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第22話 迫られる二択

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<三人称視点>

 タカラミミックがいた場所にドロップしていたアイテム。
 それを拾って、ホシは思わず首をかしげる。

「……懐中時計?」
 
 外側は黄土色の何かで出来た、手の平サイズの丸いアイテム。
 中には針と、0時の方向から時計回りに100本のメモリが振ってある(頑張って数えた)。

 懐中時計のような見た目ではあるが、時間を表してるわけではないようだ。

《タカラミミックのドロップアイテム!》
《めっちゃ貴重だよ》
《運も強い》

「貴重なんだ。じゃあ持っておこうかな」

 コメントから、一応持って帰ることにするホシ。
 だが、やはり何かは気になる。
 ホシはガチャガチャといじり始めた。
 
「どうやって使うんだろ」

 ひっくり返したり、軽く叩いてみたり。
 そうしている内に上部に凸部を見つける。
 押すためのボタンのようなものらしい。

「ぽちー」

 ……しかし、反応は無し。
 ホシは目を細めた。
 
「これ壊れてないよね? 壊れたら許さないぞ」

 あどけなく言葉にするホシだが、向けられた本人にとってこれ以上怖い言葉は無い。
 タカラミミックはどこかで寒気を感じた。

《ヒエッ》
《ホシ君の許さないは確定死》
《恐ろしい子……!》

 そうして、残念そうにしまおうとした時

「うわっ!」

 突然、針がビーンと回った。
 0と表記された上の方を向いていた針は、ぐるっと時計周りに回って80辺りを指す。

「あ」

 偶然ではあるが、反応を示した懐中時計はめろんの方を向いている。
 もしかして、と勘づいてホシはニッコリ。

「誰かに向けて押すと良いのかも」

 次はちょっと下に懐中時計を向けた。
 
「わたあめ、こっち向いて~」
「ワフッ!」

 わたあめにそれを向け、またボタンを押す。
 すると、めろんと同じく80辺りまで針が回る。

「おお~」

 外のダンジョンにおいて、素材じゃないアイテムを拾ったのは初めてのホシ。
 中々面白がる……が、肝心な事が分からない。

「この数値は何を表してるんだろ」
 
《ホシ君は?》
《自分に向けてみれば?》

「あ、そうですね!」

 コメントからアドバイスをもらい、ホシは自分に懐中時計を向けてポチッ!
 だが、思った反応にはならなかった。
 
「これは……!」

──テレレンテレレン。

「ん?」

 そんな時、どこからともなく聞きなれた音が聞こえてくる。
 通話が来た時にスマホから鳴る通知音だ。
 
《なんだ?》
《誰かから通話?》
《通話の音じゃね》

「もー配信中なのに」

 相手は大体予想が付いているホシ。
 軽い溜息をつきながら、わたあめに寄った。
 そして何をするかと思えば……ガサゴソ。

「クゥン」

 わたわめのもふもふからスマホを取り出す。
 小道具はここに仕舞っているらしい。

《もふもふからスマホ出てきた笑》
《ずっと入ってたのかよw》
《四次元ポケットで草》
《便利かよw》

「やっぱかー。すみません少し待っててください」

 ホシはカメラから目を逸らして通話に応じた。

《配信中に電話すんなw》
《ここ一応Sランクの深層です》
《相変わらず呑気なんだよなあ》

「なに?」
『ホシ君、まだ帰ってこないの?』
「待ってよ。今配信中だから」

 通話の相手は案の定、姉さん。
 エルフのエリカだった。

 だが、そんな通話状況。

《待って、これ聞こえてない?w》
《本当だ》
《設定されてるなw》

 探索者とダンジョン外からのサポートを連携する為、配信に通話や通信の音声を入れる設定がある。
 どうやらこれがONになっており、二人の通話は筒抜けのようだ。
 
 そんなことは知らず、ホシは話を続ける。

「遅くなりすぎない内に帰るから」
『もう遅いよ?』
「遅いって言っても……」

 チラっと見たカメラに映る時間は19時。

「21時には帰るから」
『今日はハンバーグだよ?』
「──今すぐ帰る」

 だが、それを聞いて目の色を変えるホシ。
 すぐに通話を切って帰る準備を始めた。

 ホシにとって、エリカのハンバーグは「全て」。
 それを聞けば体は自然と家へと歩き出し、お腹は勝手に空き始める。
 なんやかんや言いつつ、姉の厚意にはしっかりと甘えているのだ。

 そうして、浮遊型カメラに向き直る。
 元々、深層は少し覗くだけのつもりだったので、配信的にもキリが良いと言える。

「すみません今日は用事ができちゃって……って、ええっ!?」

 そこで、ようやくコメント欄の流れに気づいた。

《ハンバーグね》
《かわいいw》
《お姉ちゃん好きじゃん笑》
《それは帰らないとなあ》
《(・∀・)ニヤニヤ》
《楽しみだね~》
《ホシ君ウキウキでワロタ》
《小学生かな?w》

「な、なんでバレてるんですか……?」

《レッドトゥースで繋げられる》
《配信に聞こえる設定になってたね笑》
《丸聞こえだよ~》
《エリカさん待ってるぞw》

「そんな……」

 ホシ自身は設定した覚えがない。
 あるとすれば……確実にエリカの仕業である。

「もう本当に~~~!!」

《ハンバーグは早く帰ろう》
《エリカさん待ってるって笑》
《子どもは帰る時間だよ》
《良い子は早く帰りましょうね》
《ハンバーグ冷めちゃう》

「……くぅっ!」

 自分でも顔が赤くなっていくのが分かるホシ。

「キュキュイッ」
「ワフフフ」

 二匹のペットにまで笑われながらも、配信を閉じようとする。

 だが、最後に気になるコメントが流れた。

《日向ヒカリがSランクの深層でピンチだ!》
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