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第20話 ダンジョン深層

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 「うーん」

──グシャッ!

 『翼竜ダンジョン』のワイバーンがいた下層を抜け、俺は深層へと足を踏み入れた。
 今歩いているのは、深層に入ってすぐの通路みたいなところだ。

「ちょっと暗いですねー」

──ゴギャッ!

《待て待てw》
《魔物倒しながら呑気にしゃべんなw》
《おかしいてww》
《テンションと合ってなさすぎるww》
《あれ?魔物襲って来てるよな……?》

 コメントを見ながら俺も答える。

「はい、さっきからなんか飛んでますよね。うっとうしいなあ。しっしっ」

──ブシャァッ!

 まとわりついてくる魔物をはたきおとす。
 もう何回目だろう。
 さっきからちょっかいをかけられて結構邪魔だ。

「なんなんですかね、こいつら」

 あんまりしつこいから、ちょっと気になる。
 なんかちょっと光ってる・・・・し。
 俺がはたき落とした鳥(?)を覗くと、カメラも空気を読んで寄ってきた。

 体は真っ黒で大きくはない。
 めろんと同じぐらいかな。
 翼が体の半分ぐらい占めていて、なんだか不吉な魔物だ。

 でも、コメント欄には何かが分かった人たちもいるみたい。

《これ『深層バット』じゃないか……?》
《あの深層にしか存在しないコウモリ?》
《Aランク魔物だぞ!》
《しかも大群で襲う》
《ある意味Sランクより厄介とも言われてるな》
《翼って戦車の装甲並みに堅いんじゃ……》

「これがですか? ふーん」

《ふーんてw》
《興味無さそう笑》
《まあホシ君にしては有象無象と変わらんw》

 だけど、スルーしようとしたところに気になるコメントが目に入る。

《そいつのドロップアイテム高く売れるぞ》

「なにぃっ!?」

 魔物を倒すと、ちりになってダンジョンに取り込まれていく。
 その時アイテムをドロップすることがあるんだ。
 探索者はそれを換金して生計を立ててるらしい。

 俺の口は勝手に聞き返していた。

「どれですか! 翼ですか!? 尻尾ですか!?」

《翼だったはず》

「どうして翼が!?」

《光ってて堅い素材は色々と使い道がある。色の種類もあるし》

「あざます! めろん、わたあめ、すぐに戻って回収だ!」
「キュイ……」
「クゥン……」

《ええw》
《急に興味持ってて草》
《お小遣い欲しいって言ってたもんな笑》
《かわいい》
《高校生なんてこんもんだろw》
《めろんとわたあめ複雑そうwww》
《現金な主だなw》
《最強種あごで使うな笑》

 そんなこんなもあり、いくつかドロップアイテムを回収しながら奥へ進んだ。
 あ、ワイバーンのドロップアイテムもしっかり回収してます。







<三人称視点>

「お」

 暗く続いていた通路のような道を抜け、ホシ達はようやく広めの場所に出る。

「おお~」
「キュイ~」
「ワフ~」

 三人(一人と二匹)は思わず周りを見渡した。

 全体的には薄暗い広間。
 浮遊型カメラのおかげでなんとか見通すことができる。
 また、周りは土か何かで造られた壁の囲いが上に続いており、まるで昔のコロッセオのようだ。

「なんだろうあれ……」

 さらに、壁には無数の穴がある。
 めろんぐらいなら出入りできそうだ。

《闘技場みたい》
《なんか不気味だな》
《薄気味悪いし》
《ダンジョンってやっぱすげえな》
《急にこんな場所に出るんだもんな》

 視聴者も不気味がっている。
 だがそんな中、ホシにはさっきからめっちゃくちゃ気になるものが。

「あれ、開けていいですかね!」

 コロッセオみたいな部屋の中央。
 そこにぽつんと置かれた光る『宝箱』。
 開けてくださいと言わんばかりの置かれ方だ。

 ホシはもう気になってしょうがない。

《絶対ダメだろ!》
《罠に決まってるよ!》
《100パートラップだぞ!》
《ダメダメ!》
《怪しすぎるって!》

「えーそんなあ……」

《しょぼくれたw》
《な、なんかごめん》
《しょぼーん》
《(´・ω・`)》
《憎めねえんだよなあw》

「分かってます。心配してくれているんですよね」

 ホシもコメントに悪意がないのは理解している。
 宝箱には罠が付きものというテンプレは知らないが、9割ぐらいのコメントが「ダメ」だと言っていることは受け止めていた……だったはずが。

「でも開ーける!」
 
 そーっとすり足で宝箱に寄っていたホシ。
 好奇心を抑えられずガバっと宝箱を開封した。

《おい!》
《やっちゃった》
《やばいぞ!》

「ん? ──うおおっ!?」

 その瞬間、中から巨大なが現れる。
 ホシは咄嗟とっさに後ろへ下がった。

「なんだこれ!」
「──ヒェエエエエ!!」

 いつの間にか巨大化していた宝箱。
 中からは目玉がギョロっとホシを見下ろし、大きな舌を出す。

《タカラミミック!?》
《タカラミミックだ!》
《言わんこっちゃない!》
《やべえぞ!》

 探索者だという視聴者もたくさんいるこの配信。
 彼らが積極的にホシに情報を流す。

「タカラミミック? 強いんですか?」

《階層によって強さは変わる》
《じゃあヤバいんじゃないか?》
《Sランクの深層だぞここ》
《そんな場所のタカラミミックって……》
《想像したくもねえ》

 『タカラミミック』。
 宝箱に潜み、開けた者を襲う凶悪な魔物だ。
 生息する場所によってその強さは変わる。

 ここはSランクダンジョンの深層。
 ワイバーンと同等、もしくはそれ以上の強さであることが推測できる。

 タカラミミックは舌を出しながらもう一度奇声を上げた。

「──ヒェエエエエ!!」
「「「キィィィィィ!!」」」

 その奇声に呼応するように、無数の穴から何かが出てくる。

「なんだ!?」

 薄暗い上方を照らすように、ホシはカメラを直接上に向けた。
 穴方出てきてきたのは、ホシがペチペチ倒していた『深層バット』。
 一体一体が全てAランクの厄介な魔物である。

「うへえ」

 上部をおおうほどの深層バット。
 前には巨大なタカラミミック。
 気がつけばホシ達は囲まれてしまっていた。
 
《魔物ハウスかよ!》
《やべえって!!》
《さすがにこの数は……》
《暗いのは不利だぞ!》
《向こうはコウモリだから見えてるんじゃないか?》
《頼む逃げてくれ!》

 焦り始めるコメント欄。
 だが、ホシはむふふと笑みを浮かべた。

 そして──

「めろん、わたあめ」
「キュイ?」
「クゥン?」

 あどけない表情で口にした。

「誰が一番活躍できるか勝負する?」
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