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第二章 ホシ君の夏休み
第56話 責野の予感
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<三人称視点>
一方、ホシが配信を開始したのと同時刻。
街のギルドにて。
「こんにちは。やってるかしら」
軽い挨拶と共に、会議室へ責野が入ってくる。
「せ、責野局長! お疲れ様です!」
「お疲れ様。けど、私はもう局長じゃないわよ」
「あ、すみません! なんとなく名残で……」
そんな元部下にも、責野はポンと肩に手を乗せた。
「じきに慣れてくれればいいわ。改めて、私のことは『責野』で」
「は、はい! 責野さん!」
部門は別れても、相変わらずできる上司の優しさを見せる責野。
だが、ここで思わぬ反撃を受ける。
「でも良かったですよね、責野さん!」
「何の話?」
「今の役職に就けて!」
「え?」
責野の現在の役職は『彦根ホシ管理部長』。
それについて、元部下は意気揚々と続ける。
「これで責野さんも、ずっと彼のペット達を観察できますよ!」
「ま、まあ、悪くない仕事ではあるわね」
「そうではなく!」
「え?」
若干動揺する責野。
それにも構わず元部下は続けた。
「だって責野さん、彼の家のペット大好きじゃないですか!」
「……え?」
一瞬、時が止まったかのような雰囲気が流れ、責野は咄嗟に否定した。
「いやいやいやいや! い、一体なにを言っているのかしら!?」
「あれ、違ったんですか?」
「ち、違うわよ! あくまで仕事の一環として! よーくじっくりと観察してるだけよ!」
口をあわあわさせながら、必死に抵抗する責野。
そんなちょっと暴走気味の元部下を、後ろからギャル職員が口を抑えた。
「ちょっと! それは直接責野さんに言っちゃダメでしょ!」
「むぐっ! ど、どうして!」
「責野さんは立場を守るために、あえて隠してるんだから! 空気を読みなさい!」
「そ、そうだったんですか」
小声で話す元部下の二人。
だが、責野は一言一句聞き逃していなかった。
「ち、違うもん……」
尻すぼみに言葉を発して、口を尖らせる責野。
彼女がまだバレていないと思っていた「ホシのペットが好き」という事実。
それはすでに、ギルド内で暗黙の了解となっていたようだ。
「そ、それで責野さん!」
「何よ……」
暗黙の了解を破った男性職員は放っておいて、ギャル職員が再び話を聞く。
「今日はどういった用件で?」
「あ、ああ、そうだったわね。ちょっと相談をしたくて」
「相談ですか?」
「ええ」
話が切り替わった途端、目をキリっとさせる責野。
その真剣でどこか不安げな眼差しは、この街の山奥を見つめていた。
視線の先にあるのは……ホシの家だ。
「また嫌な予感がするの」
★
<ホシ視点>
「地下三階『魔境』に突撃ぃ!」
右手を上げて宣言すると、コメント欄も大いに沸いてくれた。
《出た!》
《地下三階!》
《ついに来るのか!》
《きたあああ!》
《今さら魔境って言われてもなあw》
《ホシ君の言う魔境ってなんなんだ……》
「あ、そうですねー……」
後半の反応を見て、俺は改めて自宅ダンジョンについて説明をしてみる。
地下一階は『遊び場』。
地下二階は『生活スペース』。
ここ二つはほとんど家みたいなものなので、よく行き来する。
「で、次にあるのが『魔境』です」
そして、地下三階は『魔境』。
急にどうしたって感じだけど、おじいちゃんが言っていたのでそう呼んでる。
「ここはまあまあ未開の土地でして……」
そんな地下三階は、とにかく広い。
一階・二階とは比べものにならないほどに。
もはや、一つの独立したダンジョンといった方が良いかも。
《なんで家に未開の地があんだw》
《相変わらずぶっ飛んでるなこの自宅ダンジョン》
《規模えぐい》
「そうなんですよね」
どうしてこうなってるかは分からない。
なんとなく知ってる種族はいくつかあるけど、一番奥まで行ったことがないから、家主の俺でも全てを把握しているわけじゃないんだ。
「今のところ、特に不便はないですが」
それでも平和なのは、地下三階と家の間にはある『ルール』が決められているから。
ここに住む種族は『自由に過ごしていいから厄介事は起こさない』というものだ。
それもあって、住人は勝手に外には出てこない。
ちなみに、これを決めたのもおじいちゃん。
「おじいちゃんにはちゃんと聞いておくべきでした……」
《おじいちゃんまじで偉大》
《どんなおじいちゃんやねんw》
《ホシ君の面倒を見てた時点で偉大なんだよなあw》
「まあ、そうも言ってられないので、早速行きましょうか」
そんなこんなをしている内に、階段を下り終えて、地下三階の扉前。
ここを開けるとその『魔境』だ。
「では開けます!」
俺はゆっくりとその扉を開けた。
途端にぶわっと広がる景色。
浮遊型カメラは、それを引きで捉えた──。
一方、ホシが配信を開始したのと同時刻。
街のギルドにて。
「こんにちは。やってるかしら」
軽い挨拶と共に、会議室へ責野が入ってくる。
「せ、責野局長! お疲れ様です!」
「お疲れ様。けど、私はもう局長じゃないわよ」
「あ、すみません! なんとなく名残で……」
そんな元部下にも、責野はポンと肩に手を乗せた。
「じきに慣れてくれればいいわ。改めて、私のことは『責野』で」
「は、はい! 責野さん!」
部門は別れても、相変わらずできる上司の優しさを見せる責野。
だが、ここで思わぬ反撃を受ける。
「でも良かったですよね、責野さん!」
「何の話?」
「今の役職に就けて!」
「え?」
責野の現在の役職は『彦根ホシ管理部長』。
それについて、元部下は意気揚々と続ける。
「これで責野さんも、ずっと彼のペット達を観察できますよ!」
「ま、まあ、悪くない仕事ではあるわね」
「そうではなく!」
「え?」
若干動揺する責野。
それにも構わず元部下は続けた。
「だって責野さん、彼の家のペット大好きじゃないですか!」
「……え?」
一瞬、時が止まったかのような雰囲気が流れ、責野は咄嗟に否定した。
「いやいやいやいや! い、一体なにを言っているのかしら!?」
「あれ、違ったんですか?」
「ち、違うわよ! あくまで仕事の一環として! よーくじっくりと観察してるだけよ!」
口をあわあわさせながら、必死に抵抗する責野。
そんなちょっと暴走気味の元部下を、後ろからギャル職員が口を抑えた。
「ちょっと! それは直接責野さんに言っちゃダメでしょ!」
「むぐっ! ど、どうして!」
「責野さんは立場を守るために、あえて隠してるんだから! 空気を読みなさい!」
「そ、そうだったんですか」
小声で話す元部下の二人。
だが、責野は一言一句聞き逃していなかった。
「ち、違うもん……」
尻すぼみに言葉を発して、口を尖らせる責野。
彼女がまだバレていないと思っていた「ホシのペットが好き」という事実。
それはすでに、ギルド内で暗黙の了解となっていたようだ。
「そ、それで責野さん!」
「何よ……」
暗黙の了解を破った男性職員は放っておいて、ギャル職員が再び話を聞く。
「今日はどういった用件で?」
「あ、ああ、そうだったわね。ちょっと相談をしたくて」
「相談ですか?」
「ええ」
話が切り替わった途端、目をキリっとさせる責野。
その真剣でどこか不安げな眼差しは、この街の山奥を見つめていた。
視線の先にあるのは……ホシの家だ。
「また嫌な予感がするの」
★
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「地下三階『魔境』に突撃ぃ!」
右手を上げて宣言すると、コメント欄も大いに沸いてくれた。
《出た!》
《地下三階!》
《ついに来るのか!》
《きたあああ!》
《今さら魔境って言われてもなあw》
《ホシ君の言う魔境ってなんなんだ……》
「あ、そうですねー……」
後半の反応を見て、俺は改めて自宅ダンジョンについて説明をしてみる。
地下一階は『遊び場』。
地下二階は『生活スペース』。
ここ二つはほとんど家みたいなものなので、よく行き来する。
「で、次にあるのが『魔境』です」
そして、地下三階は『魔境』。
急にどうしたって感じだけど、おじいちゃんが言っていたのでそう呼んでる。
「ここはまあまあ未開の土地でして……」
そんな地下三階は、とにかく広い。
一階・二階とは比べものにならないほどに。
もはや、一つの独立したダンジョンといった方が良いかも。
《なんで家に未開の地があんだw》
《相変わらずぶっ飛んでるなこの自宅ダンジョン》
《規模えぐい》
「そうなんですよね」
どうしてこうなってるかは分からない。
なんとなく知ってる種族はいくつかあるけど、一番奥まで行ったことがないから、家主の俺でも全てを把握しているわけじゃないんだ。
「今のところ、特に不便はないですが」
それでも平和なのは、地下三階と家の間にはある『ルール』が決められているから。
ここに住む種族は『自由に過ごしていいから厄介事は起こさない』というものだ。
それもあって、住人は勝手に外には出てこない。
ちなみに、これを決めたのもおじいちゃん。
「おじいちゃんにはちゃんと聞いておくべきでした……」
《おじいちゃんまじで偉大》
《どんなおじいちゃんやねんw》
《ホシ君の面倒を見てた時点で偉大なんだよなあw》
「まあ、そうも言ってられないので、早速行きましょうか」
そんなこんなをしている内に、階段を下り終えて、地下三階の扉前。
ここを開けるとその『魔境』だ。
「では開けます!」
俺はゆっくりとその扉を開けた。
途端にぶわっと広がる景色。
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