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最終話① モフモフ配信はいつまでも
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時は流れ、俺も三十台に突入した。
スライムとフェンリルの里ができてからは、五年と少しが経ったわけだ。
そんな休日の朝。
「今日もモフモフがたくさんいますね~」
俺は変わらず配信を行っている。
配信場所は「フェンリルとスライムの里」。
ダンジョン配信以外では、すっかり配信の定番となった場所だ。
「ウォフ~」
「ポヨ~」
見渡す限りモフ、モフ、たまにぷに、またモフ。
実に素晴らしい眺めだね。
《まじで天国だよここ》
《いいなあ》
《やすひろずるいぞ!》
《一般開放まじでよかった~!》
《また里に行きたいなあ》
《今回は抽選外れた》
「一般開放の抽選またご応募いただけたらと!」
一般開放というのは、この里を使った企画。
「視聴者に里に訪れてもらう」というものだ。
これが一番リクエストが多い企画だったからね。
もちろん、住んでる魔物のストレスにならない程度に人は抑えている。
だからこその「抽選」というわけだ。
かなり前から何度も行っている企画なので、それなりに訪れた人も多いのではないかと思う。
《今度で14回目の参戦です!》
《やばwww》
《くそガチ勢いるwww》
《相当な猛者やん》
《毎回抽選100倍ぐらいだよね?笑》
《運よすぎて草》
《でも500円って神だよな》
「お~また来てくださるんですね!」
それでも、里長さんやスライムさんをはじめ、みんなが快く引き受けてくれたからこそできた企画だ。
里のみんなには感謝しかない。
《里に行けるの楽しみすぎる!!》
《やっぱり四匹モフりたい》
《私もモフりたい!》
《俺はぷにりたいなあ》
《夢の国だよ~》
《楽しみ過ぎて夜しか眠れません》
「それは嬉しいですね~!」
今度の開催も楽しみにしてくれているらしい。
初めてSNSで企画発表した時は大反響を起こして、トレンドも埋め尽くしたっけ。
と、そんなところに気になるコメントが。
《でも大丈夫なのかな。一般開放なんかして》
当然、こんな心配も出てくるわけだ。
それでも企画をやめるつもりはない。
「多分、問題ないかと……」
自分の考えを確かめるようにコメントを待つ。
だって、もし変なことをしようとする奴がいれば……。
《変なことはしない方が良い》
《まじでやめておいた方がいいぞw》
《これはガチの警告》
《住んでるの最強種だらけだぞww》
《牙向けられた瞬間に終わる》
《兵器持ち込んでも勝てないんじゃないかなあ笑》
《国が相手でも勝てねえんだからwww》
《変な場所に繋げた入口から捨てられてEND》
《地獄絵図が容易に想像できて草》
「ですよねえ……」
大体予想通りのコメントが流れた。
視聴者のみんなも同じ意見だったみたい。
そんなわけで、安全・転売対策共にしっかり守られている。
おかげでトラブルは一度もない。
「で、ですが! 普通に接するだけなら本当に優しいですからね!」
一応フォローも入れておいた。
そんなスローな配信は続く。
《あ、フェンリルが走ってる!》
《追いかけっこだね!》
《いや速すぎwww》
《どっちでしょうゲームもしてんじゃん》
《野菜も育ってるね!》
《個体増えてない?》
《ほんとだ、ちょっと小さい》
「そうですね! 野菜も順調に育ってます! 子どもは……あれは、六区のフェンリルが今朝産んだ子ですね!」
広すぎた里を分かりやすくするため、里長さんと話して区分けをした。
その六区でまた子どもが産まれたみたい。
おめでたい出来事だね。
《ちょっと小さいのかわいい》
《通常フクマロよりは大きいけどね》
《フクマロは小犬だからなあ笑》
《でも最強》
《逆に特別感あるよね》
《結局、前の大会も優勝だったしね!》
前の大会とは、フェンリル同士で一位を決める大会のこと。
金髪主人公のバトル漫画にある「天下一武〇会」のようなものだ。
里長さんから提案されて、企画配信として行ったんだよね。
最強種族たるもの、衰えないよう定期的に戦った方が良いらしいからね。
「さすがにフクマロは強すぎましたね~」
コメントにもあった通り、それはフクマロが優勝だった。
《そういえば、そのフクマロどこ?》
《あれじゃね。一区の奥》
《お、本当だ》
《両親とペロペロしてる~!》
《超かわいい》
《近くで見たい!》
「お。じゃあフクマロのところに行きましょうか」
少し歩き、フクマロの両親が住処にする一区へお邪魔した。
いつものようにフクマロもここでくつろいでいたみたい。
親子仲良くて良い事だね。
「フクマロ~」
「ワフ!」
俺の呼び掛けに反応して、フクマロは舌をへっへっと出しながら近づいてきた。
「今日も可愛いなあ~」
「クゥ~ン」
頭をなでなで、顎をすりすり。
フクマロは嬉しいのか、尻尾を左右に振る。
ちなみに大きさは五年前から変わらない。
もう大きくならないんじゃね、これ。
覚醒があるから心配はしてないけどね。
そうして五年前を思い出した時、ぽろっと言葉が出てくる。
「フクマロと出会えて良かったよ」
「ワフ~」
フクマロの姿を見て、改めてそう思う。
五年前だろうと何年前だろうと、フクマロと出会った時のことは一生忘れない。
これからもずっと大切な家族だ。
《感動》
《ほろり;;》
《やっぱりフクマロよ》
《フクマロが一番!》
《フクマロに会えて良かったね》
《フクマロの方こそ感謝してるよきっと》
《この二人最高》
《やすひろの配信に会えて良かった》
「ははは、照れますね」
最後の方のコメントにつられて泣きそうになる。
なんとか配信者魂で堪えた。
「お、あっちには小猫がいますね。行ってみましょう」
小猫が見えたのは隣の二区の方だ。
もちろん里に小猫なんて一匹しかいない。
「モンブラン!」
「ムニャー!」
フクマロと一緒に俺が近づいていくと、嬉しそうに口を開けたモンブランが駆け寄ってくる。
モンブランも普段の姿は変わりません。
覚醒があるから(以下略)。
「ニャニャっ」
「おおっ! どうした、珍しいな。抱っこか?」
「ムニャ!」
「分かったぞ~。おーよしよし」
「ニャオ~ン」
モンブランは目を閉じて口角をニッと上げた。
完全に甘々モードだね。
《きゃー!!》
《かわいい……》
《モンブランちゃん可愛すぎる》
《普段はクールなんだけどね》
《たまに甘えてくれるのずるい!》
《猫してるなあ》
《モンブランちゃん一番推し!》
そんな態度に、モンブラン推しの声がたくさん集まる。
「だってさ~、モンブラン」
「ニャーン」
「ふーんって。本当は嬉しいくせに」
「ニャ、ニャ」
それはない、と首を横に振るモンブラン。
でも、俺には好意的なコメントに喜んでいるのが分かる。
四匹の中じゃ若干大人びていてツンデレなところがあるけど、モンブランはお褒めの言葉に意外と弱いんだ。
「ワフ!」
「ムニャ!」
「って、おいおい!」
そんな二匹が俺の胸元を争い始めた。
どっちも抱っこしてほしいのかな。
その様子になんだか懐かしい光景が蘇る。
「両手にモフとか言ってたなあ」
モンブランを飼い始めた時。
ペットが二匹になったけど、二匹ともとっても良い子だった。
手がかからず、ただただ幸せが倍になったんだ。
たまにこうして俺を争う様にしていたけどね。
「ほらほら。仲良くな」
「ワフ~」
「ムニャ~」
二匹を撫でると、両方満足そうな顔をする。
素直でよろしい。
「ん? この騒がしいのは……ああ、やっぱり」
そうして、騒がしい音が聞こえた隣の区へ。
騒がしい音がして、隣の三区へやってきた。
犯人はあまりにも予想通り。
シマリスのココアだ。
「おーい。ココア~」
「キュルー!」
「お、おおっ!?」
いつものようにフェンリル達の胴上げされていたココア。
胴上げの頂点、空中で急に方向を変え、俺の胸に飛び込んで来た。
相変わらず行動が読めないお調子者だ。
「こーら。危ないだろ」
「キュ、キュル……」
「ははっ、怒ってはいないよ。ココアが危ないかと思ってだよ。無事だったらそれでいいんだ」
「キュ! キュル~!」
でも、怒ったことはない。
この可愛さを前に怒れる人類いる? いません。
《ココアちゃーん!》
《モフいよ~!》
《わたしの推しだよ~!》
《また胴上げされてたんだ笑》
《好きだね~》
《お調子者で可愛い》
《つぶらな瞳で怒れないよね笑》
ココアは女性人気が一番高いかな。
かっこよさではフクマロ・モンブランに比べて劣るけど、末っ子属性というのかな、さらに可愛さに溢れてる。
でも、覚醒時の能力で言えば全然負けていない。
なんというか意外性があるんだよね。
『王種』野菜にしても、ココアがいなければ復活はしなかった。
「キュル」
「ん?」
そんなココアは、小さめの鳴き声をあげながら、手元を寂しそうにする。
「あ。どんぐり落としちゃった?」
「キュル」
「変わらないなあ……はい、どうぞ」
「キュルー!」
胴上げでなくしちゃったのかな。
でも、ココアのためにどんぐりは常備している。
悲しむ姿は心が痛いからな。
《ココアちゃんよかったね~》
《もう無理ぃ……》
《尊すぎてしんどい》
《両手で持つのかわいいよ》
《はぁ好き》
《宝物みたいにしまうんだよね》
《で、またすぐ落とす笑》
《そこがまたかわいい》
「ワフワフ」
「ムニャムニャ」
そんなココアに「やれやれ」と仕草をしたフクマロとモンブラン。
「キュルル!」
「まあまあ。三匹とも仲良くな」
ココアは「もう!」と反抗。
でも三匹ともとっても仲良しなので、ほんのいじりだろう。
ココアがおっちょこちょいだし、これはよくみる光景だ。
「では、最後にあっちにいきましょう」
俺はまた隣の区へ向かった。
四区にて、俺は空を見上げて声を上げる。
あの子は空を飛んでいるからな。
「タンポポ~!」
「プクッ!」
白くてふわふわした体が舞い上がることから、「タンポポ」。
モモンガのタンポポにぴったりの名だ。
「プクク~!」
俺の声に反応して、タンポポは舞っていた空からスイーと滑空してくる。
相変わらずの美しさだ。
「お、みんなを乗せてたんだ」
「プクッ!」
地上に降りて来たタンポポの背中には、二匹のフェンリルと一匹のスライム。
どれもちょっと小さいから子どもだね。
タンポポは子どもと遊んでいることが多い。
「えらいなあ」
「プクク~!」
「ん?」
だが、その中で一番興奮しているのはタンポポ。
ただ一緒に遊んでいただけみたい。
むしろ子ども達の先頭をきっていたのか。
「やっぱり子どもだった」
「プクク!」
「否定してもバレてるぞ」
《ほんと、末っ子だよね笑》
《ココアとの二大お調子者》
《僕も乗せてもらいたい!》
《里に行ったら一番に会いに行くね!》
《タンポポさ~ん!》
《わたしもおそらをとぶの!》
タンポポは子どもに大人気。
空を飛べるってやっぱり夢があるよね。
しっかりとしたモフモフも持ち合わせているし。
「プックック」
「ちっちっち」と君達にはまだ早い、みたいな態度を取っているけど、同じ子どもだと思われているからな、タンポポよ。
「キュル~」
「プクッ!?」
そんなタンポポに、今度はココアが「やれやれ」との仕草。
いや、ココア、ちなみにお前も同じだ。
「ははっ」
フクマロ、モンブラン、ココア、タンポポ。
四匹のおかげで今の俺があるよ。
「って、やば!」
そうして、ふとカメラの時計が視界に入る。
「あ、すみません! そろそろ時間みたいです!」
配信終了時間が来てしまった。
次の予定はどうしても外せない。
《ああ、本当だぁ……》
《15時までだったもんね》
《時間経つの早いー!》
《今日も楽しかった》
《癒された~》
《今日は仕方ないな》
《だって明日あれだもんね》
《今から楽しみだ~》
けど、批判的な意見はない。
みんな明日のあれを知ってくれてるのかな。
自分で言うのもだけど、それなりに話題にはなったからな。
「それでは明日お会いしましょう!」
《こちらこそ~!》
《明日待ってるね!》
《もう明日まで寝ます》
《配信ありがとう!》
《ゆっくり休んでね~》
《じゃあなやすひろ!》
《またね!》
温かいコメントを見ながら配信を閉じた。
「……ふぅ~」
空を見上げながら改めて思う。
俺は視聴者さんに支えられているなあ。
「みんな、ありがとう」
配信上では照れくさくて言えないけど、なんとなく口に出した。
届いていたら良いな、そう思って。
「よし。行くか!」
明日の準備をしないとな。
ーーー
本日は19時頃にもう1話更新します!
次のお話で完結です!
スライムとフェンリルの里ができてからは、五年と少しが経ったわけだ。
そんな休日の朝。
「今日もモフモフがたくさんいますね~」
俺は変わらず配信を行っている。
配信場所は「フェンリルとスライムの里」。
ダンジョン配信以外では、すっかり配信の定番となった場所だ。
「ウォフ~」
「ポヨ~」
見渡す限りモフ、モフ、たまにぷに、またモフ。
実に素晴らしい眺めだね。
《まじで天国だよここ》
《いいなあ》
《やすひろずるいぞ!》
《一般開放まじでよかった~!》
《また里に行きたいなあ》
《今回は抽選外れた》
「一般開放の抽選またご応募いただけたらと!」
一般開放というのは、この里を使った企画。
「視聴者に里に訪れてもらう」というものだ。
これが一番リクエストが多い企画だったからね。
もちろん、住んでる魔物のストレスにならない程度に人は抑えている。
だからこその「抽選」というわけだ。
かなり前から何度も行っている企画なので、それなりに訪れた人も多いのではないかと思う。
《今度で14回目の参戦です!》
《やばwww》
《くそガチ勢いるwww》
《相当な猛者やん》
《毎回抽選100倍ぐらいだよね?笑》
《運よすぎて草》
《でも500円って神だよな》
「お~また来てくださるんですね!」
それでも、里長さんやスライムさんをはじめ、みんなが快く引き受けてくれたからこそできた企画だ。
里のみんなには感謝しかない。
《里に行けるの楽しみすぎる!!》
《やっぱり四匹モフりたい》
《私もモフりたい!》
《俺はぷにりたいなあ》
《夢の国だよ~》
《楽しみ過ぎて夜しか眠れません》
「それは嬉しいですね~!」
今度の開催も楽しみにしてくれているらしい。
初めてSNSで企画発表した時は大反響を起こして、トレンドも埋め尽くしたっけ。
と、そんなところに気になるコメントが。
《でも大丈夫なのかな。一般開放なんかして》
当然、こんな心配も出てくるわけだ。
それでも企画をやめるつもりはない。
「多分、問題ないかと……」
自分の考えを確かめるようにコメントを待つ。
だって、もし変なことをしようとする奴がいれば……。
《変なことはしない方が良い》
《まじでやめておいた方がいいぞw》
《これはガチの警告》
《住んでるの最強種だらけだぞww》
《牙向けられた瞬間に終わる》
《兵器持ち込んでも勝てないんじゃないかなあ笑》
《国が相手でも勝てねえんだからwww》
《変な場所に繋げた入口から捨てられてEND》
《地獄絵図が容易に想像できて草》
「ですよねえ……」
大体予想通りのコメントが流れた。
視聴者のみんなも同じ意見だったみたい。
そんなわけで、安全・転売対策共にしっかり守られている。
おかげでトラブルは一度もない。
「で、ですが! 普通に接するだけなら本当に優しいですからね!」
一応フォローも入れておいた。
そんなスローな配信は続く。
《あ、フェンリルが走ってる!》
《追いかけっこだね!》
《いや速すぎwww》
《どっちでしょうゲームもしてんじゃん》
《野菜も育ってるね!》
《個体増えてない?》
《ほんとだ、ちょっと小さい》
「そうですね! 野菜も順調に育ってます! 子どもは……あれは、六区のフェンリルが今朝産んだ子ですね!」
広すぎた里を分かりやすくするため、里長さんと話して区分けをした。
その六区でまた子どもが産まれたみたい。
おめでたい出来事だね。
《ちょっと小さいのかわいい》
《通常フクマロよりは大きいけどね》
《フクマロは小犬だからなあ笑》
《でも最強》
《逆に特別感あるよね》
《結局、前の大会も優勝だったしね!》
前の大会とは、フェンリル同士で一位を決める大会のこと。
金髪主人公のバトル漫画にある「天下一武〇会」のようなものだ。
里長さんから提案されて、企画配信として行ったんだよね。
最強種族たるもの、衰えないよう定期的に戦った方が良いらしいからね。
「さすがにフクマロは強すぎましたね~」
コメントにもあった通り、それはフクマロが優勝だった。
《そういえば、そのフクマロどこ?》
《あれじゃね。一区の奥》
《お、本当だ》
《両親とペロペロしてる~!》
《超かわいい》
《近くで見たい!》
「お。じゃあフクマロのところに行きましょうか」
少し歩き、フクマロの両親が住処にする一区へお邪魔した。
いつものようにフクマロもここでくつろいでいたみたい。
親子仲良くて良い事だね。
「フクマロ~」
「ワフ!」
俺の呼び掛けに反応して、フクマロは舌をへっへっと出しながら近づいてきた。
「今日も可愛いなあ~」
「クゥ~ン」
頭をなでなで、顎をすりすり。
フクマロは嬉しいのか、尻尾を左右に振る。
ちなみに大きさは五年前から変わらない。
もう大きくならないんじゃね、これ。
覚醒があるから心配はしてないけどね。
そうして五年前を思い出した時、ぽろっと言葉が出てくる。
「フクマロと出会えて良かったよ」
「ワフ~」
フクマロの姿を見て、改めてそう思う。
五年前だろうと何年前だろうと、フクマロと出会った時のことは一生忘れない。
これからもずっと大切な家族だ。
《感動》
《ほろり;;》
《やっぱりフクマロよ》
《フクマロが一番!》
《フクマロに会えて良かったね》
《フクマロの方こそ感謝してるよきっと》
《この二人最高》
《やすひろの配信に会えて良かった》
「ははは、照れますね」
最後の方のコメントにつられて泣きそうになる。
なんとか配信者魂で堪えた。
「お、あっちには小猫がいますね。行ってみましょう」
小猫が見えたのは隣の二区の方だ。
もちろん里に小猫なんて一匹しかいない。
「モンブラン!」
「ムニャー!」
フクマロと一緒に俺が近づいていくと、嬉しそうに口を開けたモンブランが駆け寄ってくる。
モンブランも普段の姿は変わりません。
覚醒があるから(以下略)。
「ニャニャっ」
「おおっ! どうした、珍しいな。抱っこか?」
「ムニャ!」
「分かったぞ~。おーよしよし」
「ニャオ~ン」
モンブランは目を閉じて口角をニッと上げた。
完全に甘々モードだね。
《きゃー!!》
《かわいい……》
《モンブランちゃん可愛すぎる》
《普段はクールなんだけどね》
《たまに甘えてくれるのずるい!》
《猫してるなあ》
《モンブランちゃん一番推し!》
そんな態度に、モンブラン推しの声がたくさん集まる。
「だってさ~、モンブラン」
「ニャーン」
「ふーんって。本当は嬉しいくせに」
「ニャ、ニャ」
それはない、と首を横に振るモンブラン。
でも、俺には好意的なコメントに喜んでいるのが分かる。
四匹の中じゃ若干大人びていてツンデレなところがあるけど、モンブランはお褒めの言葉に意外と弱いんだ。
「ワフ!」
「ムニャ!」
「って、おいおい!」
そんな二匹が俺の胸元を争い始めた。
どっちも抱っこしてほしいのかな。
その様子になんだか懐かしい光景が蘇る。
「両手にモフとか言ってたなあ」
モンブランを飼い始めた時。
ペットが二匹になったけど、二匹ともとっても良い子だった。
手がかからず、ただただ幸せが倍になったんだ。
たまにこうして俺を争う様にしていたけどね。
「ほらほら。仲良くな」
「ワフ~」
「ムニャ~」
二匹を撫でると、両方満足そうな顔をする。
素直でよろしい。
「ん? この騒がしいのは……ああ、やっぱり」
そうして、騒がしい音が聞こえた隣の区へ。
騒がしい音がして、隣の三区へやってきた。
犯人はあまりにも予想通り。
シマリスのココアだ。
「おーい。ココア~」
「キュルー!」
「お、おおっ!?」
いつものようにフェンリル達の胴上げされていたココア。
胴上げの頂点、空中で急に方向を変え、俺の胸に飛び込んで来た。
相変わらず行動が読めないお調子者だ。
「こーら。危ないだろ」
「キュ、キュル……」
「ははっ、怒ってはいないよ。ココアが危ないかと思ってだよ。無事だったらそれでいいんだ」
「キュ! キュル~!」
でも、怒ったことはない。
この可愛さを前に怒れる人類いる? いません。
《ココアちゃーん!》
《モフいよ~!》
《わたしの推しだよ~!》
《また胴上げされてたんだ笑》
《好きだね~》
《お調子者で可愛い》
《つぶらな瞳で怒れないよね笑》
ココアは女性人気が一番高いかな。
かっこよさではフクマロ・モンブランに比べて劣るけど、末っ子属性というのかな、さらに可愛さに溢れてる。
でも、覚醒時の能力で言えば全然負けていない。
なんというか意外性があるんだよね。
『王種』野菜にしても、ココアがいなければ復活はしなかった。
「キュル」
「ん?」
そんなココアは、小さめの鳴き声をあげながら、手元を寂しそうにする。
「あ。どんぐり落としちゃった?」
「キュル」
「変わらないなあ……はい、どうぞ」
「キュルー!」
胴上げでなくしちゃったのかな。
でも、ココアのためにどんぐりは常備している。
悲しむ姿は心が痛いからな。
《ココアちゃんよかったね~》
《もう無理ぃ……》
《尊すぎてしんどい》
《両手で持つのかわいいよ》
《はぁ好き》
《宝物みたいにしまうんだよね》
《で、またすぐ落とす笑》
《そこがまたかわいい》
「ワフワフ」
「ムニャムニャ」
そんなココアに「やれやれ」と仕草をしたフクマロとモンブラン。
「キュルル!」
「まあまあ。三匹とも仲良くな」
ココアは「もう!」と反抗。
でも三匹ともとっても仲良しなので、ほんのいじりだろう。
ココアがおっちょこちょいだし、これはよくみる光景だ。
「では、最後にあっちにいきましょう」
俺はまた隣の区へ向かった。
四区にて、俺は空を見上げて声を上げる。
あの子は空を飛んでいるからな。
「タンポポ~!」
「プクッ!」
白くてふわふわした体が舞い上がることから、「タンポポ」。
モモンガのタンポポにぴったりの名だ。
「プクク~!」
俺の声に反応して、タンポポは舞っていた空からスイーと滑空してくる。
相変わらずの美しさだ。
「お、みんなを乗せてたんだ」
「プクッ!」
地上に降りて来たタンポポの背中には、二匹のフェンリルと一匹のスライム。
どれもちょっと小さいから子どもだね。
タンポポは子どもと遊んでいることが多い。
「えらいなあ」
「プクク~!」
「ん?」
だが、その中で一番興奮しているのはタンポポ。
ただ一緒に遊んでいただけみたい。
むしろ子ども達の先頭をきっていたのか。
「やっぱり子どもだった」
「プクク!」
「否定してもバレてるぞ」
《ほんと、末っ子だよね笑》
《ココアとの二大お調子者》
《僕も乗せてもらいたい!》
《里に行ったら一番に会いに行くね!》
《タンポポさ~ん!》
《わたしもおそらをとぶの!》
タンポポは子どもに大人気。
空を飛べるってやっぱり夢があるよね。
しっかりとしたモフモフも持ち合わせているし。
「プックック」
「ちっちっち」と君達にはまだ早い、みたいな態度を取っているけど、同じ子どもだと思われているからな、タンポポよ。
「キュル~」
「プクッ!?」
そんなタンポポに、今度はココアが「やれやれ」との仕草。
いや、ココア、ちなみにお前も同じだ。
「ははっ」
フクマロ、モンブラン、ココア、タンポポ。
四匹のおかげで今の俺があるよ。
「って、やば!」
そうして、ふとカメラの時計が視界に入る。
「あ、すみません! そろそろ時間みたいです!」
配信終了時間が来てしまった。
次の予定はどうしても外せない。
《ああ、本当だぁ……》
《15時までだったもんね》
《時間経つの早いー!》
《今日も楽しかった》
《癒された~》
《今日は仕方ないな》
《だって明日あれだもんね》
《今から楽しみだ~》
けど、批判的な意見はない。
みんな明日のあれを知ってくれてるのかな。
自分で言うのもだけど、それなりに話題にはなったからな。
「それでは明日お会いしましょう!」
《こちらこそ~!》
《明日待ってるね!》
《もう明日まで寝ます》
《配信ありがとう!》
《ゆっくり休んでね~》
《じゃあなやすひろ!》
《またね!》
温かいコメントを見ながら配信を閉じた。
「……ふぅ~」
空を見上げながら改めて思う。
俺は視聴者さんに支えられているなあ。
「みんな、ありがとう」
配信上では照れくさくて言えないけど、なんとなく口に出した。
届いていたら良いな、そう思って。
「よし。行くか!」
明日の準備をしないとな。
ーーー
本日は19時頃にもう1話更新します!
次のお話で完結です!
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始めはクロと一緒にダラダラとダンジョンに潜っていた俺だが、ある事を切っ掛けに本気でダンジョンの攻略を決意することに……。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
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玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
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あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
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*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
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