ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航

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第14話 探索者街『ツヴァイ』

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 「お~くすぐったいかあ」
「わふふ~」

 エアルが白いもふもふのあごをでる。
 授かったフェンリルの子だ。

 フェンリルはくすぐったかったのか、きゃっきゃと鳴く。
 
「可愛いなあ。『ラフィ』は」
「わっふぅ~」

 フェンリルの子は『ラフィ』と名付けたようだ。
 名前があった方が親しみやすいからだろう。

「おいで~、ラフィ!」
「わふぅ!」

 エアルがラフィを受け取ったのが、つい数時間前。

 それからは二人はずっとこの調子である。
 はたから見れば、まるで長年のペットと飼い主の関係だ。

 そんなエアルとラフィに、リザが声をかける。

「そろそろ見えるわよ」
「ほんと!?」
「わふぅ!?」

 ラフィを授かった『ガラル密林』を抜け、どうやら目的地へ到着したようだ。

「ほら、あそこね」
「おおおー!」

 ここは『ガラル密林』からしばらく歩いた場所。

 正確には、ガラル密林と、次のダンジョンのつなぎ目・・・・だ。
 元々森林だったこの場所だが、すでに木々はなく魔物もいない。
 代わりにたくさんの人々がいる。

 探索者街──『ツヴァイ』だ。

「結構にぎわってる!」
「わふ!」
「ふふっ、そうでしょ」

 探索者街とは、ダンジョンとダンジョンのつなぎ目に作られた街だ。
 そのため、エアルはさほど期待をしていなかったのかもしれない。
 だが彼らの前には、しっかりとした建物や市場が広がっていた。

「ちゃんと都会だ!」

 セントラルほどではないが、しっかり街として機能している。
 エアルからすれば十分すぎる都会であった。

 そんなエアルに、リザが言葉を加える。

「ここは『はじまりの平原』と『ガラル密林』を突破できれば辿り着く。セントラルほどじゃないけど、そこまで気を重くしなくても来られるの」
「たしかに。魔物もそんな強くなかったし」
「……あなたが戦ったのは強い部類だけど」

 リザが思い浮かべたのは、フェンリルを襲おうとした化け物たちだろう。
 言葉を間違えた、と思わず頭を抑えるリザであった。
 だが、すぐにニヤリとした表情へと変える。

「ちなみに、探索者街ならでは・・・・の物も置いてあるわ」
「ならではの物?」
「そう。例えば、あの辺の店」

 リザが指差したのは、“屋台”だ。。
 美味しそうな匂いと共に、活気的な声が聞こえてくる。

「採れたての『スライムゼリー』だよお~!」
「こっちは『リザードマンの焼き肉』!」
「『レアピッグの皮』はどうだい!」

 その光景に、エアルとラフィは目を輝かせた。

「うおお~!」
「わふふ~!」

 セントラルにも美味しい物はたくさんあった。
 だがここの屋台に並んでいるのは、軒並み“賞味期限が短いもの”ばかりだ。

「ラビリンス内だからこそできる物ね。まさに地産地消よ」
「おお~!」

 たしかに一番栄えているのは、地上の大都市セントラルだ。
 だが、セントラルへ物を運ぶにはどうしても手間がかかる。
 
 そのため、ダンジョン内にある探索者街で物を売ってしまおうと考える商人も多いようだ。

 逆に考えれば、ダンジョン内だからこそ売れる物もある。
 賞味期限が短い食べ物などは、その最たる例だろう。

「下のダンジョンへ行くほど難易度は高くなり、人通りは少なくなる。自然と探索者街も寂しくなるわ」
「そうだよね」
「だからここツヴァイは、探索者街じゃ一番栄えてると言えるわね」

 そう付け加えた後、リザは手を前に広げた。

「じゃあ早速行きましょうか」
「うんっ!」
「わふっ!」

 そんな彼女を追いこして、エアルとラフィは走って行く。

「……はっや」

 まさに目にも止まらぬ速さで。




「んまんま~」
「わふわふ~」

 様々な物を両手に、エアルとラフィは食べ歩く。
 後ろで渋い顔をしているリザを置いて。

「……安くはないわね」

 屋台の食べ物はそこまで安くはない。

 さらに、化け物エアルに、頂上種ラフィだ。
 その胃袋もまた並ではなかった。
 子どもだからと油断して、「全部おごるわ!」などと言ったのを今頃になって後悔するリザであった。

 と、そんなところにお姉さん探索者が二人。

「え」
「なにこの子」

 ふと通っていったラフィに、思わず目を留める。

「「かわいい~!」」
「わふっ!?」

 お姉さん二人は、ラフィに興味津々のようだ。
 目をハートにさせながら、ラフィの前に駆け寄ってくる。
 さらには、食べ物で手がふざがっているのを良いことに、もふもふし始めた。

「わ、わふぅっ!」
「「きゃーかわいい!」」

 対して、ちょっと困惑する様子のラフィ。
 お姉さんはその仕草にも胸をときめかせつつ、隣のエアルにたずねてくる。

「この子、どこでテイムしたんですか!」
「い、いやあ……あはは」

 答えに困ったエアルは、チラリとリザに助けを求めた。
 これを“頂上種”と言うわけにもいかないだろう。
 じゃあ仕方ない、とリザが間に入った。

「たまたま密林で見つけたんです。何の魔物かも分からなくて」

「そうなんですね~!」
「いいなぁ~!」

 なんとか誤魔化ごまかせたようだ。
 密林で見つけたのなら、そこまですごい魔物だとも思われなかったのだろう。

 それからしばらく、ラフィを存分にでた後、ようやくお姉さん探索者は去って行った。
 だが、エアルには疑問な点が一つ残っていた。
 
「あの人たちはフェンリルを知らなかったの?」
「それほど、“頂上種”とは謎の存在なのよ」

 “頂上種”は、普通は手が届かない存在だ。
 名前は聞いたことがあっても、その情報すら掴んでいない探索者はごまんといる。
 リザが一目でフェンリルだと確信したのは、彼女が情報通だからだ。

 『頂上種の情報を入手している』。
 これだけでそこらの探索者とは一線を画するとも言えるだろう。

「それにしても、ラフィが温厚で助かったわ」
「わふ?」
「もしこの子が怒りっぽかったら、あの二人に触れられた途端、瞬殺されているでしょうから」
「あ、あー……」

 気を付けよう。
 エアルはそう強く思った。




 しかし、そんな様子を陰から覗く者がいた。

「へえ」

 少し低めだが、その声は女性のもの。
 また、その眼はギラリと光っている。

「あれは……もしかして、もしかするのかしら」

 彼女の視線はエアルへと注がれている。
 おそらくラフィがフェンリルであると気づいたのだろう。

「頂上種を従える者、ね」

 そう言い残すと、謎の女性は足音もなく去って行った──。




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