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第47話 世界樹の上の温泉!

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 「ふんふふんふ~ん」
「鼻歌を歌うな。まだ出来てねえ」
「おっと、ごめんごめん」

 辺りが暗くなってきた頃。
 ここは世界樹の頂上。
 俺はニンマリとした顔でそれ・・を待っている。

「ったく、素材を採るだけ採って後は俺任せかよ」
「お疲れ様です! えりとさん!」
ねぎらっても何もでねーよ」

 強靭きょうじんな葉で出来た世界樹の頂上は、円形のようになっている。
 さらに、安全対策でガラスに囲まれたこの場所は五つ・・のエリアに区分できる。
 五つというのは、東・西・南・北、中央だ。
 
 中央は「展望台」。
 えりと設計の京風の茶室みたいなものが置かれている。

 北が「畑」、東が「四季のお花見ゾーン」だ。
 明らかに不思議な光景だけど、これがまた意外と様になっている。

 そして今回、南のエリアが埋まった。

「楽しみだなあ」

 完全なる思い付きの「温泉」である!

 周りを囲う木の板や脱衣所、お風呂自体の構造はすでに出来ている。
 上は吹き抜けになっていて、綺麗な夜空を見渡せる「露天風呂」だ。
 ペット達のDIYもすっかり慣れたものだね。

 となれば、後は温水を通すだけ。
 さっきからえりとが頑張ってしてくれている作業だ。

「お。繋がったか」
「まじで!」

 そうして、ついにえりとが声を上げた。
 
「もしかして、出来たのか!」
「おそらくな。そこを操作してみろ」
「いざ!」

 指示されたのは、温水が出てくる「湯口」。
 施設の温泉で直で当たると少し熱い、あのお湯が流れて来るところだ。

 言われた通りに操作すると……シャー。

「うおお! あったかい!」
「成功したか」
「すげえー!」
「ま、俺にかかればこんなもんよ」

 そして、えりとの渾身のドヤ顔。
 それでもこれは本当に尊敬だ。

「すご! これどんな仕組みなんだ!」

 えりとは髪をかきあげながら答える。

「世界樹全体に行き渡る膨大な水を、育ちの害にならない程度に頂上に集めた。余計に行き渡っているところもあったからな。んで、この頂上の少し手前に火口かこう岩を配置して、水を温水にしてるんだよ」
「……へえ」
「おう、ビビるるほどピンと来てねえな」

 よく分からなかったけどそういうことらしい!
 俺にはさっぱりだ!

 けど、やっぱりえりとはすごい。

 「温泉を作りたい」とめちゃくちゃな事を言い出したのも俺なのに、要望にはきちんと答えてくれるのだから。
 本当に良い相棒を持った、心の底からそう思った。

「ついでに、同じ構造を使って頂上の全体に熱がいくようにした。言うならば床暖房だな」
「それでか! なんか暖かいと思った!」
「……元は寒さ対策って話だからな。誰かさんのせいで話が広がったが」
「てへへ」

 話していた寒さ対策の方もしっかりしてくれたらしい。
 こいつ神? うん、きっとそうだ!

「でもま、ほとんどの作業をしたのはペット達だ。なにせ工事が大規模すぎるからな。俺の説明を正確に再現しやがるのはさすがだな」
「……」

 じゃあまさか、この中で構造を理解できてないの俺だけ?
 俺の知能、ペット以下?

「お、見ろ。そんなことを言ってる内に」
「おお、お湯が!」

 世界樹という膨大な水を回しているからか、あっという間にお湯が溜まった。
 自分の知能の低さに若干下がっていたテンションが、再び爆上がりする。

「じゃあそろそろ……」
「ああ、入るか」
「やったぜ!」

 俺は服を脱ぎ捨ててぴょーんと飛び込む。

「ワフー!」
「ニャフー!」
「キュル!」
「プククー!」

 それを見たペット達も続いた。
 普段なら怒られるところだろうが、家の温泉だから誰も文句は言うまい!




 それからしばらくたった頃。

「ワフゥ……」
「ははっ。フクマロ、おじさんみたいになってるぞ」
「ワフ?」

 タオルを頭の上に乗せ、目が横棒になっているフクマロ。
 うとうとしていて、このまま寝ちゃいそうだ。
 相当に気持ち良いのだろう。

「ニャフー」
「モンブランは大胆だなあ」

 小猫のモンブラン。
 小さな体を仰向けの大の字にして、ぷかーと湯に浮かんでいる。
 フクマロと同じで目が横線になっており、口をぽかーんと開けた姿はめちゃくちゃ可愛い。

「キュルー!」
「プクー!」
「あんまりはしゃぎすぎるなよ~」

 そして、元気に水泳大会をしているのはココアとタンポポ。
 弟属性を持つ二匹は相変わらずだ。

 フクマロ・モンブランと並べば、末っ子のようだったココア。
 それが、いたずらっ子なタンポポが新たに家族になったことでお兄ちゃん面をしているけど、周りから見ればどちらもまだまだ可愛い子どものよう。

 どちらも少々ぷくっとしていてので、泳いでる姿はボールが浮き沈みしているみたい。
 丸っこくて撫でたくなる。

「可愛いなあ」

 それぞれ思い思いの行動をするペット達。
 みんな「温泉」という初めての体験に喜んでいるみたいで、俺も嬉しい。

「良い眺めだねえ」
「だな」

 えりとは設置された白椅子でぼーっとしながらつぶやいた。
 すっかり出来上がっているようである。
 そんなえりとに釣られ、俺も空を見上げた。

 夜空には星々がキラキラと光る。
 『世界樹ダンジョン』の星空も絶景だったが、地球も地球でやっぱり綺麗だ。
 天然プラネタリウムみたいだ。

 それを仲間だけで独占して、のんびり入る温泉に浸かりながら眺めるなんて。
 なんて素晴らしい贅沢ぜいたく、なんて素晴らしいスローライフだろう。

「頑張った甲斐かいあったわ~」
「ああ、まじでお疲れ~。えりと」
「何言ってんだ、お前もだよ~」

 お互い、若干ふにゃふにゃした話し方になる。
 なんたって、

「ふい~」
「おいおいえりと、何杯目だよ~」
「まだ三杯目だっつの~」

 片手に日本酒を持っているからな。

 以前買ったおしゃれなおちょこがようやく役立った。
 温泉の中で日本酒、これに勝る極楽は無い。

「こりゃハマるなあ」
「ああ。もう完全にとりこだぁ」

 二人でぐびっとしながらのんびり過ごす。
 綺麗な星空、可愛いペット達、とても眼福だ。

 しばらく静かになった後、えりとが口を開く。

「今度、めどさんや桜井さんも呼ぶか~」
「いいよ~。でもあれ、女性用と分けなきゃ」
「……やっぱ今の無しで」

 顔を引きずったえりと。
 先程の作業を思い出したのだろう。
 増設するとなるとまた大変だからな。

「おいおい冷たいな。美月ちゃんもオーナーも絶対喜ぶって!」
「……その作業、誰がやるんだよ」
「そりゃもちろん、えりとで」
「だろうなあー!!」

 綺麗な星空の中に、えりとの声が響く。
 後日、えりとくんはしっかり女性用も作ってくれて、二人も温泉を満喫まんきつして大満足しましたとさ。
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