上 下
6 / 23
第一部 出会い編

第6話 スノードームと記憶の欠片

しおりを挟む
 ビルの訪問のあと、ニコラは仕事があるからと村はずれにある事務所へと向かった。
 リーズはそのままビルに手を引かれて隣の家に挨拶に行くことになったのだが……。


「まあっ!! あなたがリーズさん!!?」
「母ちゃん、リーズ姉ちゃんすげえ美人だよな! 母ちゃんと違って!」
「あんたいつも最後が余計な・の・よ!」

 リーズからビルを引きはがすと、彼の母親はビルの頭を軽く叩く。

「お見苦しいところをすみません! リーズ……さんっていうのもなんだかよそよそしいのでリーズでどうかしら?」
「ええ、ぜひ!」
「よかったわ! 何もないところだけどよかったら入ってゆっくりしていってちょうだい」

 リーズはビルの母親の言葉に甘えて家の中にお邪魔することにした。
 ニコラの家とはまた違って家族住まいという感じが漂っており、物が多くて散らかり気味だった。
 それでもリーズはある棚の雑貨が気になってまじまじと見つめる。

「これ、スノードームですか?」
「そうなのよ、主人が私の結婚記念日にくれてね」
「スノードーム……」

 その言葉をつぶやいた直後、リーズの中にある記憶の欠片が降りてきて、頭の中に誰かの声が聞こえてくる──


『スノードームにはね、幸せが詰まってるの。ほら、ここ●●●●の●●が……』


 その女性の声はぼわっと最後のほうが聞こえず、そしてそのまま周りの音が遠くなる。

「う……」

 ふたりと身体が揺れて自分を支えられなくなったリーズは、しゃがみ込んで苦しそうに頭を抱える。

「大丈夫かい?!!」
「おいっ! リーズ姉ちゃん!! 大丈夫かよ!」
「え、ええ……」
「とにかくここに座んなっ!!」

 ビルの母親が急いでテーブルの椅子を持ってくると、リーズの身体を支えて座らせる。
 平衡感覚がなくなったリーズは、目をぎゅっと閉じて椅子の背もたれに寄りかかりながら、身体が落ち着くのを待った。

 次第に目の前が鮮明に見えるようになってきて、心配するビルと彼の母親の声がはっきりと聞こえてくる。
 頭もはっきりとしてきたリーズは、息を整えて二人に大丈夫だと告げた。

「とにかく紅茶でも飲んで」
「ありがとうございます、いただきます」

 紅茶を口に運んで落ち着かせながら、先程聞こえた声を思い出す。

(誰……? あの声は誰なの……?)

 両手で包み込まれたマグカップの湯気からは、ふんわりと甘い桃の香りがした──
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者アレクはリザ姫がお好き ~わたくし、姫は姫でもトロルの姫でございますのに~

ハマハマ
恋愛
 魔王を倒した勇者アレクはリザ姫に恋をしました。  アレクは姫に想いを告げます。 「貴方のその長く美しい紅髪! 紅髪によく映える肌理細かな緑色の肌! 僕の倍はありそうな肩幅! なんでも噛み砕けそうな逞しい顎! 力強い筋肉! その全てが愛おしい!」  そう。  彼女は筋肉《バルク》たっぷり、なんと姫は姫でもトロルの姫だったのでございます。 ◇◆◇◆◇ R3.9.18完結致しました! R3.9.26、番外編も済んでホントに完結!

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました

葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。 前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ! だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます! 「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」 ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?  私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー! ※約六万字で完結するので、長編というより中編です。 ※他サイトにも投稿しています。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!

恋愛
 男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。  ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。  全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?! ※結構ふざけたラブコメです。 恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。 ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。 前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。 ※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。

おいしいご飯をいただいたので~虐げられて育ったわたしですが魔法使いの番に選ばれ大切にされています~

通木遼平
恋愛
 この国には魔法使いと呼ばれる種族がいる。この世界にある魔力を糧に生きる彼らは魔力と魔法以外には基本的に無関心だが、特別な魔力を持つ人間が傍にいるとより強い力を得ることができるため、特に相性のいい相手を番として迎え共に暮らしていた。  家族から虐げられて育ったシルファはそんな魔法使いの番に選ばれたことで魔法使いルガディアークと穏やかでしあわせな日々を送っていた。ところがある日、二人の元に魔法使いと番の交流を目的とした夜会の招待状が届き……。 ※他のサイトにも掲載しています

ついうっかり王子様を誉めたら、溺愛されまして

夕立悠理
恋愛
キャロルは八歳を迎えたばかりのおしゃべりな侯爵令嬢。父親からは何もしゃべるなと言われていたのに、はじめてのガーデンパーティで、ついうっかり男の子相手にしゃべってしまう。すると、その男の子は王子様で、なぜか、キャロルを婚約者にしたいと言い出して──。  おしゃべりな侯爵令嬢×心が読める第4王子  設定ゆるゆるのラブコメディです。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...