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第12話 逢魔が刻の闘い
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「零様、綾芽様の元へ!」
私の呼びかけに応じて、零様は綾芽様の元へと向かった。
一方、私は零様とは一旦分かれて、妖魔専門護衛隊の待機部屋へと急ぐ。
待機部屋に着くと、副隊長である三澄が私の存在を見つけた。
「隊長っ!」
「ごめんなさい、状況を教えてもらえますか?」
「はいっ! 敵は一体で桜華姫の結界を侵入してきて、屋敷を奇襲。隊を三組に分け、前線、屋敷全体警護、桜華姫の警護と配置済みです」
「承知。綾芽様の元には零様が向かった。三澄は屋敷全体組みの指揮を担当、私は前線に向かう」
「絶対に無茶はしないでくださいよ」
「わかってる、ありがとう」
頷き合って目を合わせると、三澄と私はそれぞれの配置へと向かう。
基本的に私が自ら前線に立つことは珍しくなく、三澄をそれを承知で送り出してくれている。
私は黒煙の立つ裏庭のほうへと向かった。
前線は思ったよりもひどかった。
裏庭へと続く廊下と石畳には、多くの負傷者が倒れており、その先から刀と刀がぶつかる音がする。
あらかじめ救護班をこちらに向かわせているため、そのことを話ができる程度の軽傷の隊員へ伝えた。
私は石畳の敷かれた庭を駆け、妖魔の元へと向かった。
裏庭にそいつはいた。
妖術使いの妖魔は、圧倒的強さで隊員たちの攻撃を受け止め、薙ぎ払っている。
『香月を殺したのは、大太刀を持った人型の妖魔。白く長い髪で赤い目をしている。名は──』
「灯魔」
私が名を呼んだことで、灯魔は私の方を見る。
首を傾けてにやりと不気味に笑うと、白く長い髪をかきあげた。
「待っていたよ、凛ちゃん」
「なぜ、私を知っている」
「今まで送り込んだ妖魔は僕が作り出したから。情報を共有するのは普通だろ?」
彼は頭に人差し指を当てながら、得意げに笑う。
私は守護刀を抜いて戦闘態勢に入ると、今まで嬉しそうだった彼の表情が一気に壊れる。
ピクリと頬と唇を動かすと、静かな怒りを私に向けてきた。
「そうか、君が次の継承者か」
「どういうこと?」
「なるほど、君がそんなに僕に憎むような表情を向けるわけも、なぜここに来たのかもわかった」
彼は大太刀の切っ先を真っ直ぐに私に向ける。
「君の前にその刀を持っていた子を殺したのは、僕だ。その刀は僕の一部から作られたもの」
「──っ!!」
「君たち人間に扱えるわけがない。その刀は生きている。刀の妖気がじわじわと持ち主を蝕み、やがて殺す」
「そんな……」
そういえば私はこの守護刀の事を何一つ知らない。
彼の言っている事は本当なの?
「あいつの言っていることは本当だ」
「零、さま……!」
屋敷の方から現れた零様を見て、再び嬉しそうな表情を浮かべる灯魔。
「君はまたあの子の時みたいに、凛ちゃんを殺す事を選択したんだね」
「え……」
零様は何も言わずに立っている。
私の脳内で伊織様の言葉がよみがえった。
『お前はいずれ捨て駒にされる。あいつに』
もしかして、伊織様が私に言っていたことってこの守護刀が関係しているんじゃ……。
「零、君は守護刀の妖気に体を乗っ取られたあの子を見殺しにした。そして、次の犠牲者はそこにいる凛ちゃん」
「……」
どうして零様は何も言い返さないの?
本当に伊織様や灯魔が言っているように、香月様を見殺しにしたの?
「零様……」
目をつぶりながら黙って聞いていた零様がようやく目を開いた。
「ああ、俺は非情な人間だからな。お前を殺すためなら、部下をも見殺しにする」
「──っ!!」
「ふふ、その冷酷さ。僕は大好きなんだよね~。君は失ってばかりで可哀そうだね。捨てきれない情が君を苦しめて、傷つける」
「黙れ」
「怒った? ふふ、凛ちゃんももうすぐ僕の妖気に負けて、闇に落ちていく。その時君はどうするのかな。また殺すのかな」
嬉しそうににやりと笑った灯魔に、私は勢いよく飛び込んで守護刀を振りかざす。
わずかに彼の右腕をかすめて、灯魔を傷つける。
「そっか、零が君に守護刀を授けた意味をようやく理解したよ」
灯魔は右腕の傷を自らの舌で舐めると、私に視線を向けた。
「私は、妖気になんて負けない。零様の役に立ち、傍にいる」
「ふふ、愛……かな? 可愛い感情、僕大好きなんだ。愛って言葉。じゃあ、試してみる? 僕の妖気を超えられるのかどうか」
「……え?」
「──っ!! 凛っ!!」
零様の叫びが耳に届いた時、私は灯魔に距離を詰められていた。
灯魔は私の頬をひと撫でして、耳元で囁いた。
「さあ、勝負だよ」
囁かれた言葉は、私の耳に届いていた。
灯魔の大太刀で体を貫かれた私の耳に──。
私の呼びかけに応じて、零様は綾芽様の元へと向かった。
一方、私は零様とは一旦分かれて、妖魔専門護衛隊の待機部屋へと急ぐ。
待機部屋に着くと、副隊長である三澄が私の存在を見つけた。
「隊長っ!」
「ごめんなさい、状況を教えてもらえますか?」
「はいっ! 敵は一体で桜華姫の結界を侵入してきて、屋敷を奇襲。隊を三組に分け、前線、屋敷全体警護、桜華姫の警護と配置済みです」
「承知。綾芽様の元には零様が向かった。三澄は屋敷全体組みの指揮を担当、私は前線に向かう」
「絶対に無茶はしないでくださいよ」
「わかってる、ありがとう」
頷き合って目を合わせると、三澄と私はそれぞれの配置へと向かう。
基本的に私が自ら前線に立つことは珍しくなく、三澄をそれを承知で送り出してくれている。
私は黒煙の立つ裏庭のほうへと向かった。
前線は思ったよりもひどかった。
裏庭へと続く廊下と石畳には、多くの負傷者が倒れており、その先から刀と刀がぶつかる音がする。
あらかじめ救護班をこちらに向かわせているため、そのことを話ができる程度の軽傷の隊員へ伝えた。
私は石畳の敷かれた庭を駆け、妖魔の元へと向かった。
裏庭にそいつはいた。
妖術使いの妖魔は、圧倒的強さで隊員たちの攻撃を受け止め、薙ぎ払っている。
『香月を殺したのは、大太刀を持った人型の妖魔。白く長い髪で赤い目をしている。名は──』
「灯魔」
私が名を呼んだことで、灯魔は私の方を見る。
首を傾けてにやりと不気味に笑うと、白く長い髪をかきあげた。
「待っていたよ、凛ちゃん」
「なぜ、私を知っている」
「今まで送り込んだ妖魔は僕が作り出したから。情報を共有するのは普通だろ?」
彼は頭に人差し指を当てながら、得意げに笑う。
私は守護刀を抜いて戦闘態勢に入ると、今まで嬉しそうだった彼の表情が一気に壊れる。
ピクリと頬と唇を動かすと、静かな怒りを私に向けてきた。
「そうか、君が次の継承者か」
「どういうこと?」
「なるほど、君がそんなに僕に憎むような表情を向けるわけも、なぜここに来たのかもわかった」
彼は大太刀の切っ先を真っ直ぐに私に向ける。
「君の前にその刀を持っていた子を殺したのは、僕だ。その刀は僕の一部から作られたもの」
「──っ!!」
「君たち人間に扱えるわけがない。その刀は生きている。刀の妖気がじわじわと持ち主を蝕み、やがて殺す」
「そんな……」
そういえば私はこの守護刀の事を何一つ知らない。
彼の言っている事は本当なの?
「あいつの言っていることは本当だ」
「零、さま……!」
屋敷の方から現れた零様を見て、再び嬉しそうな表情を浮かべる灯魔。
「君はまたあの子の時みたいに、凛ちゃんを殺す事を選択したんだね」
「え……」
零様は何も言わずに立っている。
私の脳内で伊織様の言葉がよみがえった。
『お前はいずれ捨て駒にされる。あいつに』
もしかして、伊織様が私に言っていたことってこの守護刀が関係しているんじゃ……。
「零、君は守護刀の妖気に体を乗っ取られたあの子を見殺しにした。そして、次の犠牲者はそこにいる凛ちゃん」
「……」
どうして零様は何も言い返さないの?
本当に伊織様や灯魔が言っているように、香月様を見殺しにしたの?
「零様……」
目をつぶりながら黙って聞いていた零様がようやく目を開いた。
「ああ、俺は非情な人間だからな。お前を殺すためなら、部下をも見殺しにする」
「──っ!!」
「ふふ、その冷酷さ。僕は大好きなんだよね~。君は失ってばかりで可哀そうだね。捨てきれない情が君を苦しめて、傷つける」
「黙れ」
「怒った? ふふ、凛ちゃんももうすぐ僕の妖気に負けて、闇に落ちていく。その時君はどうするのかな。また殺すのかな」
嬉しそうににやりと笑った灯魔に、私は勢いよく飛び込んで守護刀を振りかざす。
わずかに彼の右腕をかすめて、灯魔を傷つける。
「そっか、零が君に守護刀を授けた意味をようやく理解したよ」
灯魔は右腕の傷を自らの舌で舐めると、私に視線を向けた。
「私は、妖気になんて負けない。零様の役に立ち、傍にいる」
「ふふ、愛……かな? 可愛い感情、僕大好きなんだ。愛って言葉。じゃあ、試してみる? 僕の妖気を超えられるのかどうか」
「……え?」
「──っ!! 凛っ!!」
零様の叫びが耳に届いた時、私は灯魔に距離を詰められていた。
灯魔は私の頬をひと撫でして、耳元で囁いた。
「さあ、勝負だよ」
囁かれた言葉は、私の耳に届いていた。
灯魔の大太刀で体を貫かれた私の耳に──。
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