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第5話 ホシとナナミ

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<ホシ視点>

「久しぶりだなあ」

 目の前の家、アパートの一室を見てつぶやく。

 ここはナナミの家。
 たった今、呼び鈴を鳴らしたところだ。

「まったく。騒がしい奴だよ」

 ナナミの配信を終えて、次の日の朝。
 日曜日だからゴロゴロしていようと思ったのに、さっきいきなりナナミから通話があった。

『と、とにかく! 今すぐ集合! いいわね!』

 そんなことを言われて、今に至る。
 幼馴染とはいえ、山奥の俺んちからは結構かかるのに。

「来たわね!」
「あ、おはよう」

 高い声と共に玄関が開いた。
 ナナミの前髪は上にはねるように留められていて、お家モードみたい。

「いいから早く入って!」
「うわっ!」

 なんて思っていたら、ナナミは周りをさっさっと周りを見渡し、いきなり俺を家の中に引っ張る。

「なんだよ~」
「なんだよー、じゃないわよ!」
「あ、お邪魔しまーす」

 一応あいさつをして、そのままナナミの部屋へ。

「はい、そこ座る!」

 バタンとナナミの部屋が閉められて、すぐに座らされた。
 なんで正座してるんだ、俺。

「この状況でよく呑気のんきでいられるわね!」
「なんのこと?」
「これよ、これ!」
「んー?」

 俺はナナミが見せてくれたスマホの画面を覗く。
 ナナミがスクロールしれくれるのを見ながら、俺の目はどんどんと開いていった。
 信じられない光景があったからだ。

「なんで俺の名前がネットに挙がってるんだ!?」

 ナナミが見せてくれたのは「ツブヤイター」というアプリ。
 いわゆるSNSというやつだ。

 そして驚くことに、そこには『彦根ホシ』、『謎のFランク探索者ホシ』、『超新星ホシ』などの単語がトレンドになっている。
 というか、トレンドを埋め尽くしている・・・・・・・

「ど、どういうこと?」
「本当に知らないのね」
「知らないよ……」
「SNSもやってないとか、相変わらず原始人じみてるわ」

 さらに、ナナミはある動画を見せてくる。
 映っていたのは、ワイバーンとそれと戦う少年……って。

「これ俺じゃん!」
「だから言ったでしょ。これが拡散されて今とんでもないことになってるの!」
「そ、そうなんだ……あ、だからか」

 そういえば、今日はやけに人にじろじろ見られるなーと思ったんだよね。
 もしかして、この件があったからなのか。

「それでナナミも、玄関で周りを気にしてたんだ」
「そういうこと」

 話がひと段落つく。
 と同時に、とんでもない不安が襲ってきた。

「あれ、これってまずいんじゃ……」
「は?」

 俺はその場で項垂うなだれた。
 まさかこれが特定というやつなのか。
 これが怖くてSNSをやっていなかったのに。

 そんな気持ちは、勝手に声となって口から飛び出していた。

「ナナミ、俺はどうしたらいいんだ!」
「ちょ、ちょっと、落ち着きなさいってば!」
「あうっ」

 しがみついたナナミにひっぺがされる。

「典型的な恐怖に対する不安ね」
「……ワイバーンより全然怖い」
「今の言葉、全国民に聞かせたらまたバズりそうだわ」

 呆れたような目で見てくるナナミ。
 それでも俺を見捨てないでいてくれた。

「よく聞いて。これは別に悪いことじゃないの」
「そ、そうなのか? さらされているわけではないのか?」
「そうとも言えるけど……少なくとも、これは賞賛されて注目を集めているよ」
「えっ、そうなんだ!」
「単純か」

 急に嬉しそうな顔になったのがバレたらしい。

「でも……そうね。そこがウケるポイントよ」
「どういう意味?」

 ナナミはニヤっと笑って言葉にした。

「あんた、配信者やりなさい!」
「ええーっ!?」

 飛び出したのは、思ってもみない言葉。
 それでも、ナナミは「いける」と確信を持っているよう。

「じゃあホシ、昨日のワイバーンはどうだったかしら」
「え、雑魚だったけど」
「ほら。もう面白い」
「どこかだよー!」

 ナナミの口角が吊り上がる。
 世間ではこれが面白いのか?

「それにあんた、バイト探してるんでしょ?」
「あ、うん。そうなんだよね」

 俺の家は山奥にあり、高校に通うのすらそれなりの時間がかかる。
 その上、市街でバイトをするとなるとさすがにハード過ぎるので、最近ナナミに軽く相談していたんだ。

「配信はまさにぴったりだわ」
「そうお?」

 思わずWOWOW? みたいに聞き返してしまう。

 だって、ねえ?
 たしかに家で出来るかもしれないけどさあ。

「いうて、そんなもうからないでしょ?」
「あんた、配信文化をナメてるわね」

 やれやれといった様子に、俺は言ってやった。

「じゃあどれぐらい稼いでるんだよ?」

 ナナミはニヤっとした顔で言い放つ。
 どうせしょぼ……

「────」
「なにいー!?」

 と思ったのに、俺の想像を遥かに超えていた。
 さらに、ナナミはここぞとばかりに畳み掛けてくる。

「先月は……たしかこれだけよ」
「うっそー!」
「どうよ。驚いたかしら」
「あ……あぅあ」

 これは決まりだ。

「ハイシン、ヤル」
「単純で助かるわあ」
 
 ナナミは「簡単な仕事ね」みたいな態度だ。

「じゃ、そこの段ボール開けて」
「これ?」

 ナナミが指差した段ボールを、ガサゴソと探る。

「あれ、これって!」
「そう。配信機材よ」

 中から出てきたのは、昨日の配信の時にナナミが使っていたような、カメラやマイクといった配信機材だった。

「これ、どうしたの?」
「わたしのお古よ。全然使えるわ」
「え、もしかして……」
「そ。あげる」
「ええ!」

 これを全部!?

「い、いいのかよ」
「いいの。どうせもう使わないし」
「だからって……」

 これを「はい、あざーす」みたいな感じでは受け取れない。
 けど、ナナミは少し顔を赤らめて言った。

「もー! わたしがしたいの!」
「え? なにを?」
「またいずれ、あんたと配信したいの! 配信者のあんたと!」
「!」

 さっきまで合っていた目線がまるで合わない。
 ナナミが逸らしているからだ。

「それでいずれ、またわたしとコラボする! これでチャラよ!」
「……! お、おう」

 最後にチラっと合った視線。
 それはなんだか、いつものナナミとは違って見えた。

「じゃ、色々と教えるわ! あんた機械音痴だし!」
「た、頼む……」

 と思えば、ぱっと明るくなったナナミ。

 それから俺は、ナナミに手取り足取り(意味深ではない)ナナミに教えてもらったのだった。
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