【完結】小さなフェンリルを拾ったので、脱サラして配信者になります~強さも可愛さも無双するモフモフがバズりまくってます。目指せスローライフ!〜

むらくも航

文字の大きさ
上 下
78 / 79
番外編 SS(ショートストーリー)

SS-5 桜井家の英才教育?

しおりを挟む
<三人称視点>

「こら、あんまり走らないのよ~」

 休日の昼下がり、やすひろの家の中で美月の声がひびく。
 彼女が声を上げている先は──子どもだ。

「だいじょぶ! みんなやさしいから!」

 ちょこんと立つこの子は、やすひろと美月の“息子”。
 名前は『ひろき』という。
 やすひろの「ひろ」と、みつきの「き」から取ったのだろう。

 ひろきは六歳、小学一年生だ。
 美月は両手を広げながらあきれ顔を浮かべた。

「何度も言うけど、そのみんなは“最強種”なのよね……」

 美月の言葉に、四匹が反応を示す。

 それぞれ──

「ワフ」

 “フェンリル”のフクマロ、

「ムニャ」

 “ニャイオンキング”のモンブラン、

「キュル」

 “シマリスクイーン”のココア、

「プク」

 “モモンガーディアン”のタンポポだ。

 四匹は“最強種”と呼ばれる魔物の頂点である。
 六歳の子どもが一緒に遊ぶには異質すぎる存在だ。

 だが、ひろきは日常的に彼らとじゃれ合っていた。

「いくぞー、みんな!」
「ワフッ!」
「ムニャッ!」
「キュルッ!」
「プク~!」

 むしろ、最強種をひきいているようにすら見える。

「もう、まったく」

 それもそのはず、やすひろと美月は今も多忙な生活を送っている。
 ひろきが生まれて以来、美月はなるべく主婦業を優先させているが、どうしても断れない仕事もある。
 そんな時は、なんと四匹の最強種たちがひろきの面倒を見ていたのだ。

 もちろん、その間はマネージャーなどが家にいるが、ひろきは最強種たちと遊ぶのが好きらしい。
 その結果、小学一年生にして今は最強種を率いる子どもに育ってしまった。
 まさに上級探索者もびっくりな光景である。

「すっかり馴れちゃったわ」

 最初は危ないからと反対気味だった美月だが、四匹に「危険な場所は行かないこと」などの制約を与え、今は許可している。

 と、そんなところにある男が帰ってきた。

「ただいまー」
「あ、パパ!」

 父のやすひろだ。
 三十を超えてなお、現役超人気配信者として活躍するやすひろは、大物の貫禄すらただよう。

 だが、家ではただの“甘々父ちゃん”だ。

「お、ひろき。今から世界樹か?」
「うん! パパもいこ?」
「いいぞー。ママに報告してから行くからな」
「はやくきてね!」

 軽く会話を交わすと、ひろきは一足先に庭の世界樹へ。
 「今から公園か?」のノリで世界樹に行くのも中々異質な光景だが……。

「みんな、ひろきを頼むな」

「ワフ」
「ムニャ」
「キュル」
「プク」

 また後ろからは、親のような優しい目線で四匹も付いて行く。
 それから、やすひろは美月に向き直った。

「ただいま、美月」
「おかえりなさい。今日の仕事は早かったんだね」
「まあ、打ち合わせだけだし」

 そうして、ようやくやすひろが異変に気づく。

「なあ、ひろきはいつから最強種の大将になったんだ?」
「……さ、さあ」

 口にしたくなるのも当然だろう。

 “六歳の子供がSランク魔物を引き連れている”。
 字面だけでも相当なパワーだ。

「俺の教育が間違っていたのかな……」
「そんなことはないよ。むしろ良かったんじゃない?」

 美月が宙をスライドすると、ぶぉんとデータが浮かび上がる。
 そこには『小学生のなりたい職業ランキング』と書かれていた。

「一位が配信者で、二位が探索者。そう考えると、案外“英才教育”なのかも?」
「そうかなあ」

 やすひろの影響もあり、『ダンジョン配信』はまさに最盛期を迎えていた。
 このランキング上位二つは動くことなく、さらには探索系の学校まで作られ始めているという。
 まさに“ダンジョン配信ドリーム”だ。

 だがそれでも、やすひろは今まで一度もひろきの顔をネットに映したことはない。

「それと共に、ネットの怖さも増長している気がするからなあ」
「それは……そうよね」

 ネットの影響力が大きくなると同時に、『さらし上げ』や『炎上』など、問題が増えているのも確かだった。

「でもまあ、ひろき自身がやりたいと言ったら俺は止めないよ」
「ふふっ、分かったわ」

 やすひろの親らしい一面を垣間見え、美月は笑みを浮かべる。

 “やりたいことをやらせるのが一番”。
 二人とも、自身の人生から得た教訓を親としても生かしているようだ。

「じゃあ、俺はひろきと遊んでくるよ」
「ええ、ケガだけは気を付けて!」
「おう!」

 そうしてこの日も、やすひろとひろきは、最強種や他の種族も交えて遊び回るのだった──。







 それから、十年後。

「よし!」

 この日、とある少年がダンジョン配信にデビューする。
 まだ高校生一年生であり、顔や体には幼さが残っている。

 だが、その秘める可能性は誰よりも高い。
 彼は幼少の頃より、最強種たちとじゃれ合い続けてきたのだから。

「配信、はじめ!」

 彼の名は、桜井ひろき。
 共に超人気配信者である、やすひろと美月の息子だ。
 またそれは、公表していない情報……のはずだった。

《本当に来た!》
《きたああああ!》
《やったあああああ》
《ひろきくん!》
《さすがにこれは期待大》

 どこから聞きつけてきたのか、すでにその情報は漏れていた。

「いぃっ!?」

 いきなりコメントがバッとついたことに、ひろきは目を見開く。
 その少し情けない様は、まるでやすひろの初配信を見ているかのようだ。
 
 だが、やすひろの時とは違う・・コメントもチラホラと見える。

《見に来てやったぞ》
《どんなもんかね》
《親の七光りだろ》

 親が有名すぎるあまり、嫉妬しっとや過剰な期待からくるコメントだ。
 それでも、ひろきはニッと笑った。

(やっぱり父さんの壁は高いなあ)

 改めて父の偉大さを実感しながらも、ぐっと前を向く。
 現在いるのは、両親の思い出の場でもある『はじまりの草原』だ。

 すると、早速魔物が出現してくる。

「ぽよっ!」
「お」

 スライムだ。

 フェンリルとスライムの里が実家にあるひろきには、馴染み深い魔物である。
 もっとも、里のスライムは“アルティメットスライム”という最上位の魔物ではあるが。

「では、早速狩ってみます!」

 懐疑かいぎな目を向ける視聴者を、見返すチャンスだと捉えたひろき。
 言い終えると共に、姿を消したように動いた。

 そして次の瞬間には、魔物は地面に転がっていた。
 思いがけない初戦闘に、コメント欄は一気にき上がる。

《え……?》
《なんだ!?》
《何が起きた!?》
《すげええええええ!》
《ヤバすぎだろ!!》
《実力派の息子か!?》
《もう一回見せてくれ!》

 また、先ほど嫌なコメントをしていた奴らも、少しコメントをにごらせる。

《いやいや……》
《何かの仕掛けトリックだろ……?》
《もしガチならファンになっちまうけど》

 そうして、ひろきは配信を続けていく。
 アンチがファンに変わっていくのを横目にしながら。

「では皆さん、今日は楽しんで行ってくださいね!」

 ひろきがやすひろと同格の“伝説の配信者”に登り詰めるのは、もう少し先の話である──。




─────────────────────────
あとがき

久しぶりにSSを書いてみました!
“息子がいずれダンジョン配信者として活躍する”、自ら望んだのなら、やすひろと美月も嬉しいかもしれませんね。
ちなみに、二人はまだ現役の超人気配信者です!(いずれコラボとかするかも?)

それから、ファンタジーカップ用に新作を投稿しております!
ひろき君と似た境遇(?)の少年がダンジョンで大活躍するお話です!
現在HOTランキング3位、ファンタジーカップ12位と好評をいただいておりますが、まだの方はぜひご一読いただけたら嬉しいです!

作品は下記URL↓、もしくは作者ページよりどうぞ!

『ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の最難関ダンジョンだったみたい~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/418191800/867874049
しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一
ファンタジー
 健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。  しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。  魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ! 【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】  ※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

処理中です...