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第6話 婚約者との別れと再会~SIDEオズ~
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次期公爵としてもう決まったレールを歩くことに、オズは嫌気がさしていた。
メイドや執事も全員彼を叱ろうとせず、何をするにも褒めたたえる。
「さすがでございますっ! オスヴァルト坊ちゃま!」
「これは将来安泰ですな」
大人たちの期待の目とそして誰も自分自身を見てくれていないという虚しさがそこにはあった。
だが、幸いにもオスヴァルトの父と母は彼を溺愛して、そして愛していた。
そんな人並みの愛を感じられて、オスヴァルトはありがたいと思っていたし、幸せだなと思ってもいた。
でも、何か、どこか足りないような気がしていた──
そんな時だった、フィーネとの婚約話を聞かされたのは。
「相手はライナー伯爵のご息女、フィーネ様だ」
「かしこまりました、お父さまのご指示に従います」
フィーネとオズは一度だけ先日会っていた。
両家のいつものお茶会にお互いの子供たちもということで挨拶がてら行っていたのだ。
(確か4歳くらいの幼い子供だったな。翡翠色の目が似合っていた印象だがなんだかおとなしそうな子だった)
そんな風にオズは思っていたが、同時に何か引っかかりも覚えた。
(なんか、寂しそうだったな……)
自分と同じように何か寂しそうな雰囲気を漂わせた不思議な子だった──
◇◆◇
オズは婚約の挨拶として、父親に連れられて応接室にいた。
彼の父親と伯爵夫人が離席してフィーネと二人だけの空間になると、年上だからという義務感で話しかける。
「また会えて嬉しいよ、フィーネ」
「はい」
「これからよろしくね」
「よろしくおねがいします」
ドレスの裾を持ってちょこんとお辞儀をする様子は、なぜかぎこちない。
それどころかよく見るとフィーネの手はやせ細って爪もボロボロ、足も少しふらついているように見える。
紅茶を飲みながら彼女の観察をするが、なんだか伯爵令嬢とは思えない部分が多く気になった。
「これからは週に一度は会いに来るよ」
「ありがとうございます」
ひとまず、彼は毎週来て婚約者である彼女の様子を見ようとした。
どこか本能的に心配になっていたのかもしれない──
「最初婚約者としてが難しかったら、お兄さんだと思ってくれていいからね」
「……おにいさま?」
「ああ、君の好きなこととか、逆に嫌いなこととか話してくれるだけでいいよ」
彼女は4歳、自分は10歳だからと、まずはお兄さんであろうとした。
自分もこの幼女をいきなり婚約者に見ろと言われてもまだ妹にしか見えない。
すると、フィーネから意外な問いかけが来た。
「さみしい?」
「え?」
「もうしわけございません。なんでもありません」
「いや、大丈夫だよ。僕は君がいるから寂しくないよ」
正直オズは内心ドキッとした。
こんなに小さい目の前の少女に心を見透かされたような気がした。
鋭いこの子に最初は少し恐怖を覚えた──
しかし、フィーネに触れていくにつれてどんどん自分の中の感情が変わっていった。
「オズっ!」
次第に嬉しそうに微笑むようになった彼女の天真爛漫な様子に、もう自分は虜だった。
彼女は見てて飽きない。
「オズ?」
「なんだい?」
「わたしとオズはおともだち?」
答えに少し困った。
(おともだち……でもあるか。婚約者だということは追々話せばいいし)
フィーネは毎週オズに会えることを楽しみにしているのか、扉をバタンと大きな音を立てて開けて会いに来る。
そしてちょこんとオズの隣に座ると、手を繋いでくるのだ。
(可愛い……)
最初はそんな印象だった。
でも、この淡い幸せな想いがきっとこのあとの恋心の始まりだったのだと、後々気づいた。
彼女とずっといたい。
傍にいたい。
そんな風に願っていた。
彼女が死んだと聞かされるまでは──
会いたい、会わせてほしい。
どうかもう一度、彼女に会いたい──
その想いだけを胸にオズはそれから十年かけてフィーネを探し続けて、そしてやっと再会した。
(ああ、愛しいフィーネ……)
彼は目の前に今いるフィーネの両手を握り締めた──
メイドや執事も全員彼を叱ろうとせず、何をするにも褒めたたえる。
「さすがでございますっ! オスヴァルト坊ちゃま!」
「これは将来安泰ですな」
大人たちの期待の目とそして誰も自分自身を見てくれていないという虚しさがそこにはあった。
だが、幸いにもオスヴァルトの父と母は彼を溺愛して、そして愛していた。
そんな人並みの愛を感じられて、オスヴァルトはありがたいと思っていたし、幸せだなと思ってもいた。
でも、何か、どこか足りないような気がしていた──
そんな時だった、フィーネとの婚約話を聞かされたのは。
「相手はライナー伯爵のご息女、フィーネ様だ」
「かしこまりました、お父さまのご指示に従います」
フィーネとオズは一度だけ先日会っていた。
両家のいつものお茶会にお互いの子供たちもということで挨拶がてら行っていたのだ。
(確か4歳くらいの幼い子供だったな。翡翠色の目が似合っていた印象だがなんだかおとなしそうな子だった)
そんな風にオズは思っていたが、同時に何か引っかかりも覚えた。
(なんか、寂しそうだったな……)
自分と同じように何か寂しそうな雰囲気を漂わせた不思議な子だった──
◇◆◇
オズは婚約の挨拶として、父親に連れられて応接室にいた。
彼の父親と伯爵夫人が離席してフィーネと二人だけの空間になると、年上だからという義務感で話しかける。
「また会えて嬉しいよ、フィーネ」
「はい」
「これからよろしくね」
「よろしくおねがいします」
ドレスの裾を持ってちょこんとお辞儀をする様子は、なぜかぎこちない。
それどころかよく見るとフィーネの手はやせ細って爪もボロボロ、足も少しふらついているように見える。
紅茶を飲みながら彼女の観察をするが、なんだか伯爵令嬢とは思えない部分が多く気になった。
「これからは週に一度は会いに来るよ」
「ありがとうございます」
ひとまず、彼は毎週来て婚約者である彼女の様子を見ようとした。
どこか本能的に心配になっていたのかもしれない──
「最初婚約者としてが難しかったら、お兄さんだと思ってくれていいからね」
「……おにいさま?」
「ああ、君の好きなこととか、逆に嫌いなこととか話してくれるだけでいいよ」
彼女は4歳、自分は10歳だからと、まずはお兄さんであろうとした。
自分もこの幼女をいきなり婚約者に見ろと言われてもまだ妹にしか見えない。
すると、フィーネから意外な問いかけが来た。
「さみしい?」
「え?」
「もうしわけございません。なんでもありません」
「いや、大丈夫だよ。僕は君がいるから寂しくないよ」
正直オズは内心ドキッとした。
こんなに小さい目の前の少女に心を見透かされたような気がした。
鋭いこの子に最初は少し恐怖を覚えた──
しかし、フィーネに触れていくにつれてどんどん自分の中の感情が変わっていった。
「オズっ!」
次第に嬉しそうに微笑むようになった彼女の天真爛漫な様子に、もう自分は虜だった。
彼女は見てて飽きない。
「オズ?」
「なんだい?」
「わたしとオズはおともだち?」
答えに少し困った。
(おともだち……でもあるか。婚約者だということは追々話せばいいし)
フィーネは毎週オズに会えることを楽しみにしているのか、扉をバタンと大きな音を立てて開けて会いに来る。
そしてちょこんとオズの隣に座ると、手を繋いでくるのだ。
(可愛い……)
最初はそんな印象だった。
でも、この淡い幸せな想いがきっとこのあとの恋心の始まりだったのだと、後々気づいた。
彼女とずっといたい。
傍にいたい。
そんな風に願っていた。
彼女が死んだと聞かされるまでは──
会いたい、会わせてほしい。
どうかもう一度、彼女に会いたい──
その想いだけを胸にオズはそれから十年かけてフィーネを探し続けて、そしてやっと再会した。
(ああ、愛しいフィーネ……)
彼は目の前に今いるフィーネの両手を握り締めた──
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