6 / 32
王宮内乱編
第6話 書庫室での作戦会議
しおりを挟む
エリク様が王妃様の共犯者であるとわかった次の日、私はじいじの伝言によって集合をかけられて書庫室へと向かっていった。
リアの反応的にそろそろ病弱設定も無理がきたわね。
そう、毎回風邪で休むやら今日は気分が優れないやらいろいろ言ってきたのだが、あまりの頻度にリアもちょっと疑いの目を向けてきた。
おそらく医師の診察を断ったからだろうけど……。
そろそろ決着をつける時が近いってことね。
そう心の中で思いながら、私は書庫室へと歩みを進めた。
「こうして会うのは久しぶりですね」
「ええ、いつも手紙のやり取りでしたから。いつもユリウス様は字がお綺麗だなと思いながら見ております」
「そうでしょうか? 初めて言われました」
「嘘?! とても綺麗で美しい品のある字だと思います」
「あ、ありがとうございます」
「字に関しては左利きなもので癖がある字だと思っていたのですが……」
「そうだったのですね! でも右利きでも左利きでもユリウス様の書く姿は気品あふれるんだろうな~と思っておりました」
「……そ、そこまで褒めていただけると、その、もうおやめくださいっ!」
ユリウス様は恥ずかしそうに頭をかきながら少し目を逸らして顔を赤くする。
字でもその真面目さを感じられたけど、なんだかこうした反応を見ると可愛いというか、好感が持てるな。
「こほん。ユリウス様、聖女様、そろそろよろしいでしょうか?」
「え、ええ。ごめんなさい書庫室長」
「いえ。先日の調査によりやはりエリク様も王妃様と共犯で記憶の改ざんに関わっていると」
「はい、改ざんの儀式などそのものに関わっていなくとも、やはり不自然に記憶を覚えていないことが多いです。それに私の事を「聖女」としてしか見ておらず、私自身を愛する気持ちもないこともわかりました」
そう言っていてなんだか自分自身で悲しくなる。
愛してほしいなんて思っていないけど、私が捧げた一年は一体なんだったのだろうかとは思ってしまうほどにはなっていた。
「それと、そろそろリアが何か不審がっている様子が見られるのでこれ以上風邪での休みや不用意な移動は避ける方がよいかもしれません」
「そうですね。こちらとしてはかなり証拠が集まってきたので、あなたはいつも通りの生活に戻ってください」
「わかりました」
「緊急度の高い事案発生や何か新しい情報を仕入れた際のみお手紙をください」
「かしこまりました」
こうして限られた時間の中で王妃をどのように王宮から追放するか、エリク様へどのような罪を与えるかの会議がおこなわれた。
◇◆◇
書庫室にて作戦会議が開かれた数日後のある日、王妃様が廊下の向こうから来るのが見えたため、私はいつものようにカーテシーで挨拶をして王妃様が通り過ぎるのを待った。
王妃様がすれ違う瞬間にそっと扇で口元を隠しながら私に対してそっと呟いた。
「あなた、わたくしが“行ってはいけない”と言ったところに行ったそうじゃない?」
(──っ!)
すぐに書庫室のことだと思い否定しようとしたが、違和感に気づき私は落ち着きを持ったいつものおしとやかな令嬢口調で返答した。
「申し訳ございません。王妃様はわたくしに行ってはならないと仰った場所などないと思うのですが、ご気分を害されることをわたくしはしてしまったのでしょうか」
「…………ええ、そうね。行ったらいけないなんて言ったことないわよね。ごめんなさい、勘違いだったわ」
「いえ、寒くなってきたので王妃様もお体にはお気をつけくださいませ」
「ええ、ありがとう」
そう言いながら王妃様は私のもとを去っていった。
王妃様が去ったあとで唾を一つごくりと飲んだ。
私の心臓はドクドクと脈打つように鳴っており、心の中では恐怖心で溢れていた。
(そうだ。『行ってはならない』とは言われていない。おそらく私に行くなと暗示をかけさせた。記憶を取り戻したかを探って来たということはやはり王妃様は黒)
私の額に一筋の汗が流れたのを拭うと、その足で自室へと向かった。
*******************************
【ちょっと一言コーナー】
ユリウスの字は今の日本でいうと、かくっとしっかり止めはねができた気真面目そうな字です。
英語だとさらさらという感じでしょうが・・・
左利き設定ようやく出せましたっ!
【次回予告】
王妃からの疑いの目を潜り抜け、いよいよ王宮追放の時が迫っていた。
無事に成功するのか……?
そんな時、ユリエは裏庭に、ある木を見つけてそこで……。
次回、『第7話 折れそうな心』
リアの反応的にそろそろ病弱設定も無理がきたわね。
そう、毎回風邪で休むやら今日は気分が優れないやらいろいろ言ってきたのだが、あまりの頻度にリアもちょっと疑いの目を向けてきた。
おそらく医師の診察を断ったからだろうけど……。
そろそろ決着をつける時が近いってことね。
そう心の中で思いながら、私は書庫室へと歩みを進めた。
「こうして会うのは久しぶりですね」
「ええ、いつも手紙のやり取りでしたから。いつもユリウス様は字がお綺麗だなと思いながら見ております」
「そうでしょうか? 初めて言われました」
「嘘?! とても綺麗で美しい品のある字だと思います」
「あ、ありがとうございます」
「字に関しては左利きなもので癖がある字だと思っていたのですが……」
「そうだったのですね! でも右利きでも左利きでもユリウス様の書く姿は気品あふれるんだろうな~と思っておりました」
「……そ、そこまで褒めていただけると、その、もうおやめくださいっ!」
ユリウス様は恥ずかしそうに頭をかきながら少し目を逸らして顔を赤くする。
字でもその真面目さを感じられたけど、なんだかこうした反応を見ると可愛いというか、好感が持てるな。
「こほん。ユリウス様、聖女様、そろそろよろしいでしょうか?」
「え、ええ。ごめんなさい書庫室長」
「いえ。先日の調査によりやはりエリク様も王妃様と共犯で記憶の改ざんに関わっていると」
「はい、改ざんの儀式などそのものに関わっていなくとも、やはり不自然に記憶を覚えていないことが多いです。それに私の事を「聖女」としてしか見ておらず、私自身を愛する気持ちもないこともわかりました」
そう言っていてなんだか自分自身で悲しくなる。
愛してほしいなんて思っていないけど、私が捧げた一年は一体なんだったのだろうかとは思ってしまうほどにはなっていた。
「それと、そろそろリアが何か不審がっている様子が見られるのでこれ以上風邪での休みや不用意な移動は避ける方がよいかもしれません」
「そうですね。こちらとしてはかなり証拠が集まってきたので、あなたはいつも通りの生活に戻ってください」
「わかりました」
「緊急度の高い事案発生や何か新しい情報を仕入れた際のみお手紙をください」
「かしこまりました」
こうして限られた時間の中で王妃をどのように王宮から追放するか、エリク様へどのような罪を与えるかの会議がおこなわれた。
◇◆◇
書庫室にて作戦会議が開かれた数日後のある日、王妃様が廊下の向こうから来るのが見えたため、私はいつものようにカーテシーで挨拶をして王妃様が通り過ぎるのを待った。
王妃様がすれ違う瞬間にそっと扇で口元を隠しながら私に対してそっと呟いた。
「あなた、わたくしが“行ってはいけない”と言ったところに行ったそうじゃない?」
(──っ!)
すぐに書庫室のことだと思い否定しようとしたが、違和感に気づき私は落ち着きを持ったいつものおしとやかな令嬢口調で返答した。
「申し訳ございません。王妃様はわたくしに行ってはならないと仰った場所などないと思うのですが、ご気分を害されることをわたくしはしてしまったのでしょうか」
「…………ええ、そうね。行ったらいけないなんて言ったことないわよね。ごめんなさい、勘違いだったわ」
「いえ、寒くなってきたので王妃様もお体にはお気をつけくださいませ」
「ええ、ありがとう」
そう言いながら王妃様は私のもとを去っていった。
王妃様が去ったあとで唾を一つごくりと飲んだ。
私の心臓はドクドクと脈打つように鳴っており、心の中では恐怖心で溢れていた。
(そうだ。『行ってはならない』とは言われていない。おそらく私に行くなと暗示をかけさせた。記憶を取り戻したかを探って来たということはやはり王妃様は黒)
私の額に一筋の汗が流れたのを拭うと、その足で自室へと向かった。
*******************************
【ちょっと一言コーナー】
ユリウスの字は今の日本でいうと、かくっとしっかり止めはねができた気真面目そうな字です。
英語だとさらさらという感じでしょうが・・・
左利き設定ようやく出せましたっ!
【次回予告】
王妃からの疑いの目を潜り抜け、いよいよ王宮追放の時が迫っていた。
無事に成功するのか……?
そんな時、ユリエは裏庭に、ある木を見つけてそこで……。
次回、『第7話 折れそうな心』
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?
灰銀猫
恋愛
孤児のルネは聖女の力があると神殿に引き取られ、15歳で聖女の任に付く。それから3年間、国を護る結界のために力を使ってきた。
しかし、彼女の婚約者である第二王子はプライドが無駄に高く、平民で地味なルネを蔑み、よりよい相手を得ようと国王に無断で聖女召喚の儀を行ってしまう。
高貴で美しく強い力を持つ聖女を期待していた王子たちの前に現れたのは、確かに高貴な雰囲気と強い力を持つ美しい方だったが、その方が選んだのは王子ではなくルネで…
平民故に周囲から虐げられながらも、身を削って国のために働いていた少女が、溺愛されて幸せになるお話です。
世界観は独自&色々緩くなっております。
R15は保険です。
他サイトでも掲載しています。
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
公爵令嬢と聖女の王子争いを横目に見ていたクズ令嬢ですが、王子殿下がなぜか私を婚約者にご指名になりました。
柴野
恋愛
私は見目麗しくもなければ成績もよろしくないクズ令嬢、ダスティー。
家は没落寸前で、もうすぐ爵位を返上して平民になるはずでした。
それでも教養をつけておこうと思い、通っていた学園では今、公爵令嬢と聖女の元平民の少女が『王子争い』をしていました。
それを「馬鹿だな」と思いつつ横目で見ていた私。だって私には無縁ですもんね。
なのに王子は公爵令嬢と婚約破棄し、しかも聖女のこともガン無視して、なぜかクズ令嬢の私をご指名に!?
でも私は正直殿下には興味ないし、嫉妬とかがめちゃくちゃ酷いので諦めてほしいのですけれども、なんだか溺愛されてます! どうしたらいいんですかー!
※全二十話。
※小説家になろう、ハーメルンにて投稿しております。
【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、元婚約者と略奪聖女をお似合いだと応援する事にした
藍生蕗
恋愛
公爵令嬢のリリーシアは王太子の婚約者の立場を危ぶまれていた。
というのも国の伝承の聖女の出現による。
伝説の生物ユニコーンを従えた彼女は王宮に召し上げられ、国宝の扱いを受けるようになる。
やがて近くなる王太子との距離を次第に周囲は応援しだした。
けれど幼い頃から未来の王妃として育てられたリリーシアは今の状況を受け入れられず、どんどん立場を悪くする。
そして、もしユニコーンに受け入れられれば、自分も聖女になれるかもしれないとリリーシアは思い立つ。けれど待っていたのは婚約者からの断罪と投獄の指示だった。
……どうして私がこんな目に?
国の為の今迄の努力を軽く見られた挙句の一方的な断罪劇に、リリーシアはようやく婚約者を身限って──
※ 本編は4万字くらいです
※ 暴力的な表現が含まれますので、苦手な方はご注意下さい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる