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第12話 魔女裁判

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 暴動と化したルーディアム国とトラウド国の友好の儀は、その後訪れたトラウド国の軍によって収められた。
 そして、ノエルとリオはトラウド国王管理下の直轄部隊によって取り押さえられ、そのまま牢獄へと収容される。
 数日後、再び同じ会場にはルーディアム国の王族──ノエルとリオの魔女裁判がおこなわれようとしていた。

「諸君は大いなる被害者である! 信じていた国王と王子にずっと嘘をつかれていたのだ、何百年もっ!」

 磔にされるノエルとリオの前に堂々と立ち、これまた民衆に向かって叫ぶトラウド国王はちらりとノエルのほうを見遣って挑発するようににやりと笑った。
 その笑いに激怒し、ノエルは叫ぶ。

「おのれ、こんなことをしてただで済むと思っているのか?!」
「では、その服を脱いで自分自身で証明してみせますか?! 『お・と・こ』であると!」
「ぐっ!」

 その発言に為す術なく、唇を噛みしめるノエルの様子をみて、リオは涙を流しながらトラウド国王を睨む。

(この、この国王さえいなければっ!)

 リオは隠し武器を使って縄を解こうと考えを巡らせるが、ここから母を抱えての脱出を自分一人でこなせると思っていなかった。
 それに同じく舞台の脇で処刑されようとしている王族の侍女たちを見捨てるわけにはいかない。

(何か、何かないのか、何か打開策は)

「ルーディアム国の皆様、ご安心ください。このわたくしがこの魔女たちを断罪し、皆様を解放してみせましょう!」

 その言葉に民衆は「おおーーー!!!」と雄たけびを上げて、それに賛同する。

(このままではルーディアム国が……)

 その時、リオの視線の先にはフィルが深くフードを被り、ゆっくりとこちらに近づきながら口を動かし、何かを訴えていた。

(お・れ・を・し・ん・じ・ろ?)

 言葉を言い終えると、そのままフィルは走り出して舞台の上に飛び乗った。

「フィル?」

 トラウド国王はフィルの登場に意外性もない表情を見せて、お前ひとりに何ができる?とでも言いたげな顔をする。
 その父親に侮蔑の表情を浮かべると、今度は民衆を見渡してフィルは人生で最も大きな声を出して訴えた。

「だまされるなっ! このトラウド国王はそなたたちの国を自分のものにしようと企み、扇動しているっ!」
「それがなんだっ! 俺たちを長年だまし続けていた王族よりいいじゃないか!」
「目を覚ませっ! トラウド国王はこの国を属国とし、裕福な他国に植民地として売りつけようとしているっ!」
「なにっ?!」

 フィルの告発に民衆は再びざわめきたつ。
 その発言に反応をしたのは、当の本人であるトラウド国王だった。

「なにを言う、フィル」
「証拠はあります。ここに」

 そう言うと、胸元から書簡を取り出した。
 フィルは民衆の中にいた領主たちの何人かを舞台に呼び寄せると、その書簡を証拠として見せた。

「本当だ……本当に貴族にルーディアム国を売るつもりで……」

 書簡には紛れもないトラウド国のサインと共に、植民地として売るという契約が書かれていた。
 領主たちは民衆たちに自分たちが確かに証拠を見たことを告げる。

「そんな、じゃあフィル王子の言うことがほんとなら私たちはどちらを信じれば」
「思い出してくださいっ! 今までこのルーディアム国が戦争になったことが一度たりともありましたか?! それはこの国がノエル国王、リオ王子たち王族が必死に守ってきたからです」

(フィル王子……)

「この土地は元々戦争の絶えない土地でした。そしてある一人の王妃が戦争で自分の息子を失ったことから、この国の王族に女性しか生まれなくなったのです」

(え……)

 それはリオも初めて聞く事実であったため、隣にいるノエルを見るとその内容が事実であるというように一つ頷き返した。

「なにをバカなことをっ! そんなこと民衆が信じるわけ……」
「聖女様の神話は本当だったのか」
「え?」
「そうです、この国に伝わる『聖女様の神話』は本当。その神話の聖女の末裔こそここにいらっしゃる二人なのです」
「わしらはなんてことを……神話の聖女様を魔女だとしてしまうとは……」

 民衆は持ってきていた鍬や鋤を置いて跪き、ノエルとリオに祈る。

「聖女様……」
「国王、王子……」

 その手のひらを返すように恭しくする民衆に向かってトラウド国王は暴言を吐き始めた。

「こんな神話を信じて馬鹿どもめっ! それに国をこのわたしに預けようとしたのはお前たちだっ! それを今更っ!!」

 そう言ってトラウド国王は剣を抜き、領主に襲い掛かろうとするが、それを止めたのはリオだった。

「リオ姫?! どうやって?!」
「隠し武器の一つくらいもっています。それより、ルーディアム国民を愚弄し、傷つけることは私が許さないっ!」

 そう言ってトラウド国王の腕をひねり上げると、そのまま勢いよく転ばせて縄で腕を結ぶ。

「くそっ! フィルっ! 助けろっ!!」
「父上、幼い頃よりあなたに心を許した覚えはありません。この母の形見に誓って、あなたを断罪する」

 首にかけていたサファイアのネックレスを握り締めてフィルは父に言い放つ。

(あれ、お母さんの形見だったんだ)

 リオの中でフィルの部屋で見た写真の少女を思い出す。
 その少女にも同じネックレスが首に輝いていた。

 リオはノエルの縄を解くと、国民に告げた。

「皆、私は女だっ! しかし、国民を思う気持ちに嘘偽りはない。もしこれからも我ら母娘についてきてくれるというのであれば、この身、一生ルーディアム国に捧げよう!」

 しんとなる会場に一つ、また一つと拍手が巻き起こる。
 その拍手はやがて割れんばかりの大きな声援となり、泣いて喜ぶものや「ノエル様、リオ様!」と叫ぶ声も見受けられた。

「フィル王子……」

 リオはその様子を眺めていたフィルのもとに向かい、礼を言う。

「ありがとう」
「いや、私はあなたたちを今日まで助けられなかった。詫びるのはこちらだ」

 そうして二人で頭を下げ合い、そして顔を上げて笑い合った。
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