ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航

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第一章 ホシとペットと仲間と

第53話 戦いを終えて

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<ホシ視点>

 天気もいい夏の空。
 学校帰りに街の様子を見に行くと、姉さんの声が響いていた。

「次はこっちよ~」

 ここはショッピングモール『ブドウ』。
 今は閉業しているけど、もうそろそろ再開できそうだ。

「もう少しだね、姉さん」
「あっ、ホシ君!」
「だーくっ付かないで! 暑いから!」

 街に魔物が出現した『魔物災害』から一週間。
 人の被害はなかったものの、建物の被害は多少あったことで、元通りまでは一か月はかかるだろうと言われていた。

 だけど、そんな復興作業はもう終盤しゅうばん
 それもあの子達のおかげかな。

「「「こーん!」」」

 あの子達は『妖狐ようこ』。
 うちの地下三階に住む種族の一つだ。

「みんな偉いじゃないか」
「こん!」

 明るい黄色をした、もふもふの毛並み。
 思わず抱き着きたくなる尻尾。
 細い目と獣耳を持った可愛い子達だ。

「応援を頼んで正解だったわ、ホシ君」
「そうだね」

 地下三階は、一階・二階と比べるとかなり広大なエリアだ。
 うちの敷地内というよりは、一つの独立したダンジョンと言った方が正しい。
 その中で村を形成する種族がいくつかあるぐらいだからね。

 ダンジョンができたのはおじいちゃんの代だし、なんでそうなっているのかは全然分からない。
 だから、生活をするのは一・二階で、三階にはあまり寄り付かないようにしているんだ。

 おじいちゃん曰く『魔境』らしいし。

「この子達は安全なんだけどね」

 その中でも、妖狐達は友好的な種族。
 入口から近くに村があって、数も多いから今回は思い切って頼んでみた。
 おかげで、こうして人に代わって復興作業をしてもらっている。

「こん!」
「ここん!」
「こーん!」

 会話をしながら、せっせと物を運ぶ妖狐達。
 あれも機械を使わないと運べないだろう。
 そんなみんなの協力もあって、復興作業は何倍も早く進んだんだ。
 
「ホシ君。妖狐の親玉には何を渡すか考えたの?」
「……いや?」

 だけど、手伝ってもらっているのは条件付き。
 ショッピングモールを一刻も早く復興させたいがために、妖狐の親玉に「何か献上しますから!」と無理を言って人員(魔物員)を借りてきたんだ。

「大丈夫なの?」
「まーなんとかなるでしょ」
「そうね。いざとなったらお姉さんが力づくで──」
「それはやめて」

 うちと地下三階エリアの間には、おじいちゃんが決めたルールがある。
 たしか「三階を提供してあげているから厄介事は起こすな」的な。

 そのおかげで、どの種族も勝手にダンジョンからは出ないようになっている。

「何か地上のお土産でも持って行けば喜ぶよ」
「うん。ホシ君が言うなら間違いない!」

 ちなみに、このショッピングモールに魔物があふれだしたのは、ダンジョンの入口が地中にできていたからだった。
 責野さん曰く「そんなこと今までになかった」らしいけど。
 姉さんがたまたま居てくれて助かったな。

「ん」

 そんなところに通話がかかってくる。
 相手は……お、ブルーハワイだ。

『あ、ホシ? 東の工場も終わったわよ』
「おおー」

 ショッピングモールは姉さん、東の工場はブルーハワイに先導を切ってもらって修理していたんだ。

 また魔物が出る恐れもあったからね。
 めろんやわたあめ、いちごはあっちにいる。

『じゃ、あたしは帰るわ! もう暑すぎて無理!』
「うん、お疲れ様。ありがとうね」

 そうして、早々に通話を終えてほっと一息つく。

「これで本当に終わったんだな」

 突如として訪れた異変。
 人の被害はなく、建物の復興ももう終わる。
 この大好きな街を本当に守れて良かった。

「あの、彦根ホシ君?」
「あ!」

 そんな時、後ろから声を掛けられる。
 振り返るまでもなく相手は分かった。
 
「責野さん!」
「こんにちは。もうすぐ作業も終わるって聞いて」
「そうみたいですね」

 嬉しそうに両手を合わせながら、責野さんは妖狐達に目を向ける。

「あぁ、もふい……」
「責野さん?」
「はっ! これは失礼を!」

 なんだか目がハートになっていた気もするけど、すぐに正気を取り戻した。
 そしてそのまま、かばんから何かを持ち出す。

「これ、ほんの気持ちだけど」
「え、いいんですか!」

 出されたのは高級そうなお菓子。
 俺はウキウキでもらおうとする……けど、途中で姉さんの手がそれをさえぎった。

「責野さんでしたっけ~?」
「は、はい」
「これは一体どういうおつもりで?」

 わざとらしく姉さんが邪魔をしたんだ。
 まったく、姉さんは変わらないんだから。

「……もう会えないからです」
「え?」

 だけど、責野さんはいつもみたいに姉さんにきょどったりはせず、少し視線を下げて言葉にした。

最後・・に君に会えて良かったです。彦根ホシ君」
「え? それってどういう……?」
「改めてありがとうね」
「あ」

 責野さんは多少強引に俺にお菓子を預けて一礼。
 そのまま背を向けて、他の作業員さんのところに行ってしまった。

「どういうことだろう」

 あの巨大な魔物を倒した後は、これでもかってほどに感謝をされた。
 周りのみんなにもだけど、責野さんには特にお礼をされたんだ。

 だから今更どうこうってことはないけど、その後ろ姿は何だか寂しく見えた。

「ふーん……」

 そんな責野さんを、姉さんも目を細めたままじっと見つめていた。
 姉さんは何かを察したみたいだけど。

「それよりホシ君、今日の進捗を作業員さんに伝えに行きましょ」
「う、うん」

 そうして、街の復興作業を続けたのだった。
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