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第16話 攻略組との一戦

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 「さあ、始めましょ」

 エアル達の前に現れた女性は、黒髪のショートを揺らし、高い木からスタっと着地する。
 何をするかと思えば、背中側から取り出した長刀をエアルへ真っ直ぐに向けた。
 どうやら決闘の申し込みのようだ。

 彼女は──“不敵”のレリア。
 ラビリンスの最前線を進む『攻略組』の一人だという。

「気をつけて、エアル」
「え?」

 焦った表情のまま、リザは情報を付け加える。

「彼女は、攻略組の中でも最も謎が多い・・・・・・と言われているの」
「フフフッ」
「何をしでかすか分からないわ」

 言葉通り、レリアは代名詞でもある不敵な笑みを浮かべた。
 しかし、エアルは恐る恐る言葉にした。

「あ、あの、僕戦うとは一度も……」
「え」

 申し訳なさそうにするエアルに、レリアも思わず声が漏れた。

「「「……」」」

 場の空気が一瞬固まる。
 それなりに格好を付けて登場したレリアが、どうも浮かばれなくなったからだ。

「こ、この……」
「……!」

 そんな雰囲気に、レリアは長刀を強く握り直す。
 若干、はずかしめを受けている気分になったのだ。
 
「ナメてるわね……!」
「うわっ!」

 レリアはぎろりと鋭い目付きをのぞかせる。
 するとそのまま、格好をつけたなりに「もうやるしかない」とエアルに向かったのだ。

「まずいわ!」

 さらに、リザが思わず声を上げる。
 レリアの構えに聞き覚えがあったのだ。

「フフフッ」

 高く掲げられたレリアの長刀。
 そこからは無数の斬撃・・・・・が放たれるという。
 また情報によれば、その攻撃から取り逃した魔物はいない。

 単純な技術か、武器の性能によるものか、詳しい事は判明していない。

「さあ、どう出るかしら」
「……!」

 目にも止まらぬ速さで長刀が振り下ろされる共に、やはり無数の斬撃が発生する。
 そのいくにも見える斬撃がエアルをおそう。

「──『おぼろ蓮華れんげ

 ドガアアアアアと辺りに轟音ごうおんひびき渡る。
 彼女の斬撃に丘が巻き込まれ、衝撃で崩れてしまったのだ。

 そんな中── 

「……うそでしょ」
「あっぶねー!」

 エアルは土煙から飄々ひょうひょうと姿を現す。

 どんな魔物でさえ斬り刻む無数の斬撃。
 エアルはそれを全て初見で攻略してみせた。

「やはり面白いわッ!」
「まだやるの!?」

 フフっと笑いを浮かべ、レリアは再度接近する。
 対して、エアルも驚きながらも一応防御の構えを取った。

「ここまでできる相手は久しぶりだわ!」
「僕はこんな人初めてです!」

 続けて長刀を振り続けるも、やはりエアルに攻撃は当たらない。
 もはや当たる気配すらない。

らちが明かないわねぇ!」
「あなたが止めたら明きます!」
「フフッ、それもそうね」

 そんなエアルの願いが通じたのか、レリアの攻撃の手が止み、長刀をしまい込む。
 だが、安心するのはまだ早い。
 
「じゃあ、これはどうかしら!」
「……!」 

 レリアが手に灯したのは火……否、だ。
 その光を伴った手を地面に付けた途端、周りの自然がざわめき始める。

「【鎮守ちんじゅがみ】」
「わわっ!」

 そして、自然が一斉にエアルに牙を向く。
 どうやら周囲の自然を味方につける魔法のようだ。

「縛り上げなさい」
「──!」

 しかし、直後に聞こえて来たのは、草木が切れる快音のみ。

「今のはちょっと危なかったかな」
「……! へえ」

 エアルが『エクスカリバー』を抜いたのだ。

 自身の体力を吸わせていないため、光の刀身は短い。
 それでも切れ味はどんな剣よりも鋭い。
 魔力を帯びた草木ですら簡単に斬ってしまう。

「次はなに?」
「……っ!」

 少し楽しむ様子さえ見られるエアルに、レリアは思わず下くちびるを噛む。
 だが、次の瞬間には腕を両手に広げた。

「参ったわ」
「え?」
「ワタシの負けよ」

 あっさり敗北を認めたのだ。

 エアルの身のこなし、携える剣、決して見えない底。
 本気でぶつかり合ったわけではないが、それらをかんがみて手を引いたようだ。

「よかった~」
 
 それにはエアルも安堵あんどの表情を浮かべる。
 人を相手に、最初から本気でやり合う気もなかったのだろう。
 対称的に、リザの口からは言葉がこぼれる。

「勝っ、た……?」

 今までのエアルの実力から、負ける姿は浮かばなかった。
 それでも相手は天下の攻略組だ。
 勝負の行方は想定できなかったのだろう。

「ふふっ、さすがね」
「相手も本気じゃなかったし」
「それはエアルもじゃない」

 そんな中で、エアルは本当に勝ってみせた。
 やはりすごいと、改めてその実力を認める。

 それから、リザがレリアへ視線を移す。

「で、どういうつもりだったか聞かせてもらえる? “不敵”のレリアさん」
「ん-」

 だが、レリアはそれには答えず。
 代わりにエアルたちにこう持ち掛けた。

「ワタシもパーティーに入れてくれないかしら」
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