【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重

文字の大きさ
上 下
23 / 28

第21話

しおりを挟む
 フェーヴル伯爵家でお茶会のことで私は自分の行為が正しかったのかどうか、悩んでしまっていました。
 お兄さまを侮辱されたことでお相手の方に紅茶をひっかけてしまったことは、本当に正しかったのでしょうか。
 そんな思いでしばらくいた頃、廊下でお兄さまとばったりお会いしました。

「ローゼ、よかった。探してたんだ」
「(?)」
「一緒にまたあのカフェにいかないか?」
「──っ!」

 お兄さまからのお誘いは大変嬉しく、先ほどの悩みで落ち込んでいた気持ちも少し上向きになりました。


 急いで準備をしてお兄さまとカフェに向かうと、どうやらベリーフェアという期間限定のメニューが出ているそうで、お兄さまはそれが書かれたメニュー表を見せてくださいました。

「ローゼの好きなベリーのスイーツがあるよ、ここはタルトが美味しいんだけど今年はミルフィーユもあるね。どちらがいい?」

 う~ん、それは悩んでしまいます……。
 タルトのサクサク感も食べてみたいし、今年初というミルフィーユもベリーが層になって入っていて美味しそうです。
 あまりにうんうんと悩んでいるので、お兄さまが「半分こにしようか」と提案してくださり、そうさせていただくことにしました。

「お待たせいたしました、ベリーのタルトとミルフィーユでございます」

 ケーキがテーブルに並べられるともうキラキラと輝いて見えて、しかも想像していたよりも大きくて嬉しいです!
 どちらが最初にするか、で悩みましたがまずはタルトから食べてみることにしました。

「──っ!!」

 これは美味しいです!
 しっとりとしたタルトもありますが、これはザクっといった食感で私の好みです。
 バターが効いていて口の中でふわっといい香りが漂います。

「よかった、気に入ってくれたみたいだね」
「(はいっ!!)」

「あ、このミルフィーユも美味しいな。ローゼもどうぞ」
「(では少しいただいて……)」

 とお皿を持って来ようとしたらなぜかお兄さまに取り上げられました。

「(??)」
「ダーメ。私が食べさせてあげる」
「(え~!!!)」

 なんということでしょう!
 そんなお兄さまの手を煩わせるなど、というよりも皆さんが見ている前でそんな恋人のようなこと、恥ずかしいです!

「ほら、口開けないとあげないよ?」
「(ぐううー)」

 お兄さまは結構意地悪だったのですね……。
 私は意を決して思わず目をつぶりながら口をあけて、あ~んをしてもらいました。
 すると口の中にふんわりとした生地と中からカットされたベリーの甘酸っぱさが広がって、思わず口もとに手を当ててしまいます。
 美味しいっ!!

「やっぱりここのケーキはどれも美味しいね」
「(ふんふん)」

 紅茶をゆっくりとそのあと飲みながらお兄さまは私にお茶会のことについて聞かれました。

「私のことをバカにされて怒ってくれたんだって?」
「(……こく)」

 でも、本当によかったことなのか、あれはヴィルフェルト公爵家の名を汚す行為ではなかったのかとお兄さまに紙で聞きました。

「私がローゼの立場でも同じことをしたよ。そのくらいローゼが家族を大事に思ってくれていて私も父上も嬉しい。大丈夫だよ、何も悪いことはしていない」

 「家族を大事に」ということが私に重くのしかかりました。
 やはり、お兄さまは私のことを家族として、妹として見ていない。
 わかっていたのに、なんだか現実を突きつけられたようで悲しい。

「ローゼはヴィルフェルト家になくてはならない存在だよ。だから、あまり気負わないでほしい。ローゼの努力家なところと素直なところは私やみんなわかっているから」
「(こく)」

 私はその時頷きましたが、じゃあお兄さまにとって私ってなんなの?

 そんな質問はとても聞けませんでした。



◇◆◇



 家に戻ると、クリスタさんが私のところにいらっしゃってお父さまが呼んでいると伝えてくださいました。
 私は急いでお父さまのところに向かいます。

 お父さまに呼ばれるのもしばらくぶりだったような気がしますね。
 執務室に呼ぶということは何か内緒のお話や重要なお話でしょうか。

 ノックをしたあと、そっとお部屋に入ると中にはとても神妙な面持ちのお父さまがいました。

「こっちへ来てくれるか?」
「(こく)」

 私は机に向かうお父さまの近くに歩いていきました。
 お父さまの真正面に立つと、お話は始まりました。

「隣国の第二王子であるオリヴィエ王子は覚えているな?」
「(はい、もちろんです)」

 もしかして先日王子にご迷惑をおかけしたことで、何か処分などを受けることになったのでは……。
 お父さまの口からそのようなお言葉が出るのを覚悟して待ちます。
 すると、お父さまは意を決したように私に告げました。


「ローゼマリー。王国よりお前に隣国のオリヴィエ・ブランジェ第二王子との婚約の要請が出た」

「──っ!!」

 予想外の内容で私は何も言えませんでした。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。

朝日みらい
恋愛
セリーヌ・アルヴィスは完璧な貴婦人として社交界で輝いていたが、ある晩、馬車で帰宅途中に盗賊に襲われ、顔に深い傷を負う。 傷が癒えた後、婚約者アルトゥールに再会するも、彼は彼女の外見の変化を理由に婚約を破棄する。 家族も彼女を冷遇し、かつての華やかな生活は一転し、孤独と疎外感に包まれる。 最終的に、家族に決められた新たな婚約相手は、社交界で「醜い」と噂されるラウル・ヴァレールだった―――。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

【完結】姫将軍の政略結婚

ユリーカ
恋愛
 姫将軍ことハイランド王国第四王女エレノアの嫁ぎ先が決まった。そこは和平が成立したアドラール帝国、相手は黒太子フリードリヒ。  姫将軍として帝国と戦ったエレノアが和平の条件で嫁ぐ政略結婚であった。  人質同然で嫁いだつもりのエレノアだったが、帝国側にはある事情があって‥‥。  自国で不遇だった姫将軍が帝国で幸せになるお話です。  不遇な姫が優しい王子に溺愛されるシンデレラストーリーのはずが、なぜか姫が武装し皇太子がオレ様になりました。ごめんなさい。  スピンオフ「盲目な魔法使いのお気に入り」も宜しくお願いします。 ※ 全話完結済み。7時20時更新します。 ※ ファンタジー要素多め。魔法なし物理のみです。 ※ 第四章で魔物との戦闘があります。 ※ 短編と長編の違いがよくわかっておりません!すみません!十万字以上が長編と解釈してます。文字数で判断ください。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

この誓いを違えぬと

豆狸
恋愛
「先ほどの誓いを取り消します。女神様に嘘はつけませんもの。私は愛せません。女神様に誓って、この命ある限りジェイク様を愛することはありません」 ──私は、絶対にこの誓いを違えることはありません。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。 ※7/18大公の過去を追加しました。長くて暗くて救いがありませんが、よろしければお読みください。 なろう様でも公開中です。

処理中です...