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第9話 遊びと快挙

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 「おりゃああああ!」
「ギャイ~ン!」

 めろんと相撲を取り、俺が背負い投げを決める。

「ふー」

 めろんの足が土俵外についたのを確認して、汗をぬぐう。
 俺の勝利だ。

《!?》
《は!?》
《投げ飛ばした!?》
《勝つんかよwww》 
《なんじゃこいつwww》
《強くなったなで草》
《やっばwww》

「大丈夫かー、めろん」
「ギャウゥ」

 体は特に問題はなさそうだけど、めろんは立派な羽根を下に向け、しょぼんとしているように見える。

「まあまあ、またいつでも付き合うから」
「ギャオ!」

 頭をなでなでしてやると、めろんは機嫌を直してくれた。
 でも、コメント欄の様子がおかしい。

《いやいやw》
《遊ぶというかww》
《これ探索者界隈ざわついてるって》
《Sランク魔物と生身でぶつかるとか》
《前代未聞どころじゃねえぞこれ》
《ただの化け物で草》

「ひどいです、化け物だなんて! なあ、めろん」
「ギャウ……」
「え、もしかして、めろんもそう思ってんの?」
「ギャウ」

 めろんはゆっくりと首を縦に振った。

《思われてるやんw》
《同意されてて草》
《毎日こんなことしてんのか……》
《でも強さの秘訣はなんとなく判明したな》
《こうして化物が生まれるんだ……》
《判明しても参考にならんwww》

「まあ、ワイバーンよりは手応えありますけど」

 そんなことをつぶやいたら、また大量のツッコミに合ってしまった。
 また、質問にも目を向けてみる。

《めろんちゃんは、ダンジョンではずっとこの姿なんですか?》

「いや、違いますよ。めろん」
「ギャオオォォ…………キュイッ!」
「ほら」

 低い声から段々高く、大きな体から段々小さくなり、やがてめろんは元のサイズに戻った。

自由に姿を変えられる・・・・・・・・・・んですよ」
「キュ~イッ!」

《きゃわ~!》
《鳴き声すき》
《こっちの方が好きかも》
《でも、さっきのフォルムもかっこよかったよ!》
《どっちも好き!》

「どっちも好きだって。よかったな~めろん」
「キュイキュイッ!」

 そんな姿を見せたからか、例の子のコメントが目に付く。

《日向ヒカリ:あのドラゴンの感情までも手懐けてるなんて。まだ討伐記録もないのに……》

 でも、それには同意できなかった。

「手懐けるっていうか……」
「キュイ?」
「家族ですよ」
「キュイ~!」

 そっとめろんを抱きかかえた。

《良い話かよ》
《ぐっとくるやん》
《ホロリ》
《;;》
《いやおかしいんだけどね?w》
《お前ら冷静に考えろww》

 そんな中、唐突にチラホラと賛辞のコメントが流れてくる。

《おめでとう!》

「ん?」

《おめ!》
《すっげ!》
《初配信でかよ!?》

「何がですか?」

《視聴者数!》
《見てみて!》

「えーと……え、えええ!?」

 そこには『10万人が視聴中』との文字が。

「うっわーすげえ!! わーいわーい!!」

《おめでとう!》
《なんか魔素水の話より喜んでて草》
《どちらかといえばこの家の方がすごいけどw》
《ちょいちょいズレてるんよw》
《てかほとんど》
《すごいんだけどね》
《推せるわあw》
 
 気分はもう最高潮。

「じゃあ他のペットも……って、あ!」

 だけど、残念なものが目に入ってしまう。
 俺は頭を下げながらカメラに目を向けた。

「すみません、今日はここまでにします!」

《え》
《急に?》
《どうした》

「ちょっと時間が……」

《時間か》
《予定あるんだな》
《しゃーなし》
《残念だけど仕方ない》

「はい。SNSも作ったので次回の配信はそこでします!」

《りょーかい》
《もうフォローしたよ!》
《次の楽しみ!》

 うんうん、急にはなってしまったけど、文句も言わずにコメントをくれる。
 みんな良い人たちだなあ。

「では、また次回の配信で──」
ただいまー・・・・・
「……!」

 だが、ふいに玄関の方から声が聞こえる。

 これはまずい!
 急いで配信を切らなければ!

「じゃ、じゃあ終わります! ありがとうございましたー!」

《待て》
《なんだ今の声》
《ちょま》

 俺は急いでカメラを操作した。

「……聞かれてないよな?」

 だけどこの後、俺は後悔することになる。
 この時もっと丁寧に配信を確認しておくべきだったと。





<三人称視点>

 ホシの配信が終わった同時刻、とあるマンションの一室。

「あ、ああ……」

 一人の少女は天を仰いでいた。
 コメントも残していた「日向ヒカリ」だ。

「ありえないわ」

 今の今まで行われていたホシの初配信。
 その情報量が多すぎて、とても受け止めきれないでいるのだ。
 
「魔素水に、ドラゴンですって……?」

 Sランク探索者のヒカリだからこそ、ホシの配信の非現実的さを身に染みて理解することが出来る。

 そして、さらにすごいのはその相互作用・・・・
 川のように流れる超希少素材の『魔素水』。
 加えて、ダンジョンの外でも生きられるドラゴンという最強種族。

「そりゃワイバーンなんて目じゃないわよ」
 
 ただでさえSランクオーバーのドラゴン。
 それが魔素水を飲みまくり、もうとんでもないことになってる。
 その強さは想像もつかない。

「SNSもすごいし」

 ヒカリはスマホの『ツブヤイター』に視線を落とす。

 そこには、天の川ナナミの配信時と同様、いやそれ以上にトレンドを埋め尽くす『彦根ホシ』の話題が上がっていた。
 配信終了直後の今、勢いは止まる事を知らない。

「……」

 それと同時に、ヒカリの中には不安な気持ちも生まれる。
 
 高校生で唯一のSランク探索者。
 150万人を超える配信チャンネル。

 その影響力をもってしても、今のホシの勢いは止められそうにない。

「こうしちゃいられない!」

 ヒカリはすぐさま立ち上がった。







 同時刻、ここは一軒家の中の一室。

「あ、ああ……」

 ここにも天を仰いでいる少女が一人がいた。
 ホシの幼馴染「天の川ナナミ」だ。

「うそお……」

 ホシの初配信は、一瞬も目を離すことなく画面に張り付いていた。
 ホシが家に来ることはあっても、ナナミがわざわざ山奥のホシの家には行ったことはないからだ。
 つまり、この配信で初めて彼の家をのぞいたことになる。

「そんなバカな……」

 配信を見つめる中、聞きたいことはたくさんできた。

 なんで魔素水が流れているのか。
 なんでドラゴンがいるのか。
 そもそも、どうして家がダンジョンだったことを教えてくれなかったのか。
 
 だがそれらの疑問は、最後の最後に全て消え失せた・・・・・
 今のナナミの脳内にはたった一つ。

「女の人の、声……?」

 最後に聞こえた「ただいまー」の声。
 あれは確実に女性だった。
 しかも、幼馴染である自分すら聞いたことのない・・・・・・・・女性だ。

「きゅー」

 ナナミは遺言のような声を残し、白目をむきながら後方にパタリと倒れた。
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