【完結】小さなフェンリルを拾ったので、脱サラして配信者になります~強さも可愛さも無双するモフモフがバズりまくってます。目指せスローライフ!〜

むらくも航

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第44話 世界樹にも寒さ対策って必要だよね

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 とある平日のお昼前。
 家横の世界樹頂上。

「寒くね?」
「分かる」

 えりとの言葉にぶんぶんと首を縦に振った。

 今は11月。
 金英きんえい高校文化祭からはそれなりに日が経ち、じきに冬に差し掛かる。
 高さが40メートル近くにまで伸びるこの頂上は、かなり寒い。

「そういえば、寒さ対策は全然考えてなかったな」
「えりとにしては珍しいよな」
「ああ。俺らしくねえミスだ」
「……自分で言うのか」

 ココアが自在に覚醒できるようになり、『覚醒ダンジョンだね』が容易に手に入るようになった。
 その甲斐かいあって、世界樹の頂上は「展望台」、「四季折々の木々」、「畑」を作ってなお余るスペースがある。

 でも、寒い!
 季節だけはどうにもならん!

「これは早急に対策が必要だな」
「激しく同意」

 そんなこんなで、俺たちは対策を練ることに。




 場所は変わっておうちの中。

「確かに寒さ対策は必要ですね~」
「めどさんもそう思うだろ」

 えりとは、目銅佐めどうさオーナーが用意してくれたお昼をモグモグしながら彼女と話している。
 彼女を「めどさん」と呼ぶのはえりとぐらいだ。
 オーナーがどうして居るかは省いていいだろう。

「えりとさんにしては珍しいミスで──」
「そのくだりはもうやったからいいよ」
「ええっ!」

 というか、最近この二人仲良くない?
 なんてふと思ってみたり。

 おっと、いかんいかん。
 俺も会話に参加せねば。

「えりとは何かアイディアないの?」
「まー、あるっちゃある」
「あるのか!」

 さすが、我らの頭脳えりとくん。

「『世界樹ダンジョン』を浮かべてくれ」
「ふむ」

 『世界樹ダンジョン』とは、つい最近まで俺たちが『新興ダンジョン』と呼んでいたあれだ。
 先日、晴れて名称が付けられた。

「東の方に火山があっただろ」
「あー、あるある」

 『世界樹ダンジョン』は一言で言えば、恐竜が生きていた時代のような風景。
 その代表とも言える火山も当然あった。

「あそこで面白いものが見つかったんだよ」
「なにそれ」
「『火口岩かこうがん』」

 花崗かこう岩ではなく、火口岩。
 ギャグみたいな名前だな。

「『世界樹ダンジョン』でしか発見されていない、熱エネルギーを持つ岩らしい。最近研究所で見たんだが、研究用に取られちまってよ」
「そりゃ仕方ない」

 俺んちでぬくぬくする為に使うより、研究で使ってもらった方が有意義だ。

「だから市場にも出回っていない。獲得できたのは一つだからな」
「ん? うん」

 あれ、気のせいかな。
 段々と誘導されているような……。

「てことで」

 えりとは俺の肩にポンと手を乗せた。

「頼むわ」
「やっぱりな!」


 絶対こうなると思った!







 ここは『世界樹ダンジョン』の入口。

 あの話の後、俺たちはすぐやってきた。
 「思い立ったが吉日」というやつだ。


「おお……やっぱすげえな」
 
 遠くにそびえ立つは、ダンジョンのシンボルである世界樹。
 
「プクー!」

 故郷に帰って来て嬉しいのか、タンポポがさっきから反応を示している。

 こんなすごい景色、しっかりと共有しないとな。
 そう思い、俺はカメラを前に向ける。

「どうですか皆さん! この景色!」

《すげえええ!!》
《世界樹ダンジョンやべえ》
《恐竜の時代みたい!》
白亜紀はくあきだな》
《これがタンポポちゃんの故郷か~》
《タンポポ興奮しててかわよ》

 今回はただの探索ではなく、なんと『世界樹ダンジョン』の先行配信許可が出た。
 まだ一般には解禁されていないこのダンジョンだが、えりとが俺の「世界樹の畑」や「天空城」の功績を盾に許可を取ってきたそう。

 相変わらずちゃっかりしてやがる。
 俺としては心強い限りだけどね。

《久しぶりのダンジョン配信嬉しい》
《雑談もいいけどやっぱダンジョンだよな》
《金英の文化祭で知ったよ!》
《初見です》
《配信は初めてだ》
《最近ハマってます!》

 ダンジョン配信を望んでいた声がたくさんある。
 前にこの『世界樹ダンジョン』で星空を映した時は、探索の配信許可は出ていなかったからな。

 それに、この前の文化祭の話題から知ってくれた人も多数いるみたいだ。
 やはりあの影響力はすごかったよう。
 えりとの話では、CM出演の話もまた新たに来ているそうだ。

「それにしても今日はすごいな……」

 そんな影響もあってか、配信開始直後ですでに5万人近くの視聴者がいる。
 先行配信ということで、探索者たちも見に来てくれたりしているのかな。

《そろそろ進みませんか》
《今日はどこを探索するの?》
《前の星空は世界樹だったんだよね》

「あ、そうでした! 今日はあそこです!」

 コメントに聞かれ、ハッと目的を思い出す。

 今日の目的地は火山。
 入口から東側に位置するそれは、まさに恐竜時代の風景を代表するような大きな火山だ。

 世界樹に負けるとも劣らない迫力があり、東側の森林を抜けると着くようだ。

『じゃ、そろそろ行こうか』
「おう」

 聞こえてくるのはえりとの通信。
 最近はすっかりサポート役がハマってんな。

 すると、

《えりときたあああ!》
《相棒!!》
《ガチの有能》
《やすひろの右腕》
《意外と声かっこいい》
《ちょくちょくSNSに映ってる人だよね》

 コメントが一気に盛り上がる。
 今回はえりとの通信も配信に入れてみたんだ。

『ったく、やりにくいな』
「ははっ。いつも通りで大丈夫だって」
『ちょっとは意識するだろうが』

 今まで裏で活躍していたえりと。
 その活躍が段々と明るみになり、最近はえりとの方も聞きたいという声が大きくなった。

 今回は初めてお試しをしてみるけど、思ったより人気があったみたい。

『まあいい。さっさと行くぞ』
「了解!」
「ワフ!」
「ムニャ!」
「キュル!」

 えりとの号令で、俺含めペット達にも気合が入る。

 ここからは早速、探索開始だ。
 といってもかなり楽なんだけどね。

「てことでタンポポ、頼めるか?」
「プククク……プク~~~!」
「よーし!」

 ペット達お流行りの『覚醒ごっこ』の効果か、随分と覚醒までがスムーズになった。

 大きくなったモフモフの毛並み。
 低反発で沈み込むので、横になったら気持ち良くて寝てしまいそうだ。

《いいなあ》
《気持ちよさそ~》
《ふかふかベッドだ!》
《ずるーい!》
《相当モフい》
《やっぱタンポポちゃんよね!》

 タンポポもすっかり大人気で嬉しい。
 四匹目でここまで人気になれるのもすごいと思う。

「では、失礼してっと」

 俺は寝転がるようにタンポポに乗る。
 フクマロ達も俺にならった。

「ワフっと」
「ニャフっと」
「キュルっと」

「ん!?」

 今、みんな喋らなかったか?
 さ、さすがに気のせいか……?

『どうした?』
「……いや、なんでも。と、とにかく、頼むぞタンポポ!」

 タンポポは両腕を広げて皮膜を展開。
 そのままバサっ! と大きく一振りをして、高く舞い上がった。

「プククー!」
「よし行けー!」

 俺が声を上げると、えりとが通信を入れてくる。

『なんだかやけに張り切ってねえか?』
「お、そう見える?」
『また何か企んでやがるのか』
「まあ、そうとも言うかな」

《なんだなんだ》
《やすひろは基本ぶっ飛んでるからな》
《ワクワク》

 俺たちの会話にコメントが加速した。
 そっか、今言っておいてもいいのかも。

「俺は──」

 タンポポが飛び立ち、滑空しながら気持ちよく進む中、俺は考えていた事を堂々と宣言した。

「世界樹の上に温泉を作りたいんだ!」
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