ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航

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第一章 ホシとペットと仲間と

第25話 彦根ホシという少年

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 「彦根、ホシ……?」

 怪我を負い、深層という絶望的場所で追い詰められたヒカリ。
 彼女に迫る大剣を間一髪弾いたのは──ホシ。

 彼の登場に、コメント欄は今までにない勢いを見せる。

《うわああああああ!!》
《彦根ホシ!?》
《まじで!?》
《きたあああああ!》
《ありがとう!!》
《本気で泣いてる》
《本物かよ!!》
《お前しかいねえ!》

 しかし、それも関係ない。
 静かに怒り、悲しんでいるホシは魔物に告げる。

「ハンバーグの罪は重いよ」

 ホシの睨みつけるような目付き。

「「「ヴオォッ……!?」」」

 そのあまりの鋭さに震える魔物たち。
 そこまで怒ることなのか、とはツッコむことができるはずもない。

 一方でコメント欄は、ヒカリの配信を見ていた者、ホシの配信を見ていた者に二分する。

《え?》
《ハンバーグ?》
《???》
《どういう意味?》

《食べられなかったかあ笑》
《お姉さんのハンバーグ;;》
《我慢できてえらい》
《助けに来てえらい》

 それと共に跳ね上がるように伸びていく視聴数。
 25万、30万、37万……なんと一気に50万人に到達。
 
 元々のヒカリの視聴者に加え、ホシからの視聴者がなだれ込んできたのだ。

「どうして……」

 そんな状況でも、ヒカリはホシの後ろ姿をじっと見つめる。

 誰から聞いたのか。
 どうやって来たのか。
 
 色んな疑問が頭を駆け巡る中、ヒカリは一番聞きたいことを言葉にした。
 
「どうして……助けに来てくれたの?」

 ホシはヒカリを見つめながら飄々ひょうひょうと答える。

「君がコメントをくれたから」
「……はい?」

 探索者の世界は非情。
 自分の身が一番大切なのは誰にとっても同じだ。

 さらにここは、Sランクダンジョンの深層。

 第一線で活躍してきたヒカリは、こんな場所にわざわざ助けに来る命知らずがいるとは思えない。
 しかもそれが「コメントをくれたから」という訳の分からない理由なんて、納得できるわけがない。

「ほら。前の配信で魔素水を教えてくれたじゃん」
「そ、そうだけど! それだけなわけないでしょ!」
「それだけだよ?」
「そんなの……!」

 ただ、コメント欄の様子は彼女とは違った。

《ホシ君だからなあw》
《そういう奴》
《ズレてるんよw》
《そもそも深層を脅威と思ってない説》
《↑これ》
《コメントしてくれたからwww》
《コメント>深層の化け物》

 それが彦根ホシという少年なのだ。

「……っ」

 無理やり納得するしかないヒカリ。
 正気を取り戻すと、ハッとさっきの事を思い浮かべる。
 
「それより体は大丈夫なの!? まともに大剣食らったでしょ!」
「全然大丈夫じゃない」
「え」

 ホシは苦しそうな顔を浮かばせながら、ヒカリへ手を向ける。
 そこにはほんの少しだけ・・・・・・・青くなっている小指。

「これ絶対突き指・・・だよ。いってー」
「……つ、突き指?」 

 普通なら体が真っ二つでもおかしくない攻撃。
 そんな状況で出てきたのはまさかの「突き指」。
 ヒカリはまるで理解ができない。

(な、何を言っているの……?)

《草》
《拳で受けて突き指で済ますなww》
《Sランクの化け物の大剣やぞw》
《ホシ劇場始まったわw》
《これがホシクオリティ》
《勝 ち 確 演 出》
《完全に流れ変わりました》

「で、でも! さすがに一人でこの相手は!」
「大丈夫だよ。あ、ほらほら」
「──!?」

 心配の声を上げるヒカリに、ホシは入口方向を指差す。
 すると鳴き声が聞こえてきた。

「ギャオオオオ!」
「クォ~~~ン!」

 めろんとわたあめだ。

《めろーん!》
《わたあめもいる!!》
《きたあああああ!!》
《やっぱりいたのか!》
《これはいける!》
《助かるぞ!》

 だが、ホシは到着した二匹に「めっ」と頭をポンと叩いた。

「遅いぞー。急いでたら置いて行っちゃったじゃん」
「ギャウ……」
「クゥン……」

《お前が一番速かったんかいw》
《フェンリルよりも……?》
《なんだこいつw》
《あーもうめちゃくちゃだよ》
《もはやギャグだろ》
《皆さん安心してください戦いは終わりました》

「……え、え?」

(待って。本当に訳が分からない……!)

 目の前で繰り広げられるホシ劇場。
 ヒカリは自分との温度差に頭を抱えてしまう。
 もはやピンチなのかすら分からなくなってきた。

 そうして、ホシはようやく魔物に向き直る。

 ここからはお仕置きの時間。
 ハンバーグの恨みを晴らす時だ。

「お前が一番強そうだな」
「ヴオオオォォォ……」

 ホシが目を付けたのは、ヒカリが戦っていた魔物【死霊しりょう剣士・スケルトンキング】だ。
 それを見たヒカリが声に上げる。

「彦根ホシ! あいつの胸から何か光ってるの! あれが光ってから急に強くなって!」
「ふーん」
「ふ、ふーんって……」

《出たなふーんw》
《興味なさそうで草》
《だから何って感じw》
《どっちにしろ変わらんやろなあ笑》
《ホシ君の前では等しく無力》

 興味が無かったのは事実だが、ヒカリの助言を無下にしたわけではない。
 ホシはヒカリにふっと笑った顔を見せた。

「大丈夫って意味だよ。そこで安心して見てて」
「……! ええ」

 その表情にヒカリは安心感を覚える。
 なんとなくやってくれそう、そう思わせる雰囲気がホシにはある。

「めろん、わたあめ」
「ギャウ」
「ウォフ」
「二人は周りの変なのを倒して」

 周りの深層魔物は二匹に任せ、ホシはぐっと構えを取った。

「こいつは俺がやるよ」
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