の感覚で状況を探っているようだ。

「……聞こえる」
「え?」

 そして、そっと言葉をこぼす。

鼓動こどうが聞こえるんだ」
「どういう意味よ!?」
「もしかして──」
 
 エアルはすくっと立ち上がり、引き続き耳をましながらつぶやいた。
 その『野生』から来る勘を。

「『ダンダン丘』自体が巨大な魔物なのかも」
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