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第57話 地下三階『魔境』

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 「では開けます!」

 宣言して、地下三階の扉を開く。
 その瞬間、カメラは景色を引きで捉えた。

《うおおおお!?》
《えっ?》
《なにこれえっぐ……》
《すっげえ》
《ファンタジーの世界かよ……》

 その幻想的な景色に視聴者がコメントを書き込む。
 俺もより雰囲気を出せるよう、光景を表現した。

「最初に視界に入ってくるのは、真っ直ぐ続く道をいろどるよう、両脇から生える豊かな新緑」

《ん?》
《どした?》

「斜め上からは木漏こもが差し込み、高く伸びる木々をより際立たせる」

《ホシ君?》
《詩人になっちゃった?》

「夏を思わせる風景ではあるものの、セミの鳴き声や暑さはまるでない。耳を気持ち良く通り過ぎていくのは、近くを流れる川とゆらゆらと揺れる木々の涼やかな音のみ」

《これ、誰?》

「まるで都会の喧騒けんそうを離れ、山奥に来た時のような高揚感。この光景は、それを覚えさせてくれる素晴らしい情景だ」

《なんかエモくなってきた》

「って感じで読むのよ、ホシく……あ、やべっ」

 と、余計に読んでしまったところで、浮遊型カメラがぐりんとこちらを向く。
 さっと隠した紙を見られて、コメント欄は納得の様子を見せた。

《なんだあw》
《エリカお姉さんのカンペねw》
《カメラから隠れて読んでるの草》
《詩人になりたかったの?ww》
《最後にボロ出たなあw》

「くぅぅ」

 実はこういうことも出来ちゃうんです、って見せたかったのに。
 姉さん余計なこと書かなくていいよ!

「で、でも、雰囲気は伝わりましたよね!」

《まあねw》
《それっぽかったw》
《ラジオ代わりで聞いてるので助かります!》

「ほっ」

 温かいコメントに安心して、改めて風景を見渡す。

 扉を開けた先は、林道。
 誰が作ったのかは謎だけど、奥に続くように伸びていて道を示してくれる。
 あとは、ちょうど良い陽射しと川があってめっちゃ気持ち良い。

「それにしても不思議ですよね」

 俺が見上げるのと同時に、カメラも上を向く。
 
 すぐ後ろには扉もあるのに、ここに入った瞬間に天井はなくなる。
 どこまでも続く空から陽の光が注ぐんだ。

 ダンジョンって本当に不思議。
 
「じゃあ進みますか」

 そんなエモい地下三階の入口から、俺は目的地を目指して歩き始めた。




 くねくね曲がる林道を逆らわずに歩いて、しばらく。
 
「今度は虫取り網を持ってこようかなあ」

《ホシ君似合うわw》
《ウッキウキでかわいい》
《いよいよ小学生だけどなw》

「べ、別にウキウキしてるじゃないんですからねっ!」

 視聴者さんに気持ちを察知されそうになって、とっさに誤魔化ごまかす。
 そんな雑談も交えながら、結構進んで来たと思う。

《まじで幻想的》
《綺麗だなあ》
《魔素水の川は当たり前に流れてますと》

 ここまで来ても、光景に関するコメントは絶えない。
 むしろ次々と出てくる新しい景色に夢中になってるみたいだ。

「それなら、今度探索配信も良いかもしれないですね」

《え、まじ!》
《してほしい!》
《見たい!》

 うんうん、視聴者さんの反応は良い。
 せっかく夏休みだしそういうのもアリかな。

「あーでも……」

 そこまで大きなことをやるとなると、あの人・・・に許可を取らないといけないのかあ。
 今回は目的があるという名分はあるけど、それはちょっと面倒だな。

 まあ、後で考えよっと。

「お」

 そんな時、ちょうどよく林道の分かれ道が見えてくる。
 ここまで来ればもうすぐだ。

「こっちです。目的地はもうすぐそこですよ」

 分かれ道を過ぎてすぐ。
 ようやく目的地が姿を現した。

「ここですね」

 そこでまた出てきた新たな光景に、視聴者も釘付けになった。

《はえっ!?》
《なんだここ!?》
《急に!?》
《雰囲気はあるけど……》
《まじで秘境じゃん》

 林道の両脇から、通る人を囲むような鳥居。
 それがいくつもいくつも連なり、奥には大きな神社が見える。
 京都にも似たようなものがあったような、なかったような。

「今回の目的地『妖狐神社』ですね」

《妖狐神社!?》
《キツネと神社のイメージはあるけど……》
《世界観すげえな》
《急にこんなの出てくんのかよ》
《これは魔境……》
《どうなってんだ》

「もう少し進みます」

 そうして、幾重いくえにも重なる鳥居の中を進んでいき、最後に大きな鳥居をくぐった。

 目の前には赤色に染まった幻想的な神社。
 伝統的な笛の音なんかが聞こえてきそうな雰囲気だ。

「よし」

 そこで俺は、二週間前と同じように声を掛けた。

「ごめんくださーい」

 すると、のそのそと奥から音が聞こえてくる。
 明らかに大きな獣の足音だ。

 そうして──

「よく来たわね」

 九つの尻尾を持つ大きな狐が姿を現し、こちらをじっと見つめた。
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