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第二部 婚約者~妃教育編~
第22話 波乱の幕開け
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キュラディア村を出た二人は、馬車に乗って王宮へと移動していた。
「ちょっと寂しいわね……」
「そうだね。でも、永遠の別れではないよ。村は引き続き、俺の管轄になったし、リーズもこちらに来て大丈夫だから」
「二人の先生をこれからもできるってこと?」
「そういうこと」
リーズが二人というのはキュラディア村でたった二人の子供である、ビルとフランソワーズのこと。
読み書きを教えたり、一緒に遊んだりと何かと面倒を見ることが多かった。
彼らのためでもあったが、同時にそれがリーズにとっては村に馴染むことにつながったといえる。
馬車は王都付近に入ると、ゆっくりと速度を落としていく。
「王都……」
「うん、リーズはしばらくぶりかな?」
「ええ、何度か王宮開催の社交界に出席したことはあったのだけど、なんだか村にいたからかちょっと気後れしてしまいそう」
「とって食ったりはしないから大丈夫だよ」
ニコラは微笑みながらリーズの頭を優しく撫でた──
王宮に着くと、馬車の階段を降りてそれを見上げる。
大きくそびえたつ建物は、王国の象徴、中枢機関として素晴らしい様相で建っていた。
「こっちだよ」
手慣れた様子で彼はリーズを呼ぶと、自分について来るようにと促す。
彼が通ると皆衛兵たちはもちろん通りかかる士官たちも皆頭を下げて通路を明け、礼を尽くす。
改めて彼が「王子」であることをリーズは認識する。
王宮の中に足を踏み入れると、社交界が行われているホール部分ではなく執務エリアが広がっており、大勢の王宮仕官者たちが忙しく働いている。
王子、おかえりなさいませ、との声をかける仕官たちは、皆婚約者であるリーズにチラリと視線をやると、恭しく礼をする。
礼儀正しく彼女も彼らに礼を返しながら進んでいくと、やがて一際敷居の高い場所が広がっていた。
「お待たせいたしました、国王、王妃」
そこにはこのフィルヴィス王国の国王、王妃が玉座のもとにいた。
国王は髭を蓄えた様子でふくやかなその身体を椅子に乗せ、そしてその横に王妃が扇をかざして立っていた。
「遅かったじゃないの」
「申し訳ございません、母上。馬車が途中で不具合を起こしまして、遅くなりました」
「まあ、いい。ニコラ。その娘がリーズだな?」
「はい、私の婚約者であるリーズでございます」
そう言うと、国王は品定めをするようにリーズの顔をじろりと見つめる。
そうしてしばらく見たあとで、王妃が脇に控えていた側近に何か合図をする。
そうしてニコラとリーズの後ろにあった扉が開くと、そこには美しい紅色の髪をしたかわいらしい女性がいた。
20歳もいっていないほどの年齢でリーズと年はそこまで変わらないであろう。
そんな彼女はゆっくりと玉座に向かって進み、カーテシーで国王と王妃に挨拶をした。
「お呼びでしょうか」
「ああ、ここにキースディアの名において命ずる。第一王子ニコラの婚約者をそこにいる、ジュリア・メイシンをする!」
「──っ!!!」
「──え?」
そうして国王の名に置いて命じられた言葉は天井の高いこの場所に大きく響き渡る。
リーズは戸惑いを覚える中、扇の後ろでにやりと笑う王妃の顔を見た──
「ちょっと寂しいわね……」
「そうだね。でも、永遠の別れではないよ。村は引き続き、俺の管轄になったし、リーズもこちらに来て大丈夫だから」
「二人の先生をこれからもできるってこと?」
「そういうこと」
リーズが二人というのはキュラディア村でたった二人の子供である、ビルとフランソワーズのこと。
読み書きを教えたり、一緒に遊んだりと何かと面倒を見ることが多かった。
彼らのためでもあったが、同時にそれがリーズにとっては村に馴染むことにつながったといえる。
馬車は王都付近に入ると、ゆっくりと速度を落としていく。
「王都……」
「うん、リーズはしばらくぶりかな?」
「ええ、何度か王宮開催の社交界に出席したことはあったのだけど、なんだか村にいたからかちょっと気後れしてしまいそう」
「とって食ったりはしないから大丈夫だよ」
ニコラは微笑みながらリーズの頭を優しく撫でた──
王宮に着くと、馬車の階段を降りてそれを見上げる。
大きくそびえたつ建物は、王国の象徴、中枢機関として素晴らしい様相で建っていた。
「こっちだよ」
手慣れた様子で彼はリーズを呼ぶと、自分について来るようにと促す。
彼が通ると皆衛兵たちはもちろん通りかかる士官たちも皆頭を下げて通路を明け、礼を尽くす。
改めて彼が「王子」であることをリーズは認識する。
王宮の中に足を踏み入れると、社交界が行われているホール部分ではなく執務エリアが広がっており、大勢の王宮仕官者たちが忙しく働いている。
王子、おかえりなさいませ、との声をかける仕官たちは、皆婚約者であるリーズにチラリと視線をやると、恭しく礼をする。
礼儀正しく彼女も彼らに礼を返しながら進んでいくと、やがて一際敷居の高い場所が広がっていた。
「お待たせいたしました、国王、王妃」
そこにはこのフィルヴィス王国の国王、王妃が玉座のもとにいた。
国王は髭を蓄えた様子でふくやかなその身体を椅子に乗せ、そしてその横に王妃が扇をかざして立っていた。
「遅かったじゃないの」
「申し訳ございません、母上。馬車が途中で不具合を起こしまして、遅くなりました」
「まあ、いい。ニコラ。その娘がリーズだな?」
「はい、私の婚約者であるリーズでございます」
そう言うと、国王は品定めをするようにリーズの顔をじろりと見つめる。
そうしてしばらく見たあとで、王妃が脇に控えていた側近に何か合図をする。
そうしてニコラとリーズの後ろにあった扉が開くと、そこには美しい紅色の髪をしたかわいらしい女性がいた。
20歳もいっていないほどの年齢でリーズと年はそこまで変わらないであろう。
そんな彼女はゆっくりと玉座に向かって進み、カーテシーで国王と王妃に挨拶をした。
「お呼びでしょうか」
「ああ、ここにキースディアの名において命ずる。第一王子ニコラの婚約者をそこにいる、ジュリア・メイシンをする!」
「──っ!!!」
「──え?」
そうして国王の名に置いて命じられた言葉は天井の高いこの場所に大きく響き渡る。
リーズは戸惑いを覚える中、扇の後ろでにやりと笑う王妃の顔を見た──
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