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第5話 この世界の魔法
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「エアル、【魔法】って知ってる?」
引き続き平原を進む中、リザが唐突にたずねる。
「え、知らない」
「……なるほど」
これも彼女なりの考察のようだ。
(じゃあ、さっきのは魔法ではないか……)
まだゴブリン達との対峙を疑問に持っているのだろう。
だが、予想が外れたことで次の考察に移る。
かと思いきや、思いの外エアルが興味を持ったようだ。
目をキラキラさせたエアルが逆に聞き返した。
「ねえねえ、それより魔法ってなんなの!」
「ふふっ、ちょうどいいわ。ではあのスライムで試しましょうか」
情報は得られなかったが、リザは何でも教えると約束している。
特に気に障ることなく、構えを取った。
「じゃあ見ててね」
そう言いながらリザが前に出る。
物陰から狙うはスライムだ。
「魔法とは、こういうのを言うの」
リザが前方に伸ばした手に、ぼうっと炎が灯る。
「──【炎】」
そうして次の瞬間、リザの手から炎の球が飛び出した。
炎はスライムを貫通して焼き尽くす。
「こんな感じにね」
「おお~」
パチパチと拍手をするエアルに、リザはそのまま話を続けた。
「魔法は、ダンジョンの宝箱や、魔物のドロップアイテムなど、色んな場所から会得できるわ」
「ほー」
「もちろん難易度が高いダンジョンほど、会得できるものは強力になるわね」
魔法もまた“未知”の一つ。
探索者を魅了して止まない要素だ。
「なるほど……あ」
だが、今の説明でエアルは何かピンときたようだ。
それを示すよう、リザと同じく前方に手を構える。
「魔法って、もしかして……」
「え?」
そこには炎が──
「うわああああああああッ!!」
「きゃああああああああッ!!」
灯る直前、突如として大声が聞こえてくる。
「え!?」
「叫び声!?」
エアルはとっさに手を引っ込め、リザと共に辺りを見渡す。
どう考えても普通じゃない悲鳴だ。
何か事態が起きたのかもしれない。
そんな時、茂みから男の探索者が飛び出してきた。
悲鳴のあった方向からだ。
「うわああああ!」
「あの、何があったんですか!」
リザがとっさに男に尋ねる。
こんな時は何より情報が必要だ。
対して、男は焦った顔で声を上げた。
「『ジャイアントコング』が出たんだ!」
「……え?」
「この先だ! お前らもさっさと離れろ!」
「ちょっ!」
そう言い残し、男は全力で逃げていく。
「こんなところに、ジャイアントコングですって……?」
リザは持っていた情報を思い出す。
──『ジャイアントコング』。
強靭な肉体を持つ、巨大なゴリラ型魔物だ。
四本の腕を持ち、それぞれ何トンもの握力を持つと言われる。
魔物ランクは“A”ランク。
当然、『はじまりの平原』にいていい魔物ではない。
それどころか、いくつも先のダンジョンですら強力な魔物と言える。
「……っ」
そうしてリザが考える内にも、次々に探索者が逃げていく。
「うわあああ!」
「きゃああ!」
「早く、早く進んでくれ!」
いわゆる異常事態だ。
こういった事態の時は、直ちに上級探索者へ報告される。
リザも離れるように踵を返しながら、エアルを引っ張ろうとした。
「エアル、ここは退くべき──」
「ダメだ」
「!?」
しかし、エアルが退かない。
何やら目をつぶり、耳を澄ましているようだ。
「まだ聞こえるんだ」
「え?」
「大きな足音が一つ、それから逃げる人の足音が三つ」
「……!?」
ジャイアントコングの発見地までは、おそらく距離がある。
それでもエアルは確信を持っているようだった。
この感性は、もはや『野生』と言う他ない。
これも故郷のダンジョンで鍛えられた能力である。
「エアル、まさか……」
「うん。そんなに危険ならリザは下がるべきだ。でも──」
そして、エアルは一歩踏み出す。
逃げる方角ではなく、Aランク魔物『ジャイアントコング』の方角へ。
「僕は彼らを置いていけないよ」
引き続き平原を進む中、リザが唐突にたずねる。
「え、知らない」
「……なるほど」
これも彼女なりの考察のようだ。
(じゃあ、さっきのは魔法ではないか……)
まだゴブリン達との対峙を疑問に持っているのだろう。
だが、予想が外れたことで次の考察に移る。
かと思いきや、思いの外エアルが興味を持ったようだ。
目をキラキラさせたエアルが逆に聞き返した。
「ねえねえ、それより魔法ってなんなの!」
「ふふっ、ちょうどいいわ。ではあのスライムで試しましょうか」
情報は得られなかったが、リザは何でも教えると約束している。
特に気に障ることなく、構えを取った。
「じゃあ見ててね」
そう言いながらリザが前に出る。
物陰から狙うはスライムだ。
「魔法とは、こういうのを言うの」
リザが前方に伸ばした手に、ぼうっと炎が灯る。
「──【炎】」
そうして次の瞬間、リザの手から炎の球が飛び出した。
炎はスライムを貫通して焼き尽くす。
「こんな感じにね」
「おお~」
パチパチと拍手をするエアルに、リザはそのまま話を続けた。
「魔法は、ダンジョンの宝箱や、魔物のドロップアイテムなど、色んな場所から会得できるわ」
「ほー」
「もちろん難易度が高いダンジョンほど、会得できるものは強力になるわね」
魔法もまた“未知”の一つ。
探索者を魅了して止まない要素だ。
「なるほど……あ」
だが、今の説明でエアルは何かピンときたようだ。
それを示すよう、リザと同じく前方に手を構える。
「魔法って、もしかして……」
「え?」
そこには炎が──
「うわああああああああッ!!」
「きゃああああああああッ!!」
灯る直前、突如として大声が聞こえてくる。
「え!?」
「叫び声!?」
エアルはとっさに手を引っ込め、リザと共に辺りを見渡す。
どう考えても普通じゃない悲鳴だ。
何か事態が起きたのかもしれない。
そんな時、茂みから男の探索者が飛び出してきた。
悲鳴のあった方向からだ。
「うわああああ!」
「あの、何があったんですか!」
リザがとっさに男に尋ねる。
こんな時は何より情報が必要だ。
対して、男は焦った顔で声を上げた。
「『ジャイアントコング』が出たんだ!」
「……え?」
「この先だ! お前らもさっさと離れろ!」
「ちょっ!」
そう言い残し、男は全力で逃げていく。
「こんなところに、ジャイアントコングですって……?」
リザは持っていた情報を思い出す。
──『ジャイアントコング』。
強靭な肉体を持つ、巨大なゴリラ型魔物だ。
四本の腕を持ち、それぞれ何トンもの握力を持つと言われる。
魔物ランクは“A”ランク。
当然、『はじまりの平原』にいていい魔物ではない。
それどころか、いくつも先のダンジョンですら強力な魔物と言える。
「……っ」
そうしてリザが考える内にも、次々に探索者が逃げていく。
「うわあああ!」
「きゃああ!」
「早く、早く進んでくれ!」
いわゆる異常事態だ。
こういった事態の時は、直ちに上級探索者へ報告される。
リザも離れるように踵を返しながら、エアルを引っ張ろうとした。
「エアル、ここは退くべき──」
「ダメだ」
「!?」
しかし、エアルが退かない。
何やら目をつぶり、耳を澄ましているようだ。
「まだ聞こえるんだ」
「え?」
「大きな足音が一つ、それから逃げる人の足音が三つ」
「……!?」
ジャイアントコングの発見地までは、おそらく距離がある。
それでもエアルは確信を持っているようだった。
この感性は、もはや『野生』と言う他ない。
これも故郷のダンジョンで鍛えられた能力である。
「エアル、まさか……」
「うん。そんなに危険ならリザは下がるべきだ。でも──」
そして、エアルは一歩踏み出す。
逃げる方角ではなく、Aランク魔物『ジャイアントコング』の方角へ。
「僕は彼らを置いていけないよ」
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