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最終話① モフモフ配信はいつまでも

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 時は流れ、俺も三十台に突入した。
 スライムとフェンリルの里ができてからは、五年と少しが経ったわけだ。

 そんな休日の朝。

「今日もモフモフがたくさんいますね~」

 俺は変わらず配信を行っている。
 配信場所は「フェンリルとスライムの里」。
 ダンジョン配信以外では、すっかり配信の定番となった場所だ。

「ウォフ~」
「ポヨ~」

 見渡す限りモフ、モフ、たまにぷに、またモフ。
 実に素晴らしい眺めだね。

《まじで天国だよここ》
《いいなあ》
《やすひろずるいぞ!》
《一般開放まじでよかった~!》
《また里に行きたいなあ》
《今回は抽選外れた》

「一般開放の抽選またご応募いただけたらと!」

 一般開放というのは、この里を使った企画。
 「視聴者に里に訪れてもらう」というものだ。
 これが一番リクエストが多い企画だったからね。

 もちろん、住んでる魔物のストレスにならない程度に人は抑えている。
 だからこその「抽選」というわけだ。
 かなり前から何度も行っている企画なので、それなりに訪れた人も多いのではないかと思う。

《今度で14回目の参戦です!》
《やばwww》
《くそガチ勢いるwww》
《相当な猛者やん》
《毎回抽選100倍ぐらいだよね?笑》
《運よすぎて草》
《でも500円って神だよな》

「お~また来てくださるんですね!」

 それでも、里長さんやスライムさんをはじめ、みんなが快く引き受けてくれたからこそできた企画だ。
 里のみんなには感謝しかない。

《里に行けるの楽しみすぎる!!》
《やっぱり四匹モフりたい》
《私もモフりたい!》
《俺はぷにりたいなあ》
《夢の国だよ~》
《楽しみ過ぎて夜しか眠れません》

「それは嬉しいですね~!」

 今度の開催も楽しみにしてくれているらしい。
 初めてSNSで企画発表した時は大反響を起こして、トレンドも埋め尽くしたっけ。

 と、そんなところに気になるコメントが。

《でも大丈夫なのかな。一般開放なんかして》

 当然、こんな心配も出てくるわけだ。
 それでも企画をやめるつもりはない。

「多分、問題ないかと……」

 自分の考えを確かめるようにコメントを待つ。
 だって、もし変なことをしようとする奴がいれば……。

《変なことはしない方が良い》
《まじでやめておいた方がいいぞw》
《これはガチの警告》
《住んでるの最強種だらけだぞww》
《牙向けられた瞬間に終わる》
《兵器持ち込んでも勝てないんじゃないかなあ笑》
《国が相手でも勝てねえんだからwww》
《変な場所に繋げた入口から捨てられてEND》
《地獄絵図が容易に想像できて草》

「ですよねえ……」

 大体予想通りのコメントが流れた。
 視聴者のみんなも同じ意見だったみたい。
 そんなわけで、安全・転売対策共にしっかり守られている。
 おかげでトラブルは一度もない。
 
「で、ですが! 普通に接するだけなら本当に優しいですからね!」

 一応フォローも入れておいた。
 そんなスローな配信は続く。

《あ、フェンリルが走ってる!》
《追いかけっこだね!》
《いや速すぎwww》
《どっちでしょうゲームもしてんじゃん》
《野菜も育ってるね!》
《個体増えてない?》
《ほんとだ、ちょっと小さい》

「そうですね! 野菜も順調に育ってます! 子どもは……あれは、六区のフェンリルが今朝産んだ子ですね!」

 広すぎた里を分かりやすくするため、里長さんと話して区分けをした。
 その六区でまた子どもが産まれたみたい。
 おめでたい出来事だね。

《ちょっと小さいのかわいい》
《通常フクマロよりは大きいけどね》
《フクマロは小犬だからなあ笑》
《でも最強》
《逆に特別感あるよね》
《結局、前の大会も優勝だったしね!》

 前の大会とは、フェンリル同士で一位を決める大会のこと。
 金髪主人公のバトル漫画にある「天下一武〇会」のようなものだ。

 里長さんから提案されて、企画配信として行ったんだよね。
 最強種族たるもの、衰えないよう定期的に戦った方が良いらしいからね。

「さすがにフクマロは強すぎましたね~」

 コメントにもあった通り、それはフクマロが優勝だった。

《そういえば、そのフクマロどこ?》
《あれじゃね。一区の奥》
《お、本当だ》
《両親とペロペロしてる~!》
《超かわいい》
《近くで見たい!》

「お。じゃあフクマロのところに行きましょうか」




 少し歩き、フクマロの両親が住処にする一区へお邪魔した。
 いつものようにフクマロもここでくつろいでいたみたい。
 親子仲良くて良い事だね。

「フクマロ~」
「ワフ!」

 俺の呼び掛けに反応して、フクマロは舌をへっへっと出しながら近づいてきた。

「今日も可愛いなあ~」
「クゥ~ン」

 頭をなでなで、あごをすりすり。
 フクマロは嬉しいのか、尻尾を左右に振る。

 ちなみに大きさは五年前から変わらない。
 もう大きくならないんじゃね、これ。
 覚醒があるから心配はしてないけどね。
 
 そうして五年前を思い出した時、ぽろっと言葉が出てくる。

「フクマロと出会えて良かったよ」
「ワフ~」

 フクマロの姿を見て、改めてそう思う。
 五年前だろうと何年前だろうと、フクマロと出会った時のことは一生忘れない。
 これからもずっと大切な家族だ。

《感動》
《ほろり;;》
《やっぱりフクマロよ》
《フクマロが一番!》
《フクマロに会えて良かったね》
《フクマロの方こそ感謝してるよきっと》
《この二人最高》
《やすひろの配信に会えて良かった》

「ははは、照れますね」

 最後の方のコメントにつられて泣きそうになる。
 なんとか配信者魂でこらえた。

「お、あっちには小猫がいますね。行ってみましょう」




 小猫が見えたのは隣の二区の方だ。
 もちろん里に小猫なんて一匹しかいない。

「モンブラン!」
「ムニャー!」

 フクマロと一緒に俺が近づいていくと、嬉しそうに口を開けたモンブランが駆け寄ってくる。

 モンブランも普段の姿は変わりません。
 覚醒があるから(以下略)。

「ニャニャっ」
「おおっ! どうした、珍しいな。抱っこか?」
「ムニャ!」
「分かったぞ~。おーよしよし」
「ニャオ~ン」

 モンブランは目を閉じて口角をニッと上げた。
 完全に甘々モードだね。

《きゃー!!》
《かわいい……》
《モンブランちゃん可愛すぎる》
《普段はクールなんだけどね》
《たまに甘えてくれるのずるい!》
《猫してるなあ》
《モンブランちゃん一番推し!》

 そんな態度に、モンブラン推しの声がたくさん集まる。

「だってさ~、モンブラン」
「ニャーン」
「ふーんって。本当は嬉しいくせに」
「ニャ、ニャ」

 それはない、と首を横に振るモンブラン。
 でも、俺には好意的なコメントに喜んでいるのが分かる。
 四匹の中じゃ若干大人びていてツンデレなところがあるけど、モンブランはお褒めの言葉に意外と弱いんだ。

「ワフ!」
「ムニャ!」
「って、おいおい!」
 
 そんな二匹が俺の胸元を争い始めた。
 どっちも抱っこしてほしいのかな。
 その様子になんだか懐かしい光景がよみがえる。

「両手にモフとか言ってたなあ」

 モンブランを飼い始めた時。
 ペットが二匹になったけど、二匹ともとっても良い子だった。 
 手がかからず、ただただ幸せが倍になったんだ。
 たまにこうして俺を争う様にしていたけどね。

「ほらほら。仲良くな」
「ワフ~」
「ムニャ~」

 二匹をでると、両方満足そうな顔をする。
 素直でよろしい。

「ん? この騒がしいのは……ああ、やっぱり」

 そうして、騒がしい音が聞こえた隣の区へ。




 騒がしい音がして、隣の三区へやってきた。
 犯人はあまりにも予想通り。
 シマリスのココアだ。

「おーい。ココア~」
「キュルー!」
「お、おおっ!?」

 いつものようにフェンリル達の胴上げされていたココア。
 胴上げの頂点、空中で急に方向を変え、俺の胸に飛び込んで来た。
 相変わらず行動が読めないお調子者だ。

「こーら。危ないだろ」
「キュ、キュル……」
「ははっ、怒ってはいないよ。ココアが危ないかと思ってだよ。無事だったらそれでいいんだ」
「キュ! キュル~!」

 でも、怒ったことはない。
 この可愛さを前に怒れる人類いる? いません。

《ココアちゃーん!》
《モフいよ~!》
《わたしの推しだよ~!》
《また胴上げされてたんだ笑》
《好きだね~》
《お調子者で可愛い》
《つぶらな瞳で怒れないよね笑》
 
 ココアは女性人気が一番高いかな。
 かっこよさではフクマロ・モンブランに比べて劣るけど、末っ子属性というのかな、さらに可愛さにあふれてる。

 でも、覚醒時の能力で言えば全然負けていない。
 なんというか意外性があるんだよね。
 『王種』野菜にしても、ココアがいなければ復活はしなかった。

「キュル」
「ん?」

 そんなココアは、小さめの鳴き声をあげながら、手元を寂しそうにする。
 
「あ。どんぐり落としちゃった?」
「キュル」
「変わらないなあ……はい、どうぞ」
「キュルー!」

 胴上げでなくしちゃったのかな。
 でも、ココアのためにどんぐりは常備している。
 悲しむ姿は心が痛いからな。

《ココアちゃんよかったね~》
《もう無理ぃ……》
《尊すぎてしんどい》
《両手で持つのかわいいよ》
《はぁ好き》
《宝物みたいにしまうんだよね》
《で、またすぐ落とす笑》
《そこがまたかわいい》

「ワフワフ」
「ムニャムニャ」

 そんなココアに「やれやれ」と仕草をしたフクマロとモンブラン。

「キュルル!」
「まあまあ。三匹とも仲良くな」

 ココアは「もう!」と反抗。
 でも三匹ともとっても仲良しなので、ほんのいじりだろう。
 ココアがおっちょこちょいだし、これはよくみる光景だ。
 
「では、最後にあっちにいきましょう」

 俺はまた隣の区へ向かった。




 四区にて、俺は空を見上げて声を上げる。
 あの子は空を飛んでいるからな。

「タンポポ~!」
「プクッ!」

 白くてふわふわした体が舞い上がることから、「タンポポ」。
 モモンガのタンポポにぴったりの名だ。

「プクク~!」

 俺の声に反応して、タンポポは舞っていた空からスイーと滑空してくる。
 相変わらずの美しさだ。

「お、みんなを乗せてたんだ」
「プクッ!」

 地上に降りて来たタンポポの背中には、二匹のフェンリルと一匹のスライム。
 どれもちょっと小さいから子どもだね。
 タンポポは子どもと遊んでいることが多い。

「えらいなあ」
「プクク~!」
「ん?」

 だが、その中で一番興奮しているのはタンポポ。
 ただ一緒に遊んでいただけみたい。
 むしろ子ども達の先頭をきっていたのか。

「やっぱり子どもだった」
「プクク!」
「否定してもバレてるぞ」

《ほんと、末っ子だよね笑》
《ココアとの二大お調子者》
《僕も乗せてもらいたい!》
《里に行ったら一番に会いに行くね!》
《タンポポさ~ん!》
《わたしもおそらをとぶの!》

 タンポポは子どもに大人気。
 空を飛べるってやっぱり夢があるよね。
 しっかりとしたモフモフも持ち合わせているし。
 
「プックック」

 「ちっちっち」と君達にはまだ早い、みたいな態度を取っているけど、同じ子どもだと思われているからな、タンポポよ。

「キュル~」
「プクッ!?」

 そんなタンポポに、今度はココアが「やれやれ」との仕草。
 いや、ココア、ちなみにお前も同じだ。

「ははっ」

 フクマロ、モンブラン、ココア、タンポポ。
 四匹のおかげで今の俺があるよ。

「って、やば!」

 そうして、ふとカメラの時計が視界に入る。

「あ、すみません! そろそろ時間みたいです!」

 配信終了時間が来てしまった。
 次の予定はどうしても外せない。

《ああ、本当だぁ……》
《15時までだったもんね》
《時間経つの早いー!》
《今日も楽しかった》
《癒された~》
《今日は仕方ないな》
《だって明日あれだもんね》
《今から楽しみだ~》

 けど、批判的な意見はない。
 みんな明日のあれ・・を知ってくれてるのかな。
 自分で言うのもだけど、それなりに話題にはなったからな。

「それでは明日お会いしましょう!」

《こちらこそ~!》
《明日待ってるね!》
《もう明日まで寝ます》
《配信ありがとう!》
《ゆっくり休んでね~》
《じゃあなやすひろ!》
《またね!》

 温かいコメントを見ながら配信を閉じた。

「……ふぅ~」

 空を見上げながら改めて思う。
 俺は視聴者さんに支えられているなあ。

「みんな、ありがとう」

 配信上では照れくさくて言えないけど、なんとなく口に出した。
 届いていたら良いな、そう思って。

「よし。行くか!」

 明日の準備をしないとな。




ーーー
本日は19時頃にもう1話更新します!
次のお話で完結です!
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