上 下
8 / 32
王宮内乱編

第8話 さて、覚悟はいいか

しおりを挟む
 ──ある晴れた日、王妃は我が物顔で謁見の間の玉座に腰かけると、優雅に扇をはためかせて言った。

「あら、リーディアちゃん。サロンやお庭じゃなくてわざわざ謁見の間でお話したいことって何かしら? まさかっ! エリクとの結婚宣言の式典の日取りを早めてほしいとか?! やだあ~もうそんなにエリクのことが好きなの~?」
「エリク様には先にお伝えしたのですが」
「まあっ! じゃあやっぱり結婚宣言のしき……」
「エリク様は泣いて私にすがりつきましたよ」
「──っ?」
「第一王子エリク・ル・スタリー様との婚約を破棄させていただきたくお願いにあがりました」
「──っ! あなた、まさか……」

 王妃が私を見る目が変わり、一気にその顔は化けの皮がはがれたように凄みを増した表情になる。

「あなたを母と慕う予定はありませんし、両親が亡くなって引き取っていただいた恩を感じることもありません。なぜなら、そんな両親端からいませんから」
「──っ!」
「私の母は政子まさこただ一人なのよっ! 肉じゃがもカレーも豚肉で作る節約家、でもそれがいいうま味を出すことを知っている! パンツに穴が開いても、靴下に穴が開いても履き続ける!」
「あなた何を言っているの?」
「でもそんな母は毎日遅くまで働きながらそれでも朝早く起きてお弁当を作って送り出してくれた、優しい母だった。そんな優しい母が私は好きだった。それをあなたはなんの理もなしに奪ったのよっ!!!」

 私は息を切らせながら目には涙を浮かべて王妃に母──政子への愛を誓った。
 突然の母と離れなければならなかった、この苦しみがお前にわかるのかっ!!

「エリク様は白状しましたよ。あなたが王宮魔術師に聖女召喚の儀式をおこなわせて私を召喚したこと。そして、第一王位継承権を得るために私を婚約者として、そしてこの世界で18年生きてきたという偽りの記憶を植え付けたこと」
「なっ! エリク……あのバカ息子……」
「あの人は私を少しも愛していなかった……」

 私は言っていて悲しくなるが、ぐっとこらえる。

「息子の教育が甘かったですね、王妃」
「──っ! ユリウス王子」

 私の後ろにある柱からそっと姿を現したのは第二王子であるユリウス様だった。

「そう。あなたと繋がっていたの」
「ええ」
「ふん、所詮よくわからない異国の人間だわ。な~にが聖女かしら。色仕掛けでも使ってそそのかしたのでしょう?」
「いいえ、私から声をかけましたよ、あなたの動向がおかしいことに加え、急に現れた聖女がいきなり第一王子の婚約者になるなど、どこからどうみてもおかしいですからね」
「私がやったという証拠はないわ」
「口を割りましたよ、王宮魔術師も」
「なっ!」
「あなたはあの方に慕われていると思っていたのでしょうが、残念でしたね。彼なりの処世術ですよ、あれは。地下室にあった術の痕跡、そして彼が術をかけるために使用した贄の出処も押さえました。すべてあなたの故郷の村の人間の子供の死体や植物でした。村長がおびえながら話してくれましたよ」

 聖女召喚には多大なる贄が必要となり、その中には6歳までの子供の死体と特殊な植物と大量の血が必要になる。
 それらは全て王妃の生まれた故郷で集められていたことがユリウス様の調べにより判明した。
 自分の召喚にそのような大きな犠牲を払っていたことに、そして何よりただ自分の息子の婚約者にしたいから、自分が王妃として盤石な地位を得たいからという理由でそれがなされたことに腹が立つ。

「もう一つ、あなたは罪を犯しました。10歳の時に私に毒を盛ったのはあなたですね、王妃」
「なんのことかしら?」
「当時のメイドを探し出し聞き出しましたよ、私の皿に毒を盛ったと泣きながら伝えてくれました」
「…………」

 私とユリウス様は並んで立ち、王妃を見上げて問う。

「「何か申し開きはありますか」」

 その言葉に王妃はくくくとこらえきれないように笑うと、そのあと手を口元に当ててさらに高笑いをした。

「ああ、おかしい。だからなんなの? 私がしたから何? この王宮の人間は全て私の味方なのよ?! あなたたちに何ができるっていうの?」

 その言葉を合図に私たちを取り囲むように兵が立ち並ぶ。

「さあ、第二王子を牢へ連れて行きなさい、小娘も同じよっ!!」

 その言葉に兵たちは全く耳を貸さない。当たり前だ。だって……


「それで気が済んだか? アンジェラ」

 その言葉にユリウス様と私は膝をついてその人物を迎え入れた。
 私たちの頭を優しくなでると、その人物は玉座へと向かって行った。

「誰がそこに座っていいと許可をした?」
「……王……」

 顔をあげると、そこには見たこともないほど青ざめた顔をした王妃の姿とその王妃を見る王の後ろ姿があった。

「あ……あ……」

 王妃は言葉も出ずおびえたような表情を見せている。

「わしの可愛い子供を危険に晒した挙句、勝手に聖女召喚、そして民衆からの不当な税の徴収。どう落とし前をつけてもらおうか?」
「こ、昏睡状態だったのでは……」
「ユリウスが匿ってくれ、半年前から様子は聞いていたよ。そして今のやり取りも全てそこで聞かせてもらっていた」

 王はマントをはためかせ、謁見の間に集った者たちに告げた。

「イルジー・ヴィ・スタリーの名において、王妃アンジェラ・ル・スタリーを国外へ永久追放とし、それに加担した第一王子エリク・ル・スタリーを辺境の地へと追放とする!」
「おおおおーーーー!!」

 取り囲んだ兵は王妃直属の兵ではなく、実は王直属部隊であった。
 兵たちは声をあげ、王の復帰を歓迎した。
 私とユリウス様は共に目を合わせて微笑むと、そっと静かに頷いた──



******************************


【ちょっと一言コーナー】
アンジェラ王妃は扇だ好きでなんと100種類以上コレクションがあるのだとか。
あと、余談ですが、うちの家も肉じゃがやカレーは豚肉派です(笑)
みなさん何派なんでしょう?


【次回予告】
ついに王妃を王宮から追放することに成功して、王宮に平和が訪れる。
そんな時、現代に帰還する方法がわかって……?!
次回、『第9話 揺れる気持ちとお互いの想い』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう結構ですわ!

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
 どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。  愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/29……完結 2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位 2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位 2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位 2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位 2024/09/11……連載開始

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」 私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。  聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?  私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。  だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。  こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。  私は誰にも愛されていないのだから。 なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。  灰色の魔女の死という、極上の舞台をー

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

私とは婚約破棄して妹と婚約するんですか?でも私、転生聖女なんですけど?

tartan321
恋愛
婚約破棄は勝手ですが、事情を分からずにすると、大変なことが起きるかも? 3部構成です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

釣った魚にはエサをやらない。そんな婚約者はもういらない。

ねむたん
恋愛
私はずっと、チャールズとの婚約生活が順調だと思っていた。彼が私に対して優しくしてくれるたびに、「私たちは本当に幸せなんだ」と信じたかった。 最初は、些細なことだった。たとえば、私が準備した食事を彼が「ちょっと味が薄い」と言ったり、電話をかけてもすぐに切られてしまうことが続いた。それが続くうちに、なんとなく違和感を感じ始めた。

処理中です...