ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航

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第一章 ホシとペットと仲間と

第49話 それぞれの戦い

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 ショッピングモール『ブドウ』。

「あらあら」
「グギギギッ!」

 ほんの三分前、突如として一階からあふれた魔物たち。
 だがその勢いは完全に止まり、黄緑色に光るツタで全魔物がしばり上げられている。

「よくこんなので地上に出てきたものね」
「グギャァッ!」

 エリカによるツタの束縛そくばくだ。

 黄緑色に光り、決して千切れることのないその神秘のツタ。
 それらは飛び出した魔物を縛り上げ、さらに崩れかけたショッピングモール全体を支えている。

「この看板は、あの辺だったかしら」

 その上で、エリカは手術のように建物を直していく余裕すら残す。
 地上に出てきた魔物が全て「魔核持ち」の強力な個体だったとしても、エリカの前では成すすべもなかったのだ。

 そんなエリカに、ナナミが後方から叫ぶ。

「エリカさん! 全員避難は済みました!」
「あら優秀だこと」

 ナナミは自ら率先して、建物内の人を全員避難させた。
 泣き叫んでいた女の子、逃げ遅れたおばあちゃん、多くの人々を救ったのだ。

 前回の正妻戦争のこともあり、エリカもナナミのことは認めているよう。

「じゃあ、あなたも避難しなさい」
「は、はい!」

 ナナミを見送った後、エリカは再び魔物たちに目を向ける。

「……さてと」

 そうして浮かべるのは、不気味な笑顔・・・・・・
 たまに見せる「目が笑っていない笑顔」だ。

「よくもやってくれたわね?」
「グギッ!?」

 魔物たちを縛り上げるツタの強度を高め、首を潰しにかかる。
 ナナミの手前隠してはいたが、今のエリカは怒りに満ちている。

「ここはホシ君の好きな物がいっぱいあるのに!」

 ショッピングモールをめちゃくちゃにされたことが許せなかったようだ。

「お野菜も!」
「グギッ!?」

「ゲームセンターも!」
「グギャッ!」

「ガチャガチャのコーナーだって!」
「グ……ギャ……」

 怒りをぶつける度にツタの強度が上がっていく。
 すでに魔物たちの息は絶え絶えだ。

「……いっそ」

 冷たい目を向けたエリカは言い放つ。
 
「あなたたちを炒め物にしてやろうかしら」
「グギャギャー!」

 だが、その言葉をすぐに撤回した。

「──冗談よ」
「ギャッ……!」

 そうして、エリカは遺言を聞く間もなく魔物たちの首をねる。
 血しぶきは全てツタが吸収し、ショッピングモールには一切付いていない。

「こんな雑種、食べられたものじゃないわ」

 そのままエリカが振り向いたのは、街の東の方。
 ギルドには報告があった、工場方面だ。

「あっちに方でも魔物が……いえ」

 しかし、その顔はすぐに安心したものに変わった。
 エリカがこの表情を浮かべる人物は、一人しかいない。

「もう大丈夫そうね」






 一方その頃、『原初ダンジョン』下層。

「はああああッ!」
「グオオオォォ!」

 ヒカリが、両手に持つ輝く聖剣で魔物を斬る。
 ここにいるのは全て魔核持ちだ。

「はッ!」
「グ、オォ……」

 そんな相手に、ヒカリは一歩も引かないどころかぎ倒し始める。
 一緒に戦うブルーハワイも驚きを隠せない。

「やるじゃないあんた!」
「君よりは倒してないけどね!」
「人間でそれだけ出来れば十分よ!」

 先程、ピンチをブルーハワイに救われたヒカリ。
 追い詰められていた状況からは一転、ブルーハワイとの協力で打開し始めたのだ。
 これこそ、高校生唯一のSランク探索者──日向ヒカリの実力だ。
 
 そうして、

「ギャオオオオオオオ!」

 気が付いてみれば残る魔物は一匹。

「あいつがラストかしら」
「そうみたいね」

 残ったのは鬼型魔物【オーガ】。
 通常ならばCランクといったところだろう。

 だが、ここにいるということは明らかに魔核持ち。
 その力は通常のSランクをもしのぐかもしれない。

「怖気づいた? 日向ヒカリ」
「そんなわけないでしょ!」
「へー。ホシが言ってた通りじゃない」
「え?」

 そんな中で、ブルーハワイの言葉が気になるヒカリ。

「なに、何って言ってたの!」
「ちょ、急にどうしたのよ。えらく気にするじゃない」
「だって!」
「ははーん」

 ブルーハワイはニヤアっとした顔を浮かべる。

「あんた、ホシのこと好きなの?」
「……! い、いや、別にっ!」
「わかりやす~い」

 ぷぷぷと口元を抑えるブルーハワイ。
 
「だったらなおさら、ここを抜けなきゃね」
「もう! そうじゃないって言ってるでしょ!」
「ほら、いくわよ」
「だからー!」
 
 そう言いながらも、ヒカリも聖剣を握り直す。
 すでに二人の息はぴったりだ。
 これもヒカリの対応力があってこそだろう。

「ギャオオオオオオオ!!」
「うっさいわね!」
「はああああッ!」

 オーガの大振りの金棒を華麗に躱し、二人は頭の上へ。
 
「弾けちゃえっ」
「斬る!」

 ブルーハワイは『シャボン水玉』でオーガの体を内側から崩す。
 そしてそのまま、ヒカリが脳天から地面までを一筋の光のように貫いた。

 これで魔物は全滅。
 二人の完勝だ。

「はー、やっと静かになった」
「ありがとう。ブルーハワイちゃん」
「いいって、いいって~。だってホシの友達でしょ?」
「ま、まあ……うん、多分」

 顔を若干赤くしながら、こくりとうなずくヒカリ。
 自分でも曖昧あいまいに思っているようだ。

「はっ!」

 そこでようやく目的を思い出すヒカリ。

「そうだ、地上! 地上に行かないと!」
「え、どうして?」
「魔物が飛び出しているかもしれないの!」

 通信が切れた責野には伝えられなかったが、地上には魔物があふれだしているかもしれない。

「ふーん」
 
 だが、ブルーハワイは特に興味がなさげ。
 それもそのはず、ブルーハワイは確信していたようだ。

「地上なら大丈夫じゃないかしら」
「どうして!」

 ブルーハワイは地上方向を見上げ、何か気配を探るかのような素振りを見せた。

「怒らせちゃいけない人を怒らせたもの」







 同時刻、東の工場近くのダンジョン入口。

「ヴオオオオオオォォォ……!」

 一際大きな、唸るような咆哮ほうこうを上げる魔物。

 黒ずんだ体はゴツゴツしており、二足歩行。
 上半身には、魔素の塊のような光る心臓のようなものも見て取れる。

 ショッピングモールやダンジョン内に出現した魔物よりも、明らかに巨大な個体だ。

「ふーん」

 そこに現れる、一人の少年。

「責野さんに言われて来たけど、これが親玉だね」

 彦根ホシだ。

 ただ、今のホシは怒っている風に見える。
 まるでいつかの時のデジャヴのように。

 そんな彼は鋭い目付きで言い放った。

「街をおそった罪は重いよ」
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