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番外編 SS(ショートストーリー)
SSー3 桜井美月、最高の誕生日プレゼント
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<美月視点>
「ちこくちこく~!」
わたし、桜井美月20歳。
大学に通いながらダンジョン配信者をやってます。
「はっ、はっ!」
でも、昨日の配信で張り切り過ぎちゃって1限に間に合うか怪しい!
今パンをくわえて走ってます!
「あ!」
そんな時、曲がり角から人影が!
ダメ、ぶつかっちゃう!
でもこれって、運命的な出会い──
「させるかー!」
「ワフー!」
と思ったら、横から人と小犬の影が飛び込んできました。
★
<三人称視点>
「させるかー!」
「ワフー!」
美月が曲がり角で人とぶつかりそうになっているところ、人と小犬のような者が横から入って両者を助ける。
やすひろとフクマロだ。
「ワフワフ」
「あ、ありがとう……」
フクマロはぶつかりそうになっていた男性に声を掛ける。
また、やすひろは美月を抱えていた。
「大丈夫? 美月ちゃん」
「やすひろさん!」
急なやすひろの登場に美月は目を見開く。
「あ、ありがとうございます!」
「いやいやそんな。当然のことだよ」
「……それじゃあ」
でも、気になる発言はちゃんと聞く美月。
「さっきの『させるか』って言うのは?」
「……! それはえっとー、テンプレ的な運命の出会いを防ぐ……じゃなくって! うーん」
「ふふっ」
やすひろの言葉に思わず笑ってしまう。
気持ちは一人にしか向いていないのになあ、なんて心では思っている。
「と、とにかく! 大学までフクマロに乗る?」
「いいんですか?」
「もちろん」
「ワフッ!」
やすひろに続いてフクマロも元気な返事をする。
「ではお言葉に甘えて。結構時間やばめなので」
「了解! 頼むぞフクマロ」
「ワフッ!」
そうして、やすひろと美月、二人は覚醒したフクマロに乗って爆走した。
「……」
美月はやすひろの背中から腕を回してフクマロに乗っている。
しかし、その表情はどこかぼーっとしているよう。
(なんか緊張するなあ……)
美月は現在20歳。
配信業を続けながらの大学生活にも慣れてきた頃だが、実は先日、あることをやすひろに伝えていたのだ。
(わたしと付き合ってください!)
「~~~!」
自分の言葉を思い出して赤面する美月。
美月はやすひろに告白していたのである。
それから日は経っており、やすひろと会うのは1か月ぶり。
この状況で緊張しないわけがない。
(やすひろさん、どう思っているんだろう)
1か月前、美月はやすひろに告白。
その時のやすひろの答えは「考えさせてほしい」とのことだった。
「……」
お互いに配信者であり、美月に至ってはアイドル配信者。
色々と問題は複雑であった。
その為、普通ならばやすひろもすぐ「NO」と言うところを、美月の想いを踏みにじりたくはなかったよう。
……しかしまあ、やすひろも考えていることはあるようだが。
「美月ちゃん」
「は、はい!」
そうして、ぼーっと最近のことを思い出していると、前方から声を掛けられる。
「着いたよ。この辺だと騒ぎにならないかな」
「あ、ありがとうございます!」
二人とも超人気配信者であり、フクマロは覚醒の姿。
大学からは少し離れた場所で足を止めたみたいだ。
ここからならば間に合うだろう。
「美月ちゃん、今日のこと覚えてる?」
「え?」
しかし、別れ際に声を掛けるやすひろ。
「ごめんね。俺の方も連絡が遅くなっちゃったんだけど、今日は空いてるかな」
「あ」
美月がスマホを開くと、今日の日付にはしっかりとマークがある。
1週間ほど前にやすひろから連絡をもらっていたのだ。
「大丈夫です!」
「よかった。じゃあ後で迎えに来るよ」
「はい! いってきます!」
「いってらっしゃい」
美月は手を振って大学へと向かった。
「ふう~」
「ワフ?」
それから腕を思いっきり上に伸ばすやすひろ。
「うまくいくと思うか? フクマロ」
「ワフッ!」
やすひろの問いかけに「うんっ!」と強く首を縦に振るフクマロ。
成功すると確信しているみたいだ。
「だと良いけどなあ」
緊張する胸を抑え、やすひろも今日の仕事の場所へ向かった。
★
「やすひろさん!」
「お、お疲れ様」
「ありがとうございますっ」
大学の帰り、二人で待ち合わせをしていたやすひろと美月。
待ち合わせ場所で顔を合わせた。
「それで、どこに行くんですか?」
「まあ内緒で」
「えー、怪しい。えっちな場所じゃないですよね」
「そんな場所に行かせないって!」
やすひろは焦りながら、美月にフクマロに乗るよう促す。
もちろん彼女も冗談だ。
やすひろのことは信頼しているし、「本当ですか~?」なんて言いながらひょいっと覚醒フクマロに飛び乗った。
「フクマロ。よろしく」
「お願いします!」
「ワフッ!」
そうして、フクマロタクシーはまた走り出す。
「美月ちゃん」
「んん?」
フクマロに乗ってしばらく。
人目がない通路を走り抜け、目的に到着したようだ。
「もう目を開けていいよ」
「はーい」
さらに、サプライズ感を出すために、やすひろは途中から美月に目を瞑るようお願いしていた。
やすひろの言葉で、美月はようやく目を開く。
「ここは……あれ、やすひろさんち?」
目を開けた先はやすひろの家。
一見、何の変わりもない、いつも訪れている場所だった。
「美月ちゃん、上」
「上? ……えっ!」
だけど、その上は違ったみたいだ。
美月が見上げた先には世界樹。
「なにこれ! すごいです!!」
「そうでしょ」
そこにあったのは、カラフルな花々が咲いた世界樹であった。
今までは大木だった樹は、所々から季節に関係なく様々な満開の花を咲かせ、なんとも幻想的な風景になっている。
「この1週間で準備したんだ。美月ちゃんのためにね」
「これを……1週間で?」
美月は耳を疑う。
高く聳え立つ世界樹、その壮大さは身を以て知るからだ。
「うちには優秀な頭脳がいるからね」
「それでも……」
えりとの頭脳を用いたとしても、作業をするのはやすひろ達。
相当に大変だったことがうかがえるだろう。
また、それと同時に美月は思う。
そこまでして、一体何を考えているのだろうと。
そんな疑問は次の瞬間に晴れた。
「美月ちゃん」
「え?」
美月はやすひろに仕草にドキっとする。
決意に満ちた目、今から何かを伝えようとするやすひろの表情。
そんな顔付きで、自分を引っ張ってくれる手を向けられたからだ。
「一緒に頂上に来てくれる?」
「はい……!」
なんとなくこれからの展開は分かる。
それでも、美月の高鳴る胸の鼓動は収まらない。
1か月前、自分で告白しておいてかなり不安になった。
それならいっそ「NO」と言ってくれた方が楽だったと思う自分さえいた。
だけど、しっかり待って良かった。
今の美月は心からそう思う。
「綺麗です……!」
「よかった」
世界樹の中に通じる木のエレベーター。
以前まで、ただ登り降りするだけのものだったそれは、周り一面に咲き乱れる花々によって彩られる。
360°、どこを見渡しても同じ種類の花は見当たらないほどで、本当にたくさんの種類が目に映った。
「すごい。すごいすごい!」
美月は感動していた。
この景色にしてもそう。
だけどそれ以上に、これを自分のために用意してくれたと言ってくれたことが何より嬉しかった。
「さ、美月ちゃん」
「……はい」
やすひろに手を引かれ、頂上に足を踏み出す。
今日、ここから見える夕焼けはいつもより綺麗だった。
「まずは、ごめんね」
「え?」
「返事を待たせてしまって」
「……!」
返事、という言葉に美月の鼓動はドクンと強く鳴る。
やっぱりこの話だ。
そう確信した。
「美月ちゃんにも事情はたくさんあるから、色々考えててさ」
「はい」
「誕生日、あと6時間後ぐらいだよね」
「……はい」
今日は、美月21歳の誕生日の前日だ。
「だからこの日までには決めようと思ったんだ」
「はい」
「……それでね」
やすひろは美月を強く見つめる。
「自分の気持ちに正直になることにしたよ」
「……!」
やすひろのその顔は覚悟を持った目。
なぜかは分からないが、これから先、何が起ころうと「自分が守る」と覚悟を持ったように見えた。
「美月ちゃん」
「……はい」
美月の心臓の鼓動は強さを増すばかり。
先程からほとんど声は出ない。
だから美月は、やすひろが言葉にしてくれるのを待った。
「俺と……付き合ってください!」
「……!」
頭を下げたやすひろと共に、目の前に出されたのは花束。
ここに来るまでに見たたくさんの花々を集めたものだった。
「……もう」
美月は言葉を振り絞る。
「どうして」
「え?」
「どうしてわたしが告白したのに、やすひろさんがお願いしてるんですか」
「あ」
たしかに、とやすひろは顔を上げる。
こんな時まで締まらないやすひろに、美月はふふっと笑った。
「やすひろさんと一緒なら、毎日が楽しそうです」
「それじゃあ!」
「はい。こちらこそお願いします!」
「!」
美月の早すぎるタックル(ハグ)にやすひろは反応できず。
そのまま押し倒されてしまう。
……しかも。
「み、美月ちゃん……?」
「記念すべき一回目です」
美月はそう言いながら唇を抑えた。
何をしたかは……ご想像にお任せ。
「もう容赦はしませんっ」
「ちょ、ちょおっ!?」
さらに美月はやすひろに顔を近づけた。
それからしばらく。
二人が体育座りで夕暮れを見つめる中、美月が口を開く。
「そういえば、花束受け取ってもいいですか」
「あ、ああ。そうだった」
色々アタックされすぎたため、ぼーっとしていたやすひろ。
美月の言葉で我に返り、花束を渡す。
「これ飾るの、どこがいいですかね」
「うーん、大体は玄関とかじゃないかな」
「そうですね。でも──」
美月は顎に手を当てて考える。
「玄関は四匹が騒がしくする場所じゃないですか」
「ん?」
そして「四匹」という単語。
やすひろは首を傾げる。
「何を言ってるの? 美月ちゃん」
「だから、やすひろさんちには四匹いるじゃないですか」
「それはそうだけど……美月ちゃんには関係ないんじゃ」
「え? ありますよー」
美月はさも当然かのように言葉にした。
「だってわたし、明日からやすひろさんちに同棲しますから」
「ええっ!? 聞いてないよ!?」
「だって今決めましたもん」
「???」
突然の言葉に混乱するやすひろ。
美月は平然と続けた。
「だからどこに飾ろうかなーって」
「ほ、本気なの?」
「はい。ダメですか?」
「い、いやあー……」
やすひろは頭を悩ませる。
彼女の親、配信環境、その他諸々……そして考えすぎた結果、頭がパンク。
後で考えることにした。
「まあ、いっかあ」
「よかった!」
こうして、美月とやすひろは正式に付き合うことに。
桜井美月、21歳の誕生日に最高のプレゼントをもらい、この二年後に二人は無事結婚しましたとさ。
───────────────────────
SS3回目にしてやっとやすひろの登場です笑。
今回は後に結婚する二人についてでした!
お題はまだまだ募集しております!
次回も月曜20~21時頃に投稿できればと思いますので、どうぞよろしくお願いします~!
「ちこくちこく~!」
わたし、桜井美月20歳。
大学に通いながらダンジョン配信者をやってます。
「はっ、はっ!」
でも、昨日の配信で張り切り過ぎちゃって1限に間に合うか怪しい!
今パンをくわえて走ってます!
「あ!」
そんな時、曲がり角から人影が!
ダメ、ぶつかっちゃう!
でもこれって、運命的な出会い──
「させるかー!」
「ワフー!」
と思ったら、横から人と小犬の影が飛び込んできました。
★
<三人称視点>
「させるかー!」
「ワフー!」
美月が曲がり角で人とぶつかりそうになっているところ、人と小犬のような者が横から入って両者を助ける。
やすひろとフクマロだ。
「ワフワフ」
「あ、ありがとう……」
フクマロはぶつかりそうになっていた男性に声を掛ける。
また、やすひろは美月を抱えていた。
「大丈夫? 美月ちゃん」
「やすひろさん!」
急なやすひろの登場に美月は目を見開く。
「あ、ありがとうございます!」
「いやいやそんな。当然のことだよ」
「……それじゃあ」
でも、気になる発言はちゃんと聞く美月。
「さっきの『させるか』って言うのは?」
「……! それはえっとー、テンプレ的な運命の出会いを防ぐ……じゃなくって! うーん」
「ふふっ」
やすひろの言葉に思わず笑ってしまう。
気持ちは一人にしか向いていないのになあ、なんて心では思っている。
「と、とにかく! 大学までフクマロに乗る?」
「いいんですか?」
「もちろん」
「ワフッ!」
やすひろに続いてフクマロも元気な返事をする。
「ではお言葉に甘えて。結構時間やばめなので」
「了解! 頼むぞフクマロ」
「ワフッ!」
そうして、やすひろと美月、二人は覚醒したフクマロに乗って爆走した。
「……」
美月はやすひろの背中から腕を回してフクマロに乗っている。
しかし、その表情はどこかぼーっとしているよう。
(なんか緊張するなあ……)
美月は現在20歳。
配信業を続けながらの大学生活にも慣れてきた頃だが、実は先日、あることをやすひろに伝えていたのだ。
(わたしと付き合ってください!)
「~~~!」
自分の言葉を思い出して赤面する美月。
美月はやすひろに告白していたのである。
それから日は経っており、やすひろと会うのは1か月ぶり。
この状況で緊張しないわけがない。
(やすひろさん、どう思っているんだろう)
1か月前、美月はやすひろに告白。
その時のやすひろの答えは「考えさせてほしい」とのことだった。
「……」
お互いに配信者であり、美月に至ってはアイドル配信者。
色々と問題は複雑であった。
その為、普通ならばやすひろもすぐ「NO」と言うところを、美月の想いを踏みにじりたくはなかったよう。
……しかしまあ、やすひろも考えていることはあるようだが。
「美月ちゃん」
「は、はい!」
そうして、ぼーっと最近のことを思い出していると、前方から声を掛けられる。
「着いたよ。この辺だと騒ぎにならないかな」
「あ、ありがとうございます!」
二人とも超人気配信者であり、フクマロは覚醒の姿。
大学からは少し離れた場所で足を止めたみたいだ。
ここからならば間に合うだろう。
「美月ちゃん、今日のこと覚えてる?」
「え?」
しかし、別れ際に声を掛けるやすひろ。
「ごめんね。俺の方も連絡が遅くなっちゃったんだけど、今日は空いてるかな」
「あ」
美月がスマホを開くと、今日の日付にはしっかりとマークがある。
1週間ほど前にやすひろから連絡をもらっていたのだ。
「大丈夫です!」
「よかった。じゃあ後で迎えに来るよ」
「はい! いってきます!」
「いってらっしゃい」
美月は手を振って大学へと向かった。
「ふう~」
「ワフ?」
それから腕を思いっきり上に伸ばすやすひろ。
「うまくいくと思うか? フクマロ」
「ワフッ!」
やすひろの問いかけに「うんっ!」と強く首を縦に振るフクマロ。
成功すると確信しているみたいだ。
「だと良いけどなあ」
緊張する胸を抑え、やすひろも今日の仕事の場所へ向かった。
★
「やすひろさん!」
「お、お疲れ様」
「ありがとうございますっ」
大学の帰り、二人で待ち合わせをしていたやすひろと美月。
待ち合わせ場所で顔を合わせた。
「それで、どこに行くんですか?」
「まあ内緒で」
「えー、怪しい。えっちな場所じゃないですよね」
「そんな場所に行かせないって!」
やすひろは焦りながら、美月にフクマロに乗るよう促す。
もちろん彼女も冗談だ。
やすひろのことは信頼しているし、「本当ですか~?」なんて言いながらひょいっと覚醒フクマロに飛び乗った。
「フクマロ。よろしく」
「お願いします!」
「ワフッ!」
そうして、フクマロタクシーはまた走り出す。
「美月ちゃん」
「んん?」
フクマロに乗ってしばらく。
人目がない通路を走り抜け、目的に到着したようだ。
「もう目を開けていいよ」
「はーい」
さらに、サプライズ感を出すために、やすひろは途中から美月に目を瞑るようお願いしていた。
やすひろの言葉で、美月はようやく目を開く。
「ここは……あれ、やすひろさんち?」
目を開けた先はやすひろの家。
一見、何の変わりもない、いつも訪れている場所だった。
「美月ちゃん、上」
「上? ……えっ!」
だけど、その上は違ったみたいだ。
美月が見上げた先には世界樹。
「なにこれ! すごいです!!」
「そうでしょ」
そこにあったのは、カラフルな花々が咲いた世界樹であった。
今までは大木だった樹は、所々から季節に関係なく様々な満開の花を咲かせ、なんとも幻想的な風景になっている。
「この1週間で準備したんだ。美月ちゃんのためにね」
「これを……1週間で?」
美月は耳を疑う。
高く聳え立つ世界樹、その壮大さは身を以て知るからだ。
「うちには優秀な頭脳がいるからね」
「それでも……」
えりとの頭脳を用いたとしても、作業をするのはやすひろ達。
相当に大変だったことがうかがえるだろう。
また、それと同時に美月は思う。
そこまでして、一体何を考えているのだろうと。
そんな疑問は次の瞬間に晴れた。
「美月ちゃん」
「え?」
美月はやすひろに仕草にドキっとする。
決意に満ちた目、今から何かを伝えようとするやすひろの表情。
そんな顔付きで、自分を引っ張ってくれる手を向けられたからだ。
「一緒に頂上に来てくれる?」
「はい……!」
なんとなくこれからの展開は分かる。
それでも、美月の高鳴る胸の鼓動は収まらない。
1か月前、自分で告白しておいてかなり不安になった。
それならいっそ「NO」と言ってくれた方が楽だったと思う自分さえいた。
だけど、しっかり待って良かった。
今の美月は心からそう思う。
「綺麗です……!」
「よかった」
世界樹の中に通じる木のエレベーター。
以前まで、ただ登り降りするだけのものだったそれは、周り一面に咲き乱れる花々によって彩られる。
360°、どこを見渡しても同じ種類の花は見当たらないほどで、本当にたくさんの種類が目に映った。
「すごい。すごいすごい!」
美月は感動していた。
この景色にしてもそう。
だけどそれ以上に、これを自分のために用意してくれたと言ってくれたことが何より嬉しかった。
「さ、美月ちゃん」
「……はい」
やすひろに手を引かれ、頂上に足を踏み出す。
今日、ここから見える夕焼けはいつもより綺麗だった。
「まずは、ごめんね」
「え?」
「返事を待たせてしまって」
「……!」
返事、という言葉に美月の鼓動はドクンと強く鳴る。
やっぱりこの話だ。
そう確信した。
「美月ちゃんにも事情はたくさんあるから、色々考えててさ」
「はい」
「誕生日、あと6時間後ぐらいだよね」
「……はい」
今日は、美月21歳の誕生日の前日だ。
「だからこの日までには決めようと思ったんだ」
「はい」
「……それでね」
やすひろは美月を強く見つめる。
「自分の気持ちに正直になることにしたよ」
「……!」
やすひろのその顔は覚悟を持った目。
なぜかは分からないが、これから先、何が起ころうと「自分が守る」と覚悟を持ったように見えた。
「美月ちゃん」
「……はい」
美月の心臓の鼓動は強さを増すばかり。
先程からほとんど声は出ない。
だから美月は、やすひろが言葉にしてくれるのを待った。
「俺と……付き合ってください!」
「……!」
頭を下げたやすひろと共に、目の前に出されたのは花束。
ここに来るまでに見たたくさんの花々を集めたものだった。
「……もう」
美月は言葉を振り絞る。
「どうして」
「え?」
「どうしてわたしが告白したのに、やすひろさんがお願いしてるんですか」
「あ」
たしかに、とやすひろは顔を上げる。
こんな時まで締まらないやすひろに、美月はふふっと笑った。
「やすひろさんと一緒なら、毎日が楽しそうです」
「それじゃあ!」
「はい。こちらこそお願いします!」
「!」
美月の早すぎるタックル(ハグ)にやすひろは反応できず。
そのまま押し倒されてしまう。
……しかも。
「み、美月ちゃん……?」
「記念すべき一回目です」
美月はそう言いながら唇を抑えた。
何をしたかは……ご想像にお任せ。
「もう容赦はしませんっ」
「ちょ、ちょおっ!?」
さらに美月はやすひろに顔を近づけた。
それからしばらく。
二人が体育座りで夕暮れを見つめる中、美月が口を開く。
「そういえば、花束受け取ってもいいですか」
「あ、ああ。そうだった」
色々アタックされすぎたため、ぼーっとしていたやすひろ。
美月の言葉で我に返り、花束を渡す。
「これ飾るの、どこがいいですかね」
「うーん、大体は玄関とかじゃないかな」
「そうですね。でも──」
美月は顎に手を当てて考える。
「玄関は四匹が騒がしくする場所じゃないですか」
「ん?」
そして「四匹」という単語。
やすひろは首を傾げる。
「何を言ってるの? 美月ちゃん」
「だから、やすひろさんちには四匹いるじゃないですか」
「それはそうだけど……美月ちゃんには関係ないんじゃ」
「え? ありますよー」
美月はさも当然かのように言葉にした。
「だってわたし、明日からやすひろさんちに同棲しますから」
「ええっ!? 聞いてないよ!?」
「だって今決めましたもん」
「???」
突然の言葉に混乱するやすひろ。
美月は平然と続けた。
「だからどこに飾ろうかなーって」
「ほ、本気なの?」
「はい。ダメですか?」
「い、いやあー……」
やすひろは頭を悩ませる。
彼女の親、配信環境、その他諸々……そして考えすぎた結果、頭がパンク。
後で考えることにした。
「まあ、いっかあ」
「よかった!」
こうして、美月とやすひろは正式に付き合うことに。
桜井美月、21歳の誕生日に最高のプレゼントをもらい、この二年後に二人は無事結婚しましたとさ。
───────────────────────
SS3回目にしてやっとやすひろの登場です笑。
今回は後に結婚する二人についてでした!
お題はまだまだ募集しております!
次回も月曜20~21時頃に投稿できればと思いますので、どうぞよろしくお願いします~!
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