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第11話 頂上種

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 「あのフェンリルがいるなんて……!」

 後方を振り返ったリザが、思わず声を上げる。
 それもそのはず、そこにいたのは“頂上種”と呼ばれる最強の一角だ。

 大地にとどろく遠吠え。
 なびく全身の白銀の毛。
 まとう気高き雰囲気。

 白銀の狼の名は──『フェンリル』。

「これが、頂上種……!」

 ──『頂上種』。
 それはラビリンスに生息すると言われる、四種類の“魔物の頂点”たちのことだ。

 生息地は不明。
 個体数も不明。
 分かっているのは、見た目とわずかな生態のみ。

 それでも、ランクだけは結論付けられた。
 そのランクは──SSSトリプルエス
  現状、ラビリンスでSSSランクは頂上種の四種族のみ。
 
 何度も目撃情報はあるが、討伐・捕獲は全て失敗。
 攻略組や大規模な高ランクパーティーが躍起やっきになって探すも、見つかることさえままならない。
  
 強さ、希少さ、実態の不明さ。
 どれもかんがみても、最高SSSランクにふさわしい。
 
 そんな正真正銘の化け物たちを“頂上種”と呼ぶ。

「クォン……」

 そして、“頂上種”にはそれぞれ肩書きが存在する。
 フェンリルは──『陸の王者』だ。

 そんな魔物の頂点を前に、リザは思わず言葉がらす。

「でも、どうしてこんな場所に……?」
「きっと場所を探していたんだ」
「え?」

 だが、その答えはエアルが理解しているようだ。

 エアルは先ほど『今は我慢してあげてよ』と言っていた。
 その続きを言葉にする。

「この子は今から、出産・・を迎えるんだと思う」
「えっ!?」

 全く予想外の発言に、リザは困惑を隠せない。
 だが同時に。そう考えれば今の状況も納得できることにもリザは気づく。

「たしかに……」

 出産のキーワードをもとに、リザは状況を整理する。

 フェンリルは妊娠しており、体が弱っている。
 そこをジャイアントコングをはじめとする、Aランク魔物たちが襲おうとしていたのだ。

 魔物の世界の掟は“弱肉強食”、勝利は全てなのだ。
 ならば、“頂上種”たるフェンリルに勝てば、自分が頂上となれる。

 つまり、頂上を夢見る強者たちが、弱っているフェンリルの気配を嗅ぎ付けた。
 その結果、ダンジョンを超えてはるばるやってきていたということだろう。

 それがジャイアントコングから始まる、一連の異常事態イレギュラーの流れだったのだ。

「でもフェアじゃないと思う。この子は今、戦える状態じゃない」
「エアル……!?」

 そうして、エアルは前方へ視線を向ける。
 目の前にいるのは、十体以上いるAランクオーバーの魔物たちだ。
 そんな強者たちを前に、エアルは一歩を踏み出す。

「弱肉強食に文句を言う気はない。でも──」
「……!」
「子を出産する時ぐらい、温かく見守ってほしいな」

 エアルは腰に差した剣を抜く。
 “相棒”だと言っていた古びた剣だ。

「邪魔をするなら、僕が相手になるよ」

 そのびついたはずの剣が、まばゆい光を灯した──。
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