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第一部 出会い編
第4話 娘のいなくなった邸宅~SIDEフルーリー伯爵家~
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「どういうことですか、父上っ!!」
「どうもこうもない、さっきも言ったとおりだ」
「あの辺境の地の森に女の子一人置いて来るなんてどうかしてます!!」
「もし帰りたかったら歩いてでも帰って来るだろう」
彼には辺境の森から自宅まで戻れない距離であることを知っており、自分の父親をひどく軽蔑する。
「あそこからどれだけ距離があると思っているのですか!」
「うるさいっ! お前は黙ってわしの言うことを聞けばいいんだ!」
「……」
彼──リーズの兄であるブレスはあまりにも横暴に自分の妹を捨てた父に抗議していた。
だが、運が悪いことにブレスが父の所業に気づいたのは、リーズが捨てられた二日後だった。
仕事で遠征していた関係で気づくのが遅くなってしまったのだ。
ブレスはなんとか父親に抗おうと頭の中で考えを巡らせるも、父親であるフルーリー伯爵の権力は強く、言い崩すことはできない。
ここで話していても埒が明かないどころか、無駄に時間を消費してしまうと考えたブレスは身体を動かすことに決めた。
「私がリーズを探しに行きます!」
「ふん、勝手にしろ」
そう言ってブレスは辺境の地へと馬車を走らせていた。
◇◆◇
馬車の中でブレスはポケットからネックレスを取り出すと、それをじっと見つめた。
「リーズ……」
そのネックレスはリーズが昔、母親の形見として大事にしていたものだった。
だが、先月に階段で足を滑らせて頭を打ってからは記憶を失ってしまい、そのネックレスが母親の形見であることはおろか、母親のことも忘れてしまっているようだった。
馬車が辺境の地へと向かう最中、ブレスは幼い頃リーズが生まれたときのことを思い出した──
『ブレス、あなたは今日からお兄ちゃんよ。この子を守るの』
『守る?』
『ええ、この子にはいつか私のネックレスをあげたいなって思ってるけど、かわりにあなたにはこれをあげる』
そう言って母親は優しく微笑みながらブレスに指輪を一つあげた。
『指輪?』
『これはきっとあなたと、そしてここにいるリーズを守ってくれるわ。二人はいつも一緒に助け合って生きていくのよ』
ブレスは再びネックレスに視線を落としたあと、自分の手に嵌めている指輪を見つめる。
幼い時に母親にはめてもらったときよりきつくなった指輪は、日の光が入り込み、それは虹色のような不思議な輝きを放っている。
「母上、リーズは必ず私が守ります」
指輪のはまった手、そしてその手に握り締められたネックレスを祈るように額につける。
「どうか無事でいてくれ、リーズ」
馬車は急いで辺境の森へと向かっていった──
「どうもこうもない、さっきも言ったとおりだ」
「あの辺境の地の森に女の子一人置いて来るなんてどうかしてます!!」
「もし帰りたかったら歩いてでも帰って来るだろう」
彼には辺境の森から自宅まで戻れない距離であることを知っており、自分の父親をひどく軽蔑する。
「あそこからどれだけ距離があると思っているのですか!」
「うるさいっ! お前は黙ってわしの言うことを聞けばいいんだ!」
「……」
彼──リーズの兄であるブレスはあまりにも横暴に自分の妹を捨てた父に抗議していた。
だが、運が悪いことにブレスが父の所業に気づいたのは、リーズが捨てられた二日後だった。
仕事で遠征していた関係で気づくのが遅くなってしまったのだ。
ブレスはなんとか父親に抗おうと頭の中で考えを巡らせるも、父親であるフルーリー伯爵の権力は強く、言い崩すことはできない。
ここで話していても埒が明かないどころか、無駄に時間を消費してしまうと考えたブレスは身体を動かすことに決めた。
「私がリーズを探しに行きます!」
「ふん、勝手にしろ」
そう言ってブレスは辺境の地へと馬車を走らせていた。
◇◆◇
馬車の中でブレスはポケットからネックレスを取り出すと、それをじっと見つめた。
「リーズ……」
そのネックレスはリーズが昔、母親の形見として大事にしていたものだった。
だが、先月に階段で足を滑らせて頭を打ってからは記憶を失ってしまい、そのネックレスが母親の形見であることはおろか、母親のことも忘れてしまっているようだった。
馬車が辺境の地へと向かう最中、ブレスは幼い頃リーズが生まれたときのことを思い出した──
『ブレス、あなたは今日からお兄ちゃんよ。この子を守るの』
『守る?』
『ええ、この子にはいつか私のネックレスをあげたいなって思ってるけど、かわりにあなたにはこれをあげる』
そう言って母親は優しく微笑みながらブレスに指輪を一つあげた。
『指輪?』
『これはきっとあなたと、そしてここにいるリーズを守ってくれるわ。二人はいつも一緒に助け合って生きていくのよ』
ブレスは再びネックレスに視線を落としたあと、自分の手に嵌めている指輪を見つめる。
幼い時に母親にはめてもらったときよりきつくなった指輪は、日の光が入り込み、それは虹色のような不思議な輝きを放っている。
「母上、リーズは必ず私が守ります」
指輪のはまった手、そしてその手に握り締められたネックレスを祈るように額につける。
「どうか無事でいてくれ、リーズ」
馬車は急いで辺境の森へと向かっていった──
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